俺だけ使える成長システムで湘北を全国制覇に導きたい 作:should
俺も高校最後の大会の前に、ギリギリバスケットはできるけど手術した方がいいよね。っていう膝の怪我をした高校生を試合に出したことがある。
高校最後、本人の希望、その大会が本人のバスケ人生最後、色々考えた末だけど、
いまだにその選択があってたかどうか分からない。
なお当人は元気に社会人やっている模様。
夏の大会が始まった。
湘北高校は初戦を突破した。
チームとしての形は、少しずつでき始めている。赤木を中心にゴール下を固め、三井のシュートで得点を重ねる。周囲の選手も、それぞれ自分の役割を理解し始めていた。
決して弱いチームではない。
しかし、勝ち進むにつれて、足りないものがはっきりと見えてきた。
相手の守備が強くなるほど、湘北の攻撃は停滞する。
三井のシュートが決まっている間はいい。だが、相手が彼を警戒し、簡単には打たせてくれなくなると、途端に攻め手が少なくなる。
「三井を外に出すな! ボールを持たせても、簡単に打たせるな!」
相手ベンチから声が飛ぶ。
三井の前には、常にディフェンスが立っていた。
パスを受けても、すぐにはシュートを打てない。相手が距離を詰めてくれば、ドリブルで抜こうとする。
だが、そこからが続かなかった。
一歩目で相手を置き去りにできない。身体をぶつけて守備を崩すこともできない。無理に突破しようとすれば、進路を塞がれ、苦しい体勢からパスを出すことになる。
「くそっ……!」
三井は歯を食いしばった。
シュートには自信がある。
練習で何度も繰り返してきた。自分の間合いなら、多少のプレッシャーがあっても決められる。
しかし、その間合いに入るまでの過程が足りない。
相手がシュートだけを警戒してくるなら、ドライブで抜けばいい。ドライブを警戒して距離を取るなら、シュートを打てばいい。
理屈は分かっている。
問題は、それを試合の中で実行できるだけの技術がないことだった。
そして、もう一つ。
「三井を狙え! そいつのところから攻めろ!」
相手は三井の守備の弱さにも気づいていた。
ボールを持った相手に簡単に抜かれる。抜かれまいと意識すれば、今度はシュートへの対応が遅れる。
三井が得点を取っても、相手にも同じように得点を許してしまう。
自分のシュートで稼いだ点を、自分の守備で失っている。
それが今の三井寿だった。
「三井!」
赤木の声が飛ぶ。
三井は振り返った。
「守備で簡単に抜かれすぎだ! もう少し粘れ!」
「分かってる!」
分かっているからこそ、腹が立った。
できるなら、とっくにやっている。
だが、できないものはできない。
今の自分には、シュート以外に胸を張れる武器が少なすぎた。
それでも、三井はコートに立ち続けた。
ここで諦めるつもりはなかった。
自分のシュートが通用することは分かっている。ならば、そこから先を身につけるしかない。
そう考えながら、三井は再びボールを追った。
赤木もまた、自分の課題に直面していた。
「赤木、もう少し周りを見ろ!」
ベンチからの声が聞こえる。
赤木は返事をしなかった。
分かっている。
ゴール下で自分がボールを持てば、相手の守備は集まってくる。そのとき、空いた味方にパスを出せばいい。
頭では理解していた。
練習でも、味方を使うプレーを意識している。
しかし、試合になると話が変わった。
ゴール下でボールを受ける。目の前には相手のセンター。身体をぶつければ、押し込めそうな感触がある。
ここで自分が決めればいい。
その考えが、頭より先に身体を動かしてしまう。
赤木は相手を押し込み、シュートを放った。
ボールはリングに弾かれた。
リバウンドを取られ、相手の速攻が始まる。
「戻れ!」
赤木は慌てて走った。
自分が決めていれば、問題はなかった。
だが、外したときの代償は大きい。
それでも、次に同じ場面が来れば、また自分で決めようとしてしまうかもしれない。
チームプレーが大切だと分かっていることと、試合の中でそれを実行できることは、別の話だった。
試合の中盤、湘北に好機が訪れた。
赤木がハイポスト付近でボールを受ける。
三井が外から走り込み、赤木の近くを通り抜けた。
赤木がボールを保持したまま背を向けて身体を入れ、三井のマークについていたディフェンダーの進路を塞ぎ、その横を三井がトップに向かって走り出す。
スクリーンだ。
三井は赤木の背後を抜け、フリーになった。
赤木はすぐにパスを送った。
三井がボールを受け、迷わずシュートを放つ。
ボールは綺麗な弧を描き、リングを通り抜けた。
「よし!」
三井が声を上げる。
赤木も小さく頷いた。
今のプレーはよかった。
赤木が自分で攻めるのではなく、味方を使う。三井も味方を利用して、シュートを打てる状況を作る。
二人の長所を生かした、理想に近い攻撃だった。
だが、同じプレーが何度も通用するほど、相手も甘くはなかった。
次の攻撃。
再び赤木がボールを持ち、三井のでフェンダーをはがしにかかる。
今度は、相手のディフェンダーが動きを読んでいた。
三井についていた選手はスクリーンを避けるように進路を変え、もう一人がパスコースに飛び出す。
赤木が出したパスは、三井に届かなかった。
相手に奪われたボールが、反対側のコートへ運ばれていく。
「しまった!」
赤木が声を上げる。
一度成功したからといって、同じプレーが次も成功するとは限らない。
相手は対応してくる。
ならば、スクリーンを警戒されたときにどうするのか。三井へのパスが塞がれたとき、別の選択肢を持てるのか。
今の湘北には、赤木には、その引き出しが少なかった。
赤木は周囲を見渡した。
味方は動いている。
それなのに、自分は三井へのパスが塞がれた瞬間、次の手を見つけられなかった。
結局、頼ろうとしていたのは、決められた一つの形だったのだ。
その後も湘北は攻め続けた。
赤木がゴール下で得点を重ね、三井が外からシュートを狙う。
それでも、相手の守備が対応するたびに、攻撃は苦しくなっていった。
赤木が無理にシュートを打てば、外したところから速攻を許す。
三井がボールを持っても、自分で守備を崩せず、攻撃が止まる。
一つのプレーが成功しても、それを読まれた後の手がない。
現在の能力だけでは、どうにもならない壁があった。
試合終了。
湘北は敗れた。
初戦を突破し、勝ち上がった先でぶつかった壁。ベスト16前後まで進んだものの、そこから先へは届かなかった。
赤木はコートに立ったまま、スコアボードを見つめていた。
もっと自分が決めていれば。
もっと周りを使えていれば。
そんな考えが浮かぶ。
だが、それだけではないことも分かっていた。
自分が得点を取ることは必要だ。ゴール下で相手を圧倒することも、チームにとって大きな武器になる。
しかし、それだけで勝てるわけではない。
相手が自分を止めに来たとき、味方を生かせなければならない。
味方を生かすことで、自分もまた得点しやすくなる。
その循環を作ることが、まだできていなかった。
「……次は、負けん」
赤木は小さく呟いた。
その言葉に、三井が顔を上げる。
「当たり前だろ」
三井もまた、悔しさを隠そうとはしなかった。
自分のシュートが通用しなかったわけではない。
だが、シュートを打てなければ意味がない。守備で狙われ続けるようでは、チームの足を引っ張ることになる。
もっと上手くならなければならない。
シュートだけでは駄目だ。
ドリブルも、守備も、試合の中で判断する力も。
足りないものは、いくらでもあった。
「次は、もっと決めてやる」
三井はそう言って、拳を握った。
赤木も三井も、自分たちがまだ完成していないことを理解していた。
だからこそ、ここで終わるつもりはなかった。
体育館の外。
安西は、帰っていく選手たちの背中を静かに見送っていた。
彼らはまだ若い。
技術も、判断力も、試合経験も、足りないものばかりだ。
それでも、彼らには可能性がある。
赤木には、ゴール下を支配できるだけの身体と意志がある。三井には、試合の流れを変えられるシュートがある。
二人とも、自分の足りない部分に気づき始めている。
適切に導けば、もっと成長できるだろう。
全国を目指すことも、決して夢ではない。
だが、安西の胸には、別の思いが沈んでいた。
谷沢。
かつて、自分が指導した選手。
自分のもとで才能を伸ばし、やがてアメリカへ渡ることを選んだ青年。
安西は、彼の決断を止めなかった。
若者には、自分の可能性を信じて挑戦する権利がある。そう考えていたからだ。
しかし、谷沢は異国の地で苦しみ、道を見失い、そして帰らぬ人となった。
あのとき、自分にできることはなかったのか。
もっと厳しく引き止めるべきだったのか。
それとも、彼が自分の意思で選んだ道を尊重したことは、間違いではなかったのか。
答えは、今も見つからない。
指導者として、選手の可能性を信じること。
その可能性を信じるあまり、本人が抱えている問題を見落とすこと。
その二つは、時として紙一重なのかもしれない。
目の前の若者たちを、どう導くべきなのか。
全国制覇という目標を掲げる彼らに、何を教え、何を見守り、どこで手を差し伸べるべきなのか。
安西は、まだ確かな答えを持っていなかった。
「……難しいものですね」
誰に聞かせるでもなく、呟く。
谷沢のことを忘れた日はない。
そして、これから指導していく選手たちにも、同じような後悔を残したくはなかった。
だが、過去の失敗を恐れるあまり、彼らの挑戦を妨げてしまえば、それもまた指導者として正しいとは言えない。
安西は、もう一度、体育館を振り返った。
中には、まだ練習を続けている選手がいる。
今日の敗北を糧にして、明日も成長しようとする若者たちがいる。
彼らがどこまで行けるのか。
自分は、そこへ至る道を正しく示せるのか。
その問いを胸に抱えたまま、安西は静かに歩き出した。
胸に灯った風化していた想いが、また熱を帯び始めていることには気づかないふりをした。