俺だけ使える成長システムで湘北を全国制覇に導きたい 作:should
4月。
桜の花びらが舞う中俺は武石中学の校門をくぐった。
真新しい制服。
少しだけ大きめの学ランの袖。
(今日から中学生か)
体育館では入学式が始まっていた。
並べられたパイプ椅子に新入生がずらりと座っている。
「えー、新入生のみなさん。ご入学おめでとうございます」
壇上で校長先生が話し始めた。
「えー、中学校という場所は、これまでの小学校とは違いまして、えー」
話が長い。
明らかに長い。
(これは10分は続くな)
そう思ったそのときだった。
視界の中央にいつもの光が走った。
【 ステージが切り替わりました:中学生 】
【 能力値を再計算します 】
【 中学生の最大値を100として、能力値を換算しました 】
(来た)
画面が一斉に書き換わった。
■ステータス(中学基準 最大100)
佐藤翔真 中学1年生 身長 154cm OVR 43
■フィニッシュ
クローズショット 45 ドライビングレイアップ 44
ドライビングダンク 24 スタンディングダンク 26
ポストコントロール 34
■シューティング
ミドルレンジ 40 スリーポイント 33
フリースロー 46
■プレイメイク
パス精度 52 ボールハンドル 55
ボール保持スピード 50
■ディフェンス
インサイドD 42 ペリメーターD 50
スティール 44 ブロック 34
ヘルプD IQ 56
■リバウンド
オフェンスReb 46 ディフェンスReb 48
■フィジカル
スピード 54 アジリティ 52
パワー 42 ジャンプ力 48
スタミナ 82
■特殊能力
■プレイメイク
・ドリブル○
・鑑定
■フィジカル
・高身長
・晩成型
・怪我しにくい体
・バランス感覚○
・不屈○
(OVR 43か。ミニバスのときと同じでぐっと下がったな)
でも、驚きはなかった。
新しいステージに上がるたびに物差しが変わる。
もう慣れていた。
(そして、今回の目的はここからだ)
校長先生の話はまだ続いていた。
「えー、みなさんには、えー、大きな夢を持ってもらいたいと」
(校長先生もう少し短くしてもらえませんか)
画面の隅にもう一つ表示が出ていた。
【 現在の経験点:540点 】
【 経験点は、ステージをまたいで持ち越されます 】
(540点。ミニバスの3年間でこつこつ貯めておいてよかった)
使い道はすでに決めていた。
放課後。
自分の部屋に戻ってノートを広げた。
(三井先輩に実力を認めてもらう)
これが「課題④ 小学生や後輩の話を聞いてもらう方法を考える」の第一歩だ。
三井は努力家で負けず嫌い。
口で何を言っても実力が伴っていなければ、相手にされない。
(だったら見せるしかない。一番分かりやすい形で)
選んだのはドリブルだった。
ドリブルのキレは見れば誰でも分かる。
そして、ドリブルで抜く力は、のちに三井が俺の話を聞いてくれる理由にもなる。
(三井のハンドリングは鑑定で見た。ボールハンドル58パス精度55、ボール保持スピード52)
ノートに書き出した。
■三井寿(中学1年・鑑定結果)
ボールハンドル 58
パス精度 55
ボール保持スピード 52
■目標(三井を10以上超える)
ボールハンドル 68以上
パス精度 65以上
ボール保持スピード 62以上
(俺のいまの数字は、ボールハンドル55、パス精度52、ボール保持スピード50)
ボールハンドルはあと13。
パス精度もあと13。
ボール保持スピードはあと12。
(余裕を持たせて全部16上げよう)
画面を開いた。
【 ボールハンドル +1:経験点10 】
【 パス精度 +1:経験点10 】
【 ボール保持スピード +1:経験点10 】
(16上げるならそれぞれ160点。3つで480点)
540点から480点を引くと残りは60点になる。
ボールハンドルだけ限界までつぎ込むか。
も相認めてもらえなかったら、作戦がぱぁだしな。
(ミニバスでためた経験値を全部使うことになるな。でも、ここは惜しまない)
俺は深呼吸した。
【 ボールハンドルを強化します 】
【 経験点220を使用 】
画面が光った。
【 ボールハンドル:55 → 77 】
(次)
【 パス精度を強化します 】
【 経験点160を使用 】
【 パス精度:52 → 68 】
(最後)
【 ボール保持スピードを強化します 】
【 経験点160を使用 】
【 ボール保持スピード:50 → 66 】
【 残り経験点:0点 】
ボールの感触がかなり変わった。
以前よりもずっと軽くずっと近い。
(これならいける)
翌日の放課後。
俺は体育館の入口に立っていた。
「失礼します。入部希望の、佐藤翔真です」
バスケ部の体育館には、新入部員が20人ほど集まっていた。
壁際に2年生と3年生が並んでいる。
その中に三井寿の姿があった。
(いた)
三井は腕を組んで新入生たちを眺めていた。
「よし、全員揃ったな」
顧問の先生が前に出てきた。
「今日は新入部員の力を見るために、簡単なテストをやる。2年生にディフェンスをやってもらって、新入生はドリブルで抜いてシュートを決める。それだけだ」
(これだ)
先生が続けた。
「翔馬は、寿とだ。」
「新入生、誰からでも来い」
(いきなり三井がディフェンスに)
新入生たちは顔を見合わせた。
「三井先輩は県大会でも注目されてる人だぞ」
「無理だろ」
三井が目を細めた。
「見学のときに、俺のフォームをじろじろ見てた、あのガキか」
「はい」
「いいぜ。お前の実力、見せてみろ」
ボールを受け取った。
中学生の手に馴染む少し大きなボール。
ミニバスのボールとは重さも大きさも違う。
でも、俺の指はすぐにそれを理解した。
(三井先輩)
向かい合った三井は低く構えて俺をじっと見ていた。
中学生とは思えない鋭い目つき。
(さあ始めよう)
ボールをつきながらゆっくりとリズムを刻んだ。
トントントン。
三井の目がボールを追っている。
(右)
右に踏み出した。
三井が反応して右に体を寄せる。
(ここだ)
素早くボールを股の下で切り返した。
クロスオーバー。
三井の重心が逆に傾いた。
(いける)
そのまま左へ。
スピードを上げて三井の横をすり抜けた。
「なっ……」
三井が声を上げる間もなく俺は抜き去っていた。
そのままゴールへ。
静寂が体育館を包んだ。
「…………」
誰も何も言わなかった。
三井はコートの上で立ち尽くしていた。
「……今の、何だ」
「ドリブルです」
「いや、それは分かる。でも、何だ今のは」
三井が振り返って俺を見た。
「もう一回だ」
「はい」
二回目。
今度は、三井が最初から腰を落としてかなり警戒していた。
(さすがだな)
でも、鑑定で見た三井のボールハンドルは58。
今の俺は77だ。
スピードと切り返しの質が三井とは根本的に違う。
県大会でもそういないだろう能力だ。
(次は左から)
ボールを左手に持ち替えて一瞬右に視線を送る。
三井の体がぴくっと動いた。
その瞬間、逆の左にスッと抜けた。
「くっ!」
三井が必死に手を伸ばす。
でも、ボールには届かなかった。
スポッ。
「…………」
三井は唇を噛んでいた。
「もう一回!」
三回目。
四回目。
五回目。
すべて俺が抜いた。
五回目が終わったとき三井は肩で息をしていた。
「くそ……なんで止められねえんだ」
三井が俺の前に立った。
「翔真」
「はい」
「お前、ミニバスで何をやってたんだ」
「ひたすらドリブルとパスの練習です」
「どんな練習してた?」
「毎日、ボールを触って、味方のシュートを上達させることを考えてました」
「味方のシュート?」
「はい。味方が決めてくれないと、アシストにならないので」
「アシスト……」
三井は少し笑った。
「変なやつだな、お前」
「よく言われます」
「でも、すげえよ」
三井は右手を差し出した。
「お前の動き、教えてくれ」
「え?」
「ドリブルだ。俺、シュートは自信あるけど、ドリブルは今ひとつなんだよ。お前から盗みたい」
(……来た)
胸がじんと熱くなった。
「いいですよ。ただし、条件があります」
「条件?」
「僕の練習方法はしっかり守ってください。手順を飛ばしたりするとケガにつながったりするので」
「そんなことでいいのか?」
「はい。それが、一番大事なんです」
「……分かった。約束する」
三井はにやっと笑った。
「よろしくな、翔真」
「こちらこそ、三井先輩」
ガッシリと握手を交わした。
そのとき画面に表示が出た。
【 課題④ 小学生や後輩の話を聞いてもらう方法を考える:第一段階「まず実力を認めてもらう」達成 】
【 三井寿との信頼度:上昇 】
(やった……!)
周りの先輩たちがあこちらをみていた。
その中に小柄なガードの先輩と大柄な先輩がいた。
二人は顔を見合わせてにやにや笑っていた。
(あの二人にもそのうち話をしておこう)
その夜。
ノートを開いて今日の成果を書き込んだ。
『三井先輩にドリブルを認めてもらった。俺の練習メニューを守ってもらうことを約束してもらった』
(最初の一歩としては上出来だ)
ふとノートの隅に書き足した。
『三井先輩は素直な人だった』
(意外だったな。原作のイメージだと、もっとやんちゃなイメージだったのに)
でも、すぐに気づいた。
(……いやバスケに真剣な人はみんな素直なんだ。だからこそ無理をしてしまう)
その素直さがいつか三井を傷つけるのかもしれない。
(そうさせないために俺がいる)
窓の外に満月が浮かんでいた。
「よし。明日からが本番だ」
ベッドに入って天井を見上げた。
そのとき隣の部屋から母親の声が聞こえてきた。
「翔真、まだ起きてるの? 明日も早いんでしょ」
「はーい、寝まーす」
「いつもの体幹メニューはしたの?」
「……したよ」
「本当に?」
「今からします」
(なぜ母さんにも言われるんだ)
俺は苦笑いしてベッドから降りた。