モンスターハンター ~異世界から来た狩人たち〜   作:19号

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第三話 異世界転移、ここは俺の知る世界じゃない――比企谷八幡、命を救った師匠との出会い

第三話 異世界転移、ここは俺の知る世界じゃない――比企谷八幡、命を救った師匠との出会い

 

 ――森の中にいた。

「……どこだ、ここ」

 比企谷八幡は、見覚えのない森の中で立ち尽くしていた。

 周囲には巨大な木々。

 足元には見たこともない植物。

 遠くから聞こえてくるのは、鳥の鳴き声……にしては妙に低く、不気味な声だった。

「……嫌な予感しかしねぇ」

 八幡は周囲を見回す。

 自分が最後にいた場所の記憶はある。

 だが、ここに来た記憶だけがない。

 突然、景色が変わった。

 それだけだった。

「……異世界とか、そういうやつか?」

 口に出してみたものの、当然答えてくれる人間はいない。

 八幡はとりあえず歩き始めた。

 森を抜ければ、人里があるかもしれない。

 少なくとも、このまま森の中にいるよりはマシだ。

 そう思って歩いていた、そのときだった。

 ――ガサッ。

「……っ」

 茂みが揺れた。

 八幡の足が止まる。

 次の瞬間。

 茂みの向こうから、一匹の生き物が姿を現した。

「……なんだ、あれ」

 青白い体。

 鋭い爪。

 細長い頭部。

 そして、こちらを見つめる鋭い目。

「……トカゲ?」

 いや。

 そんな生易しいものではない。

 その生き物は、八幡を見つけると低く唸った。

「……冗談だろ」

 八幡は一歩後ずさる。

 生き物がこちらへ顔を向ける。

 そして――

 ギャアッ!

「うおっ!?」

 八幡は反射的に茂みへ飛び込んだ。

 地面に伏せ、息を殺す。

 青白い怪物――ギアノスは、周囲を警戒するように歩いている。

「……何なんだよ、あれ」

 八幡は物陰から様子を窺った。

 やがてギアノスは森の奥へと消えていった。

 八幡はしばらく動けなかった。

「……あんなの、俺の知ってる世界にはいねぇぞ」

 その瞬間。

 八幡は、ようやく理解し始めていた。

 ここは、自分の知っている世界ではない。

 そして――

 この世界では、あんな化け物が普通に存在している。

「……最悪だ」

 八幡は頭を抱えた。

 だが、ここで立ち止まっていても何も始まらない。

 八幡は再び歩き始めた。

 森の中を進み続けること、しばらく。

 やがて木々の向こうに建物が見えてきた。

「……村?」

 八幡は警戒しながら近づいた。

 そこには確かに、人が暮らしていた。

 大きな集落ではない。

 雪の多い土地らしく、建物には防寒を意識した造りが見られる。

 そして何より――

「……武器?」

 村の中を歩く人々の中には、武器を持っている者がいた。

 剣。

 弓。

 そして、巨大な銃のような武器まである。

「なんなんだ、ここ……」

 八幡が呆然としていると、一人の村人が声をかけてきた。

「おや、旅の人かい?」

「……まあ、そんなところです」

「こんなところまで一人で来るなんて珍しいね。ハンターかい?」

「ハンター?」

 八幡が聞き返す。

 村人は不思議そうな顔をした。

「知らないのかい?」

「……ええ」

 その言葉を聞いた村人は、八幡の服装を改めて見た。

 武器もない。

 防具もない。

 どう見てもハンターには見えない。

「そうか。じゃあ、まずは村長に会ったほうがいい」

 そう言われ、八幡は村長のもとへ案内された。

 そこで八幡は、この世界について知ることになる。

 この世界には、人間を襲う巨大なモンスターが存在すること。

 そして、それらのモンスターを狩り、人々の暮らしを守る者たちがいること。

 ――ハンター。

「……なるほど」

 説明を聞き終えた八幡は、腕を組んだ。

「つまり、この世界じゃ化け物が普通にいる」

「そういうことじゃな」

「で、それを倒す仕事がハンター」

「うむ」

「……俺、向いてねぇな」

 村長は苦笑した。

「そう言わずともよい。最初から強い者などおらん」

 八幡は黙った。

 自分は戦えるのか。

 正直、自信はない。

 だが――

 さっき森で見たギアノスを思い出す。

 もし、またあんな怪物に襲われたら。

 今度は逃げ切れる保証などない。

「……ハンターになれば、生き残れる可能性は上がりますか?」

「努力次第じゃな」

「……なら」

 八幡は小さく息を吐いた。

「やってみます」

 こうして比企谷八幡は、この世界で生きていくためにハンターになることを決めた。

     ◇

 ハンターになった八幡は、まず防具を手に入れることになった。

 選んだのは――マフモフシリーズ。

 厚手の防寒具を思わせる白い装備。

 大きな毛皮の襟。

 身体を包み込むような造り。

 この土地の寒さから身を守るには、これ以上ない装備だった。

「……暖かいな、これ」

 八幡は自分の服装を見下ろした。

 少なくとも、これなら寒さで動けなくなる心配はなさそうだ。

 そして次に必要なのが――武器だった。

「何を使うか……」

 剣。

 双剣。

 弓。

 そして――

 巨大な銃。

「……これだな」

 八幡が選んだのは、ヘビィボウガンだった。

「近づいて戦うとか、怖すぎるだろ」

 遠距離から攻撃できる。

 それだけで八幡にとっては大きな魅力だった。

「俺は、こっちでいい」

 そうして八幡は、ヘビィボウガンを背負った。

 これが、この世界で八幡が選んだ最初の武器だった。

     ◇

 ハンターになったばかりの八幡に、最初の依頼が与えられた。

 内容は――採集。

「……採集?」

 八幡は依頼書を見ながら呟いた。

「ああ。薬草や鉱石、それから弾の材料になるものを集めてもらう」

「なるほど」

 いきなり大型モンスターと戦うわけではない。

 それなら何とかなるかもしれない。

 八幡は必要な道具を受け取り、村を出た。

 森へ向かう。

「……まあ、採集なら」

 八幡は少しだけ気を緩めた。

 それが間違いだった。

 森の中を歩き、目的の植物を探す。

 地図を確認しながら、指定された場所へ向かっていく。

「……これか」

 薬草を採取する。

「次は……」

 別の場所へ移動する。

 順調だった。

 少なくとも、最初のうちは。

 だが――

 ふと、八幡は違和感を覚えた。

「……静かすぎる」

 さっきまで聞こえていた鳥や虫の声が消えている。

 八幡は立ち止まった。

「……嫌な予感しかしねぇ」

 その直後。

 ――ギャアッ!

「……っ!」

 一匹。

 木々の間からギアノスが姿を現した。

「……また、お前かよ」

 八幡はヘビィボウガンを構える。

 だが――

 別の方向からも声がした。

「……は?」

 ギャアッ!

 ギャアッ!

 ギャアッ!

「……嘘だろ」

 気づけば、周囲を複数のギアノスが取り囲んでいた。

 群れだった。

「……マジかよ」

 八幡は後退する。

 ヘビィボウガンを構える。

 だが、初めて扱う武器だ。

 狙いが定まらない。

「くそっ……!」

 一発。

 外れた。

「っ!」

 ギアノスが飛びかかってくる。

 八幡は転がって避けた。

 だが、別の一匹が横から襲いかかる。

「うわっ!」

 地面に倒れる。

 雪と土が服についた。

 立ち上がろうとした瞬間――

 目の前にギアノスが迫っていた。

「……っ」

 動けない。

 怖い。

 身体が動かない。

 ――死ぬ。

 そう思った。

 その瞬間だった。

 ドンッ!

 轟音が森に響いた。

 目の前にいたギアノスが吹き飛ぶ。

「……え?」

 八幡が顔を上げる。

 少し離れた場所に、一人のハンターが立っていた。

 手には――

 八幡と同じ、ヘビィボウガン。

 そのハンターは、周囲を一度見渡した。

 ギアノスの位置。

 地形。

 距離。

 逃げ道。

 すべてを確認するように。

「……焦るな」

 短い言葉。

 そして、一発。

 ギアノスが倒れる。

 別の個体が回り込もうとする。

 だが、その動きも読まれていた。

 ハンターは位置を変え、射線を確保する。

 ――ズドンッ!

 また一匹。

「……一匹ずつでいい」

 淡々と呟く。

 無駄な動きがない。

 焦る様子もない。

 目の前の一匹だけを見るのではなく、周囲全体を見ている。

 ギアノスがどこから来るのか。

 どこへ逃げるのか。

 自分がどこへ移動すれば安全なのか。

 そのすべてを把握したうえで、一発ずつ確実に撃ち込んでいく。

 やがて――

 最後のギアノスが倒れた。

「……」

 八幡は呆然と、その光景を見ていた。

 自分があれだけ苦戦した相手を。

 このハンターは、まるで何事もなかったかのように倒してしまった。

 ハンターは八幡へ近づいてくる。

「怪我は?」

「……大丈夫、です」

「そうか」

 それだけ言うと、ハンターは倒れたギアノスへ視線を向けた。

 八幡は、その横顔を見ながら思った。

 ――強い。

 そして同時に。

 自分も、こうなりたいと思った。

「……あの」

「ん?」

「俺を……弟子にしてもらえませんか」

 ハンターは少しだけ目を見開いた。

「……俺を?」

「はい」

「さっき、死にかけてたぞ」

「……だからです」

 八幡は拳を握った。

「このままじゃ、また同じことになります」

 ハンターはしばらく八幡を見つめた。

 やがて、小さく息を吐く。

「……分かった」

「本当ですか?」

「ああ。ただし、楽じゃない」

「望むところです」

 こうして――

 比企谷八幡には、この世界で初めての師匠ができた。

     ◇

 修行は厳しかった。

 まず教えられたのは、戦い方ではなかった。

「地図を覚えろ」

「地図?」

「どこに何があるか。覚えておけば、それだけで生き残れる」

 森。

 雪山。

 砂漠。

 湿地。

 様々な場所を歩いた。

 どこに薬草があるのか。

 どこに鉱石があるのか。

 どこなら安全に休めるのか。

 どこがモンスターの通り道なのか。

 師匠は一つ一つ教えていった。

「弾の材料も覚えろ」

「これも?」

「ああ」

 木の実。

 鉱石。

 虫。

 草。

 それらを組み合わせ、弾を作る。

 何を組み合わせれば、どんな弾になるのか。

 どこで材料を採れるのか。

 弾が切れたとき、どう補充するのか。

 戦うためだけではない。

 この世界で生きるための知識を、八幡は少しずつ身につけていった。

 そして――

 狩り。

「……周りを見ろ」

「はい」

「モンスターだけを見るな」

 師匠はそう言った。

「地形を見る。距離を見る。逃げ道を見る。仲間がいるなら、その位置も見る」

「……全部ですか」

「全部だ」

 八幡は必死に覚えた。

 最初は何度も失敗した。

 撃つタイミングを間違える。

 距離を詰められる。

 弾を無駄にする。

 逃げ道を確保していなかったせいで追い詰められる。

 そのたびに師匠は必要なことだけを教えた。

「焦るな」

「……はい」

「もう一度」

「はい」

 少ない言葉。

 だが、その言葉には八幡を見捨てない優しさがあった。

 食事を忘れていれば注意する。

 怪我をすれば手当てをする。

 装備の手入れが不十分なら、自分でやってみせる。

 八幡は、そんな師匠の姿を見ながら思った。

 ――この人は、口数が少ないだけで、面倒見はかなりいい。

 だからこそ、八幡も食らいついた。

     ◇

 時間は流れていった。

 最初はモンスターを見るだけで足が竦んでいた。

 だが、少しずつ変わっていった。

 距離を測る。

 相手の動きを読む。

 地形を利用する。

 弾を選ぶ。

 逃げ道を確保する。

 そして――

 撃つ。

 ドンッ!

 巨大なモンスターが倒れる。

「……やった」

 八幡はヘビィボウガンを下ろした。

 師匠は少し離れた場所から、その様子を見ていた。

「……悪くない」

「……それ、褒めてます?」

「ああ」

「分かりにくいですよ」

「そうか」

 八幡は苦笑した。

 それでも嬉しかった。

 自分が、この世界で生きられるだけの力を手に入れている。

 それが実感できた。

     ◇

 そして――一年。

 八幡は一年前とは別人のようになっていた。

 マフモフシリーズを身につけ、ヘビィボウガンを背負う。

 森を歩いても、以前のように無闇に怯えることはない。

 周囲を見る。

 音を聞く。

 地形を確認する。

 モンスターの気配を探る。

 必要なら戦う。

 必要がなければ避ける。

 それが今の八幡だった。

「……ずいぶん変わったな」

 師匠が言った。

「そうですか?」

「ああ」

 八幡は自分の手を見る。

 一年前なら、怪物を見ただけで逃げていた。

 今は違う。

「……まあ、死にたくないですから」

「それでいい」

 師匠はそう言った。

 その日の夕方。

 村に戻った八幡を待っていたのは、一通の知らせだった。

「龍歴院?」

 八幡は手紙を読む。

 ベルナ村にある龍歴院が、新たなハンターを求めているらしい。

「……ベルナ村、か」

 八幡は顔を上げた。

「行ってみるか」

 師匠は黙って頷いた。

「お前なら大丈夫だ」

「……ありがとうございます」

 八幡はヘビィボウガンを背中に背負い直す。

 マフモフシリーズの白い防具が、雪の中で静かに揺れる。

 こうして――

 比企谷八幡は、次なる土地へ向けて歩き始めた。

 その先に待っているものを、まだ彼は知らない。

 同じように異世界からやって来た者たちがいることも。

 そして――

 いつか、その四人の道が交わることも。

 このときの八幡は、まだ知らなかった。




こんにちは19号です!
今回は八幡編です。
ここまで順調に投稿していますが、投稿するたびに見てもらえたかなとソワソワして、ちょっと感想もらえないかなと欲深くなってきます。
できれば感想と評価お願いします!
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