俺だけ使える成長システムで湘北を全国制覇に導きたい   作:should

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掃除してたらクイックルワイパーが折れました。
モップはテメエが…


三井、海南いくってよ

中学2年の4月練習後。

 

「寿ってどこの高校行くか決めてる?」

「ああ。俺は海南にいって山王を倒す!」

 

ええええええええええええええええええええええええ!!!!!

 

 

 

新学期が始まって最初の週末に練習試合が組まれた。

相手は県内の中堅校。

 

結果は92対31。

 

「ありがとうございました!」

 

整列して挨拶を交わす俺たちの横で、相手の選手たちは肩を落としていた。

 

(……圧勝だ)

 

三井は汗を拭きながら満足そうに笑っていた。

 

「いい試合だったな、翔真」

 

「はい」

 

(いい試合……なんだけど)

 

その夜。

俺は部屋の机に座って頭を抱えていた。

 

(まずい。これはまずいぞ)

 

この1年で武石中は大きく変わった。

 

朝練の輪は全体に広がった。

3年生を中心に2年生は俺だけ。

その下の1年生たちまで全員がパワーポジションを組めて、お尻の筋肉の使い方を覚えて着地の音を小さくしている。

顧問の先生は「最近、怪我人が出なくなった」と首をかしげていた。

 

(それはそうだ。そのためにやってるんだから)

 

でも。

 

(強くなりすぎた)

 

原作の三井は中学3年の県大会決勝で、苦しい展開に追い込まれた。

そこで、安西先生に言葉をかけられた。

 

『あきらめたらそこで試合終了ですよ』

 

(あの一言を聞いたから三井は湘北を選んだ)

 

そして、のちに「安西先生、バスケがしたいです」と泣きながら言うことになる。

 

(あの一言がなければ三井は湘北に来ない。このままでは海南にいってしまう…)

 

そして、今のこの武石中は接戦になる気配が全然ない。

 

(このままだと決勝も楽勝だ。三井が湘北に行かねえぞこれ。どうするんだヤバい)

 

俺はノートの新しいページに大きく書いた。

 

『作戦名:あきらめたらそこで試合終了ですよ を聞く会』

 

会員は俺一人。

 

(ただしルールがある)

 

■作戦のルール

・わざとミスはしない(チームメイトに失礼だから)

・三井の膝に負担をかけない

・正々堂々とやる

 

(その上で何とかして決勝を接戦にする)

 

我ながらおかしなことを考えている自覚はあった。

 

(でも、これは大事なことなんだ)

 

まず、作戦①。

後輩と同級生に前半の出場機会を譲る。

 

次の週。

顧問の先生にお願いに行った。

 

「先生、お願いがあります」

 

「何だ、翔真」

 

「次の練習試合、前半は後輩や同級生の控えに出てもらえませんか。僕と3年生の先輩たちは、ベンチで見ています」

 

「……レギュラーを休ませて、控えに経験を積ませるのか」

 

「はい。大会に向けて、控えの選手が経験を積んでおくのは、大事だと思います」

 

顧問の先生は腕を組んで少し考えた。

 

「確かに、それはもっともな話だ。特にうちはどこよりも試合中に走りまくるからな。分かった。次の練習試合で試してみよう」

 

(通った)

 

そして、5月の練習試合。

 

前半コートに立ったのは1年生の後輩たちと、2年生の控えの選手たちだった。

俺と三井たちはベンチで観戦した。

 

ピッ。

 

試合開始。

 

後輩たちは緊張した顔でも、きっちりとしたバスケをしている。

 

(……そうだそれでいい)

 

ボールが同級生の控えに渡った。

 

彼はジャブステップを入れて一歩目で半歩だけ前に出た。

 

「おお」

 

そのままゴール下へ。

 

スポッ。

 

「入った!」

 

(……ん?)

 

 

 

1年生の後輩が低い姿勢でドリブルして、相手の重心を崩して抜いた。

 

スポッ。

 

その次。

 

別の後輩がリバウンドを取って素早くパスを回して速攻。

 

スポッ。

 

前半が終わってスコアは46対12。

 

「…………」

 

(朝練のメニューが浸透しすぎている)

 

ベンチの隣で三井が笑っていた。

 

「翔真、お前の教えたメニューのおかげで、後輩たちも立派に育ったな」

 

「……ありがとうございます」

 

(作戦①は失敗だな…)

 

次作戦②。

シュートを打たずパスに徹する。

 

(俺が目立つから点差が開くんだ。シュートを打たなければ、少しはバランスがとれるかもしれない)

 

『明日はシュートを打たない。パスだけに徹する』

 

試合開始。

 

三井がボールを持った。

 

(来た)

 

ボールを受けたらすぐにフリーの味方に出す。

 

ビュッ。

 

ボールを受け取った味方がシュート。

 

スポッ。

 

【 アシスト:+1 】

 

次。

パス

ビュッ。

決まる。

 

【 アシスト:+2 】

 

次。

パス。

ビュッ。

決まる。

 

【 アシスト:+3 】

 

(なんでミスしないんだ)

 

俺のパスを受けた味方たちは全員、ゴール近くで確実にフィニッシュを決めていた。

ミニバスのころから教えている全員フィニッシャー計画が、中学にも根づいていたのだ。

 

前半が終わってアシストは9。

俺のシュートはゼロ。

 

スコアは50対20。

 

(……30点差)

 

「翔真、お前、今日のパスすごいな」

 

「ありがとうございます……」

 

「点を取らずに、アシストだけで勝ったな」

 

「はい……」

 

(シュートを打たなければ点差は縮まると思ったのに。逆に全員が点を取りやすくなってしまった)

 

作戦②も失敗だ。

 

試合後俺は帰り道でひとり膝を抱えて座り込んだ。

 

(どうしよう。このままじゃ決勝も楽勝になる)

 

そのときふと気づいた。

 

(……待てよ。俺が強いだけじゃない。武石中全体が強いんだ)

 

じゃあどうすればいい?

 

(相手のレベルが上がればいい勝負になるはずだ)

相手を強くするのは正々堂々の範囲だ。

 

(……そうか。県全体のレベルを上げればいいんだ)

 

俺はノートに書いた。

 

『作戦③:県内の中学を巻き込んで合同練習会を開く』

 

翌日。

顧問の先生に相談した。

 

「先生、近隣の中学校と合同練習会を開けませんか?」

 

「合同練習?」

 

「はい。ほかの学校の選手たちと、一緒に練習したいんです」

 

「それは、敵に塩を送ることにならないか?」

 

「いえ。僕たちが強くなるためにも、ほかの学校のレベルが上がったほうがいいと思うんです。良いライバルがいないと、僕たちも成長しません」

 

顧問の先生は少し驚いた顔をしてそれから笑った。

 

「……お前は、本当に面白い奴だな」

 

「いえ、そんな」

 

「いいだろう。ほかの学校の先生に連絡してみよう」

 

(通った)

 

武石中の体育館に県内の7校の中学校が集まった。

 

「えー、みなさん。本日はよろしくお願いします」

 

顧問の先生が挨拶した。

 

「今日は、ウォームアップから、足首と体幹の練習、そしてミニゲームをやります。講師は、うちの2年生の佐藤翔真です」

 

「え、2年生が講師?」

 

他校の先生たちがざわついた。

 

「大丈夫か?」

 

「中2に教わるのか」

 

(そうなりますよね)

 

「翔馬の父親は元々大学でもバスケをしていた選手でな。うちでも朝練は翔馬のメニューを取り入れている。」

 

「ならおかしくはない…のか?」

 

俺は前に出てノートを開いた。

 

「よろしくお願いします。今日は、怪我を防いで、キレのあるプレーをするための基礎をお教えします」

 

最初は疑いの目で見られていた。

 

でも、ウォームアップが終わって、パワーポジションの練習が始まると空気が変わった。

 

「……これ、意外ときついな」

 

「お尻が熱い」

 

「足首が、ぐらぐらする」

 

「お、俺もだ」

 

あちこちからうめき声が上がった。

 

(そうだその感覚だ)

 

次に、クッションを使った片足立ち。

 

ぐらっ。

 

「うわっ」

 

どさっ。

 

「あはは、全員落ちてるぞ」

 

「ははは」

 

笑い声が起こった。

空気が一気に和んだ。

 

(いい流れだ)

 

最後はミニゲーム。

 

各校の選手が混ざり合ってチームを作る。

そこで、俺が重心移動やジャブステップを実演しながら教えた。

 

「相手の重心を崩して、一歩目で半歩だけ先に出る。それだけで、抜けます」

 

「なるほど」

 

「やってみよう」

 

あちこちでドライブを試す選手が現れた。

 

「おお、抜けた!」

 

「抜けたぞ!」

 

「すげえ!」

 

練習会が終わるころには他校の選手たちは全員、目を輝かせていた。

 

「ありがとうございました、佐藤くん」

 

「すごく勉強になったよ」

 

「うちの学校でも、このメニュー、やってみるよ」

 

(……よし)

 

俺は心の中でガッツポーズをした。

 

(これで県全体が強くなる)

 

でも、同時に思った。

 

(ちょっとやりすぎたかな)

 

練習会の様子を見ていた顧問の先生が、苦笑いしながら言った。

 

「翔真」

 

「はい」

 

「お前、県のコーチみたいになってるぞ」

 

「そんなつもりは……」

 

「いや、いい。ありがたいことだ」

 

顧問の先生は笑って肩を叩いた。

 

(……作戦③成功かもしれない)

 

そして、7月。

県大会の決勝の日がやってきた。

 

会場は満員の観客で埋まっていた。

 

「すごい人だな」

 

「優勝がかかってるからな」

 

ベンチに座る三井がぐっと拳を握った。

 

「翔真、今日は頼むぞ」

 

「はい、先輩。ところで、膝の調子は?」

 

「問題ない。完璧だ」

 

「違和感があったら、すぐに言ってくださいね」

 

「分かってるよ」

 

三井はにやっと笑った。

 

「お前の言うこと、守るさ」

 

(ありがとうございます先輩)

 

ベンチの後ろの席には1年生の後輩たちと、同級生の控えが並んでいた。

 

「先輩、頑張ってください!」

 

「翔真、いけー!」

 

(応援団までいる)

 

そのとき観客席の一角が目に留まった。

 

最前列の来賓席。

そこに一人の老人が座っていた。

 

白髪。

丸みを帯びた体型。

穏やかな微笑み。

 

(……いた)

 

間違いない。

あの人だ。

 

(安西先生……!)

 

心臓がバクバクと鳴った。

 

(本物だ。原作で何度も見たあの安西先生が今俺の目の前にいる)

 

俺はさりげなく遠くを見るふりをして鑑定を発動した。

 

【 鑑定を開始します 】

 

■鑑定結果 安西先生

 

■指導者ステータス

指導力 99

観察眼 99

戦術理解 97

選手育成 98

人望 95

試合中の判断 96

 

■得意戦法

選手の個性を最大限に引き出す采配

 

■特殊能力

■指導

 ・名将の眼(選手の素質を一目で見抜く)

■戦術

 ・試合の流れを読む

 ・勝負どころを逃さない

■性格

 ・穏やか

 ・ほっほっほ(隠し特殊能力)

 

(…………)

 

俺は固まった。

 

(試合中の判断96。マル先生の52と全然違う)

 

すべての数字が桁違いだった。

 

そして、気づいた。

 

(……この人は鑑定がなくても、選手の素質を見抜く力を持ってるんだ)

 

鑑定の特殊能力なんて必要ない。

この人はただ見るだけですべてを見抜く。

 

(すごい人だ)

 

そのとき安西先生がふとこちらを見た。

 

目が合った。

 

(!)

 

安西先生はにっこりと微笑んでほんの少しだけ、うなずいた。

 

(……今俺が鑑定したのバレたのか?)

 

いや、まさか。

でも、あの微笑みには何かを見透かされたような感覚があった。

 

(ほっほっほって言ってる気がする)

 

試合が始まった。

 

相手は県内屈指の強豪校。

去年の優勝校だった。

 

ピッ。

 

ジャンプボール。

ボールは大柄な先輩が取った。

 

小柄なガードの先輩にパス。

三井へ。

 

ミドルシュート。

 

外れた。

 

「!」

 

(三井先輩が外した。やっぱり相手のバランスが崩れてないからちゃんとシュートチェックが入ってる)

 

相手がリバウンドを取ってカウンターのトランジション。

スパッ。

 

相手が先制した。

 

(……強い)

 

俺はベンチから鑑定を発動した。

 

【 鑑定を開始します 】

 

■鑑定結果 相手のエース

 

■フィニッシュ

クローズショット 72 ドライビングレイアップ 68

ドライビングダンク 25 スタンディングダンク 25

ポストコントロール 60

 

■フィジカル

スピード 68 アジリティ 66

パワー 62 ジャンプ力 64

スタミナ 70

 

(中学基準でこんなに高いのか)

 

そして、もう一つ気づいた。

 

(……彼の足元の動き見覚えがある)

 

足首を使わず重心移動で一歩目を出している。

パワーポジションもきれいに組めている。

 

(合同練習会で俺が教えた動きだ)

 

あの日参加していた7校の中に、この相手校も含まれていた。

 

(……やりすぎたかもしれない)

 

でも、これが望んだ展開だった。

 

試合は一進一退の攻防になった。

 

前半が終わってスコアは武石中28点相手38点。

 

「くそっ、強いな」

 

「あいつ、止められねえ」

 

三井が悔しそうに言った。

 

(苦戦している……!)

 

俺は複雑な気持ちだった。

 

(嬉しいような申し訳ないような)

 

後半。

武石中は必死に追い上げた。

 

三井のシュートが入り始めた。

小柄な先輩のパスも冴えた。

大柄な先輩のゴール下も体を張った。

 

でも、相手のエースが止まらなかった。

 

残り5分。

武石中52点。

相手60点。

 

残り2分。

武石中60点。

相手64点。

 

残り1分。

武石中64点。

相手66点。

 

(追い上げている)

 

俺もコートで全力で走った。

 

重心を崩してジャブステップから一歩目。

相手を抜いてゴール下へ。

 

スポッ。

 

「いけいけいけ!」

 

でも、相手も決めてくる。

 

残り30秒。

武石中66点。

相手68点。

 

(2点差。でも、相手ボールだ)

 

相手のエースがボールを持って、ゆっくりと前に進んでくる。

 

時間を使われたら終わりだ。

 

「止めろ!」

 

三井が相手のエースに詰めた。

 

ボールをスティールしようと手を伸ばした。

 

ぱしっ。

 

指先がボールに触れた。

 

ボールははじかれて高く跳ねた。

 

「あっ」

 

そのままコートの外へ飛んでいって、ベンチの横の来賓席のほうへ転がった。

 

ピーッ。

 

ホイッスルが鳴った。

 

「アウト・オブ・バウンズ!相手ボール!」

 

審判が笛を吹いた。

 

(……ここだ)

 

息をのんだ。

 

三井がコートの上で立ち尽くしていた。

 

膝に両手をついて肩で大きく息をしている。

その顔はうつろだった。

 

(2点差。残り30秒。相手ボール)

 

三井の唇がわずかに震えた。

 

「……くそ。もう、ダメか……」

 

(三井先輩……)

 

そのとき転がっていったボールが来賓席の前で止まった。

 

その足元に。

 

安西先生がゆっくりと立ち上がった。

 

「…………」

 

ボールを静かに拾い上げた。

 

そして、穏やかな顔のままコートの脇に歩いてきた。

 

三井がボールを取りに来た。

 

安西先生はそのボールを三井に手渡しながら、静かに口を開いた。

 

「あきらめたら、そこで試合終了ですよ」

 

その瞬間、時間が止まったような気がした。

 

(…………!)

 

全身に鳥肌が立った。

 

(聞いた。聞いたぞ。本物の安西先生のあの言葉を)

 

三井がボールを受け取ったまま安西先生を見つめた。

 

そして三井はボールを審判に渡した。

 

 

「翔真」

 

「はい」

 

「行くぞ」

 

「はい!」

 

(三井先輩……!)

 

目頭が熱くなった。

 

(よかった。本当によかった)

 

俺はこっそり涙をぬぐった。

 

「翔真、お前、泣いてるのか?」

 

小柄なガードの先輩が不思議そうに聞いた。

 

「いえ、目にゴミが」

 

「体育館の中でか?」

 

「はい、体育館のゴミです」

 

(ごまかせてないけどいい)

 

ピッ。

 

相手ボールのスローイン。

 

審判がボールを相手に渡した。

相手のエースがボールを受け取る。

 

時間は残り25秒。

 

相手のガードがボールを前に運ぼうとして、エースへパスを回した。

 

(ここだ)

 

三井の目が鋭く光った。

 

三井はパスコースを読んでいた。

 

一歩目。

重心を倒して半歩だけ先に出た。

 

ぱしっ。

 

ボールが三井の手に収まった。

 

「スティール!」

 

会場がどよめいた。

 

三井はそのままドリブルで前に出た。

 

相手のエースが追ってくる。

 

「くっ」

 

三井はフロントコートで足を止めた。

 

そして、一瞬のジャブステップ。

 

相手の重心がぴくっと動いた。

 

その隙に三井は後ろに一歩下がって距離を取った。

 

(3ポイントラインの外)

 

残り8秒。

 

三井が跳んだ。

 

ビュッ。

 

ボールが三井の手から離れた。

 

美しい放物線を描いて。

 

静かにリングに向かって落ちていく。

 

(入れ)

 

(入ってくれ)

 

スパッ。

 

網がふわりと揺れた。

 

武石中69点。

相手68点。

 

「うおおおおおおおお!!」

 

体育館が爆発した。

 

「入った! 三井が決めたぞ!」

 

「逆転だ!!」

 

相手の最後の攻撃。

残り5秒。

 

ボールを持ったエースがゴール下に切り込んで、シュートを放った。

 

「止めろ!」

 

大柄な先輩が跳んだ。

 

ばしっ。

 

ボールがはじかれた。

 

ブザーが鳴った。

 

武石中69点。

相手68点。

 

武石中の優勝が決まった。

 

「うおおおおおおおお!!」

 

ベンチの後輩たちが飛び出してきた。

 

「やったー!」

 

「先輩ー!」

 

「翔真ー!」

 

三井が両手を突き上げた。

 

「やったああああああ!!」

 

チームメイトが三井に飛びついた。

 

俺も気づいたらその輪の中にいた。

 

「先輩、やりましたね!」

 

「ああ、やったぞ翔真!」

 

三井の顔は涙と汗でぐしゃぐしゃだった。

 

「お前のおかげだ」

 

「いえ、先輩が頑張ったんです」

 

「いや、お前がいたから、ここまで来られた」

 

三井は俺の肩をぐっと抱いた。

 

「ありがとうな」

 

「……はい」

 

(……泣くな俺)

 

涙がぼろぼろとこぼれた。

 

「翔真、お前、また泣いてるのか?」

 

「体育館のゴミです」

 

「またかよ」

 

笑い声があふれた。

 

表彰式。

三井が大会のMVPに選ばれた。

 

大きな拍手が起こった。

 

三井はトロフィーを受け取って高く掲げた。

 

(原作と同じだ)

 

その瞬間、観客席の安西先生がゆっくりと立ち上がった。

 

そして、三井のほうを見て静かに微笑んだ。

 

(……ほっほっほ)

 

三井は安西先生に向かって深く頭を下げた。

 

安西先生は軽く手を振って静かに会場を後にした。

 

その後ろ姿を俺はずっと見つめていた。

 

(安西先生。あの言葉聞けてよかった。本当にありがとうございました)

 

その夜。

 

家に帰ってノートを開いた。

 

『作戦名:あきらめたらそこで試合終了ですよ を聞く会 → 成功』

 

そして、書き足した。

 

『作戦①②は失敗。③が成功。県全体のレベルを上げた結果決勝が接戦になった』

 

(まさかこんな形で成功するとは思わなかった)

 

ふっと笑った。

 

(俺はいいライバルに恵まれた)

 

窓の外には満月が浮かんでいた。

 

 

 

「よし。ここまでは、うまくいった」

 

俺はノートを閉じた。

 

そのとき隣の部屋から母親の声が聞こえてきた。

 

「翔真、今日の試合、すごく感動したわ。あなたが泣いてたのも見たわよ」

 

「えっ、見られてた?」

 

「ベンチでぼろぼろ泣いてたでしょ」

 

「あれは、体育館のゴミが」

 

「はいはい」

 

(母さんには全部お見通しだ)

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