あと1年で漫画家になる。新人賞30回落選のあたしを、消えかけの稲荷神が鍛える   作:鳳 雛

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第23話 女子

 長い行列に知った顔があった。長鳴実門《ながなきみかど》はそこに割り込むと、肉の焼ける香ばしい匂いに思わず涎が口の中で溢れ出している。

 赤いブレザーにセーラーパンツを着てきた。実門は私服でもオシャレなものを選ぶ。ファッションは楽しい。ヒールを履くと身長は170センチを超える。背は高い方だ。母親よりも20センチも高い。今は亡き父親が巨漢だったからに違いない。

 今日は学生時代の友人と女子会を開催することになっていた。もうすぐ4月なので年の始めとして、みなで近況を報告する予定だ。

 店の名前『ホルモン赤木』。近所にある亀井戸はホルモン屋の激戦区だが、その中でも人気がある。数十年前から、女子の間でホルモンを食べることが流行っているという話を聞いた。

 実門は旧友に再会すると、自然と嬉しくなってロボットダンスを踊った。

 それを見て、みんな安心した顔をしている。大好きな親友たちだ。

 尚美、小学校からの親友。翔子、中学校からの親友。雪菜、高校からの親友。そして、絵馬は小学校が同じだったけど、4歳離れているため、一緒に通えたのは小学校時代の数年間だけだった

 

「ミカ、久しぶり。相変わらず元気そうで安心したわ」

「そうよ、私達ミカのことを心配しているのよ」

「うん、ミカが明るくて嬉しい」

「ミカ先輩は毎日、パワフルですよ!」

 

 今日はこの五人のいつメンで集まった。

 ホルモンを好む女性を『ホルモンヌ』というらしい。実門は間違いなくホルモンヌだ。行列で前にいる子供が泣き出した。換気扇の温風に不快感を覚えたのだろうか。少しずつ前に進む。人気の店だから、晩ご飯の時間には下手したら1時間は並ばなくてはならない。

 前にいる子供を笑わせようと実門はタットダンスを踊った。主に腕を手と指を使って踊るダンスで、下半身は動かさなくても良い。

 子供は嬉しそうに実門の動きを見ている。そして、真似し始めた。母親は面白そうに笑顔を浮かべて感謝している。子供の機嫌が良くなったところで、店の二階に案内された。

 

 席に着くなり早速飲み物のオーダーが着た。取りあえず生で。翔子だけカシスオレンジ。久しぶりにみんなの姿を見たら安心感と同時に不安も感じた。親友達はみんな結婚したり、子供を産んだりしている。

 

「ミカは相変わらず若いわねー、まだ二十歳に見えるよ」

 

 ぐさりと胸を抉られた。悪意がないのはわかっている。精神年齢が幼いという意味だろうか。でも、若く見られるのも悪くない。でも、漫画家志望者として考えれば25歳は全く若くない。むしろ、夢を諦める頃合いだ。特に少女漫画家は年齢が若ければ若いほど良い。読者ターゲットである少女と価値感が近いからだ。

 

「目の下の隈。相変わらず徹夜ですか?」

 

 雪菜の質問に絵馬が答えた。実門は運ばれてきたビールを一気に飲み干すとお代わりした。

 

「ミカ先輩は徹夜じゃなくて、寝る時間が毎日遅いんですよ! 睡眠時間を削って漫画を描いているんです。もっと健康的な生活をしないとダメですよねぇ。注意してあげてくださいよ」

「翔子はどう思う?」

「いや、楽しければ良いんじゃない? 結婚とか出産とかが全てじゃないし。好きな推しがいて、彼氏がいれば別に問題なくない? 私は結婚してるけど」

 

 実門は二杯目のビールを半分まで飲むと泡で髭を作っている。

 

「いや、あたし今は彼氏もいないのよね。気になる人もいないわ」

「高校時代はあんなにモテてたのにね」

「主に女の子の憧れだったわね、ミカは。男子はへっぽこな連中ばかりだったけど」

「美術高校は女子の人数が9割でしたもんね」

「絵馬ちゃんも実門と同じ高校よね?」

 

 絵馬は恥ずかしそうに頷くとポニーテールが左右に揺れた。

 

「私、小中高と全部ミカ先輩と同じなんです。でも、一緒に通えたのは小学校時代だけなんですよねぇ」

「ふーん、ずっと追いかけていたミカをようやく捕まえたってことね」

「……、まぁそうですね」

 

 絵馬は照れくさそうに笑うとビールを口に運んだ。雪菜のスマホにラインの通知が着た。電話に出るために一度外に向かう。

 

「雪菜は子供二人いるから大変よね。自分の夢なんて言っている場合じゃないだろうし」

「夢を追いかけられるのは贅沢なことよね。ミカが小学校時代に先生に褒められたじゃない? あれがきっかけで今の実門があると思うと、他人に期待するって罪深いわね」

「あたしは今幸せよ。それに来週から専門学校に通うつもりなの」

「えぇー。専門学校に今から!? 大胆なのは知っているけどミカの行動は理解不能・意味不明・解読不可の三拍子だわ」

「私は応援していますけどね! 先輩と一緒にいて、本気って伝わります」

「歳下のイケメンと出会ったりして、恋に発展? みたいな」

「ミカの外見は美人でおしとやかなのに、中身がなー」

 

 尚美は実門のロボットダンスの真似をした。下手くそだった。

 

「ただいま。今息子が熱出しているらしくて」

「雪菜、大丈夫なの?」

「義実家の親が面倒を看てくれているって」

「やっぱり、なんだかんだで頼りになるのは身内だよね」

「あたしのお母さん入院してるの」

「ミカのお母さんが? なんで」

「食事中にする話じゃないわ。でも、心配よ」

「専門学校なんか言っている場合じゃないじゃない」

「うん、だから本気でこの1年に賭けるつもり」

「1年後もここで集まろうよ。みんなどう成長したり変化したりしてるか楽しみじゃん」

「翔子らしい提案。私も賛成。取りあえず私は結婚相談所に登録してるの。顔会わせもしてるのよ。お見合い写真撮って、オシャレしてデートして。で、お断りして」

「マジで? ……でも、それって良いかも」

「雪菜は恋愛結婚だけど、どう?」

「恋愛は良いところを相手に見せるでしょう。でも結婚は悪いところを相手に見せるって感じですね」

「面白いわ。漫画のネタになりそうな予感よ」

「その落差がありすぎると、がっかりして離婚もありえる。でも、子供は可愛いから離れられない」

「翔子は年の差結婚よね。どう?」

「うん、なんかめっちゃ甘やかしてくれる。10歳離れているから、可愛く見られているだろうなぁ、って」

「子供は作らないの?」

「うん。私病気で無理みたい。その分、お金浮くし今は宝塚にハマってて推しもいるの」

「尊い」

「それな」

「私の推しはミカ先輩ですっ。頑張りましょうね!」

「もちろんよ。なんか必死に動き回っていたつもりだけど、みんなの話聞いていると同じ所で高速足踏みしていて、一歩も前に進めていない気がしてきた」

 

 みんなで注文したホルモンをつつく。安くて旨い。焼肉屋よりホルモン屋の方がコスパが良い。でも匂いが付くから、机の下のビニール袋にアウターや鞄は入れておく。

 

「ホルモンのコラーゲンが美肌に良いみたいよ。このぷるぷるの部分」

 

 それを聞いて実門は急いでホルモンを掻き込んだ。

 

「あ、それデマですよぉ。コラーゲンではなく、ただの脂です。太りますよ」

 

 実門はがっかりした。でも、味は美味しかった。

 

「まぁ、それぞれ色々あるけど頑張ろうね。来年は楽しい報告ができる女子会にしましょう。それと、ミカは彼氏を作ったらどう? 会社でも良いし、学校でも良いし」

「とにかく、恋しなくちゃ。漫画一辺倒じゃ、体より先に心が老けるわよ」

「そうよ。ミカは素材がこの中でも一番なんだから。高校時代に男子生徒の先輩後輩にどれだけ告られてきたのよ! 羨ましいと思ってハンカチを噛んだ私達非モテの期待を背負ってよね」

「でも焦ってつまらない男が付くなんて最悪ですよぉ。男なんて邪魔です」

「え、絵馬ちゃんってミカLOVE?」

「当たり前じゃないですか! 私の推しはミカ先輩なんで!」

 

 そういうと絵馬は実門の腕にまとわりついた。実門は呆然と夢・家族・恋愛について考えていた。

 最後まで残っていた少し焦げたサイコロ状のレバーを口の中に頬張った。

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