俺だけ使える成長システムで湘北を全国制覇に導きたい   作:should

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今更ながら、毎日20時に投稿してるこの小説ですが、10時31分にすれば良かったと後悔してます。


三井先輩と電話する

俺は、ずっとそわそわしていた。

 

なぜなら今日は、三井先輩が初めて湘北高校のバスケットボール部に行く日だからだ。

 

原作では、このタイミングで三井先輩が怪我をする。

 

そのことが、朝からずっと頭に引っかかっていた。

 

もちろん、入学前からウォームアップや身体のケアについて伝えてきた。無理をしないこと、痛みを感じたらすぐに休むこと、高校の練習に身体が慣れるまでは特に慎重になること。

 

三井先輩も、それを守ると約束してくれた。

 

でも、だからといって安心できるわけじゃない。

 

部活から帰ると、俺は夕食を済ませてから家の電話へ向かった。

 

夕食後の時間だったけれど、迷っている暇はなかった。

 

受話器を取り、三井先輩の家へ電話をかける。

 

何度か呼び出し音が鳴ったあと、電話がつながった。

 

『もしもし』

 

「三井先輩!」

 

『おう、翔真か?』

 

「はい! 先輩、入学どうでした?」

 

『どうでしたって、いきなりだな』

 

「今日、部活に行ったんですよね? 紅白戦とか……じゃなくて、怪我とかしなかったですか?」

 

『お前、そればっかりだな』

 

三井先輩の声が、少し呆れたようになった。

 

『今日、別に怪我とかそういうのは全然何ともなかったよ。紅白戦をしただけだしな』

 

「本当ですか?」

 

『本当だって。ちゃんとウォームアップもやったし、練習が終わったあとも身体を確認した。今のところ、どこも問題ねえよ』

 

「よかった……」

 

俺は、ほっと息を吐いた。

 

本当によかった。

 

原作では、ここで怪我をする。

 

その事実を知っている俺にとって、今日という日はずっと気がかりだった。

 

紅白戦で無事だった。

 

それだけで、ひとまず今日の目標は達成したような気分だった。

 

『お前、まさか俺が怪我してると思ったのか?』

 

「……ちょっとだけ」

 

『ちょっとだけ、ねえ』

 

「入学直後は怪我をしやすいって、前にも言いましたよね。だから心配で」

 

『分かってるって。お前、ほんとに心配性だな』

 

呆れたような声だった。

 

でも、怒っているわけではなさそうだった。

 

「すみません。でも、これからも怪我には気をつけてくださいね」

 

『分かってるよ。ちゃんと身体のケアはする』

 

「はい。先輩が怪我をしないように、これからも上手くなっていかないといけないですね」

 

『何でお前まで一緒に気合い入れてんだよ』

 

「だって、先輩が怪我をしないようにするのも大事ですけど、怪我をしない身体の使い方を身につけて、もっと上手くなってもらわないと困りますから」

 

『はいはい。分かったよ』

 

三井先輩は、少し笑った。

 

『それで、部活で色々あったんだけどよ』

 

「何があったんですか?」

 

『赤木ってやつと、ちょっと揉めてな』

 

『あいつ、ゴール下でボールをもらって自分で決めたいんだよ。俺は俺で、スクリーンを使ってフリーになってシュートを打ちたい。そしたら、どっちがどう動くかで言い合いになっちまってさ』

 

「なるほど……」

 

『最終的には、安西先生に止められた』

 

「安西先生に?」

 

『ああ』

 

三井先輩の声が、少しだけ真面目になった。

 

『俺たちに聞いてきたんだよ。今のプレーは、本当にチームが勝つために必要なことなのか、って』

 

俺は黙って聞いていた。

 

『俺がスクリーンを使ってシュートを打つのも、赤木がゴール下でパスをもらって決めるのも、別に間違ってるわけじゃねえ。でも、俺たちは自分のやりたいプレーばっかり主張して、相手のことなんか考えてなかったんだ』

 

三井先輩は、少し悔しそうに続けた。

 

『それで、安西先生に言われたんだよ』

 

一拍、間が空く。

 

『君たちのためにチームがあるんじゃない。チームのために君たちがいるんだ、って』

 

その言葉を聞いて、俺は思わず笑みを浮かべた。

 

ああ。

 

安西先生らしいな。

 

「……そりゃ、そうですよね」

 

『おい。何だよ、その反応』

 

「いえ、だって、その通りじゃないですか」

 

『簡単に言ってくれるなあ』

 

「でも、先輩。安西先生の言葉って、別に先輩のシュートを否定したわけじゃないと思います」

 

『……どういうことだ?』

 

「先輩がシュートを打つことは、湘北にとって大きな武器ですよね。だからこそ、その武器をいつ使うのかが大事なんじゃないですか?」

 

『いつ使うか、ねえ』

 

「はい。先輩がフリーなら、迷わず打てばいい。でも、相手が先輩を警戒して二人で寄ってきたら、その分だけ誰かが空く。そこでパスを出せれば、先輩のシュートは打てなくても、チームとしては得点できます」

 

『……』

 

「赤木っていう先輩だって同じです。ゴール下で勝負できるなら、そこにボールを集めればいい。でも、相手が中を固めてきたら、外にいる先輩が打つ。どちらか一人のために動くんじゃなくて、相手が嫌がる方を選ぶんです」

 

『つまり、俺がシュートを打つことも、赤木がゴール下で決めることも、どっちも必要ってことか』

 

「そうです。先輩が自分の得意なプレーを捨てる必要はありません。ただ、それだけにこだわらなければいいんです」

 

電話の向こうで、三井先輩が黙り込んだ。

 

しばらくして、低い声が返ってくる。

 

『……俺は、シュートを打てるなら、それが一番いいと思ってた』

 

「先輩のシュートは、実際に強いですからね」

 

『でも、赤木のやつも、自分がゴール下で決めるのが一番いいと思ってる。そう考えたら、そりゃぶつかるわな』

 

「お互いに、自分の得意なことしか見えていなかったんでしょうね」

 

『お前、さらっと言うなあ』

 

「すみません」

 

『いや、謝るところじゃねえけどよ』

 

三井先輩は、少しだけ笑った。

 

『そういや、お前も似たようなことを言ってたよな』

 

「俺がですか?」

 

『ああ。前に一緒に練習したとき、俺が無理にシュートを打とうとしたら、お前、別の選択肢を出せって言っただろ』

 

「そんなこと言いましたっけ?」

 

『言った。俺が打ちたいなら打てばいい。でも、打つ以外の選択肢を持ってる方が、相手は守りにくいって』

 

「ああ……」

 

『あのときは、偉そうなこと言いやがってって思ったけどな』

 

「今も思ってます?」

 

『今は……まあ、少しだけ分かる』

 

「少しだけですか」

 

『全部分かったなんて言ったら、調子に乗るだろ』

 

「もう十分、分かってくれたと思いますけど」

 

『お前なあ』

 

三井先輩の声に、さっきまでの苛立ちはもう残っていなかった。

 

代わりに、考えを整理しているような静けさがあった。

 

『安西先生は、俺にシュートをやめろって言ったわけじゃねえんだな』

 

「はい。先輩のシュートを、チームのために使えってことだと思います」

 

『チームのために、か』

 

「先輩が点を取ることもチームのためです。先輩が相手を引きつけて、誰かにパスを出すこともチームのためです。どっちを選ぶかは、そのときの状況次第ですけど」

 

『……なるほどな』

 

「それに、先輩がそういう判断をできるようになったら、もっと止めにくい選手になりますよ」

 

『俺が?』

 

「はい。シュートしかない選手なら、シュートを止めればいい。でも、パスもドライブもできるなら、相手は簡単に守れません」

 

『お前、俺をどうしたいんだよ』

 

「もっと強い選手になってほしいんです」

 

『またそれかよ』

 

「だって、本当のことですから」

 

『お前は、俺のことになると妙に熱くなるよな』

 

「先輩のシュートが好きなので」

 

『……そういうことを平気で言うな』

 

「何でですか?」

 

『何でもねえよ』

 

三井先輩は、少し言葉に詰まった。

 

その反応が妙におかしくて、俺は笑いをこらえた。

 

「それで、赤木先輩とはどうなったんですか?」

 

『話を戻すなよ』

 

「気になるじゃないですか」

 

『結局、安西先生に言われたあと、やってみたんだよ。今度は、俺が最初から赤木先輩の動きを見て、赤木も俺の位置を見てくれた』

 

『それで?』

 

『赤木がゴール下に入ったから、俺が外に開いた。相手が俺についてきたから、赤木が中で空いた。そこでパスを出したら、あいつが決めた』

 

「いい連携ですね」

 

『まあな。あいつ、決めたあとにこっちを見て、ほんの少しだけ頷いたんだよ』

 

「赤木先輩が?」

 

『そうだよ。あいつ、ああ見えても礼くらいは言えるらしい』

 

「それは、かなりの進歩じゃないですか」

 

『お前、あいつを何だと思ってるんだ』

 

「すごく真面目で、バスケットボールのことになると融通が利かなくなる人です」

 

『だいたい合ってる』

 

「先輩も似たようなものですけどね」

 

『俺のどこがだよ』

 

「自分のシュートにこだわるところとか」

 

『それは俺の長所だろ』

 

「長所も、使い方を間違えたら短所になりますよ」

 

『……お前、今日は本当に生意気だな』

 

「電話だから、少しだけ強気になってます」

 

『普段から十分強気だろ』

 

俺は思わず吹き出した。

 

電話越しでも、三井先輩がどんな顔をしているのか想像できる。

 

きっと、眉を寄せながらも、口元は笑っている。

 

『でもよ』

 

三井先輩が、少し声を落とした。

 

『今日、安西先生に言われたことは、ちゃんと覚えておこうと思う』

 

「はい」

 

『俺は、シュートを打つためにバスケをしてると思ってた。もちろん、それは今も変わらねえ。シュートを決める瞬間が一番好きだ』

 

「知ってます」

 

『でも、俺がシュートを打てるのは、誰かがスクリーンをかけてくれたり、パスを出してくれたりするからだ。そこを忘れて、自分だけで決めようとしてた』

 

「それに気づけたなら、今日の練習は大きかったですね」

 

『ああ。赤木のやつも、少しは分かったんじゃねえかと思う』

 

「先輩から見て、赤木先輩はどうでした?」

 

『頑固で、でかくて、声がでかい』

 

「それだけですか?」

 

『あと、ゴール下では本当に強い。あいつが中にいると、相手の守り方が変わる』

 

「じゃあ、先輩のシュートも生きますね」

 

『……そうだな』

 

三井先輩は、少し考えてから続けた。

 

『俺が外で打てば、相手は外に広がる。そうすりゃ、赤木が中で勝負しやすくなる。赤木が中で暴れれば、今度は相手が中に寄る。そしたら、俺がまた打てる』

 

「そういうことです」

 

『なるほどな。自分が目立つことだけ考えるより、相手をどう動かすか考えた方が、結果的にはシュートを打てる場面も増えるのか』

 

「はい。先輩のシュートを生かすためにも、先輩一人の力だけに頼らない方がいいんです」

 

『……お前、ほんとに中学生か?』

 

「中学生ですけど、バスケットボールのことなら結構詳しいですよ」

 

『自分で言うか、それ』

 

「事実なので」

 

『はいはい』

 

三井先輩は呆れたように返事をした。

 

けれど、その声にはどこか楽しそうな響きがあった。

 

それからしばらく、俺たちは今日の練習について話した。

 

赤木先輩がどれだけ頑固だったか。

 

三井先輩がどれだけ自分のシュートを打ちたがっていたか。

 

そして、最後に二人のプレーが噛み合ったとき、どれだけ気持ちよかったか。

 

『……あいつ、最後まで自分の方が正しいみたいな顔してたけどな』

 

「先輩も似たような顔をしていたんじゃないですか?」

 

『俺はいいんだよ』

 

「何がいいんですか?」

 

『俺はシュートが入るからな』

 

「それ、赤木先輩の前で言ったら、また揉めますよ」

 

『分かってる。だから言ってねえだろ』

 

「電話では言ってますけどね」

 

『お前、俺をからかってるだろ』

 

「少しだけ」

 

『やっぱりな!』

 

俺はまた笑った。

 

こうして話していると、朝から胸に引っかかっていた不安が、少しずつほどけていく。

 

三井先輩は無事だった。

 

それだけじゃない。

 

今日の練習で、赤木先輩とぶつかりながらも、自分のプレーについて考え始めている。

 

原作の流れを知っている俺にとって、それは大きな変化だった。

 

もちろん、これで未来がすべて変わったわけじゃない。

 

怪我の可能性が消えたわけでもない。

 

高校の練習は、これからさらに厳しくなる。

 

身体ができあがっていない時期に無理をすれば、どれだけ気をつけていても故障することはある。

 

だから、これからも三井先輩には何度も注意しなければならない。

 

嫌がられても、うるさいと思われても、伝えるべきことは伝える。

 

「先輩」

 

『ん?』

 

「今日、怪我をしなかったからって、これから無理をしていいわけじゃないですからね」

 

『分かってるって』

 

「練習前の準備運動と、練習後のケアは絶対ですよ」

 

『分かってる』

 

「痛みがあったら、我慢しないでください」

 

『分かってるって言ってるだろ』

 

「本当に?」

 

『本当だよ。お前に何度言われたと思ってんだ』

 

「じゃあ、明日からもちゃんと守ってくださいね」

 

『……お前、俺の母親か?』

 

「先輩の身体を心配しているだけです」

 

『それが母親みたいだって言ってんだよ』

 

「でも、先輩が怪我をしたら困りますから」

 

『誰が困るんだよ』

 

「俺が困ります」

 

『……』

 

電話の向こうが、急に静かになった。

 

「先輩?」

 

『いや……何でもねえ』

 

「どうしました?」

 

『何でもねえって。とにかく、気をつける』

 

「はい!」

 

『ただし、毎日電話してくるのはやめろよ』

 

「毎日はしません」

 

『本当か?』

 

「たぶん」

 

『たぶんじゃねえ』

 

「善処します」

 

『お前なあ……』

 

三井先輩の呆れた声に、また笑いが混じった。

 

しばらく話したあと、俺たちは電話を切った。

 

受話器を戻してからも、俺はその場を動かなかった。

 

 

今日、三井先輩は怪我をしなかった。

 

それだけで、胸の奥にあった重たいものが少し軽くなっている。

 

けれど、安心して終わりにするわけにはいかない。

 

未来は、俺が知っている原作の通りに進むとは限らない。

 

今日のように、少しずつ変わっていくこともある。

 

なら、俺にできることを続けるしかない。

 

三井先輩が自分のシュートを武器として磨きながら、チームの中でその力を生かせるようにすること。

 

赤木先輩が、自分の強さだけにこだわらず、仲間と連携することを覚えること。

 

二人が互いの力を認め合えば、湘北はもっと強くなる。

 

そして、そのために俺ができることもあるはずだ。

 

俺は部屋に戻り、机の上に置いてあったノートを開いた。

 

今日の出来事を書き留める。

 

『三井先輩、紅白戦で怪我なし』

 

その下に、もう一行。

 

『得意なことを捨てるのではなく、チームのために使う』

 

ペンを置いて、俺はその言葉を見つめた。

 

自分の力をどう使うか。

 

それは、これから俺自身が湘北で考え続けることになる。

 

ドリブルが得意なら、相手を抜くためだけじゃなく、味方を生かすために使う。

 

パスが得意なら、ただボールを渡すだけじゃなく、仲間が一番力を出せる場所へ届ける。

 

シュートが得意な選手がいるなら、その選手が打ちやすい状況を作る。

 

一人で全部をやる必要はない。

 

一人で全部をやろうとすれば、必ずどこかで限界が来る。

 

だからこそ、仲間がいる。

 

それぞれの得意なことを持ち寄って、一人では届かない場所まで進む。

 

それがチームだ。

 

一年後、俺も湘北へ行く。

 

そのとき、三井先輩たちはどんな選手になっているだろう。

 

赤木先輩との関係は、どう変わっているだろう。

 

そして俺は、どんな選手としてあのコートに立つのだろう。

 

考えるだけで、胸が熱くなった。

 

「待っててくださいね、先輩」

 

誰もいない部屋で、俺は小さく呟いた。

 

一年後。

 

俺も、湘北の一員になる。

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