俺だけ使える成長システムで湘北を全国制覇に導きたい 作:should
2歳のある日、俺は初めて言葉を喋った。
「ドリブル」
母親は固まった。
父親は拍手した。
「初めての言葉がドリブルって……なんでママとかじゃないの……」
(心の声がつい出ちゃったーー!)
【 初めての言葉:+5 】
【 母親の落胆:-2 】
3歳のある日、事件はリビングで起きた。
父親が床に座ってボールを転がしてくれていた。
俺はそのボールを追いかけた。
勢いがつきすぎた。
どすっ。
俺の頭が父親の左膝に激突した。
「ぐおおおおおお! 膝がああああ!」
父親が床をごろごろ転がった。
「あなた大げさよ」
「大げさじゃない! この膝は、大学時代にバスケを辞めた因縁の膝なんだ!」
「はいはい。湿布貼りましょうね」
(知らなかった。パパにそんな過去があったとは)
父親は転がりながら、なぜかドヤ顔でこちらを見た。
「翔真、お前は膝を大事にしろよ」
「はい」
(膝の怪我は人生を変える。パパの転がりっぷりで、よく分かった)
三井の膝。
原作で読んだ場面が頭をよぎった。
【 怪我の知識(膝):+1 】
小学校に入学した。
俺は毎日ランドセルにボールを入れて登校した。
ボールは当然のようにはみ出ていて、担任に3回没収された。
(没収されるたびに「返してください」と頭を下げるのが地味に恥ずかしい)
【 担任に没収された:+0 】
【 親が学校に呼び出された:+0 】
小学3年生の春。
(ようやくだ…!)
ようやくバスケができる。
泣いて崩れ落ちながら「安西先生…バスケがしたいです…」っていう三井寿ごっこも今日で終わりだ!
ミニバスに入る前に、ここまでの成果を確認しておこう。
俺は画面を開いた。
■ステータス(小学3年生・入団前)
佐藤翔真 小学3年生 身長 133cm OVR 59
■フィニッシュ
クローズショット 58 ドライビングレイアップ 55
ドライビングダンク 42 スタンディングダンク 44
ポストコントロール 50
■シューティング
ミドルレンジ 57 スリーポイント 52
フリースロー 61
■プレイメイク
パス精度 66 ボールハンドル 72
ボール保持スピード 64
■ディフェンス
インサイドD 55 ペリメーターD 62
スティール 58 ブロック 48
ヘルプD IQ 63
■リバウンド
オフェンスReb 56 ディフェンスReb 58
■フィジカル
スピード 64 アジリティ 62
パワー 54 ジャンプ力 57
スタミナ 80
(どの数字も60前後。スタート地点が25だったことを思えば驚異的な成長だ)
幼児期から毎日続けたドリブルとパス。
ピーマンと睡眠と数え切れない失敗。
その全部が数字になっていた。
(ミニバスの子たちはきっと30か40くらいのはずだ)
つまり。
(これは無双できるぞ)
思わず口元が緩んだ。
「ふふふ」
母親が横から覗き込んだ。
「翔真、何ニヤニヤしてるの?」
「何でもない」
(今の俺は無敵だ)
俺はミニバスの体験入団の申込書を握りしめて、体育館の扉の前に立っていた。
「ここから、俺のバスケ人生が始まるんだ…!」
扉を開けた。
中では子どもたちが走り回っていた。
低いゴール。小さなボール。
そして、ベンチには腕を組んで座るおじいちゃんが一人。
「おお、君が体験の子か」
おじいちゃんは立ち上がった。
「わしは監督のマルだ。みんなマル先生と呼ぶ」
(丸々とした体型だからではなさそうだ。名前が丸山とかだろうか)
「佐藤翔真です。よろしくお願いします」
「うむ。まずは一緒に練習だ」
練習に混ざった。
ドリブルの基礎練習。
パス練習。
ゴール下のシュート練習。
その瞬間、視界の中央に見慣れた画面が浮かんだ。
【 ステージが切り替わりました:小学生(ミニバス) 】
【 能力値を再計算します 】
「!」
【 ミニバスの最大値を100として、能力値を換算しました 】
画面が一斉に書き換わった。
■ステータス(ミニバス基準 最大100)
佐藤翔真 9歳 身長 133cm OVR 36
■フィニッシュ
クローズショット 41 ドライビングレイアップ 38
ドライビングダンク 20 スタンディングダンク 22
ポストコントロール 30
■シューティング
ミドルレンジ 36 スリーポイント 28
フリースロー 40
■プレイメイク
パス精度 55 ボールハンドル 66
ボール保持スピード 52
■ディフェンス
インサイドD 38 ペリメーターD 45
スティール 40 ブロック 30
ヘルプD IQ 50
■リバウンド
オフェンスReb 42 ディフェンスReb 44
■フィジカル
スピード 52 アジリティ 50
パワー 38 ジャンプ力 44
スタミナ 78
(OVR 36!?。ミニバスで最大100ならまだ半分にも届いてないじゃん!?)
脳内に、「なぜ俺はあんな無駄な時間を……」と響いた。
どうやら俺の三井寿ごっこはまだつづくらしい。
幼児期の数字は7年半の積み重ねで確かに上がっていた。
でも、ミニバスという新しい物差しの上では、まだまだ雑魚だった。
(これがステージが変わるということか)
さらに、画面が続いた。
【 取得できる特殊能力の範囲が更新されました 】
【 新しい特殊能力が解放されました 】
■プレイメイク
・ドリブル○ (取得済み)
・鑑定 (要:条件を満たすこと)
(鑑定……!?)
異世界ものの定番スキルがまさかここで出てくるとは。
【 鑑定:対戦相手の能力値と特殊能力が見えるようになります 】
【 取得条件:ミニバス在籍中に、1試合10アシスト以上を記録することを、合計20回行う 】
【 ※ミニバス在籍中に達成できない場合、鑑定の取得機会は消滅します 】
「…………」
俺はその場で固まった。
(1試合で10アシスト。しかもそれを20回)
ミニバスの試合は1試合で両チーム合わせても、40点前後のロースコアだ。
10アシストというのは味方が20点以上を、俺のパスから決めるという意味になる。
(チームの得点の半分を俺のパスで作れってことか)
ハードルが高すぎる。
そして、アシストはパスを受けた味方がシュートを決めて、初めて記録される。
つまり、俺一人が上手くなっても達成できない。
(味方もちゃんとシュートを決めてくれないと)
練習中のコートを見渡した。
子どもたちは楽しそうに走っている。
シュートはゴールの縁に当たって、あらぬ方向に飛んでいく。
(これは長い戦いになりそうだ…)
でも、鑑定が手に入れば相手の強さを事前に見られる。
この世界で戦略を組むなら最強の武器になる。
(やるしかない)
俺は気合とともに、ぐっと力を入れてポカリの缶を開けた。
練習が終わったあとマル先生が俺の肩を叩いた。
「翔真、いい動きだったぞ。特にパスだ」
「ありがとうございます」
「ただ、ひとつだけ聞いていいか」
「はい」
「お前、本当に9歳か?」
「9歳です。多分」
「多分?」
「いえ、9歳です」
(危ない。思わず本音が出た)
数日後。
俺は入団して初めての練習試合に出ることになった。
相手は近所の別のミニバスチーム。
こちらのスタメンは俺と4人の同級生。
「翔真、頼んだぞ!」
「ボール回してくれよな!」
味方の二人は、足は速いがシュートに難のあるタイプだった。
(いや、俺を頼られても困るんだけど)
試合開始。
俺はボールを持った。
目の前に相手の守備が迫る。
視野を広げた。
空間把握と周辺視野の出番だ。
(右のFがフリー)
ビュッ。
パスを出した。
味方が受けた。
そのままシュート。
ガン。
外れた。
【 パス成功 】
【 アシスト:なし 】
「ごめん、翔真!」
「気にするな」
次のプレー。
今度は左のGにパス。
ガコン。
これも外れた。
(落ち着け。確率の問題だ。まだあわわわわわわ)
三回目。
右のCにパス。
外れた。
四回目。
また左のFにパス。
外れた。
五回目、六回目、七回目。
同じ味方にパスを出して全部外れた。
【 本日のアシスト:1 】
試合の中盤。
相手チームが俺のマークを変更した。
パスコースが塞がれた。
(まずい)
でも、焦るな。
視野を広げる。
左のコーナーでずっと動いていた小柄な子が、一人でフリーになっていた。
(あの子だ)
低い位置から鋭いパスを出した。
ばしっ。
その子は受けてシュートを打った。
スポッ。
入った。
【 パス成功 】
【 アシスト:+1 】
(やっと決まった)
その後もパスを出し続けた。
外れたり入ったり。
他の味方は最後まで一本も決まらなかった。
試合終了。
【 本日のアシスト:7 】
【 鑑定:条件を満たしていません 】
【 達成回数:0/20 】
「惜しいな、翔真」
マル先生がベンチで言った。
「7アシストなんて、ミニバスじゃ聞いたことないぞ。同じ子にパスを出し続けたのは、ちょっと意地悪だったけどな」
「あ、いえ、あれは外れる確率の問題で」
俺はシュートを外し続けた味方に頭を下げた。
「ごめん」
「いや、翔真が悪いんじゃない。俺が悪い」
その味方は落ち込んでいた。
(あの子……)
ここで俺は気づいた。
(鑑定を手に入れるには、味方全員のシュート力を底上げしないといけない)
つまり。
俺はプレイヤーとして強くなるだけじゃなく、チームメイトを育てる必要がある。
(コーチ役もやるということか)
窓の外は夕焼けだった。
「次の練習日、シュート練習に付き合うよ」
「え、翔真が?」
「俺も下手だから、一緒に練習しよう」
「……分かった」
(まずはあの子から)
俺はボールを抱えて笑った。