100億人に一人の才能 作:キモいよ
巨大蟻計画。大学の蟻は2mだった。同じ大きさではおもしろくない。やつらが2mならこっちは18mだ。ジャポンのロボットアニメでよく使われる数字。実物大ガ〇ダムの隣に実物巨大蟻を置いてやろう。そこでロボットのコスプレをさせるのもおもしろいかもしれない。
もちろん、巨大であればいいというわけではない。重要なのは強さだ。自分を打ちのめしたあの巨大蟻を完膚なきまでに粉砕する。それでこそ精神的な復讐は果たされるのだ。
クチナシが考える巨大化する方法。まず思いついたのは和による思考の共鳴だ。思考の共鳴を通じ、蟻に自分は巨大だと思い込ませる。そして思考によって肉体に変化を促す。
森の端っこ。海岸線の近く。クチナシは動物達を集める。
蟻、アザラシ、サメ達。その中でも重要なのは、巨大クジラ。蟻に、自分達は巨大クジラなのだと思い込ませる。
『俺達はクジラ。誰よりも大きく、誰よりも自由。海を優雅に泳ぎ、大きな口で小魚やプランクトンを一気に平らげる』
思考の共鳴が始まる。自己暗示。心のありようは、体に影響する。
クジラ、クチナシ、蟻のオーラが混ざり合い、同質化し、肉体を変えていく。
クチナシの筋肉が膨れ上がる。背丈が伸び、全身が流線形となっていく。
蟻もそうだ。少し大きくなり、筋肉が膨れる。だが。
パキッ、パチチッ。
外骨格ひび割れ、引き裂かれ、嫌な色の汁が飛び出した。
「くっ、厳しいか」
生物としての特性、限界。蟻は脱皮をしなければ大きくなれない。
現状5cm。バッタと同程度の大きさ。2mまではまだまだ遠い。
少し休み、瞑想を再開する。
もっと深く自己暗示する。もっと深い所、細胞単位で、己をクジラと思い込むように。
より深くへと潜り込んだ瞑想。
クチナシの尻尾、もとい、ち〇ち〇と接続しているネルーの意識を捕える。
「ううっ」
ネルーの意識が覚醒する。いや、まだ半覚醒だ。ここは夢の中。ネルーがクチナシ達の和によって見せられている世界。
「ここは……」
ネルーはべっとりとしたゾル状の液体の中にいた。全身が白い粘液に包まれて、動きづらい。
「ううっ、ベトベト」
白い粘液の向こう側に、赤い半透明の皮がある。
その皮は、よく見ると上下左右からネルーの後ろに回り込んでいて、閉じている。
つまり、ネルーは赤い皮に閉じ込められて、ベトベトの液体に漬かっているわけだ。
「何これ、気持ちわるっ」
『巨大化せよ』
「はうっ!? えっ!? えっ!?」
巨大化しろと言う謎の大いなる意志。男の子の声にも大自然の声にも、他の小さな何かにも聞こえる。それが聞超えた瞬間、下腹部に何かが入り込んでくる。
ドクンッ。
「おうっ!? おほっ!?」
莫大なエネルギーがお腹に満たされる感覚。少しの快感がありつつもそれ以上に栄養が多すぎることに危機感があった。
ドクンッ、ドクンッ、ドクンッ。
「ちょっ、無理だよ! それ以上は入んない! 壊れちゃう!」
『巨大化せよ! 巨大化せよ!』
全身に栄養が送られて、筋肉が膨れ上がる。
お尻が、胸が、太ももが、はち切れんばかりに膨張する。
ドクン、ドクン、ドクン。
「いたたたっ!? もう無理! 死んじゃう! 死んじゃううううう!」
『巨大化せよ! 巨大化せよ!』
なおも巨大化する身体は、とうとう赤い皮の中を完全に満たす。それでもさらに巨大化するため、赤い皮を押し広げていく。
「がふっ!? ごばっ!? 痛い痛い痛い! 苦しい! だめ! やめて!」
『巨大化せよ!』
バッ、バチッ! ブチィイイイイイッ!
そしてとうとう、赤い皮が破れた。
勢いよく液体が漏れて、中からネルーがデロンと飛び出す。
「はあ、はあ、はあ」
飛び出した瞬間、楽になった。
全身にはどろどろの液体がついている。まるで卵から出た雛のようだ。
身体は巨大化したが、その状態でバランスが取れた感じだ。
筋肉は大きくなったが、その分背も伸びていた。
「これは……、私の身体……? 何……この手……?」
だが、自分の手を見て驚いた。それは蟻の手をしていた。
「ひいぃっ!? どうして蟻の手に!?」
彼女は医者死亡であり、死体などは見慣れていた。今までは蟻に怯えたこともなかった。
だが、彼女は気絶する直前に巨大蟻に襲われて酷い痛みを味わっている。そのトラウマから蟻には恐怖を覚えてしまった。
「えっ!? あれ!?」
かと思えば、次の瞬間には人間の手になっていた。かと思えば、次の瞬間には全身が人魚のようにもなっていた。
「わ、私!? どうなっちゃったの!? これは一体……」
木のようにも、カマキリのようにもなる。変幻自在な全身。蟻になる確率が多いのは気になるが、今ならなりたい姿にもなれるかもしれないとポジティブな気持ちにもなる。
「私、猫が好きなんだよねぇ」
猫の姿になって大好きなバレェを踊るネルー。時折蟻の姿になってしまってチッと舌打ちする。
だが、頑張って猫の姿を思い浮かべると、もう一度猫の姿に戻ることができた。
「ラァ、ラァララァー」
夢の世界を優雅に楽しむネルー。周りは自然で、動物達がいる。彼等にもバレェを見てもらいたくなった。
「どう? 私の踊り。綺麗だった?」
「ああ、姉ちゃん目覚めたんだ。いや、まだ寝てるけど」
動物達はネルーに反応せず、巨大なクジラがネルーに返事をした。
「クジラさん? お話できるの?」
「おっと、俺は人間だよ」
巨大なクジラが見る見るうちに萎んでいき、人間の子供になった。
「君は……」
「俺の名前はクチナシ。姉ちゃんが大学で倒れていたから助けたんだよ」
「倒れていたって、蟻に襲われて?」
「そう」
「君は大丈夫だったの?」
「あんな蟻より俺の方が強いさ」
「ふーん」
どう考えても無理だが、夢に理性を求めても仕方がない。
「それより姉ちゃん、医学部だったら蟻を大きくする方法とか知らないか?」
「蟻を? どうして?」
「姉ちゃんを殺そうとした蟻に勝つために」
敵の弱点を知りたいということだろうか。
「うーん。ふつう蟻はあんなに大きくならないと思うけど。あれって本当に蟻なのかなあ?」
「蟻の皮を被っただけの別の生き物ってこと?」
「それもありえるけど。私が言いたいのはキメラかもしれないってこと」
「キメラ? ライオンの顔で羽が生えていて蛇の尻尾とか我ついている変な怪物のこと?」
「それもキメラだけど、戦いに限らず色んな遺伝子を混ぜた生物のこともキメラって言うんだよ」
「例えば?」
「虎とライオンとか。ウナギとカメレオンとか。遺伝子操作食物って聞いたことがある? あれもトウモロコシとネギとかのキメラなんだよ。葉っぱを食べた虫を殺すためにネギの遺伝子をトウモロコシに混ぜるんだ」
「えっ。そうだったんだ。でもネギ味のトウモロコシになったら不味そうだな」
「キメラにするとそれぞれの特徴を持った生物が生まれてきて、それがいい具合にフィットすると狙った特徴だけを引き出せるって感じかな。遺伝子は場所が決まっているからどの場所の遺伝子を混ぜるかが重要だね」
「一回正解を当てると次からは狙えるってことかな」
「その通り」
「やり方は? 俺でも真似できるかな?」
「ウナギとカメレオンとかは試験管の中に卵子と精子を集めていろいろ試す感じだね。ピンセットで無理矢理突っ込んだり、電流を流したり、塩酸で刺激したり。トウモロコシとネギなら遺伝子をスプレーみたいにふきかけたり。いろいろ試す中で偶然受精したら成功。でも、受精してもそのまま成長できるかは別問題だよ」
「けっこう失敗しちゃうんだ。成長する前に死ぬってこと?」
「うん」
「死ににくい方法は?」
「ライオンと虎とかならふつうに子作りする方法もあるけど」
「えっ、子供できるんだ」
「同じネコ科だからね」
「なるほど。じゃあ蟻ならカブトムシとか?」
「うーん。それくらいならまだ可能性あるかも」
「でもカブトムシだと2mは遠いなあ」
「小さい親同士でも、どちらの親よりも大きくなる可能性もあるんだって。例えば虎とライオンの子供ならどちらよりも大きい4mくらいになったりね」
「それは驚いた。じゃああの巨大蟻は小さい生物同士を混ぜて大きくなった可能性もあるんだね」
「そう思う。二足歩行だったから大きい哺乳類も混ざってると思うけど」
「もしかして、人間……?」
「そうじゃないと、思いたいけど……」
そこでネルーは眠気を感じた。
「ごめん。また眠くなっちゃった」
「無茶しなくていいよ。もう夢の中だけど、もう一回お眠り」
「うん。おやすみー」
「おやすみー。ありがとうね。知らなかった知識がたくさん入ってきたよ」
瞑想から現実に戻るクチナシ。ネルーの様子を観察してみる。
相変わらず木々でグルグル巻きにされたままだが、汗をかき、顔色がよくなっている。血行がよくなったのだろう。それに、全身が巨大化しており、皮膚の質感にも変化が見える。彼女も和の影響を受けて肉体が人ならざる者へ変わってしまったようだ。が、それも徐々に人に戻っているようである。完全に別物になるには、より深い自己暗示が必要なのだろう。
ネルーから知識を得たことで、クチナシは巨大化計画には実践よりもまず知識を得た方がいいと考えを改める。しっぽの先にネルーを連れたまま、モルナが入り浸っているネットカフェに入る。
まず検索するのはこの世界で最も大きな生物。
あくまで検索結果の上位ページを開いただけだが、この世界で最も大きな生物はセコイアと呼ばれる樹齢何千年かの木で、地上での高さが85m重さが1250トンにもなると書かれている。根っこも同程度の長さがあると考えれば高さ170m重さ2500トンがより正確だろうか。
木の巨大化を可能としている要因は大きく3つ。
• セルロース:細い繊維状の構造(ミクロフィブリル)となる。引っ張りに強い植物の細胞壁を構成する。
• リグニン(木質素):セルロースの隙間を埋めるように入り込む高分子化合物。これにより「木化(もっか)」が起き、硬く圧縮に強い丈夫な木材となる。
• ヘミセルロース:セルロースとリグニンをつなぎ合わせ、構造を安定させる役割を持つ。
生物の最小単位としてよく用いられる細胞。植物は動物と異なり動く必要がないため、関節を気にせず細胞単位で硬くすることができる。硬いから巨大になっても身体が自分の重さに耐えられる。だから植物は巨大になることができた。そういう説明だ。
一方で木はどのように成長しているのだろうか。
• 一次細胞壁:
すべての細胞が成長する時期に持つ、やわらかく伸縮性のある壁です。
• 二次細胞壁:
成長を終えた細胞の内側に作られる厚くて硬い層です。木部や繊維細胞など、強度が必要な場所に発達します。
硬くなった細胞の周りを巨大化させることは難しい。成長するための先端だけは柔らかくなっており、主に先端を伸ばして成長しているようだ。
これらをふまえると、蟻を巨大化する際も、どうせなら外骨格を木化させた方がいいだろう。あの巨大蟻は全身を金属化させていた。それに比べれば木化の方が容易なはずだ。木化であれば、脱皮せずとも成長できる可能性も残される。植物にはゴムの木もある。理想論だがどこまでも伸びる外骨格があれば、栄養を与えて無理矢理巨大化させても外骨格が膨らみ過ぎて壊れることはない。
次に最も大きな動物について検索する。人類が発見した中で最も大きな生物はシロナガスクジラで、体長35m体重210トンにもなるらしい。だがこの記述は間違っている。クチナシの仲間となった巨大クジラは50mをゆうに超えているからだ。
クチナシはカキン王国に移動する中で「俺が最強! 俺が最強! 文句があるやつ出て来いや!」と煽りに煽りにまくっていた。そこでやってきたのがこの巨大クジラだ。生の活力を操り人の意志を理解できる特殊な個体。だが、彼以外にも特殊な個体がいるはずだ。50mが限界とも思えない。最大35mというのは通常の平凡なクジラなら35mということかもしれない。いずれにせよ検索結果では信憑性が怪しいということか。
クジラが大きくなった理由について書かれていた。
1. 体温の保持(寒さ対策)
• 冷たい海では、体が小さいと熱が逃げて体温が下がりやすくなる。
• 体を大きくすることで、熱を外に逃がしにくくすることができる。
2. 水中の浮力
• 陸上の動物は、自分の体重を足で支えなければならないため、細い足に全ての負荷がかかる。
• 海の中では全身で浮力を受けられるため、負荷が分散され、重い体でも自由にかつ省エネで動くことができる。
3. 圧倒的なエネルギー効率
• ヒゲクジラなどは、海中に漂う小さなプランクトンを一度に大量に食べて、大きなエネルギーを効率よく得る。
• 摂取するエネルギーが消費するエネルギーを大きく上回るため、巨大な体を維持できる。
つまり、寒さに耐えるという必要性がある上で、浮力という負荷を分散させる条件、プランクトンという巨大化の栄養となる条件が満たされた。ゆえに巨大化が可能だったという。
可能な条件を整えた上で必要性を迫るこれは使えるかもしれない。
以上の情報を生かして研究の方針を決めていく。
・蟻の外骨格はゴムの木のような伸縮可能な木化を目指す。
・冷たい水で蟻を攻めて巨大化の必要性を迫る。
・水中なので巨大化しても自重で壊れない。
・蟲毒のように共食いすれば栄養に困らない環境を整える。
・遺伝子はできるだけいじらないが混ぜる候補としてはタカアシガニ。
ひとまずはこれだ。
遺伝子組み換えについては、どうしても必要なら行うが、あまり乗り気はしない。蟻ではない生物を巨大化しても感動が薄れてしまうからだ。仮に目標としているあの巨大蟻がキメラだと判明したとしてもだ。できるだけ蟻の状態で頑張りたかった。万一混ぜるなら、タカアシガニ。ネットで調べた甲殻類最大の生物。体重は20kgほどと心もとないが、ハサミを左右に広げた長さは4mにもなるという。あの巨大蟻を超えている。そして、なんとジャポンの生物らしい。クチナシとしてはジャポンの生物で勝負するというのは蟻の勝負にこだわるの同じくらいの価値を感じた。だから例外的にタカアシガニで遺伝子組み換えすることは許容できた。
ゴムのような伸縮可能な木化をするために、和の瞑想をゴムの木の近くで行う。ゴムの木は産業の価値が高いため、ホームセンターでふつうに購入できた。それを海岸線に植える。蟻は海に落とし、近くに氷も落とす。その状態で、栄養となる葉っぱや、共食いの蟻の仲間を大量に落とす。
『さあ、大きくなれ。蟻よ。お前は辛いかもしれないが。俺も辛いんだ。和で同じ苦しみを味わってやるからな』
蟻からすれば何もありがたくない共感の押しつけ。だが、蟻の肉体は少しずつ変化していった。