100億人に一人の才能 作:キモいよ
「ピギッ」
「おっと」
「ピギャッ」
「そらよ!」
人間と巨大蟻と魔獣。その戦いは一方的な物だった。
「ワンパターンだなあ。俺の蟻の方がまだ頭を使うぞ?」
「ギギッ、ギギギッ!」
「あ、ってことは俺の蟻の方が弱いって決まったわけでもないのかな? 試しにやってみるか?」
「ギャン!」
「オラァ! 無意味だっつってんだろうが!」
「プギャッ!?」
オーラの力で全身を金属と化した巨大蟻。だが、クチナシの”振”を前に攻撃は通じず、表面の硬さもあまり意味をなさない。内臓にダメージが蓄積していく。金属への変形は驚いたが、クチナシに対して特に効果のある対応ではなかった。
魔獣はもっと酷い。巨大蟻が人間に突っ込み、吹っ飛ばされる、その一連の動きに巻き込まれるだけで全身が金属に打ち付けられ、鋭い先端に切り刻まれ、深いダメージを負う。
おもちゃのように遊ばれている。いや、おもちゃにすらなっていない。
その現実は魔獣のプライドを酷く傷つけた。
「バォオオオオォオン!」
「何やってんだこいつ?」
魔獣は怒り、それを血まみれの軍人にぶつける。
ズドンッ。パシャッ。
軍人は木っ端みじんとなり肉片と血を床にぶちまけた。
「あっ、まだ生きてたんだ……。ごめんおっさん、気づかなかった」
血まみれで倒れていたから、てっきり死んだものと思っていたのだ。だが、オーラを見てその後の死後の無念を確認したことで、おっさんが今死んだことが分かった。
「ギチッ、ギチチッ」
「パホホッ」
獲物を奪われたことに巨大蟻が怒り、魔獣を睨む。そのことに魔獣は満足したらしかった。
「バホホオオオオオォオン!」
「ギリッ!?」
魔獣は次に、倒れている女を狙った。蟻が尻と股間に執着して食べていた美しい女学生だ。彼女もまだ生きていた。
「あぶねっ」
こちらはクチナシがギリギリで確保に成功する。
「ってこの姉ちゃん! 血まみれじゃねえか! 止血止血!」
クチナシは止血と治療のために手の一部を植物の根に変えようとするが。
「バオオオオォオン!」
「ギギッ! ギキィイイイ!」
獲物を奪われた蟻と魔獣、両方から狙われることとなる。
木への変化には静的なオーラを出すための集中が必要。この戦闘状態では使えなかった。
戦いを楽しみたいが、戦いながらこの女を治療することは不可能というわけだ。
先にこいつらを倒してから治療する? だが、こいつらは固くて柔軟だ。殺し切るには時間がかかる。
死の無念を使えば一瞬で行けるか? いや、こいつらには死の無念がそれほどついていない。殺し切るには不十分だ。
戦うのではなく、逃げながらであれば、女を治せる? それくらいの操作はできるはずだ。だが脚は動くために必要、手は女を抱えたために必要。治療のために自由に動かせる腕がもう一本欲しい。一本? そうか、もう一本あるじゃないか。
ズギュウウウウウン。
クチナシの下腹部の突起にオーラが集められ、伸びていく。
伸びながら後方へ折れ曲がり、背中に背負っている女の、血まみれの下腹部へ密着。
そして、突起を覆う袋が広がって、女の損傷個所を覆い隠した。
「おほっ!? おほっ!? な、なんだこの感覚は!? おほっ!?」
予想外だったのは、突起と袋の感度が高すぎたこと。手と異なり、女と接触するだけでビクついてしまう。
「バオォオオオオン!」
「ピギィ!」
しかも、怪物たちから逃げながらだ。戦いに集中力を持っていかれるし、戦闘の衝撃は突起にも伝わる。その度にビクンと感じてしまう。
集中して治療することは難しかった。しかもだ、この女は血を流し過ぎている。止血するだけでは間に合わないことが分かった。
「ああっ、もう! 面倒くさい!」
女と密着している棒の先端を通じ、女にオーラと共に、物理的な栄養を与えることとする。小さい蟻に栄養を運ばせる? いつもならそうするところだが、興奮状態で和の使用は難しい。努力すれば可能だったかもしれないが、今は時間が限られており冷静な思考が難しかった。
本能に従い、ちょうどおしっこの形で発射できるのだからと、咄嗟にやってしまったのだ。
「おほおっ!?」
ぴゅっ、ぴゅっ、ぴゅっ。
「アッ、アッ、アッ」
栄養を与えるつもりだったのだが、間違って変なものまで出してしまった気がした。
クチナシは女を背負ったままでも、振によって着地の衝撃をうまく吸収しながら、滑らかに猛スピードで駆ける。病棟を抜け出すと、軍人に見つかり銃を向けられる。
異常なオーラを発しながら逃走するクチナシとそれを追いかける巨大蟻と魔獣。軍人の一部は念を扱えるため、事態の危険性をより正確に理解する。
だが、一般兵にとっては女を背負っているのに走るのが速すぎるを謎の子供と謎の生物2体。
「止まれ! 止まらないと撃つぞ!」
「止まれるかよ!」
「もういい! 撃てぇ!」
化け物諸共。軍人達はクチナシ達へと銃を乱射する。
女がいるために動きの急転換はできない。クチナシはあくまで滑らかに走りながら、銃弾を避け、避けれなかった分は振によってふわりと受け止める。蟻との修行の日々がそのまま生かされていた。
対して、巨大蟻と魔獣。巨大蟻は全身を金属化させたことで、むしろ関節部分は以前よりも負荷がかかり、壊れやすくなっていた。銃弾の雨は関節にも届き、少しずつ削っていく。クチナシから受けたダメージも合わさり追跡スピードをゆるめることとなった。
巨大魔獣もそうだ。本来ならば銃弾をほぼ無傷で受けられたが、現在は主に巨大蟻との戦闘で皮膚の至る所に切り傷があった。そこに銃弾が当たり、激しい痛みを生じさせた。
「バオォオオオオン!!!」
魔獣は軍人に怒り、方向転換。痛みにのたうち回りながら、軍人達へと突っ込んでいく。
「うわぁああああ!? なんだこいつ! なんだこいつぅううううう!???」
グシャッ。
銃を乱射する軍人が一瞬で肉片へと変わる。だが、魔獣も少なくないダメージを負っていた。
「ああっ! 俺の獲物が! 勝手に殺すなよ!」
「なんだこのガキ!? 何を言ってやがる!」
「撃て! とにかく全部撃て!」
「うわぁあああああああああああ!!!」
治療のために獲物から逃げつつ、自分で獲物を倒したいとも思っている少年。
オーラに当てられて錯乱し、少年と怪物を撃ち続ける軍人。
オーラを知るゆえに遠巻きでこそこそ状況を探る軍人。
怒りのままに暴れ回る魔獣。
女を取り返すために少年を狙う蟻。
さまざまな思考が絡み合い奇妙な膠着状態が生まれていた。
「ギチッ、ギチチッ」
最初に変化が訪れたのは、蟻だった。
内部故にダメージが分りづらかったが、クチナシとの戦闘で既に人であれば何度も死んでいるようなダメージが入っていた。加えて、学長に投与された大量の覚せい剤。それは一瞬の力を引き出したが蟻の体躯では毒が回るのも速かった。
「おいコラ! まだ死ぬな! お前は俺の蟻に負けるべきなんだよ!」
クチナシは慌てて方向転換。倒れる蟻を回収し、回復するために動こうとするが。
「撃て!」
「くっ!?」
兵士達の銃弾が行方を阻む。
自分が正面から銃弾を受ける分には振で受け止められるが、背中の女を撃たれると問題だった。
「行け! グレートアリンガ―! アリンタイザー! あの巨大蟻を回収しろ!」
クチナシの蟻の中では大きめの蟻2匹が、倒れる巨大蟻を回収するためにクチナシの髪から飛び出す。
「おいおい、それは都合が良すぎるってもんだろ?」
だが、そこにさらなる乱入者が現れた。
影が巨大蟻に割り込んだかと思うと、グレートアリンガ―とアリンタイザーは進行を止められた。
「誰だおっさん! 人の邪魔をするんじゃねえ!」
「てめぇが侵入者か? 先日地下に侵入したのもてめぇだな? ずいぶん好き勝手やってくれたもんだ」
乱入者は問答しながらも怒りを露わにする。
オーラの鳴動に木々が揺らぎ、鳥が逃げ出す。
乱入者は両手の指でつまんでいたグレートアリンガ―とアリンタイザーを握りつぶした。
「ああーーーっ!? 俺のZ蟻シリーズがぁあああああああ!?」
「どこのもんだクソガキ。今なら正直に話せば楽に殺してやるぞ?」
「蟻を殺された恨み、ただで済むと思うなよ?」
立派な口ひげをたくわえた乱入者。肉体は鍛え上げられており、そのオーラ量はクチナシをもゆうに上回る。
だが、クチナシは今まで負けたことがない。この乱入者よりオーラ量の多いクジラとの戦闘を行い勝ったこともあった。今回も負ける気など微塵もなかった。
「先手は譲ってやるよ」
相手は子供、ここは自分のホームタウン。
この条件で不意打ちをしかけるほど乱入者は勝負に徹し切れていなかった。武人であったとも言える。だが、その油断はこの子供には致命的だった。
ゾゾゾッ。
自らの足元。悍ましい死後の念が膨れ上がる。
「なっ、こいつはっ!?」
グレートアリンガ―とアリンタイザーの残骸。死後の念を纏って動き出し、乱入者に飛びかかる。
「ふんっ! はっ!」
気合一閃。正拳突きと前蹴りで蟻を攻撃するが。
ギュルルルルルルウウッ。
蟻の死体はドリルのように回転し、乱入者の拳と足に対抗して見せた。
「くっ、正面から叩き潰すのは悪手だったか!」
勝者は乱入者。蟻の残骸は完全に粉々となって風にまざる。
だが、蟻を受け止めたことで乱入者の拳と足にヒビが入る。これでは踏み込みが効かず近接戦闘力は半減以下となってしまうだろう。
自分の判断ミスを悔やんでいる間にも、己の背中に何かの付着を感じ取る。
――円――
乱入者の背中についたのは巧妙に陰を使っているの蟻だった。
先ほどの2匹よりオーラは少ない。潰してしまうのは簡単。
だが、こいつはまだ生きている。殺して死後の念が発動してしまったら?
おいそれと攻撃はできない。
「くっ!」
乱入者は服を脱ぎ蟻を追い払った。
そしてクチナシを睨むのだが。
「おいおい、マジかよ……」
クチナシの全身を覆うように、蟻がワラワラと出てきていた。
全て、生きている。中には潰した2匹の蟻よりもオーラ量がある蟻もいる。殺してしまえば死後の念はどれほどになるのか。
オーラ量と実戦経験から来る実力差をふまえれば、これらを全て殺して、ガキ1人殺すことも可能ではあろう。だが、やつは死後の念を操れている。典型的なカウンター型。殺すのはリスクが大きすぎる。
「くっ」
「あっ、おい! 待て!」
武人でありながらも計算高いハンターでもあった乱入者。彼は逃走を選んだ。
巨大蟻を抱えての全力ダッシュ。
「えっ! あのおっさん速っ!」
片や死にかけの女子大学生を背負っている少年。これまでの戦闘と治療で疲労あり。片や死にかけの巨大蟻を抱えているおっさん。左足にはヒビ。
条件はほぼ互角。疾走のような単純な身体能力が問われるものであれば、よりオーラ量が多く鍛え抜かれたおっさんの方が分があった。
おっさんはあっと言う間に見えなくなった。