俺だけ使える成長システムで湘北を全国制覇に導きたい 作:should
体の土台はできた。
生活の管理も、できるようになった。
だから、次は、方針だ。
(そろそろ、ちゃんと決めておかないといけないことがある)
一つ目は、ポジション。
二つ目は、学年。
(俺は、湘北に入る。でも、桜木たちから見て、俺は何年生になるんだ?)
これは、ずっと頭の片隅に引っかかっていた疑問だった。
俺は、ベビーベッドの中で、腕を組んだ。
確かめる材料は、一つしかない。
父親の本棚にある、雑誌だ。
その夜、両親が寝静まったのを確認して、俺は、そっとベビーベッドの柵を越えた。
四つん這いで、リビングの本棚に向かう。
目当ての雑誌は、下から三段目にあった。
『月刊バスケットボール』
(これだ。この、奥付に書いてある発行年が、手がかりになる)
一冊、引っ張り出そうとした。
ところが、雑誌が、ぎっしり詰まりすぎていた。
ぐぐぐぐぐ。
引っ張っても、動かない。
もう一回、思いきり引く。
ずぼっ。
その瞬間、隣の雑誌が、ドミノ倒しになった。
ドサドサドサドサドサ。
(やばい!)
本棚の中身が、雪崩のように、床に流れ出した。
雑誌が、山になる。
俺は、その山の中心に、埋もれていた。
【 雑誌に埋もれた:+0 】
【 怪我判定:なし 】
(セーフ……いや、全然セーフじゃない)
寝室のドアが、開く音がした。
「……翔真?」
母親が、目をこすりながら、立っていた。
俺は、雑誌の山の中から、そっと顔を出した。
「あうー(こんばんは)」
「なにしてるの、こんな時間に」
母親は、深いため息をついて、雑誌の山を見た。
「あなた……本棚を、全部、ひっくり返したの?」
(すみません)
「もう、パパの大切な雑誌なのに……。これ、明日の朝、パパが見たら、泣くわよ」
(泣かせてしまう……)
母親は、雑誌を、一冊ずつ拾い始めた。
俺は、その隙に、一冊を、こっそり握りしめた。
(奥付、奥付……)
あった。
『発行:今年』
(やっぱり。この雑誌は、今年の夏に出たものだ。つまり、海南の初出場は、今年)
次に、頭の中で、年表を作る。
原作の年は、海南が、17年連続でインターハイ出場を決めた年。
初出場を1年目と数えると、17年目は、今年から数えて、16年後。
(今年に、16を足す。その年の春に、桜木が、1年生として湘北に入学する)
次に、自分の生まれた年。
母親が、机の上に置いていた、母子手帳。
ページを開くと、俺の生年月日が、書いてあった。
(去年の秋、生まれだ。今年の秋に、1歳になった)
ここまでの情報を、整理する。
今年、俺は、1歳。
桜木は、16年後の春に、1年生になる。
桜木は、そのとき、15歳から16歳になる年齢のはずだ。
(つまり、桜木が1年生のとき、俺は……)
母親が、ため息をついた。
「翔真、もう寝る時間よ」
(待ってくれ、あと少しなんだ)
「明日、パパが起きたら、雑誌のことを謝るのよ」
(それは、絶対に避けられない)
母親に抱き上げられて、ベビーベッドに戻された。
けれど、俺の頭の中では、計算が、まだ続いていた。
(16年後に、桜木が1年生。俺は、今年で1歳。つまり、桜木が高校に入る年の春、俺は……)
数える。
数えて、数えて、数え直す。
(……17歳。あるいは、16歳の終わり)
俺は、はっとした。
(つまり、俺は、桜木の1つ上。2年生だ)
翌朝。
父親は、雑誌の山を見て、絶叫した。
「うおおおおお! 俺の雑誌がああああ!」
「翔真が、夜中に本棚を、ひっくり返してたのよ」
「何だと!?」
父親が、俺を見下ろした。
俺は、精一杯、申し訳なさそうな顔をした。
「あうー(ごめんなさい)」
「……可愛い顔をしても、許さんぞ」
「あーうー(でも、可愛いでしょ)」
「……許す」
(許された)
【 親から許された:+2 】
【 やる気:3 → 4 】
(許されて経験点が入るのか。この世界の親、甘すぎないか)
その日の午後。
俺は、今度こそ、落ち着いて、整理することにした。
■学年の整理
赤木剛憲 3年
三井寿 3年
佐藤翔真(俺) 2年
宮城リョータ 2年
彩子 2年(マネージャー)
桜木花道 1年
流川楓 1年
(なるほど。桜木と流川は、俺の1つ下。赤木と三井が、1つ上。宮城と彩子が、同学年か)
思わず、拳を握った。
(同学年に、宮城と彩子。これは、心強い)
続けて、俺は、ポジションを考えた。
原作の湘北は、こうだ。
■湘北の布陣(原作の年)
PG 宮城リョータ
SG 三井寿
SF 流川楓
PF 桜木花道
C 赤木剛憲
(俺は、198センチ。ウィングスパンは211センチ。手は大きい。ポイントガードには、向かない)
宮城は、ボールを運ぶ、小柄なガードだ。
翔真とは、体格が真逆になる。
(俺がガードに入ったら、宮城の居場所を奪うことになる。それは、避けたい)
じゃあ、センター。
赤木の位置だ。
けれど、赤木は、ゴール下の王者だ。
俺が、198センチのまま、その位置に入っても、勝てるとは限らない。
(フォワードは、流川と桜木が、もう揃ってる)
頭の中で、考える。
湘北に、今、何が足りないか。
(強い選手は、揃っている。でも、控えが、決定的に薄い)
原作でも、湘北は、5人で戦うようなチームだった。
誰かが怪我をしたら、もう、代わりがいない。
(そこだ。俺が入るべき場所は)
俺は、育成画面を開いた。
【 ポジション適性を分析します 】
■ポジション適性
PG △
SG ○
SF ◎
PF ○
C △
(SFが、一番向いてる。でも、SG、PFも、そこそこいける)
つまり、ガードもフォワードもできる、オールラウンダー。
どこかが欠けたら、そこに入る。
チームの穴を埋める、万能の選手。
(これだ。俺の役割は、これだ)
俺は、画面の隅の、方針メモに、こう書き込んだ。
【 育成方針:オールラウンダー 】
【 目標:湘北に足りない層を埋める 】
「あー……うー……(決まった)」
そのとき、廊下から、父親の声が聞こえた。
「翔真ー、パパと、ボールで遊ぶぞー」
(お、来た来た)
俺は、四つん這いで、リビングに向かった。
その途中で、母親が、そっと呟いた。
「この子、本当に、何を考えてるのかしら」
(こっちも、必死なんです)
窓の外は、夕焼けだった。
【 現在の目標 】
【 ① 特殊能力を厳選する 】
【 ② 湘北高校に入学する 】
【 ③ 花道たちと、全国制覇する 】
(次は、ボールの技術。いよいよ、本格的にやるぞ)
俺は、床に転がっているボールに、ゆっくり手を伸ばした。