俺だけ使える成長システムで湘北を全国制覇に導きたい 作:should
後半開始まで、残り数分。
俺はコートの反対側で、赤木先輩と三井先輩が話し合っているのを眺めていた。
前半は、俺たち1年生側が優勢だった。
赤木先輩へのパスは読まれ、三井先輩はフリーでシュートを打てない。無理に状況を打開しようとすれば、俺たちの守備に捕まってしまう。
けれど、安西先生からアドバイスを受けた2人の表情は、先ほどまでとは違っていた。
「……なるほどな。そういうことか」
赤木先輩が何かに気づいたように頷く。
「だったら、俺がスクリーンをかければいいんだな?」
「そういうことだ。お前の体格なら、翔真でも簡単には通り抜けられねえ」
三井先輩がニヤリと笑う。
「それに、お前がゴールに向かって走れば、相手も放っておけない。俺がシュートを打つにしても、ドライブで抜くにしても、守る側は選択を迫られるってわけだ」
「うむ。やってみよう」
2人は短く頷き合った。
(……何か考えたみたいだな)
前半は、赤木先輩のポストプレーと三井先輩のシュートを封じることで、攻撃を止められていた。
しかし、2人が互いの強みを組み合わせてくるなら話は別だ。
赤木先輩は身長と体格を生かしたスクリーンをかけられる。
三井先輩は、そのスクリーンを利用してシュートを打つことも、ドライブでゴールに向かうこともできる。
単純な組み合わせだが、だからこそ厄介だ。
「後半、始め!」
笛が鳴った。
俺たちの攻撃から始まり、シュートを外したところで相手ボールになる。
赤木先輩がリバウンドを確保し、味方のガードへパスを出した。
そして、三井先輩がトップの位置へと移動する。
(トップでボールを受けるのか?)
三井先輩がボールを受ける。
俺はすぐに距離を詰めた。
前半と同じように、自由にシュートを打たせるつもりはない。
しかし、三井先輩はすぐにドリブルを始めなかった。
その代わり、赤木先輩が三井先輩の横へと移動する。
「スクリーンか!」
俺はすぐに反応した。
赤木先輩が俺の進路を塞ぐように立つ。
大きな体格を生かした、しっかりとしたスクリーンだった。
俺はその上を通るように回り込もうとする。
けれど、赤木先輩の体を避けながら移動するには、どうしても余分な動きが必要になる。
その一瞬。
三井先輩が加速した。
「っ!」
気づいたときには、すでに一歩遅れていた。
三井先輩はスクリーンを利用して俺を振り切り、ゴール方向へドライブする。
前半のように、簡単には止められない。
しかも、三井先輩が抜いた方向には、別のディフェンダーがいた。
ヘルプに来たのだ。
このままでは、三井先輩はシュートを打ちにくい。
そう考えた次の瞬間、赤木先輩が動いた。
スクリーンを終えた赤木先輩は、そのままゴールへ向かって走り出していた。
しかし、単純にゴール下へ飛び込んだわけではない。
ヘルプに入ろうとしたディフェンダーの進路を見て、その手前で足を止める。
そして、もう一度、スクリーンを作った。
「なっ……!」
ヘルプに向かおうとしていたディフェンダーが、赤木先輩を避けるために足を止める。
その一瞬で、三井先輩の進路が開いた。
三井先輩は迷わずゴールへ向かう。
レイアップ。
ボールがリングに当たり、ネットを揺らした。
得点。
「よし!」
三井先輩が小さく拳を握る。
赤木先輩も、満足そうに頷いた。
(なるほど……そういうことか)
赤木先輩は、最初のスクリーンで俺を遅らせただけではない。
スクリーンをかけたあと、自分もゴールへ向かい、ヘルプに入るディフェンダーまで封じた。
その結果、三井先輩はフリーに近い状態でフィニッシュまで持ち込めたのだ。
もちろん、赤木先輩の役割はそれだけではない。
もしディフェンダーが三井先輩への対応を諦め、赤木先輩の方へ意識を向ければ、今度は赤木先輩自身がゴール下でボールを受けるチャンスが生まれる。
それだけではない。
赤木先輩は、ヘルプに来たディフェンダーにスクリーンをかけることで、ゴール下に近い位置を確保していた。
もし三井先輩のレイアップが外れていたら、どうなるだろうか。
シュートが外れれば、ゴール下ではリバウンドの争いが始まる。
そのとき、赤木先輩はすでに有利なポジションを取っている。
仮に反対側のディフェンダーまで三井先輩のヘルプに来ていたなら、三井先輩はさらにシュートを決めにくくなっていたかもしれない。
しかし、その場合でも、赤木先輩はゴール下でリバウンドを狙える。
シュートが決まれば得点。
決まらなくても、オフェンスリバウンドから再び攻撃を続けられる可能性がある。
(シュートが入るかどうかだけで終わらないのか……)
赤木先輩は、自分が得点するためだけにスクリーンをかけたわけではない。
三井先輩の突破を助け、ヘルプを妨害し、そのまま自分もリバウンドを取れる位置へ入っていたのだ。
ひとつのプレーが、次のプレーにもつながっている。
(……うまいな)
思わず、感心してしまった。
赤木先輩の体格と、三井先輩の得点力。
それぞれの長所を、うまく組み合わせてきた。
「いいぞ、もう1本!」
赤木先輩が声をかける。
三井先輩も笑みを浮かべていた。
前半とは明らかに違う。
2人は、俺たちに対抗するためのプレーを見つけたのだ。
◇
次の攻撃も、トップでのスクリーンプレーだった。
赤木先輩が三井先輩の横に立つ。
今度は俺も、同じようにスクリーンを越えて追いかけるつもりだった。
しかし、相手も同じ形を繰り返すとは限らない。
赤木先輩がスクリーンをかけた瞬間、俺は判断を変えた。
赤木先輩の横を回り込むのではなく、スクリーンの下を通る。
アンダーだ。
これなら、赤木先輩の体格に進路を塞がれずに済む。
その判断自体は間違っていなかった。
だが、問題はその後だった。
俺がスクリーンの下を抜けている間に、三井先輩は一瞬だけフリーになっていた。
ほんのわずかな時間。
しかし、それで十分だった。
三井先輩はトップからスリーポイントラインの外でボールを構える。
俺が戻ったときには、すでにシュートの動作に入っていた。
「くっ……!」
俺は急いで手を伸ばした。
だが、間に合わない。
三井先輩の指先から、ボールが放たれる。
綺麗な弧を描いたボールは、そのままリングを通過した。
スリーポイント。
「よっしゃ!」
三井先輩が声を上げた。
俺は思わず苦笑した。
(アンダーを選んでも、これか)
スクリーンを越えて追えば、体格差によって一歩遅れる。
下を通れば、三井先輩にシュートを打つ時間を与えてしまう。
赤木先輩のスクリーンがあるだけで、三井先輩への守り方を変えなければならない。
そして、その選択によって、相手の攻撃も変わる。
(面白いな……)
前半は、俺が相手のやりたいことを読んで、それを潰していた。
だが、今度は相手が俺の守備を見て、その対策を考えてきている。
これがバスケットボールだ。
相手の動きに合わせて、自分たちのプレーも変えていく。
どれだけ個人の能力が高くても、決まった形しかできなければ対策される。
逆に、ひとつのプレーから複数の選択肢を作れれば、守る側は簡単には対応できなくなる。
そのことを、赤木先輩と三井先輩が実際のプレーで示していた。
◇
さらに数回、攻撃と守備が入れ替わった。
俺たちも速攻から得点を重ねたが、2・3年生側も、赤木先輩と三井先輩の連携によって簡単には崩れなくなっていた。
そして、再び相手ボール。
今度は、三井先輩ではなく、別のガードがトップでボールを持っていた。
赤木先輩が、またしてもスクリーンに入る。
(今度は三井先輩じゃないのか)
俺が周囲を確認している間に、ガードはスクリーンを利用してドライブを始めた。
マークしていた味方は、赤木先輩の体を避けるために一瞬遅れる。
ガードはそのままゴールへ向かう。
まずい。
このままでは、相手は数的優位を作れる。
俺はボールを持ったガードの進路を確認しながら、ヘルプに入る準備をした。
ガードがゴールに近づいたところで、俺は前に出た。
一時的に2対1。
ボールを持ったガードと、ゴールへ向かう赤木先輩。
俺がガードを止めれば、赤木先輩へのパスを出される可能性がある。
赤木先輩を警戒すれば、ガードにそのままレイアップを決められる。
どちらにしても、守備側には難しい状況だった。
「しまっ……!」
俺がガードの突破を止めようとした瞬間、ボールが外へ出た。
パス。
その先にいたのは、三井先輩だった。
スリーポイントラインの外。
完全にフリーだった。
「なっ!」
俺は慌てて戻ろうとしたが、間に合わない。
三井先輩がシュートを放つ。
ボールはリングを通過した。
再びスリーポイント。
「よし!」
三井先輩が笑い、赤木先輩も力強く頷いた。
俺は息を吐いた。
(そうなるのか……)
赤木先輩のスクリーンによって、味方のガードが一瞬だけ有利になる。
そのガードを止めるために、俺がヘルプへ入る。
すると、三井先輩へのマークが外れる。
そして、三井先輩のシュート力が生きる。
今までなら、三井先輩を自由にさせないことばかり考えていた。
しかし、相手は赤木先輩のスクリーンを使って、俺に選択を迫ってくる。
三井先輩を守れば、ガードの突破を止めにくい。
ガードを止めれば、三井先輩がフリーになる。
どちらか一方だけを意識していては、相手の攻撃を防げない。
「翔真、次だ!」
味方の声で、俺は意識を切り替えた。
まだ試合は終わっていない。
そして、相手の攻撃にも、まだ別の形があるはずだ。
◇
再び、トップでボールを持ったガード。
赤木先輩がスクリーンに入る。
俺は、さっきと同じ場面になることを予想した。
ガードがスクリーンを利用してドライブする。
マークしていた味方が遅れ、ガードが前へ進む。
俺は、すぐにはヘルプへ行かなかった。
さっきのプレーで、俺が助けに入れば三井先輩がフリーになることは分かっていたからだ。
今度は、三井先輩へのパスコースを塞ぐ。
三井先輩がボールを受けられない位置を取りながら、ガードの動きを見る。
(これなら、三井先輩へのパスは簡単には出せない)
だが、俺がその判断をした瞬間だった。
ガードが、ゴールの方へボールを高く放り上げた。
「なっ!?」
パスだ。
俺の頭上を越えたボールが、ゴールへ向かって走り込んでいた赤木先輩の方へ飛んでいく。
赤木先輩が跳んだ。
大きな体が、ゴールへ向かって伸びる。
空中でボールをつかみ、そのままリングへ叩き込んだ。
ダンク。
体育館に、ボールとリングがぶつかる大きな音が響いた。
「うおおっ!」
2・3年生側から歓声が上がる。
赤木先輩は着地すると、胸を張った。
「よし!」
三井先輩も、満足そうに笑っている。
俺は思わず、ゴールを見上げていた。
(アリウープまであるのか……!)
三井先輩へのパスコースを塞ぐ。
それ自体は、間違った判断ではなかった。
だが、相手は三井先輩にパスを出さず、赤木先輩へのアリウープを選んだ。
俺が三井先輩を警戒すれば、赤木先輩がフリーになる。
赤木先輩を警戒すれば、三井先輩がフリーになる。
そして、ガードへのヘルプを優先すれば、どちらかが空いてしまう。
たったひとつのスクリーンから、いくつもの攻撃パターンが生まれていた。
赤木先輩の体格。
三井先輩のシュート力。
ガードのドライブ。
それぞれの強みが、互いを引き立てている。
(そういうことか……)
安西先生が言っていたことが、少しだけ分かった気がした。
自分の強みを押し通すのではなく、その強みをどうすれば発揮できるのかを考える。
赤木先輩は、スクリーンをかけることで味方の攻撃を助けていた。
三井先輩は、そのスクリーンを利用して、シュートだけでなくドライブからのフィニッシュも狙っていた。
そして、別のガードがボールを持ったときには、同じスクリーンから違った攻撃が生まれた。
個々の強みを組み合わせるだけで、守る側が対処しなければならないことは一気に増える。
(……なるほど。これは、厄介だな)
前半のように、相手の弱点だけを突いていればいいわけではない。
相手が自分の強みを理解し、それを生かす方法を考え始めたなら、俺もそれに対応しなければならない。
そして、これは俺たち1年生側にとっても同じことだった。
俺の能力だけで、すべてを解決することはできない。
味方の長所を生かし、互いに助け合い、相手が簡単には対応できない攻撃を作る。
それができなければ、全国制覇なんて夢のまた夢だ。
「翔真!」
宮城の声が聞こえた。
「次は、こっちの番だ!」
俺はボールを受け取り、前を向いた。
「そうだな」
今度は、こちらがどう攻めるかを考える番だ。
◇
その後も、紅白戦は続いた。
俺たち1年生側も、ただやられ続けていたわけではない。
俺がボールを奪えば、すぐさま速攻を仕掛ける。相手が守備を整えていれば、宮城と連携しながら攻撃を組み立てた。
三井先輩がスクリーンを利用してシュートを打とうとすれば、俺は早めに距離を詰める。赤木先輩がゴール下へ走り込めば、味方に声をかけてカバーを意識させる。
それでも、2・3年生側の攻撃は止まらなかった。
赤木先輩がスクリーンをかければ、三井先輩が動く。
三井先輩を警戒すれば、赤木先輩がゴールへ走る。
ガードが突破すれば、俺がヘルプに入るかどうかを判断しなければならない。
単純なプレーの組み合わせなのに、守備側には次々と判断が求められる。
俺たちも対応を変えていったが、そのたびに相手も少しずつプレーを変えてくる。
前半のように、一方的にこちらのペースで進めることはできなくなっていた。
それでも、俺たちは最後まで食らいついた。
速攻から得点を重ね、宮城のドリブル突破からもチャンスを作る。相手がスクリーンに意識を向けた隙を突き、俺自身もミドルレンジからシュートを決めた。
しかし、2・3年生側も着実に得点を重ねていく。
赤木先輩がゴール下で存在感を発揮し、三井先輩はスクリーンを使ってフリーになるだけでなく、隙があれば自分でドライブを仕掛けた。
終盤には、俺も何度か三井先輩のシュートを妨害できた。
けれど、そのたびに赤木先輩がリバウンドに飛び込んでくる。
ボールを奪い切れなければ、攻撃は終わらない。
そして、俺たちの守備が一瞬でも乱れれば、三井先輩のシュートが飛んでくる。
残り時間が少なくなるにつれて、点差は徐々に開いていった。
「ラスト!」
俺は前を向いた。
赤木先輩がゴール下にいる。
三井先輩は外側で俺の動きを見ていた。
ならば、どちらにも対応できるように――。
そう考えた瞬間、三井先輩が動いた。
赤木先輩がスクリーンに入る。
俺は反応して追いかけようとしたが、ほんのわずかに遅れた。
その隙を見逃さず、三井先輩が外側へ回り込む。
パスを受け、シュート。
俺はすぐに手を伸ばしたが、間に合わなかった。
ボールがリングを通過した。
スリーポイント。
「よしっ!」
三井先輩の声と同時に、終了の笛が鳴った。
試合終了。
スコアボードには、2・3年生チーム45点、1年生チーム38点と表示されていた。
7点差。
前半は俺たちが優勢だったが、後半に入ってから2・3年生側が逆転し、そのまま逃げ切った形だ。
「ありがとうございました!」
両チームで挨拶を交わす。
俺は息を整えながら、赤木先輩と三井先輩を見た。
(……やっぱり、強いな)
前半の2人は、自分の得意なプレーに頼っているように見えた。
赤木先輩はポストでボールを受けようとし、三井先輩はフリーでシュートを打とうとする。
そこを俺に読まれ、攻撃を止められていた。
けれど、後半の2人は違った。
赤木先輩は自分の体格を生かしてスクリーンをかけ、三井先輩の得点を助けた。
三井先輩はスクリーンを使ってシュートを打つだけでなく、ドライブでゴールへ向かい、フィニッシュまで持ち込んだ。
さらに、ガードとの連携から赤木先輩へのアリウープまで生まれた。
それぞれが自分の強みを理解し、その強みを組み合わせた結果だった。
能力値だけでは分からないものが、そこにはあった。
少し離れた場所から、安西先生の声が聞こえた。
先生は、満足そうにコートを眺めていた。
「赤木君は、スクリーナーとしての才能も開花しつつありますね」
そして、口元に笑みを浮かべる。
「ほっほっほ」
その笑顔は、何か面白いものを見つけた人のようだった。
俺は、その横顔を見ながら思った。
これからの湘北は、もっと強くなる。
そして、そのために必要なのは、俺一人が強くなることだけではないのだろう。
赤木先輩のスクリーン。
三井先輩のシュート。
宮城のドリブルとパス。
それぞれの強みを生かし、互いを助け合う。
それができれば、湘北はもっと上を目指せるはずだ。
(……面白くなってきたな)
俺は、再びコートへ視線を向けた。