100億人に一人の才能 作:キモいよ
「俺達は、弱い……!」
女達と修行している山奥。
クチナシは蟻、カエル、鳥、アザラシなどの部下を集め、大反省会を行っていた。
「力だけでなく、心が弱い……! 思考能力が弱い……!」
クチナシは悔しそうに地面を叩き、草を握りしめる。
「誰だ! 蟻が手のひらより大きくなることはないと決めつけたのは!」
「誰だ! 蟻が二足歩行することはないと決めつけたのは!」
「誰だ! 蟻が金属を身にまとうことはないと決めつけたのは!」
クチナシは天に叫び、そして前を見る。
「全て俺自身、そしてお前達自身だ……!」
「アウッ、アウッ」
蟻やカエルはジッと話を聞いている。心なしか反省しているように見える。
アザラシはのんびりとあくびをしていた。話に興味がないらしい。
「大人には、世界には、学ぶべきことなどないと決めつけていた。俺達は井の中の蛙だった」
「完敗だ。グレートアリンガ―とアリンタイザーだけじゃない。俺たちみんな、あの大学の研究者に完敗した」
「だからと言って、ここで諦めるのか……? 否! 諦めたら本当に敗者のなってしまうのだ! 諦めなければ、挽回のチャンスはある!」
クチナシは演技っぽく握りこぶしを作る。
「這い上がろう。ここから。諦めずに、歯を食いしばって努力しよう……!
これから、誰にも負けないために……!」
「ぴゅい----!」
「げろろろろ」
「アウッ、アウッ」
演説が終わると、動物たちがはしゃぎ出す。やる気が出たような感じだった。
「大学で何があったの? その様子だと戦闘になったみたいだけど」
モルナが尋ねる。クチナシは真面目な顔になる。
「医学部に化け物みたいなやつが2体現れてさ。これが立ち入り禁止区で隠していたやつだと思って捕獲することにしたんだよ」
「その娘が化け物?」
「いや、この姉ちゃんは死にかけていたから持ち帰っただけ」
「持ち帰る必要ある?」
「そうしないとたぶん死ぬから」
「ふーん」
「本当は蟻の方を持ち帰りたかったんだけど邪魔してきたおっさんが強くてさあ」
「蟻? 化け物の正体は蟻?」
「うん。もう一体は魔獣だったけど一体はどう見ても蟻だった」
「まさかあなた以外にも蟻を育てている変質者がいたっていうの?」
「俺なんて変質者でも何でもないさ。あいつらの蟻への愛情の深さと比べたら」
「その続きは言わなくていいわ。どうせ醜い話でしょうし」
「聞いてくれよ姉ちゃん。やつらの蟻は、2mくらいあったんだ。しかも、2本足で歩いていた。強さもグレートアリンガ―とアリンタイザーが2匹がかりでも相手にならないほどだった。完敗だよ完璧に」
「私は言わなくていいと言いました」
「今勝てなくても巨大蟻を捕獲して、俺の蟻の組手相手にしていつか勝てばいいと思ったんだけど。見知らぬ髭面のおっさんに邪魔されてしまった」
「おっさんは何人?」
「1人だよ」
「男一人にあなたが負けたの?」
「負けてはいないけど、逃げられた。あんなに強いおっさんは見たことがないね。近接戦闘でもアザール君より強いだろうな」
「ガウ! ガウ!」
アザラシは心外だと言う風に怒った。アザールと名付けられているらしい。
「あなたがそう言うってことは、その髭のおじさんは化け物なのでしょうね」
「せめてもう一方の魔獣だけでも確保しようと思ったんだけど、この姉ちゃんが危なくてさあ」
皆の視線がクチナシのしっぽのようなものにくっついている女に移る。
口から泡を吹いてビクビク震えている。
「知り合い?」
「知らない。その辺で死にかけていたから助けただけ」
「ふーん。そのしっぽは本物?」
「これはち〇ち〇だよ」
「えーっと、お〇ん〇んはそんなに伸びないし後ろに回り込まないと思うけど」
「身体操作をすればこれくらいは余裕だね」
「あっ、ふーん」
「アッ、アッ、アッ♡」
ネルー。ダン国立大学医学部に通う女学生。
幼い頃からバレエを親しみ地区大会で入賞はしても優勝はできないくらいの実力。
勉強では地元の中学で3番くらい。
趣味は編み物とお人形遊び。告白された数は覚えていない。遊びで何度か付き合ったがつまらなくてすぐにデートをドタキャンして振った。気に入ったことにはのめりこんで努力するが飽きるとすぐにやめてしまう才女。
彼女の全身は酷い有様だった。
臀部の90%、大腿筋の70%を巨大蟻に食われ出血多量。
内臓も膣の30%と小腸の一部を食われ、痛みと精神的なショックで呼吸困難に陥り、脳は酸素欠乏症に。その状態で背負われ、高速戦闘に巻き込まれ、頚椎を損傷。さらには銃弾を受け3カ所貫通、急な加速減速により5カ所を骨折。
生きているのが不思議な状態だった。
それを可能にしたのがクチナシの恥部との合体。強制的なエネルギーと活力の供給。骨折などでふさがった血管は無理矢理促進され、足りない栄養素も供給されていた。骨折箇所は和により添え木を与えられ、銃弾が貫通した箇所は蟻がギチギチに塞いでいる。
「これ、いつまでつながったままなの?」
「俺にも分からない。分かるのは外したら死ぬってことだけだね」
「ええ……」
「おトイレとかどうするんでしょうか」
「それは肉体変形で水だけ飛ばせるから大丈夫」
「ええ……」
お〇ん〇んを尻尾のように動かし、気絶した女をくっつけたままの生活。
異常事態のはずだが特に問題なく日常が続いた。
クチナシは女達よりも蟻の修行を優先したため、女達の自由時間が増える。その間にモルナとミネルバは仲間を増やしカミィは甲斐甲斐しく気絶した女の世話をした。
数日後、モルナが男を連れてやってきた。
「あっ、君! やっと会えた!」
根っこと細菌の話をした例の男子学生だった。
「姉ちゃん、他人を連れてくる時は相談したら?」
「あなたもその女を勝手に連れてきたでしょう。あいこよ」
「いやあ、心配したんだよ。大学があんなことになって、君達が巻き込まれたかもしれないと思って」
「兄ちゃんは今何してんの? 大学は再開できてないでしょ?」
「僕はハルケンブルグ様に拾ってもらってね。大学ももうすぐ編入することになっていたんだ。それまでに君に声をかけられればと思っていて」
「ふーん。その感じだとハルケンブルグって人が俺を探してるの?」
「その通り! ぜひ会って話していただきたいんだ! 君の知識はきっと国の助けになる!」
「話すだけ? 聞いた感じだとその人偉そうだけど。話すためだけに俺を呼ぶとは思えないんだけど」
「うっ……。実を言うと君も仲間になってもらいたいと思っている」
「その、ハルケンブルグの部下になれってこと?」
「そうだ。頼む……」
医学生は真顔になってピシッと頭を下げた。
「はあ。姉ちゃんさあ。こういうのなんで連れてくるかなあ。俺が部下になるわけないじゃん」
「ハルケンブルグというのはこの国の第八王子よ。つながりを持つだけでも価値があるんじゃないかしら」
「王子……?」
予想以上に大物だった。クチナシは言葉が出なくなる。
「うふっ。あなたもそういう顔をする時があるのね」
「心配しなくて大丈夫だよ。ハルケンブルグ様は王族には珍しく身分による差別意識が一切ない高潔で気さくな方なんだ」
「気さくと高潔は両立しないと思うけど」
「と、とにかく! そういう差別はないから安心してくれよ!」
「そうかな? 本当に差別感情がないなら自分から会いに来ると思うけど」
「うっ、そ、それは……っ」
「王子は色んな人に命を狙われているわ。暗殺のリスクがあって危険だからよく知らない人の所に行くことは難しいのよ」
モルナが助け舟を出す。
「そうそう! 決して悪気があるわけじゃないんだ! 分かってくれるかな?」
「ま、何となく分かったよ。一般人の気持ちを理解しようと努力はしているって感じなんだね。努力しているだけでこれっぽっちも理解してないんだけどそのことに気づいてはいないと」
「……ごめん、やっぱり難しいや。この話はなくなったと伝えておく」
「あはははっ。それがいいよ。俺も偉い人と会話なんかしたくないから」
医学生はトボトボと帰っていく。モルナは怒っていた。
「ハルケンブルグ王子は非常に真面目で優秀な方なのだけど」
「じゃあ俺の力なんていらないじゃん」
「本人は優秀だけど! 第八王子で権力はそんなにないの! だから私達でも入り込めるチャンスはあるの!」
「じゃあ姉ちゃんが入り込めばいいじゃん」
「私は……。二線者ですらない『肉』よ……? それにマフィアに所属した経歴もあるし」
「はあ、ズレてんなあ。この国の感覚は。二線者だとか肉だとかマフィアだとか、そんなのを気にする人は差別感情あるでしょ。ハルケンブルグもその程度だってことだよ」
「そう……かもしれないわね……」
「ところで、変な波動を感じるんだけど」
「何かしら?」
クチナシはモルナの背中に回り込む。
小さな鉛筆のようなものがくっついていた。
「これだね。何かの機械みたいだけど」
「やられた……! 盗聴器ね……!」
モルナは機械を握りつぶす。
「くやしいわね。あの医学生。坊ちゃんだと思って舐めていたわ」
「だから言ったじゃん。あいつは死の気配が常人とは違うって」
その頃、医学生は無線でハルケンブルグと会話していた。
「すみません、王子。勧誘に失敗してしまいました」
「いや、君はよくやっていたよ。あれだけ警戒されると誰であっても難しいさ」
「お心遣い、痛み入ります」
「それに、知りたかった情報も手に入った」
「情報ですか?」
ハルケンブルグは独自に兵士の証言を集めており、2体または3体の怪物が出たという話を聞いていた。怪物の正体が蟻と魔獣、実際に襲われた学生がいる。その情報が別の証言として出たのは大きい。おそらくその蟻と魔獣が大学が使途不明金により秘密裏に行っていた研究であり、軍がどうしても隠したかったものなのだろう。怪物を使って何をするつもりだったかは知らないが、どうせロクでもないことに決まっている。
「君は一旦こちらに戻ってくれ。彼には別の方法で探りを入れてみる」
ハルケンブルグは不可持民の雇用制度改革に関する資料を手に取った。