俺だけ使える成長システムで湘北を全国制覇に導きたい 作:should
覚醒した翌朝。
俺はベビーベッドの中で天井を見つめながら考えていた。
(育成画面があるのは分かった。
でも、ルールを知らないまま経験点を使うのは危険だ)
ゲームは前世でさんざんやり込んだ。
育成ゲームで一番大事なのは、序盤の検証だ。
何をすればいくら貯まるのか、無駄になる行動は何か。
(まず基本の稼ぎ方を調べる。次に隠し要素を探す。最後に育成方針を決める)
俺は小さな拳を握った。
朝食の後母親がリビングに敷いてくれたマットで寝転がった。
ここが今日の実験場だ。
まずは寝返り。
ごろん。
【 寝返り:+1 】
もう一回。
ごろん。
【 寝返り:+1 】
五回目まで、経験点は増えた。
だが六回目で、画面が変わった。
【 寝返り:+0(同じ行動の繰り返しにより、効率が低下しています) 】
(やっぱり、同じ行動ばかりだと伸びない)
次はハイハイ。
部屋の端から母親の元までハイハイで向かう。
「翔真、ここまでおいで」
必死に這う。
膝と手のひらで床を押す。
【 ハイハイ:5m +1 】
もう一往復。
十メートルに到達した瞬間、画面に数字が浮かんだ。
【 ハイハイ累計10m:+2 】
(十メートルで2点。
つまり、一メートル0.2点か)
続けて往復を繰り返す。
五十メートルを超えたあたりで、変化があった。
【 ハイハイ:50m超過、効率が低下しています 】 【 ハイハイ:+1(10mあたり) 】
さらに百メートルを超える頃には、ゼロになった。
【 ハイハイ:本日の上限に達しました 】 【 スタミナ:26 → 15(疲労) 】
「あうー……(疲れた……)」
母親は、床に転がった俺を抱き上げた。
「あらあら、今日はよく動いたわね。お昼寝しましょ」
昼寝から起きると、画面が更新されていた。
【 睡眠により、本日の効率制限がリセットされました 】
(寝るとリセットか。じゃあ、毎日ちゃんと寝ればいくらでも稼げる)
三日目。
つかまり立ちから、一歩目に挑戦した。
ソファの縁につかまって、ゆっくり足を出す。
【 初めての歩行:+8 】
(初回ボーナスだ!)
二歩、三歩、四歩、五歩。
【 歩行5歩:+3 】
そして、ふらついて尻もちをついた。
ぽすん。
【 転倒:+0 】 【 怪我判定:なし(特殊能力『怪我しにくい体』の効果) 】
(この体、頼もしい)
歩行は、ハイハイより効率が高いらしい。
五歩で3点。
さらに、初めて何かをしたときの初回ボーナスが大きい。
(つまり新しい行動を次々に試すのが、いちばん効率がいい)
そこで、父親が仕事から帰ってきた。
手には、小さなミニボールを持っている。
「翔真、これ、買ってきたぞ」
床に、ころんと転がされた。
(バスケットボール……!)
そっと触れる。
ぱっと掴もうとして、ころがした。
【 ボールに初めて触れた:+5 】 【 ボールハンドル:25 → 25(経験点未使用) 】
もう一度、ころがしてみる。
両手で抱える。
【 ボールを持ち上げた:+3 】
(バスケ関連の行動は、ボーナスが多い)
父親が笑った。
「おっ、やっぱりボールが好きなのか。さすが俺の息子だ」
【 親から褒められた:+1(承認ボーナス) 】
(承認ボーナスまであるのか……!)
一週間。
基本の稼ぎ方は、だいたい分かってきた。
【 現在の経験点:147 】
俺は特殊能力の一覧を、改めて隅々まで見た。
■フィニッシュ
・フィニッシュ○ (要:経験点 150)
■シューティング
・シュート○ (要:経験点 150)
■プレイメイク
・ドリブル○ (要:経験点 150)
■ディフェンス
・ディフェンス○ (要:経験点 150)
■ リバウンド
・リバウンド○ (要:経験点 150)
■ ィジカル
・ジャンプ力○ (要:経験点 150)
・スタミナ回復○ (要:経験点 120)
・高身長 (要:経験点 150)
・??? (要:条件を満たすこと)
・??? (要:条件を満たすこと)
(……???が二つある)
怪我しにくい体も、最初は「条件を満たすこと」だった。
あれと同じ種類の能力に違いない。
(条件を探し当てれば、経験点なしで手に入るかもしれない)
俺は、片っ端から試すことにした。
翌日から特殊能力の検証を開始した。
二か月ほど経ったある日のことだった。
ソファにつかまって、立つ。
片足立ちになって手を離す。
一秒、二秒、三秒。
ぐらぐらする。
四秒、五秒。
太ももがぷるぷる震える。
六、七、八、九――
ぽすん。
「あうー!(惜しい!)」
もう一回。
二回目は15秒。
三日目、ついに20秒。
【 バランス感覚○ の解放条件を満たしました 】
【 特殊能力『バランス感覚○』を経験点なしで獲得 】
■フィジカル
・バランス感覚○ ★NEW
(やった、一個目!)
もうひとつの???は、なかなか手がかりがなかった。
夜、ベッドで考える。
(怪我しにくい体の条件は「怪我をしないこと」だった。じゃあ、これは何だ。ヒントは、この世界と俺の状況にあるはず……)
ふと、昼間の出来事を思い出した。
尻もちをついて、泣かなかったとき。
画面に、ほんの一瞬だけ小さな表示が出ていた気がする。
(もしかして、転んで泣かずに起き上がる、が条件……?)
翌日、ソファのクッションを床に並べて安全を確保した。
母親には「遊んでる」ようにしか見えないはずだ。
立つ。
一歩。
転ぶ。
ぽすん。
泣かない。
起き上がる。
二回目、三回目、…八回目。
【 転倒後の復帰:8/10 】
(カウンターが出た! 当たりだ!)
十回目。
【 条件を満たしました 】 【 特殊能力『不屈○』を経験点なしで獲得 】
■ フィジカル
・不屈○(転倒・疲労からの回復が早くなる) ★NEW
「あうあうあうー!(二個目!)」
母親が、部屋の入口で首をかしげている。
「……この子、何してるのかしら」
「転んでも全然泣かないな。強い子になるぞ」
父親は、満足そうにうなずいていた。
夜。
両親が寝たあと、俺は育成画面を開いた。
【 現在の経験点:153 】
(153点。
ちょうど、150点の能力が一つ取れる)
ここが、最初の分かれ道だ。
俺は、指を折りながら考える。
(原作を思い出せ。この世界のバスケは、高校生離れした選手ばかりだ)
頂点に立つ山王工業には、高校生離れした巨体のセンターがいる。
(結局、どんなに技術を積んでも、身体の大きさは覆せない場面がある)
技術は、努力で伸ばせる。
経験点で上げられる。
時間があれば、いくらでも積み上げられる。
だが、身長だけは。
(成長期が終わったら、もう伸びない。取り返しがつかない)
基本能力は、あとからいくらでも上げられる。
でも体の設計は、今しかいじれないかもしれない。
(高身長。これが、最初に取るべき能力だ)
迷いはなかった。
俺は画面の「高身長」に指を伸ばした。
【 特殊能力『高身長』(要:経験点 150)を取得しますか? 】 【 はい / いいえ 】
「はい」
【 取得しました 】 【 残り経験点:3 】
その瞬間、画面が大きく切り替わった。
■フィジカル
・高身長 ★NEW
・晩成型 ・怪我しにくい体
・バランス感覚○
・不屈○
【 特殊能力『高身長』により、身体設計画面が解放されました 】
(身体設計……!?)
新しいタブが、現れた。
■身体設計(現在の予測値)
最終身長 181cm (取得前:171cm)
ウィングスパン 186cm
股下 77cm
手の大きさ 小
頭の大きさ 小
足の大きさ 27.5cm
「あうっ!?」
(身長は+10cmで、181センチ。手の大きさがとか頭の大きさが「小」……ゲームの選手作成みたいだ)
さらに、項目の横に小さな文字があった。
【 各項目は、経験点で調整できます 】
■調整コスト
最終身長 +1cm (要:経験点 40)
ウィングスパン +1cm (要:経験点 40)
股下 +1cm (要:経験点 20)
手の大きさ (要:経験点 40)
頭の大きさ (要:経験点 20)
足の大きさ +0.5cm (要:経験点 20)
(ここから先は、経験点を貯めて、少しずつ理想の体を作っていくのか)
俺は、画面を閉じた。
体が大きくなる。
それは、この世界で戦ううえで、何よりの武器になる。
窓の外に、細い月が出ていた。
「あー……うー……(まだまだ、これからだ)」
眠りに落ちる直前、部屋の隅の小さなミニボールが、月明かりの中で、静かに光っていた。