俺だけ使える成長システムで湘北を全国制覇に導きたい 作:should
小学6年生の夏。
ミニバス最後の1年はあっという間に過ぎていった。
春には19回目の10アシストを記録した。
【 本日のアシスト:12 】
【 鑑定条件:達成 】
【 達成回数:19/20 】
(あと1回)
相手の守備がきつくなって苦しい試合もあった。
でも味方のシュートは安定していて、俺のパスは確実に得点につながった。
そして、運命の20回目。
大会の準決勝だった。
相手は地区でも指折りの強豪チームだった。
ダブルチームもプレスも、当たり前のようにかかってくる。
(これは厳しい試合になる)
ボールを持つたびに相手の守備が俺に寄ってきた。
その隙に味方がゴール下でフリーになる。
前半が終わった時点でアシストは5。
「翔真、このまま行けるか?」
マル先生がベンチで聞いてきた。
「大丈夫です。今日は決めます」
後半。
相手が俺をマンツーマンで厳しくマークしてきた。
(来たな)
でも俺には余裕があった。
パス精度はすでに90に達している。
視野は広く味方の動きがよく見えている。
ビュッ。
ゴール下の味方にぴたりと通す。
(いける)
残り1分。
アシストは9。
相手のディフェンスが俺の前に壁を作った。
視線を左右に振る。
(右のコーナー……いやここは違う)
目の端でゴール下にあの子が走り込んでいるのが見えた。
最初に一緒にレイアップを練習したあの子だ。
(来い)
ビュッ。
ボールはあの子の手にすっと収まった。
右左ジャンプ。
ふわっ。
スポッ。
【 アシスト:+10 】
その瞬間、視界の中央に光が走った。
【 本日のアシスト:10 】
【 鑑定条件:達成 】
【 達成回数:20/20 】
(やった……!)
胸の奥が熱くなった。
【 特殊能力『鑑定』を取得しました 】
■プレイメイク
・ドリブル○
・鑑定 ★NEW
【 鑑定:対象を見つめると能力値と特殊能力が表示されます 】
【 使用回数に制限はありません 】
試合はこちらの勝利だった。
ベンチに戻るとマル先生が笑っていた。
「勝ったぞ翔真」
「はい!」
「お前、また10アシストだったな」
「はい。今日は特別に嬉しいです」
「そうか。わしも嬉しい」
マル先生は帽子を深くかぶり直した。
(さっそく鑑定を試してみよう)
マル先生を見つめた。
視界に文字が浮かんだ。
【 鑑定を開始します 】
■鑑定結果 マル先生
■指導者ステータス
指導力 72
観察眼 81
戦術理解 78
選手育成 85
熱意 90
人望 88
試合中の判断 52
■得意戦法
速攻と全員バスケ
■特殊能力
■指導
・育成上手○
・全員の長所を見抜く
■戦術
・走るバスケ○
・ノーマークを作る名人
■性格
・孫に弱い
・ベンチで居眠り(実は観察中)
(……いろんな意味ですごい)
観察眼81と選手育成85。
人望88。
熱意90。
その一方で試合中の判断だけが52。
「翔真、どうした? わしの顔に何かついておるか?」
「いえ。先生の目が、とても優しいなと思いました」
「ははは。年寄りをからかうな」
(試合中の判断が低いのはベンチで居眠りしてるからだな)
でも「ベンチで居眠り(実は観察中)」は、すごく先生らしかった。
そして、改めてこの人のもとでバスケができてよかったと思った。
「先生、いつもありがとうございます」
「なんだ急に」
「なんとなく、言いたくなって」
マル先生はちょっと照れたように頭をかいた。
「……お前は、本当に変わった子だな」
(でも、鑑定は便利だ)
そう思ったときだった。
ふとあることに気づいた。
(これバスケをしていない人にも使えるのか?)
好奇心が湧いた。
翌日。
小学校の教室で俺は静かに前を向いていた。
(試してみるだけ。試してみるだけだ)
まず、隣の席の女子。
真面目で優等生の、いつもノートをきれいに取っている子だ。
(ちょっと見てみよう)
視線を向けた。
【 鑑定を開始します 】
■鑑定結果 隣の席の女子
■ステータス
学力 85
運動能力 45
真面目さ 90
想像力 98
■特殊能力
■性格
・優等生○
・几帳面
■趣味
・隠し特殊能力:腐女子
(…………)
俺は目を見開いた。
(小学6年生ですでに……?)
隣の席の女子がふとこちらを見た。
「翔真くん、何か用?」
「いや、別に」
「ふーん」
女子はまたノートに向き直った。
そのノートの端に何かを書いている。
(あのノートの端っこ……)
見なかったことにした。
(気づいてはいけないことに気づいてしまった)
次は学級委員の男子。
いつも真面目にみんなをまとめている。
(こいつはきっと普通だ)
【 鑑定を開始します 】
■鑑定結果 学級委員の男子
■ステータス
リーダーシップ 82
学力 78
責任感 90
睡眠時間 40
■特殊能力
■性格
・面倒見がいい
・頼まれると断れない
■趣味
・夜中のゲーム廃人
(睡眠時間40……ゲーム廃人……)
学級委員の男子は、いつもどおり真面目な顔で前を見ていた。
でも、目の下にうっすらくまがあった。
(お前寝ろよ)
(昼間の姿と夜の姿が全然違う)
次は給食委員の男子。
給食の時間になるといつも誰よりも早く食べ終わる子だ。
【 鑑定を開始します 】
■鑑定結果 給食委員の男子
■ステータス
食欲 99
早食い 95
運動能力 60
嫌いな食べ物 なし
■特殊能力
■性格
・給食の早食い○
・おかわり王
■趣味
・みんなの残したパンを回収
(おかわり王……)
その日の給食でもその男子は、4回おかわりして先生に怒られていた。
最後に担任の先生を見た。
(先生はさすがに普通だろう)
【 鑑定を開始します 】
■鑑定結果 担任の先生
■ステータス
指導力 65
体力 40
忍耐力 85
怒ったときの怖さ 70
■特殊能力
■性格
・生徒思い
・怒ると静かに怖い
■趣味
・隠し特殊能力:犬好き(家に3匹)
(家に3匹……)
担任の先生はいつもどおり厳しい顔で授業をしていた。
でも、俺は知ってしまった。
(この先生家に帰ったら犬に囲まれてデレデレなんだ)
授業が終わったあと俺は机に突っ伏した。
(知りたくなかった情報が多すぎる)
鑑定は能力値と特殊能力が見える能力だ。
だが、人の秘密までは見えてしまうらしい。
(これはむやみに使っちゃいけないな)
俺は心の中で誓った。
【 鑑定の使用ルール 】
【 ① 友達や家族には使わない 】
【 ② 見えたものは誰にも言わない 】
ところが、問題はすぐに起きた。
休み時間。
教室の後ろで数人の女子がひそひそ話をしていた。
「ねえ、翔真くん、さっき隣の席の子のことじーっと見てたよね」
「見てた見てた。すごい真剣な顔で」
「もしかして、好きなのかな」
(!?)
俺は椅子から転げ落ちそうになった。
「ち、違う! 違うんだ!」
「え、何が違うの?」
「あれは、その、観察していただけで」
「観察?」
「いや、あの、えっと……」
(鑑定してましたとは言えない)
隣の席の女子が赤い顔でこちらを見ていた。
「翔真くん……そんなに見てたの?」
「違う! 見てない! いや、見てたけど、そういう意味じゃなくて!」
「ふーん」
隣の席の女子はまたノートに何かを書き始めた。
(あのノートの端っこ……何を書いているのか、今はあえて考えないでおこう)
その日の放課後。
校庭を歩いていると学級委員の男子が追いかけてきた。
「翔真、聞いたぞ」
「何を」
「隣の席の子のこと、好きなんだって?」
「違う!」
「いや、いいんだ。応援する」
「応援しなくていい!」
(夜中のゲーム廃人に応援されても嬉しくない)
でも、その言葉は口に出さずに飲み込んだ。
その夜。
ノートに新しい反省点を書き足した。
■鑑定の反省点
・じっと見つめると周りに気づかれる
・見た内容をつい顔に出してしまう
・誤解が噂になって広まる
(これは由々しき問題だ)
特に最初の項目。
鑑定は「見つめる」ことで発動する。
つまり、使うたびに俺は対象の人をじっと見ることになる。
(試合中なら自然だけど日常で使うと完全に怪しい人だ)
ノートに書いた。
『鑑定はさりげなく使う練習をする』
翌日からしばらく俺は「さりげなく見る」特訓を始めた。
視線を対象に向ける。
でも、じっと見つめない。
遠くを見ているようなふりをして一瞬だけ鑑定する。
【 鑑定:成功 】
(いける)
校庭の端で体育の先生を遠くを見るふりをして鑑定した。
■鑑定結果 体育の先生
■特殊能力
・熱血○
・隠し特殊能力:朝イチで必ずおにぎりを3個食べる
(ははは)
でも、うっかり笑ってしまった。
「翔真、何を笑っておる」
「いえ、何でもありません」
(危ない危ない)
帰り道。
近所の公園で、ポチの散歩をしている隣の家のおじさんに出会った。
(ポチを鑑定したらどうなるんだろう)
さりげなく遠くを見るふりをしてポチを見つめた。
【 鑑定を開始します 】
■鑑定結果 ポチ
■ステータス
散歩好き 99
ボール好き 95
吠える力 60
番犬としての能力 20
■特殊能力
■性格
・人懐っこい
・ボールを見ると興奮する
■趣味
・隣の家の子(翔真)の顔を舐める
(顔を舐める……)
ポチがしっぽを振りながらこちらに近づいてきた。
「わん!」
「ちょ、ちょっと待て」
べろん。
顔面を丸ごと舐められた。
「あはは、ポチは翔真くんが大好きだね」
隣の家のおじさんが笑っていた。
(……ああそうだったな。昔からそうだったな)
俺は顔をぬぐいながら苦笑いした。
でも、ふと思った。
(三井に使うのはいいのかな)
三井は友達でも家族でもない。必要な場面だ。
(膝の強さが見えたら危険な時期に気づける。これは使っていい)
そう自分に言い聞かせた。
数日後の夜。
ノートを開いて新しく書き足した。
『鑑定取得。だが、使い方に注意』
ふと窓の外を見上げた。
夏の夜空に星が瞬いていた。
「いよいよ、中学か」
ミニバスはあと半年で卒団だ。
(でもその前にやることがある)
ベッドに入って目を閉じた。
(明日から三井に会いに行く準備をしよう)
そう思ったとき隣の部屋から母親の声が聞こえた。
「あなた、また不動産のサイト見てるの?」
「見てない」
「見てるでしょ」
「見てない!」
(父さん頑張ってるな)