俺だけ使える成長システムで湘北を全国制覇に導きたい 作:should
ポジションは決まった。
方針も決まった。
あとはボールと、本気で向き合うだけだ。
(でもその前に確認しておきたいことがある)
育成画面の能力値は項目が多い。
数えてみたら、23項目もあった。
名前は知っているが、それぞれが何に効く能力なのか、改めて整理しておきたい。
(何を伸ばすか決める前に、まず、己を知る)
画面の隅に小さな「?」マークがあった。
押してみる。
【 能力解説を表示します 】
(ヘルプ機能まであるのか。親切設計だな)
■フィニッシュ
【 クローズショット:ゴールの近くで打つシュートの精度 】
【 ドライビングレイアップ:ドリブルで切り込んで、ゴールの近くで決めるシュート 】
【 ドライビングダンク:ドリブルで切り込んで、そのままダンクを決める力 】
【 スタンディングダンク:その場から跳んで、ダンクを決める力 】
【 ポストコントロール:ポストでボールを保持する能力】
(ドライビングダンクは、花道の得意技になる。ポストコントロールは、赤木の武器だ。ゴール近くの王様たちが、ここで生きるわけだな)
■シューティング
【 ミドルレンジ:ゴールから少し離れた位置で打つシュートの精度 】
【 スリーポイント:3点ラインの外から打つシュートの精度 】
【 フリースロー:フリースローシュートの精度 】
(三井のスリー、流川のミドル。この項目は、湘北の得点源だ)
■プレイメイク
【 パス精度:味方に、正確にボールを渡す力 】
【 ボールハンドル:ドリブルの上手さ。ボールを取られない力 】
【 ボール保持スピード:ボールをドリブルしたまま走る速さ 】
(宮城が得意なやつだな。ボールを持たせたら、絶対に誰にも渡さない。あの姿は、この項目の見本みたいなものだ)
■ディフェンス
【 インサイドD:ゴール近くで、相手の攻撃を止める力 】
【 ペリメーターD:ゴールから離れた位置で、相手の攻撃を止める力 】
【 スティール:相手のボールを奪う力 】
【 ブロック:相手のシュートを、手で叩き落とす力 】
【 ヘルプD IQ:味方が抜かれたときに、助けに入る判断力 】
(赤木のブロック。宮城のスティール。守りの要は、全部この項目に詰まってる)
■リバウンド
【 オフェンスReb:味方のシュートが外れたとき、攻撃側のボールを取り返す力 】
【 ディフェンスReb:相手のシュートが外れたとき、ボールを取って攻撃に移る力 】
(リバウンドは花道の代名詞だ)
■フィジカル
【 スピード:縦方向の素早さ 】
【 アジリティ:横方向の素早さ 】
【 パワー:体のぶつかり合いの強さ 】
【 ジャンプ力:跳び上がる高さ 】
【 スタミナ:最後まで動き続けられる持久力 】
(湘北は走るバスケが持ち味だ。スタミナがなければ、話にならない)
一通り、目を通した。
23項目。
どれも大事でどれも今の俺には、絶望的に足りていない。
(全部をいっぺんに伸ばすのは無理だ。でも、オールラウンダーを目指すなら、どこも捨てたくない)
そこで目に留まったのが、ボールハンドルだった。
(ボールを扱う力はあらゆるプレーの土台になる。まずは、ここからだ)
【 現在の経験点:78点 】
(ボール関連の行動は、経験点のボーナスが大きい。ここを伸ばさない手はない)
リビングのマットの上に、俺はボールと並んで座った。
父親が仕事に出かけた、平日の昼下がり。
母親は台所で洗い物をしている。
(まずはハンドリングの基本からだ)
ボールに両手を添える。
持ち上げようとして、気づいた。
(……重い)
ミニボールとはいえ、1歳半の腕には大きすぎる。
それに手のひらが小さすぎて、ボールを掴む形にならない。
(そうだった。手の大きさは、最終予測値が「大」なだけで、今の手はただの赤ちゃんの手だ)
頭では分かっている。
それでも目の前の現実に、うなだれた。
(理想の体はまだ設計図の中にあるんだな)
それでもとにかく持ち上げてみる。
ボールを胸に抱え込むようにして、ぐいっと持ち上げた。
持ち上がった。
と思ったら、俺の体が後ろにころんと倒れた。
ボールを抱えたまま、仰向けにひっくり返った。
天井が見える。
ボールが胸の上にどすんと乗っている。
(重さに負けた)
【 ボールを持ち上げた:+3 】
【 ボールに押し倒された:+0 】
母親が台所から顔を出した。
「翔真? 何してるの?」
「あうー(ボールに、負けました)」
「あら、ボールの下敷きになってるの。かわいい」
(かわいいじゃなくて、助けてくれ)
母親はボールを持ち上げて、また床に置いてくれた。
救出されるのに10秒かかった。
次にボールを押して転がす。
これなら、できるはずだ。
ボールを両手のひらで前に押し出す。
ころころころ。
追いかけて、また押し出す。
【 ボールを押した:+2 】
(よし、いい感じだ)
調子に乗って、少し強めに押した。
ころころころころ。
ボールが思ったより、よく転がった。
そして、ソファの下にするりと潜り込んだ。
(待て!)
ソファの下に腕を突っ込む。
届かない。
肩まで突っ込んでも届かない。
(赤ちゃんの腕の短さが、こんなところで牙を剥くとは)
必死に腕を伸ばす。
指先がボールの表面にちょんと触れた。
その瞬間、ボールがさらに奥に転がっていった。
(触らなければよかった)
【 ソファの下の埃:+0 】
【 やる気:4 → 3 】
結局、夜、帰ってきた父親が片手で、三秒で救出した。
「ほら、翔真。ボールだぞ」
「あー(パパ、すごい)」
「ははは、ボールがソファの下に入ったのか。パパも、子どものころ、よくやったぞ」
【 父親の手柄:+0 】
(俺の格闘はいったい何だったんだ)
次の日はドリブルに挑戦した。
本物のドリブルはまだ無理だ。
でもボールを弾ませる感覚を、少しでも身につけたい。
ボールを持って、床にぽんと落とす。
ぽん。
ぽん。
ボールは一度だけ、小さく弾んだ。
それを手のひらで上から押さえようとした。
……つもりだった。
ぽん。
ボールは俺の手のひらを避けるように、真横に転がった。
慌てて追いかけた俺はボールに顔から突っ込んだ。
むぎゅっ。
ボールに顔が埋まった。
【 ボールハンドリング:失敗 】
【 経験点:+1 】
【 怪我判定:なし 】
(ボールに顔面から突っ込んだ)
「あら、ボールとキスしてる」
母親が笑いをこらえている。
(見られてた)
赤ちゃんのドリブルはボールを押しつぶさないだけで、精一杯だった。
それでも五回目のトライで、ボールを2回続けて弾ませることができた。
【 ドリブル:連続2回 +6(初回ボーナス) 】
【 ボールハンドル:25 → 26 】
(2回! たった2回だけど、2回だ!)
母親が拍手した。
「すごいじゃない、翔真!」
【 親から褒められた:+1 】
その翌日は洗濯かごに挑戦する日だった。
リビングの隅に空の洗濯かごを置いてもらった。
いや、母親が洗濯物を干し終わって、たまたま置きっぱなしにしていた、と言うべきか。
(ゴールはあれだ)
かごまでの距離は約1メートル。
大人にとってはほんの目の前だ。
けれど、1歳半の赤ちゃんにとっては、遠い距離だった。
(深視力と、空間把握の出番だ。距離を、しっかり測る)
ボールを両手で持ち上げる。
かごを見据える。
腕を大きく振りかぶる。
「あうー(えいっ)」
ぽとっ。
ボールは俺の足の前に落ちた。
【 シュート:失敗 】
【 飛距離:30cm 】
【 経験点:+0 】
(30センチ。ゴールまで、あと70センチ)
もう一回。
今度はもっと勢いをつけて、腕を振り上げた。
「あうー!(えいっ!)」
腕はちゃんと振れた。
ボールは手から離れた。
けれど、勢いをつけすぎた俺の体が、前のめりに倒れた。
ずさーーー。
体がそのまま、かごに頭から突っ込んだ。
かごがばたんと倒れる。
上半身がすっぽりと、かごの中に収まった。
【 シュート:失敗 】
【 かごに入ったのは、ボールではなく自分 】
「あら! 翔真が、かごに入ってる!」
母親が腹を抱えて笑っている。
「あはは! ボールじゃなくて、自分が入ったの?」
(そうです。入るのは俺ではなくて、ボールのはずなんです)
かごの中から、顔を出す。
かごを頭にかぶったままだった。
【 母親の笑い声:+1 】
【 怪我判定:なし 】
(でもこれは笑ってる場合じゃない。もう少し、工夫しないと)
母親が笑いをこらえながら、倒れたかごを起こして、そっと近づけてくれた。
距離は約50センチ。
「はい、翔真。ここまで来たら、入るかもよ」
(ありがとう、母さん)
三度目の正直だ。
ボールを構える。
かごをじっと見る。
「あうー(えいっ)」
ぽーん。
ボールはふらふらと、小さな弧を描いた。
かごの縁にこつんと当たる。
そして、内側にころんと落ちた。
【 シュート成功 】
【 経験点:+10(初回ボーナス) 】
【 やる気:4 → 5 】
「あうあうあうー!!(入ったー!!)」
俺は両手を突き上げた。
母親も手を叩いた。
「入った! 入ったわよ、翔真!」
【 親から褒められた:+1 】
(見てたか、母さん。これが俺の初シュートだ)
調子に乗って、母親にかごをさらに遠ざけてもらった。
距離、約1メートル。
「あうー(えいっ)」
ぽとっ。
【 シュート:失敗 】
【 飛距離:35cm 】
(……やっぱり、まだ遠いか)
母親が笑いながら、俺の頭を撫でた。
「焦らないの。少しずつ、ね」
(はい……)
その夜、父親が帰ってきた。
母親が洗濯かごのことを話すと、父親は目を輝かせた。
「え、入ったのか! 翔真、ボールがかごに入ったのか!」
「50センチだけどね」
「50センチでも、すごい! 撮影しよう!」
父親はビデオカメラを取り出した。
「翔真、もう一回、やってくれ!」
(親バカがここまで来たか)
その場でもう一回。
今度は父親がカメラを構えている。
「いいぞ、翔真!」
「あうー(えいっ)」
ぽーん。
ボールはかごの縁に当たって、床に落ちた。
【 シュート:失敗 】
「あちゃー、外れたか」
「あなた、撮影してるからって、緊張させちゃダメよ」
(そういう問題じゃない気がする)
でも父親は満足そうにカメラを見つめた。
「いやあ、いい映像が撮れた。ボールとかごと翔真、三つ巴の戦いだ」
(勝手にタイトルつけないでくれ)
母親がため息をついて、こう言った。
「ボールで遊ぶのは、1日30分までにしましょう。疲れるといけないから」
(ちょうど、画面の制限と、同じだ)
【 ボール練習:1日30分まで 】
(母さんと、育成画面の意見が一致した)
翌日から、練習は時間を決めて、集中して行った。
ボールを転がす。
ボールを掴む。
ボールを両手で挟んで持ち上げる。
ボールを父親と、転がし合う。
父親がボールをころんと転がす。
俺がそれを両手で受ける。
そして、ころんと、転がし返す。
「おお、上手いぞ!」
【 キャッチボール(転がし):連続10回 +5 】
【 連続20回 +10 】
(20回連続、成功した)
【 ボールハンドル:26 → 28 】
【 パス精度:25 → 27 】
【 深視力:向上 】
(能力値もちゃんと上がってる。ボール練習は、効率が段違いだ)
そんな日々が一週間続いた。
【 現在の経験点:152点 】
(152点……!)
ついに150点を超えた。
俺は特殊能力の一覧を開いた。
■フィニッシュ
・フィニッシュ○ (要:経験点 150)
■シューティング
・シュート○ (要:経験点 150)
■プレイメイク
・ドリブル○ (要:経験点 150)
■ディフェンス
・ディフェンス○ (要:経験点 150)
■リバウンド
・リバウンド○ (要:経験点 150)
■フィジカル
・ジャンプ力○ (要:経験点 150)
・スタミナ回復○ (要:経験点 120)
(どれにする……)
198センチの選手がボールを運べる。
これはこの世界では圧倒的な武器になる。
宮城リョータのような、小柄なガードは低い姿勢で、ボールを守る。
でも198センチでボールハンドリングが上手い選手は、そうそういない。
(相手からすれば、センターのつもりで守りに行ったらドリブルで突破される。大きい選手が、細かいボールさばきをする。これ以上、やりにくい相手はいない)
それに俺の方針はオールラウンダーだ。
どのポジションにも入れるためには、ボールを運べる能力が欠かせない。
(決まりだ)
俺は画面の「ドリブル○」に、指を伸ばした。
【 特殊能力『ドリブル○』(要:経験点 150)を取得しますか? 】
「はい」
【 取得しました 】
【 残り経験点:2点 】
その瞬間、画面が少しだけ光った。
■プレイメイク
・ドリブル○ ★NEW
【 ボールハンドル:28 → 31 】
【 効果:ドリブル時のボールコントロールが向上します 】
(能力値も上がった……!)
思わず、拳を握った。
(最初の1個目。これが、俺の最初の武器だ)
窓の外は夕焼けだった。
【 現在の目標 】
【 ① 特殊能力を厳選する 】
【 ② 湘北高校に入学する 】
【 ③ 花道たちと、全国制覇する 】
「あー……うー……(まだまだ、これからだ)」
リビングの棚の上ではボールが、静かに光っていた。
そして、その隣で母親がひそかに、ため息をついていた。
「この子、本当に、どう育つのかしら」
(俺もそれが知りたいです)