俺だけ使える成長システムで湘北を全国制覇に導きたい 作:should
中学2年の3月。
武石中の体育館で卒業式が行われていた。
在校生席の端っこで俺はパイプ椅子に座っていた。
目の前では校長先生がマイクの前に立っている。
「えー、卒業生のみなさん。ご卒業おめでとうございます」
(来た)
「えー、みなさんがこの学び舎で過ごした3年間は、学んでいるようで、躍らせれているような…」
(やっぱり長い)
入学式のときの校長先生と同じ人だ。
一年経っても話の長さは全く変わっていなかった。
(この人の話を聞くたびに俺の経験点が、静かに減っていく気がする)
ふと卒業生席に目を向けた。
三年生の列の前から3番目。
そこに三井が座っていた。
学ランの襟をきちんと整えて背筋を伸ばして、まっすぐ前を見ている。
(……三井先輩)
この2年間の朝練が一気に頭の中をよぎった。
クッションの上で転げ落ちたこと。
プランクが30秒でダウンしたこと。
ジャブステップで初めて小柄な先輩を抜いて、大喜びしたこと。
(いろいろあったな)
式はようやく終わった。
体育館の外は春の光に包まれていた。
桜はまだ蕾だったが風はもう春の匂いがした。
校庭には卒業生と在校生と保護者があふれていた。
「先輩、ご卒業おめでとうございます!」
「写真撮ってください!」
「ボタンください!」
(……最後のやつ聞こえたぞ)
人混みの中から三井を探した。
いた。
校庭の中央に女子の群れができていた。
その真ん中で三井が困った顔で立っている。
「あの、三井先輩! 第二ボタンをください!」
「え、いや、その」
「私にも!」
「私も!」
「あ、おい、引っ張るな!」
三井の学ランからボタンが一つ消えた。
「あっ」
「やった! 私が取った!」
「ずるい! 次は私!」
ボタンは一つ、また一つと消えていった。
(やめて、学ランが丸裸になる)
数分後に群れが散ったとき、三井の学ランにはボタンが一つも残っていなかった。
「…………」
「先輩、大丈夫ですか?」
近づいて声をかけると三井はぜえぜえと息をしていた。
「翔真……ボタン、全部持ってかれた……」
「見たら分かります」
「卒業式で、こんな目に遭うと思わなかった……」
「人気者ですね」
「うるせえ」
三井はぷいと顔をそむけた。
でも、耳が少し赤かった。
(……照れてるんだな)
そのときさりげなく三井を鑑定した。
【 鑑定を開始します 】
■鑑定結果 三井寿(卒業式の日)
中学3年生 身長 176cm OVR 93
■フィニッシュ
クローズショット 88 ドライビングレイアップ 90
ドライビングダンク 25 スタンディングダンク 25
ポストコントロール 60
■シューティング
ミドルレンジ 99 スリーポイント 99
フリースロー 99
■プレイメイク
パス精度 86 ボールハンドル 92
ボール保持スピード 90
■ディフェンス
インサイドD 62 ペリメーターD 88
スティール 90 ブロック 55
ヘルプD IQ 88
■リバウンド
オフェンスReb 64 ディフェンスReb 70
■フィジカル
スピード 90 アジリティ 94
パワー 78 ジャンプ力 80
スタミナ 88
■特殊能力
■シューティング
・シュート○
・ミドルレンジの職人
・スリーポイント○ ★NEW
■フィジカル
・体幹○ ★NEW
・ウォームアップ習慣○ ★NEW
■性格
・努力家
・負けず嫌い
・ボタンを全部取られて地味にショック
(……ふふっ)
思わず吹き出しそうになった。
(俺が初めて見たときと比べて全部の数字がとんでもなく上がってる)
そして、新しい特殊能力がいくつも増えていた。
体幹○。
ウォームアップ習慣○。
胸の奥がじんと熱くなった。
(この2年無駄じゃなかった)
そして、最後の項目。
『ボタンを全部取られて地味にショック』
(これは見なかったことにしよう)
「どうした翔真、ニヤニヤして」
「いえ、何でもありません」
「……お前、最近、時々人の顔をじっと見てるよな」
「気のせいです」
(鑑定まだまだ練習が足りないな)
三井はふっと息を吐いた。
「まあいいや。それよりも、翔真」
「はい」
「ちょっと、話があるんだ」
三井は校庭の端の桜の木の下に歩いていった。
俺もついていった。
桜の木の下で三井は立ち止まった。
周りにはほかに誰もいなかった。
「翔真」
「はい」
「俺、行く高校が決まった」
(……来た)
心臓がばくばくと鳴った。
「実はな。県内の強豪校から、推薦の話がたくさん来てたんだ」
「知ってます。10校以上でしたよね」
「12校だ」
「12!?」
「全部、スポーツ推薦で。特待生として授業料免除のところもあった」
(原作の三井はスポーツ推薦で湘北に来たわけじゃないけど、全中MVPの実績なら確かに引く手あまただったはずだ)
「全部、断った」
「全部!?」
「ああ」
三井はにやっと笑った。
「俺は、湘北に行く」
その瞬間。
俺の頭の中ですべての記憶が一斉に弾けた。
(……湘北……)
朝練。
クッション。
合同練習会。
決勝。
安西先生。
そして、あの一言。
(三井先輩が湘北に行く……!)
「…………」
「翔真?」
「…………」
「おい、翔真。聞いてるか?」
「…………」
「……お前、また泣いてるのか?」
「体育館のゴミです」
「ここ、校庭だぞ」
「校庭のゴミです」
「どんなゴミだ」
「桜の花びらです」
「まだ咲いてねえよ」
(ごまかせてない)
でも、涙は止まらなかった。
「先輩……」
「ん?」
「どうして、湘北なんですか」
三井は遠い目をした。
「あの決勝の日。あの人が、俺に言ってくれた言葉を、俺は一生忘れない」
「…………」
「あの人が、湘北にいるって聞いたんだ」
「……安西先生が」
「ああ。俺は、あの人のもとで、バスケがしたいんだ」
(原作どおりだ)
「それに、湘北は、そんなに強くないらしい。でも、だからいいんだ」
「だから、いい?」
「ああ。強いところに入って勝つのは、普通だろ。でも、強くないところを、自分の力で強くするほうが、おもしれえだろ」
三井はにやりと笑った。
「全国制覇でも、狙ってみるか」
その瞬間だった。
「先輩!!」
俺は思わず叫んでいた。
「うおっ、声でけえ!」
「先輩!! 僕も行きます!!」
「は?」
「僕も、絶対に湘北に行きます!!」
「お、おう」
「一年後、必ず追いかけます!! 湘北で、全国制覇しましょう!!」
「ちょ、ちょっと待て、声が」
「約束します!! 絶対に!!」
校庭の人たちが一斉にこちらを振り向いた。
「あれ、翔真くん?」
「何か叫んでる」
「告白?」
「先輩に?」
「あの二人やっぱりそうだったんだ!!!┌(┌^o^)┐」
(目立った)
三井は顔を真っ赤にして俺の口を押さえた。
「分かった! 分かったから、声を抑えろ!」
「むぐむぐ」
「頼むから!」
「むぐ」
三井が手を離した。
「ぷはっ。すみません」
「お前、本当に目立つな」
「すみません」
「でも」
三井は周りを見回して苦笑いした。
「……悪くねえな」
「え?」
「お前みたいな後輩がいるのは、悪くねえ」
「先輩……」
「一年後、待ってるぞ。ちゃんと湘北に来いよ」
「はい!!」
「だから、声!」
「はい」
小声で返事した。
そのとき後ろから声がした。
「おい、三井。お前、どこに行くんだって?」
振り返ると小柄なガードの先輩と大柄な先輩が、立っていた。
「あ、お前ら」
「聞こえたぞ。湘北だって?」
「ああ」
「俺たちも、湘北に行くことにした」
「は?」
三井がぽかんとした。
「俺たち二人で、相談して決めたんだ」
「お前ら、スポーツ推薦の話は?」
「全部断った」
「全部!?」
「お前一人、湘北に行かせるわけにいかないだろ」
小柄な先輩が胸を張った。
「そうだ。俺たち三人で、湘北を全国に連れていこう」
大柄な先輩も大きく頷いた。
「…………」
三井はぽかんと口を開けたまま固まった。
そして、少しだけ目を潤ませた。
「お前ら……」
「泣くなよ」
「泣いてねえ」
「泣いてるだろ」
「泣いてねえ!」
「体育館のゴミか?」
「校庭のゴミだ!」
(……結局みんな同じことを言うんだな)
三人は肩を組んで笑い合った。
その輪の外で俺は静かにその光景を見つめていた。
(三人が一緒に湘北に行く)
心の底から嬉しかった。
でも、同時に思い出した。
(……そうだ。ここからが本当の勝負だ)
三井が湘北に入学する時期に俺はまだ中学3年生。
湘北にはいない。
(この一年が一番危ない)
俺は三井の前に歩み出た。
「先輩」
「ん?」
「一つだけ、お願いがあります」
「何だ」
「湘北に入ったら、最初の一か月は、絶対に無理をしないでください」
「は?」
「体は、まだ高校の練習の強度に慣れていません。入学したての時期が、一番怪我をしやすいんです」
「……また、その話か」
「はい。何度でも言います」
三井は少し黙った。
そして、ふっと笑った。
「お前、母ちゃんかよ」
「違います」
「いや、母ちゃんだろ」
「違います」
「ほら、ウォームアップ、ストレッチ、痛みがあったらすぐに言う。だろ?」
「……覚えてるじゃないですか」
「当たり前だ」
三井はにやっと笑った。
「お前の言うこと、全部覚えてるぜ」
「先輩……」
「安心しろ。ちゃんと守る」
「ありがとうございます」
「それとな」
三井はポケットから一枚の紙切れを取り出した。
「これ、俺の家の電話番号だ」
「え?」
「何かあったら、いつでも電話してこい。逆に、俺も、お前に連絡する」
「はい!」
「それ、お母さんに怒られませんか?」
「大丈夫だ。うちのお袋は、そういうの、気にしねえ」
(いや、俺のお母さんのことなんだけど)
「分かりました。電話します」
「よし。約束だ」
三井が拳を突き出した。
俺も拳を突き出した。
拳が軽く触れ合った。
そのとき画面に表示が出た。
【 三井寿との信頼度:MAX 】
【 小柄なガードの先輩との信頼度:上昇 】
【 大柄な先輩との信頼度:上昇 】
【 目標達成:三井寿が湘北に入学することが決定しました 】
【 新しい目標:三井寿の左膝を守る(入学直後の1か月が最重要) 】
(よし)
俺は画面を静かに閉じた。
その夜。
家に帰ってノートを開いた。
『三井先輩湘北に行くことを決めた。小柄な先輩と大柄な先輩も一緒に行く。僕は一年後に追いかける』
そして、最後に書き足した。
『電話で近況報告をする約束をした』
(これで一年間三井先輩の状態を把握できる)
窓の外には桜の蕾が少しだけ膨らみ始めていた。
「あと一年か」
俺はノートを閉じた。
そのとき廊下から母親の声が聞こえてきた。
「翔真ー、今日、卒業式の帰りに、校庭で大声で叫んでたって、近所のおばさんから聞いたけど」
「えっ」
「湘北がどうとか、全国制覇がどうとか」
「……聞こえてた?」
「近所中に響いてたらしいわよ」
「…………」
「でも、母さん、嬉しかった。あなたが、そこまで本気になれるものがあるなんて」
(母さん……)
「ありがとう」
「でも、次からは、もう少し小さな声でね」
「はい……」
(三井にも言われたし母さんにも言われた。次からは本当に気をつけよう)