俺だけ使える成長システムで湘北を全国制覇に導きたい 作:should
身体設計が完成した翌朝。
俺は、上機嫌で目を覚ました。
(今日から、技術の育成だ。経験点は0に戻ったけど、また貯めればいい)
そう意気込んで、育成画面を開いた瞬間だった。
■コンディション
調子 不調
やる気 2/5
睡眠 ×
空腹 △
機嫌 ×
「あうっ!?」
【 調子:不調 】
【 効果:獲得経験点 -20% 】
【 原因:睡眠不足 】
(睡眠不足……?)
思い当たる節は、あった。
昨夜、1240点を貯めた興奮で、夜中に大声を出した。
そのあとも、興奮が冷めなくて、なかなか寝つけなかった。
(調子とか、やる気とか、そういうものがあるのか)
俺は、床に座り込んで、コンディションの項目を一つずつ見た。
■コンディション詳細
調子 絶好調 > 好調 > 普通 > 不調 > 絶不調
やる気 0〜5(高いほど経験点にボーナス)
睡眠 ○ / △ / ×
空腹 ○ / △ / ×
機嫌 ○ / △ / ×
【 調子は、睡眠・空腹・機嫌・やる気の合計で決まります 】
【 絶好調:経験点 +30% 】
【 好調:経験点 +10% 】
【 普通:経験点 +0% 】
【 不調:経験点 -20% 】
【 絶不調:経験点 -50%、ミスが増えます 】
(なるほど。ゲームで言う、コンディション管理か)
前世でやり込んだ育成ゲームを思い出す。
調子が悪いときに無理をすると、怪我をしたり、能力が下がったりした。
この世界では、怪我しにくい体があるから、怪我はしない。
でも、経験点が下がるのは、痛い。
(まずは、この項目を、全部検証しよう)
最初の検証対象は、睡眠だった。
その日の昼、母親が、俺を昼寝させようとした。
「翔真、お昼寝の時間よー」
(よし。ちゃんと寝て、調子を上げよう)
ベビーベッドに横になる。
目を閉じる。
……眠れない。
(中身は大人だから、昼間は眠くならない。これは、盲点だった)
一時間経っても、目が冴えたままだ。
そこへ、父親が、様子を見に来た。
「お、まだ起きてるのか。パパが、子守唄を歌ってやろう」
(お願いだから、やめてくれ)
だが、父親は、大きく息を吸った。
「ね〜んね〜ん、こ〜ろ〜り〜よ〜」
音程が、壊滅的だった。
上がるべきところで下がり、下がるべきところで裏返る。
聴いているだけで、脳がぐるぐる回る。
【 睡眠:悪化 】
【 機嫌:○ → × 】
「うー!(やめてくれ!)」
「お、泣きそうか? もっと歌ってやろう!」
(逆効果だよ!)
助けを求める目で、部屋の入口を見た。
母親が、ため息をついている。
「あなた、ちょっと代わって」
母親は、小さな声で、静かに歌い始めた。
その瞬間、まぶたが、ゆっくり重くなった。
音程が安定している。
テンポが一定で、心地いい。
(すごい……これが、母の力……)
気づいたら、ぐっすり眠っていた。
【 睡眠:○ 】
【 機嫌:○ 】
【 調子:不調 → 好調 】
■コンディション
調子 好調
やる気 3/5
睡眠 ○
空腹 △
機嫌 ○
(母の子守唄、最強だ。父の子守唄は封印!)
次の検証対象は、食事だった。
離乳食の時間。
母親が、スプーンを持って、にっこり笑っている。
「翔真、今日はピーマンのペーストよ」
(ピーマン……!)
前世の俺は、ピーマンが大嫌いだった。
あの苦味。あの青臭さ。
大人になっても、避けて通ってきた。
(でも、今の俺の体は、これから成長期に向けて、栄養が必要だ)
画面の隅に、小さな注意書きが出ていた。
【 身体設計は、生活習慣が乱れると実現率が下がります 】
【 栄養バランス:偏りあり 】
(実現率が下がる……!? つまり、好き嫌いすると、198センチにならないってことか?)
冷や汗が出た。
(ピーマンを、食べなきゃいけない……)
母親が、スプーンを、俺の口元に近づける。
「はい、あーん」
(覚悟を決めろ。俺は、198センチになる男だ)
ぱくっ。
……。
【 ピーマン:1回目 】
【 味覚ダメージ:大 】
【 やる気:3 → 2 】
「うえええええ!」
反射的に、口から、ピーマンを押し出した。
「あら、嫌いだった?」
(嫌いとかじゃなくて、生理的に無理なんだ!)
母親は、笑いながら、もう一口。
もう一口。
二回目。三回目。
【 ピーマン:2回目 】
【 味覚ダメージ:中 】
【 ピーマン:3回目 】
【 味覚ダメージ:小 】
(あれ? 慣れてきた……?)
四回目のとき、驚くべきことが起きた。
【 ピーマン:克服 】
【 経験点:+8(初回克服ボーナス) 】
【 栄養バランス:良好 】
【 実現率:100% 】
(克服した……! ピーマンを、俺は、克服したんだ!)
「翔真、全部食べたわね。えらいわ」
【 親から褒められた:+1 】
【 やる気:2 → 4 】
(やる気が上がった。褒められて、やる気が出る。これは、大人になってからも変わらないんだな)
そんな風に、一週間かけて、生活面の検証を続けた。
■検証結果まとめ
睡眠 夜はぐっすり、昼寝も1時間は必要
空腹 食事の30分後が、いちばん調子が良い
機嫌 おむつが濡れていない、眠くない、が基本
やる気 褒められる、新しいことに成功する、で上がる
【 おむつ替え:機嫌 ○ になるが、やる気 -1 】
(これは、仕方ない。中身は大人だから、羞恥心が、ダメージを与えてくる)
そんなこんなで、条件を整えた日。
【 調子:絶好調 】
【 やる気:5/5 】
「あうあうあうー!!(絶好調だ!!)」
その日は、経験点が、一日で31点も貯まった。
(絶好調、強すぎる……)
ここまで検証して、俺は、ふと思った。
(経験点の稼ぎ方は、だいたい分かった。でも、これだけに頼っていいのか?)
画面上の数字は、確かに大事だ。
でも、前世の記憶では、スポーツの上達は、数字だけで決まらなかった。
(経験点にならなくても、実際に育つ力は、あるはずだ)
前世で読んだ、育成の本を思い出す。
球技で大切な力は、乳幼児期から鍛えられるものが多い、という話だった。
(深視力。空間把握。動体視力。それに、両手の協調。こういうのは、生まれたばかりの頃から、育てられる)
早速、試してみることにした。
まず、深視力。
これは、物との距離を、立体的に捉える力だ。
バスケでは、ゴールまでの距離を測る、パスの相手までの距離を測る、そのどれにも関わってくる。
父親が、ボールを、俺の前に転がしてくれた。
ころころころ。
俺は、目を凝らして、ボールの動きを追う。
距離を見て、手を伸ばす。
ぱたん。
ボールの、少し手前を叩いてしまった。
(距離感が、ずれてる)
もう一回。
ころころころ。
ぱたん。
(まだ、ずれてる)
何回か繰り返すうちに、少しずつ、手が正しい位置に届くようになった。
【 経験点:+1 】
(経験点は、ほとんど入らない。でも、確かに、感覚は良くなってる)
次に、空間把握。
これは、自分が今どこにいて、周りに何があるかを、頭の中で立体的に理解する力だ。
母親が、クッションで、簡単な迷路を作ってくれた。
「翔真、ここから、こっちまで来てごらん」
部屋の壁、クッション、ソファ。
それらの位置を、頭に入れる。
右に曲がって、まっすぐ。
そのあと、左に曲がって、また進む。
【 迷路:クリア 】
【 経験点:+1 】
もう一回。
今度は、目を閉じて、部屋の配置を思い出しながら、進んでみた。
ごつん。
ソファの脚に、おでこをぶつけた。
【 怪我判定:なし 】
「あうー……(記憶違いだった……)」
でも、何回か繰り返すうちに、部屋の構造が、頭にしっかり入ってきた。
それから、動体視力。
動くものを、目でしっかり追う力だ。
窓の外を、車が通る。
自転車が通る。
鳥が飛ぶ。
俺は、それを、じっと目で追い続けた。
【 経験点:+0 】
(経験点にはならない。でも、動くものを追うことには、意味がある)
さらに、周辺視野。
視界の端で、動くものを捉える力。
母親が、視界の端から、おもちゃを、すっと動かした。
俺は、顔を向けずに、目だけで、その動きを追う。
(これは、バスケでは、味方の動きを見るのに、めちゃくちゃ大事なんだ)
最後に、両手の協調。
積み木を、右手でも、左手でも、同じくらいの精度で積む。
ボールを、右手で押して、左手で受ける。
父親が、面白がって、俺の手にボールを置いていく。
(利き手だけじゃなく、両手を使えるようになれば、ドリブルも、パスも、有利になる)
【 経験点:+0 】
(経験点は、ほとんど入らない。でも、これでいい)
俺は、天井を見上げて、納得した。
画面に出る数字が、すべてじゃない。
数字に出ない成長も、確かにある。
それを、自分の体で、ちゃんと積み上げていく。
(システムに頼りきるんじゃなくて、自分で育てるんだ)
その夜。
父親が、ボールを、ぽんと軽く転がした。
ころころころ。
俺は、そのボールを、両手で、ぱしっと掴んだ。
「お!」
父親が、目を見開いた。
「今、狙って掴んだな!? すごいぞ翔真!」
(狙ってる。距離を見て、動きを読んで、手を出した)
【 ボールを掴んだ:+3 】
【 親から褒められた:+1 】
【 やる気:5/5 】
■コンディション
調子 絶好調
やる気 5/5
睡眠 ○
空腹 ○
機嫌 ○
(数字も、実力も、両方、いい感じだ)
窓の外に、星が見えた。
【 現在の目標 】
【 ① 特殊能力を厳選する 】
【 ② 湘北高校に入学する 】
【 ③ 花道たちと、全国制覇する 】
「あー……うー……(次は、ボールで、本格的に鍛えよう)」
隣から、父親の、鼻歌が聞こえてきた。
「ね〜んね〜ん、こ〜ろ〜り〜よ〜」
(頼むから、それはやめてくれ)
俺は、そっと、耳をふさいだ。