100億人に一人の才能   作:キモいよ

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魔獣VSキメラVSなちゅらる

「生物兵器が盗まれた複数の証拠が出ている! なぜ監査の許可が降りない!」

「危険かつ専門性の高い場所ですので、王子には調査結果を待ってから対応いただきたく」

「貴様では話にならん! 学長を取り押さえるぞ! 私自ら出向く!」

 

 カキン帝国第九王子、ハルケンブルグ。彼は恵まれた生い立ちに負けない程の努力と才があった。15歳にして世界最高峰のミワル大学へ入学。勉学の傍らアーチェリーの世界大会で銀メダル。文武両道にして権力も最高峰。人格的にも真面目で正義感が強く、まさに非の打ち所がない天才だった。

 だが、その彼をもってしても解決が難しい難題。それがカキン王国の腐敗だった。今回問題となったダン国立大学。カキン王国で3番目に偏差値の高い、本来であれば国を代表するエリートが通う大学である。そこが、用途不明金を毎年100億ジェニー以上出し、軍事機密を含めると300億ジェニーにも上る予算の私的利用をしている。さらには最低でも毎年10人以上の行方不明者。一体何をやっているのか。

 

 学問の独立という言葉を盾に今までは粘られていたが、ちょうどいい時期に生物兵器の大量紛失という事件が起こってくれた。いや、それ自体は憂慮すべき事態で、敵国に奪われ密集地帯で使用された場合など人的被害は巨大災害にもなりえるほどなのだが、無くした物の行方に悩むよりは腐敗の是正を優先したかった。

 

 学長及び研究棟責任者の逮捕。その流れに乗じて、強制的に地下室を調べる。腐敗した軍や警察には任せない。自分が最も信頼する部下と、自分自身の目でだ。

 

 日に日に警備体制を強化していた地下の最深部。だが、ハルケンブルグの登場で突如として対応を変えた。

 けたたましくサイレンが鳴り響き、戦車から大音量で放送がなされる。

 

「緊急速報、緊急速報。ダン国立大学医学部棟で化学兵器の拡散が確認されました。住民は建物に入り窓を閉め切り、兵士の指示に従って行動してください」

「なっ、そこまでして隠したいのか!?」

 

 ハルケンブルグはもう少しで校門というところで兵士に囲まれてしまった。

 

「大学は閉鎖されます。車で来られた方は急いでここから南へ200mの駐留所へ移動してください。そこで検査を受けていただきます」

「ガスマスクならある! 問題ない!」

 

 ハルケンブルグはガスマスクをつけて車を出るが。

 

「王子! 危険です!」

 

 大勢の兵士がなだれ込んできて、車の中で取り押さえられた。

 

 その頃、学長と数名の教授、医学生は地下の立ち入り禁止区域に隠れていた。そばには機関銃を持ちガスマスクをつけた軍人が4名。

 学長は偉ぶり無線機越しに軍人に怒鳴り散らし、その怒声に周りの学生は嫌な顔をしている。

 

「軍人如きにこの私に指示を出す権利があると思っているのか! 王子など学問の自由の一言で突っぱねればよい! ここの卒業生にはドゥアズル王妃やマサトルディーゴもいるのだぞ! NGLのマフィアは私の一言で動く! 何より! 私のバッグにはあの男がいる!」

「ふむ、存じ上げませんね」

「知らぬはずがあるまい! 王とも親しいあの男、エックスだぞ!」

「ああ、ちょうどそのXから話があるようで」

「なんだと……?」

 

 学長の雰囲気が変わる。苛烈さから緊張へと。

 

「ペイジンか。今までご苦労だったな」

「エックス! いるなら軍人に言ってくれないか。私の学府で勝手な真似をするなとな」

「作戦の前に、証拠を消すべきだと思っていたんだ」

「証拠……? そんなものは貴様ならば握りつぶせるだろう」

「そうだな。ゆえに実行する」

「ガッ……!?」

 

 教授の一人が突然呻き声を上げた。

 

「早いな。鍛え方が足りんぞ、学者共」

「鍛え方だと……? まさか……TSK-16……!? 貴様が盗んでいたのか……!」

 

 感染者を確実に死に至らしめる生物兵器の1つ。

 学長はその共同開発者だったので症状や感染経路もよく理解している。

 先日奪われたこともあり犯人をエックスだと誤認した。

 

「自分達の研究成果だ。とくと味わえ」

「貴様ァ……! この学府もろとも潰す気か! 人もどきの分際で!」

 

 教授や学生が苦しみ始めたのを確認し、周りにいた兵士達も引き上げていく。

 

「実験中に起きた事故。真実は闇の中。使い古された手だが有効だ」

「この私はただでは死なん……! 目に物を見せてやるぞ……エックス!」

 

 学長は腹部の激痛に苦しみながらヨロヨロと最深部へ歩く。コンピュータに特殊なパスワードを入力する。分厚いアクリル板の中で何かがうごめく。

 

「くくくくっ。濃度1万倍の覚せい剤だ。さあ、暴れろ! 私のコレクションよ!」

 

 シャリッ。その音と共に学長の意識は永遠の闇に包まれた。

 アクリル板の中で冬眠していた怪物は、アクリルをぶち抜き、その勢いで学長の頭部を食らっていた。

 

「バオォオオオオオオオン!」

 

 他の生物達も目覚めていく。覚せい剤により強制的に凶暴性を高められており、暴れずにはいられなかった。

 

 その頃、クチナシは女達を連れて山で組み手による修行をしていた。

 もっとも、自分からは手を出さず、蟻と女達を戦わせていたのだが。

 

「モハメド蟻先生は速くて硬いぞ! 感覚で捕えろ!」

「グフッ!? ガッ!?」

「痛い痛い! 痛いですぅ!」

「なんでこいつ……! オーラもなしで! あうっ!?」

「舌ガエル先輩は舐めた場所を執拗に狙うぞ! そこが弱点だ!」

 

 2対3。オーラを纏わない蟻とカエルに物理的に追い詰められる女達。

 主に蟻と戦っているのはカミィとミネルバ。硬い外骨格に何度も衝突され、全身あざだらけになっている。

 主にカエルと戦っているのはモルナ。何度も首筋の同じ個所を舐められ、全身に麻痺の症状が現れているのに首の感度だけは異常なまでに高まっている。

 

「ああんっ!? いやぁっ!?」

 

 喘ぎ声を上げながら内股で倒れ込むモルナ。カエルは待ってましたとばかりに首筋を舐めまわす。

 

「ワン、ツー、スリー! カンカンカーン! K.O.ォォオオオオー!」

「ゲロオオオオオ!」

 

 クチナシはカエルの舌をつかみ、格闘技の勝利者のように持ち上げる。

 

 が、そこでサイレンが聞こえてきた。

 

「緊急速報、緊急速報。ダン国立大学医学部棟で化学兵器の拡散が確認されました。住民は建物に入り窓を閉め切り、兵士の指示に従って行動してください」

「まだ俺は何もやってないのに!?」

「いや、一回盗んだでしょ」

 

 いい感じに警備が強くなっていると思ったのに、これだ。

 

「一旦修行は中止! 様子を見てくる!」

「気を付けて!」

「はぁーっ。終わったぁー」

 

 クチナシは女達を置いて大学へと駆ける。

 

 戦車が道を塞ぎ、ガスマスクの軍人達が学生や患者を誘導していた。

 

「そこのお前、今、反抗的な態度を取ったな?」

「何の話……?」

「口答えするな!」

「あうっ!?」

「ネルー先輩!?」

「こちらへ来い。指導してやる」

「ちょっ、ちょっと! 逃げないと! 化学兵器が!」

「黙れ!」

「ああんっ!?」

「くくくくっ」

 

 だが、軍人というものは血気盛んな暴れん坊が多い。

 大学の解放的な空間で美しい女性を見つけ、乱暴を働く者がいた。

 

 立ち入り禁止区域。人気の少ないそこに女性を連れて行き、一時の快楽を堪能する。ガスマスクをつけているのだから身元がバレることもない。どうとでも言い逃れできる。

 軍人はそう高をくくっていた。

 

 ポタッ。ポタッ。

 

 水滴の音が聞こえた。蛇口が閉まっていないのだろうか。それか、水漏れか。

 視界の隅に人間大の何かが映った。全身が黒かった。パンク系の服を着た学生だろうか。

 

「おい貴様! ここは立ち入り禁止区域だぞ! 学生は兵士の指示に従って……っ!」

 

 言葉は続かなかった。相手は人間ではなかったからだ。

 二本足で歩いているが、人ではなく、巨大な蟻だった。

 

「グパアッ!」

「う、うわぁあああああああああああ!」

 

 錯乱し銃を乱射する軍人。蟻は銃弾をものともせず軍人に飛びかかり、その頭部にかじりついた。

 バキッ。バキキッ。

 

「ギャアアアアアアアアアアア!?」

 

 ガスマスクのおかげで即死することはなかった。

 だが、蟻とは思えぬ強靭な顎によりマスクは粉砕され、そのまま頭蓋骨を圧迫される。

 

 シャリ、シャリ、シャリ。

 

 骨を食らうとは思えぬ音が鳴り響いた。

 

『逃げないと……! 逃げないと……!』

 

 軍人に襲われていた女、ネルーは、その隙に全力で駆けだしていた。

 だが、女が後ろを向いて逃げる姿。揺れに臀部の肉に、蟻であるはずの怪物の本能が刺激される。

 

「ぐぱあっ」

 

 薄開きする口から洩れた蟻酸と血。それが笑みを浮かべるかのような音を立てていた。

 

「ゲギッ!」

 

 蟻は跳躍し、女の尻に飛びかかる。

 

「あうっ!?」

 

 女は倒され、蟻に後ろから抑え込まれる。

 

「ギギ、ギギッ」

 

 蟻は美味しそうな尻の肉にかじりつこうとする。

 

「だ、誰か!? 誰か助けッ!? 何でもする! 何でもするからァ!!!」

 

 泣き叫ぶ女。

 

 シャリ。

 

「ピギャァアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」

 

 臀部を齧られた美しい女が、うら若き乙女とは思えぬ絶叫を上げた。

 

「おい、なんかすごい声が聞こえるぞ」

「見てみるか」

 

 兵士達はネルーの叫び声を聞き、立ち入り禁止区域に近づいていく。

 

「ギャァアアアアアアアア! イヤァアアアアアアアアアア!」

「ゲッゲッゲッ」

 

 明らかに女の悲鳴だ。急がないとマズいかもしれない。

 兵士は駆け足で現場に急ぐ。

 

「アッ、アッ、アッ」

「ゲゲゲッ」

 

 そこには、女の股間に口を突っ込んで食らう、血まみれの怪物がいた。

 女は目と口を涙と泡でぐしゃぐしゃにしながら小刻みに痙攣している。急がなければ助からないだろう。

 

「ば、化け物め!」

 

 兵士は急いで近づき蟻の頭部を蹴り上げるが。

 

「グァアッ!? 硬い!? なんて硬度だ!」

 

 逆に兵士の脚が折れてしまった。

 蟻は蹴られたことで邪魔者が乱入したことに気づく。

 そして至福のひと時を妨害されたことに怒った。

 

「ピギャアアアアアアアアアア!!!」

「なんだこいつ! うわぁああああああああ!」

 

 蟻に銃を乱射する軍人。だが、銃弾が命中してもほんの少し足や腕の勢いが弱まるだけ。銃弾ではこの怪物は殺せない。そのまま怪物の接近を許し、頑強な拳を鳩尾に食らう。

 

「ガバアッ!?」

 

 その一撃で、内臓が破裂。さらには肋骨が折れる。倒れ込む軍人。

 

「貴様ァ!」

 

 もう一人の軍人が銃を乱射するが、やはり無力。蟻はもう一人の軍人に向き直り、飛びかかる。

 

「ピュッ」

 

 が、蟻の攻撃が軍人に届くことはなかった。

 その前に別の怪物が軍人を潰してしまったからだ。

 

 蟻より遥かに大きな体躯の怪物。4mに迫ろうかという巨大な魔獣がそこにいた。

 

「ピギィイイイッ」

「ガルルルル」

 

 獲物を奪われたことで蟻は魔獣を威嚇する。

 魔獣の方も蟻を強敵と見なし、威嚇する。

 

「アッ、アアッ。アッ♡」

 

 医学生はまだ痙攣中だ。臀部と股間から血が流れ続け体温が下降を始める。

 一触即発。蟻と魔獣は予備動作として筋肉を膨れあげさせる。

 

「ピギィ!」

「ギャン!」

 

 そして同時に突進した。

 

「ピッ!」

「ギャッ!?」

 

 両者ともに選んだのは頭突きだった。最高速度による衝突。プライドが高い野生動物に時折みられる単純な力比べ。

 結果、軽い蟻は吹き飛ばされ壁に衝突。魔獣は少し体制を崩すだけに留まる。

 通常の動物であれば魔獣の勝利。だが、この蟻には強靭な外骨格があった。

 

「ギリッ、ギリッ、ギチッ」

「ガッ、ゲギャギャッ」

 

 蟻は頭部から少し血を流しただけだった。神経系へのダメージは薄く、怒りを持って立ち上がる。

 対して、魔獣は頭部に重大なダメージを負った。衝突時に二本足で立てていたはずなのに、膝から崩れ落ちる。

 

 その隙を見逃す蟻ではない。

 

――振――

 

「オラァ!」

「ギピッ!?」

 

 だが、そこに人間が割って入った。

 不意打ちでの頭部の蹴り上げ。

 接触の瞬間に極大なオーラを叩きこまれ、蟻は天井に突き刺さる。

 

「ああっ、クソ! やっぱり蟻じゃねえか! 悔しいィイイイイイ!!!」

 

 蟻の顎を蹴り上げて妨害した人間。クチナシだった。

 彼は天井に刺さった巨大蟻の姿を見て悔しがった。

 

「ピギィ!」

 

 蟻は腕で天井を押して詰まった頭部を脱出させ、床に降りる。

 

「ピギィッ、ギッギッ」

「俺の蟻より明らかに強い……! クソがァアアアアア!」

 

 クチナシは怒っていた。怒りながらも振を使い、自分の骨が傷つかないように衝撃を器用に吸収しながら蟻を殴り飛ばし、蹴り飛ばす。普段から小さくて硬い蟻に骨を折られないよう意識して修行しているため、このような芸当は簡単だった。

 

 蟻としては弱いはずの人間に思いっきり殴り飛ばされ、蹴り飛ばされているわけだ。思考は困惑でいっぱいだった。しかも接触の度に、身体の芯が震えるようなダメージを感じた。このダメージが蓄積すると死に至る。そういう恐怖を感じるダメージだった。

 

「ギギッ、ギギギッ!」

 

 この人間は、危険だ。このままでは、勝てない。

 蟻はクチナシを最大の脅威と考え、六足による低体制を取った。

 

 もっと速く、もっと硬く。やつを殺せるくらいに。

 

 蟻の外骨格が、金属の輝きを放ち始める。

 

「ああーっ! クソッ! まだ強くなれるのか! くやしぃいいーーー!」

 

 戦闘と関係ないところで隙を見せるクチナシ。蟻はここで攻撃していいものか迷う。

 敵意に対して敵意で返すという蟻の野性的な反射がまだ残っていた。

 

「グォオオオオオオ!」

「ガッ!?????」

 

 だが、魔獣は違った。頭部の損傷から立ち直った魔獣は腕を変形し、隙だらけのクチナシに叩きつけた。

 

「いてぇじゃねえか。雑魚の分際で」

 

 今までの人間なら木っ端みじんになっていたはずの攻撃。

 だが、クチナシは一撃では死ななかった。それどころかダメージもほとんどなかった。

 だが、珍しく口端から血を流した。攻撃を食らう瞬間に大口を開けていたから舌を噛んでしまったのだった。

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