あと1年で漫画家になる。新人賞30回落選のあたしを、消えかけの稲荷神が鍛える   作:鳳 雛

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第44話 題名

 今日は長鳴実門《ながなきみかど》が専門学校に通う日だ。最初の授業の『漫画制作』で講師の黄瀬《きせ》先生に報告した。

 

「あたし、名刺をもらって担当が付きましたわ」

「あら、榊原君じゃないの。良かったわね。QRコードも付けてある。評価されたのね。

 だけど、名刺を渡されたからといって、編集者があなたに何かを約束したわけじゃない。可能性を信じているだけ。

 編集者にとって、名刺を渡すこと自体に大きなリスクはないわ。対価は……時間ね」

「時間?」

「編集者の仕事は多いの。すでに連載しているプロ作家から、挑戦している新人作家まで何十人もの相手をしている。だから、あなたにどれだけ期待しているかは、どれだけ時間を使っているかで判断できる」

「あたしへの最初のメールは、たくさんの名作を観ろって内容でしたわ」

「そう。なら、まだあなたには期待はしているかどうか不明ね。わかりやすく言うなら、誰にでもしていることを、あなたにもしているだけなのよ」

「特別扱いしてくれているわけではないのね」

「そう考えられるということよ。それに26歳という年齢は若くない。もちろん30代40代でデビューする人もいるし、今は少女漫画の読者層が上がっているので気にする必要はない。

 でも、覚えておいて。あなたが目指している世界には、10代で到達している人もいるってこと。名刺をもらって浮かれている場合じゃないの」

「はい。反省してますわ」

「でも、QRコードが付いているってことは、比較的早くやりとりをしたいって意志の現れでもある。つまり、じっくり育てるというよりは、早く連載まで持っていきたい。もしくは、あなたを囲っていたいって意思は感じられるわね」

「ホントですか!?」

「あくまでも可能性としての話です」

 

 実門は顔を伏せて、視線を机の上のプリントに移した。

 

「反省する時間も勿体ない。あなたには3年生レベルの授業をしろと、白河先生に言われているの。今回は完成原稿を見せてくれる?」

 

 実門は『魔女ソフィーの助手』を見せた。予想通りの感想が返ってきた。実門はそれよりも、今描いている漫画のネームを見てもらいたかった。その旨を先生に言うと読んでくれるそうだ。月狐に指摘されたことを反映したものだ。勝負を前面に押し出している。

『何かを決めるときは勝負するちぐはぐな二人の共同生活』。

 この作品の狙いだ。

 

「『ルームシェア×勝負フェア』。面白い発想ね。ただ、これは少しベタな設定でもあるわ。喧嘩・正反対は、ほぼ全ての少女漫画の定番だし、同居もよくある。新鮮さがない」

「はい。競合となる作品、漫画や映画を参考にした結果、よくある展開だと気づきました」

「それで、どうするの?」

「バランスを調整しましたわ。被っている要素をなくすのではなく、被っていない要素を強く押し出すようにしましたの」

「『喧嘩したら勝負して決める』って部分ね」

「そうです。その要素は他の作品と違っていましたので、意識的に強調しましたわ」

「よく気づいたわね。その選択で問題ない。差別化することは大切です」

 

 実門は先生の反応を見て、取りあえず及第点かな? と感じた。でも、及第点では賞は取れない。まだまだ、足りない要素があるかもしれない。先生はネームをぱらぱらと捲ると口を開いた。

 

「『ルームシェア×勝負フェア』ってタイトルがダサいと思うの。もっとキャッチーな方が良いと思うわ」

「キャッチーですか」

 

 実門は予想外の不意打ちに言葉が詰まる。タイトルの検討はしていなかった。タイトル一つで読むかどうかは決まる。重要な要素ではある。勝負、しょうぶ、ショウブ。

 

「『ルームシェア×ショウブフェア』はいかがかしら? 呼び方は一緒だけど表記を少しポップな感じにしましたの」

「うん、良いわね。『勝負』という堅苦しさがなくなって、より若い感じがする。『ショウブフェア』って言葉の意味が最初わからないのも良いわね。読んでいるうちに理解できる」

「ありがとう存じます」

 

 先生はページを捲る。実門の背中からは、課題に取り組む生徒たちのペンを走らせる音が聞こえる。

 

「物語の冒頭で、主人公の女の子の目的をハッキリと強調した方が良いわね」

 

 お月ちゃんが言っていたことと同じだ!

 

「目的ですね。例えば何かしら?」

「それを考えるのは作家の仕事です。今のままだと、どこに行くかわからない車に乗せられているようなもの。だから、作品の方向性を早めに伝えるのが大事」

 

 実門はヒロインの目的を未だ決められずにいた。この子は何を求めているのだろう。何に飢えているのだろう。

 

「ヒントをあげる。『私は漫画家になるのが夢です』、なんて普通の人は言い回らないでしょ?」

「あたしは言い回ってますけど」

「あなたは例外。自然に感じさせるには、展開を工夫する必要がある。彼氏が欲しい少女を主人公にするのであれば、付き合っているカップルを観て羨ましがるとか、恋愛漫画をたくさん読んでいるとか、エピソードで読者に伝えるの。言葉で直接伝えると伝わるけど、説明臭くなって重みがないでしょ?」

「台詞の重み……、考えたこともなかったですわ」

「『沈黙は金』。本当に見せたいシーンは、台詞をなくして絵だけで見せる。漫画なのだから」

「漫画ならではの特徴を活かすってことかしら」

「そうです」

「あと榊原君にはできるだけ早く連絡を取りなさい」

「作品が完成してからですか?」

「いや、名刺を貰ったということはネーム、もしくはプロットの段階で相談してくれるはず。逆にいえば、連絡しないとすぐに忘れられるわよ。漫画家志望者は増えることはあっても、減ることはないのだから」

「心に刻むわ」

 

 席に戻ると、『台詞を減らす』とクロッキー帳に書いた。隣の席で赤羽龍姫《あかはねたつひめ》が今回の課題にうんうん唸っている。実門も今回の課題を始めた。テーマは『夢』だった。

 

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