メルクストーリア 半熟盟主と語られざる星々 作:へきごっとぅー
「なああんたか? 『エノ村のユウ』を知ってるってのは?」
――三日後。
更に言うと、某キャスケットの人に色々と勘繰られて先輩との関係にやましさはないことを懇切丁寧に説明し続け、ようやく納得してもらえてから次の日。
元気の水をラッパ飲みしつつ近くの公園のベンチで遅めのランチを取っていた君は。後ろからかけられたそんな声にぐいっ、首を上に向けた。
朝焼けを思わせる鮮やかなオレンジの髪に、連なった白い石を飾り紐にした紫紺のターバン。肩を覆うショート丈のケープはフリンジ付きで、温かなその色味はどこか牧歌的にも思えたが、纏っている本人の険しい顔つきはそんな感想も吹っ飛ぶ程である。
改めて向き直ると、声をかけてきた少年は15,6歳かそこらで――丁度今本人が口にしたにユウと同世代くらいであった。
さて、どうするべきかと君は思案する。口の中のBLTを無言でむぐむぐと音が漏れ聞こえぬよう咀嚼しつつ。
エノ村もユウも馴染みがありすぎるキーワードだったが、何だか今言われた『エノ村のユウ』なんて、凄腕の傭兵の通り名みたいな感じであの少年を形容することには激しく違和感がある。
が――
君は最後の一口に至るまでを2分程かけて飲み込んだ後、ベンチから立ち上がって後ろに回り、少年のほうへ向き直る。
「……おい、聞いてんのかよ!? 知ってるかどうか早く」
ぶにん。と言わんばかりに君は予備動作も前フリもなしで、詰問してくる少年の頬を自らの両手で以てサンドイッチの具にした。「ぶにゃ!!?」と猫みたいな悲鳴を漏らす彼に、きっぱりと告げる。
[――聞きたいことがあるにしても]
[初対面の相手には名乗るか、あと名前を尋ねるかくらいしてほしい]
「……だってさぁ~~~! ジーンにアイクにオルニシアさんとかさぁ……これまで仕事で組んできたやちゅらの内半分が、しょろいもしょろってそいつの話題振ってくるんだぜ~?」
近所のバー(になるのは夜間だけの昼間カフェ)に場所を移して話し込むこと一時間。奢ったのはクリームソーダ一杯の筈が、さながら悪酔いしたオッサンのように泣き上戸と化した少年に、君はコーヒーを傾けつつ引きつり笑いをした。
正面から物申せば、彼は割と素直だった。というか、余程精神状態がストレスフルだったのかつい勢いで詰め寄ってしまったらしく、礼節を欠いた自らの対応を自覚するなり平謝りだった。
ラーテルというその少年もまた、何の因果かユウと同じ癒術士の力を持つ者だった。今まで奇跡的に担当が被らなかったのか、これまで何度も紹介所経由で街へ降りてきた野生モンスターへの対処(主に商店で売り物にイタズラをしてくる小動物系)、小さな村々の防衛などをして生計を立て、本人談ではこの辺りの有名人――らしい。
勿論、癒術をかけている間は基本無防備になる彼を守る為に前方で戦える戦士との連携も仕事上欠かせないので、これまでそこそこの数の冒険者と友誼を結んだらしいが……。
「干魃をどうにかしちまったり?
そりゃ、まあ癒術士という職業自体が稀少職業だし、横の繋がりを連想しても可笑しくはないからだろう。……といっても火に油だろうから、君は生温い眼差しで無言を貫いた。
ついでに言えば、さっきからの本物の酔っ払いも斯くやという感じの噛み噛みな滑舌の悪さにツッコんだら、一層収拾がつかなくなりそうなので以下省略。
「しかもさぁ! 一端気になりだしたりゃ、夕方とか幽霊とか融資とか、そいつの名前が入った単語が喧噪の中でもやたら聞こえてくるようになりゅしよぉ! 時々また活ちゅ躍の噂話まで耳に入ってきちまうから、だったりゃいっそ知り合いにその張本人呼んでもりゃって、正々堂々癒術対決でもして白黒はっきりちゅけてやろうって、俺は、俺はぁ……!」
「あー、カクテルパーティー効果ってやつかあ。騎士団のお偉方とかのいる懇親会に強制出席させられた時とか、俺もそういうことが何回もあって酒が不味くなったもんだぜ。聞かなくていい自分の噂話とか聞こえちまうんだもん」
それまでカウンター席のほうでマスターと談笑していた筈の顔見知りのオッサ――もとい眼鏡をかけた顔見知りの中年騎士ことダレン氏が訳知り顔で、君とラーテルのテーブル席へ声をかけてくる。 先輩と話していると、時々意味深な雰囲気を放っているが為に彼もまたキャスケットの君(仮)に目をつけられているのだが、気づいているのかいないのか。
「それで少年? そこの新人クンがその癒術士と知り合いだなんて誰から聞いたんだ?」
「紹介所のねーちゃんだよ……『ユウ君のこと気になるなら彼に聞いてみたら?』とか言ってたから、つい勢いのまま……」
[先輩……]
[日頃からあれだけ注意してる個人情報の扱い方……]
君は痛む頭を抑えながら、この少年癒術士にかけるべき言葉を探す。正直、別に件の冒険者達もユウとラーテル少年を比較しようだなんて意図はなかった筈だ。ただ、ユウを知ってしまった以上ラーテル自身の気持ちの問題なのだろう。
割と居丈高に思えた最初の態度もストレスもあったろうが、それと同時に癒術としての己へのそれなりに高い自負があったからだと推測出来る。紹介所近辺で仕事を始めて評判も上々、やっと自信もつき始めて少々鼻が高くなりそうな時にそんな同世代癒術士の華やか(?)な活躍を聞かされたら、鼻だってしゅるしゅると元に戻るというものだ。
……そんな分析をしてはいても、間接的に知ったユウの国での活躍の数々とかつての幼かった彼とのギャップによる温度差には、正直戸惑いが強い君である。
安定で筋肉神の加護からは逸れている(シエット談)とはいっても、やはりもう幼い頃の多少生意気でも可愛らしかったあの頃とは違う何者かになった、ということなのだろうか。
「……少年、クロストの街で行われてる癒術士の腕試し大会は知ってるか?」
「……? 知ってるよ、俺も今年の大会、出てみようかと思って色々準備してるし……」
出場前から早くも色んな物折られそうだけどな……とか噛んでないだけ余計悲哀を感じさせる最後の一言には敢えて触れず、ダレンは椅子にかけた長槍に手をかけて続ける。
「俺も一応騎士団だからな。時々だが、参加者の護衛も兼ねた試験官みたいなことさせられてる。まあ、ベテラン面出来る程やってる訳でもないが」
それは君も知っていることだった。紹介所でも護衛役を募り、応募者達の中から主に先輩を始めとするベテラン職員達が厳選に厳選を重ねた人材を見極めている恒例行事である。
「こっそり覗く形で護衛する訳なんでちょっと心苦しくはあるんだが……まあ色んな奴がいたよ。癒術に目覚め始めたばかりで右も左もわからない奴、活動し始めてそれなりに経つ奴。周囲を見返そうと息巻いている奴らや、故郷を守ろうと必死になっている奴も」
ダレンの語りに意図を見出せずとも、ラーテルは至極真剣な表情で聞き入っていた。
落ち込んではいても、いずれは目指すと決めている大会への好奇心はあるのか、底なし沼のような瞳に光が戻りだしている。
「俺も最初は、癒術士っつっても色々なタイプがいるんだな程度に思ってたが……大会が進んで、そいつらモンスターと相対しているのを見た時わかった。
モンスターを癒すその時になったら、もうその時は、そいつらの目的とか生まれ持ったものは全て関係なくなるんだ。皆過程は違っちゃいたが、最終的には目の前のモンスターを前ににして……知り合いの癒術士風に言うなら、『共に在りたい』という心を示すしかない。……それまで皆、うちの騎士団の見習い騎士みたいに頼りなさげっつーか先行き不安な感じだったのに、その瞬間が来たら覚悟を決めてるんだから、すげえもんだよ。武器もなしの身一つで、モンスターの前に立つんだからよ」
ふと、君は村にいた頃の――ユウにとって色々な運命の分岐点だったあの日のことを思い出す。
歳の割にこまっしゃくれていて、シエットに振り回されつつも一緒に遊んでいる時は大きく口を開けて笑っていて、モンスター達とも仲良しでいられた幼いユウを。
それが、あの瞬間に全てが変わった。
呆然として言葉もなかったユウの悲しみを代弁するみたいにシエットが泣きじゃくり、時を同じくして父親が帰らなくなり――そんな風に色々な事が重なりすぎた結果、お隣であるというのに顔を見ることもなくなった。
しかしそれでも尚、ユウは結局『外』へと一歩を踏み出したのだ。
かつてモンスターに傷つけられた身でも、モンスターの苦しみを癒す者として。
「外国にいようが王国にいようが、癒術士のやることなんて一つだろ。ただ、お前はその癒術士がやることをやった後について来た色々な結果のほうを物差しにしちまってるだけだ。もう一度、頭カラッポにして考えてみたらどうだ?」
「………」
ラーテルは、空になったフロートグラスの中の溶けかけの氷を見つめながら、膝の上で拳を握りしめて考え込んでいるようだった。
正直、君は『ここで己が相談に乗った意味はあったのか』と思わなくもなかったが、それでも子どもの沈んだ顔はいつまでも見ていたいようなものではない、と瞬時に切り替えることにした。
流石にここの喫食代は経費では落とせないか、とせせこましい考えを過ぎらせていると――
『がるぅぅぅぅぅっ!?』
明らかに外から響いてきた、ついでに明らかに人ならざる生物の悲鳴が、カフェの窓枠を一瞬軋ませる勢いで店内――ないしは街中に響き渡った。
ユニット数が多過ぎるので、メルスト初心者の方向けに名前を出してないユニットは脚注をつけてますが名前が出たらその限りではありません。
あとはマイペースにでも、ちょっとでもメルストスキーさん方をときめかせられるよう続けていけたらと……。
勿論事務局長というのはここだけのNPCで、今後もユニットじゃないNPCとしてならOCの類はポンポン出すかも知れません。