クローン兵士の日常 異世界に転生したら危険と美女がいっぱいでした 作:仮名絵蛍蝶
かつては行き交う人々で賑わっていたであろう大通り、だけど今は見る影もない。霊感があれば大量の地縛霊が見えるかもしれないが。作戦の舞台は荒れ果てたゴーストタウン、歓声の代わりに銃声が飛び交う最前線だ。
オレは
戦場に鳴り響く迫撃砲の轟音、あちこちで上がる兵士達の断末魔の悲鳴。まさに地獄絵図だが、もう見慣れた光景だ。錆びた鉄の匂いの漂う戦場をオレは二人の仲間と共に進んでいく。
耳に挟んだワイヤレスマイクから聞こえてくる指揮車両からの
「コマンドリーダーより1番隊のゴロツキさん達へ、そろそろパーティーが始まるわよ。やることはいつも通り、目の前の敵を殺すだけの簡単なお仕事。殺せば殺すだけ報奨金もガッポリ、アンタ達の肥溜めに落ちたドブネズミみたいな人生でこんなラッキーチャンスはもうないかもね。しっかり殺して稼ぎなさいよ!」
今日も飛ばしてやがんなぁ。ここは地獄の真っ只中だってのにさ。だがオレ達は同盟軍最強のアスラ部隊、そのエース大隊『
地獄の真っ只中こそがオレ達の生きる場所、そして
「了解、コマンドリーダー。せっかく敵が団体さんでお出迎えに来てくれてるんだ。落ちてるカネは拾いにいくさ。水晶の蜘蛛に喧嘩を売ったら高くつくって教訓を、機構軍の玉ナシ野郎共にレクチャーしてやるぜ」
「頼もしいわね、その意気よ。授業料は命でお支払いしてもらってね」
「ツケにしてくれって言われるかもな」
「戦場でのお買い物はいつもニコニコ現金払いよ。命のチップを賭けた以上、ツケはきかないわ。敵も……私達もね」
生きるか死ぬか、それが戦場の鉄則。殺人者と被害者を秤に載せた天秤は、どちらに振れるかわからない。
「……そうだな。コマンドリーダー、前方に装甲擲弾兵を発見、数は1ダース。何やら工作中と思われる。敵はまだこちらに感付いていない。オレ達で片付ける」
「コマンドリーダー、了解。報奨金をバカンス費用の足しにしましょ。今度の休暇で私が童貞を卒業させてあげるって約束してたわね。チェリーボーイさん、ピュアな死体になりたくないなら生き残りなさいよ?」
「そんな約束してねーよ! 他の隊員も聞いてるって知ってのご無体か!」
「知ってるから言ってんじゃない。既成事実って言葉は知ってる?」
「……事実無根って言葉なら知ってる」
口喧嘩じゃ勝てないのはわかってるけど、無条件降伏はしたくない。
「あら、はしご状の微小脳の割りには難しい言葉を知ってるわね」
「昆虫の脳味噌じゃねーかそれ! オレは虫ケラだって言いたいのか? コマンドリーダー、おまえは虫ケラにラブなのかよ!」
「やあねえ。私の愛が少し重たいっていうのは、先刻ご存知でしょ?」
「少しじゃない。スゲえ重たい……って言うか、重いを超えて痛いんだが?」
無線に割り込んでくる大隊長のハスキーボイス。
「カナタ、夫婦喧嘩は後にしな。擲弾兵に小細工させてやる気かい?」
「ンな訳ないでしょ」
魅惑的な美声が怖い怒声に変わってオレに命令を下す。
「だったらクソ虫共をさっさと駆除してきな!」
「イエス、マム!」
言葉遊びが過ぎたみたいだ、短気なマムは機嫌が悪そうだぜ。マムの不機嫌の低気圧がハリケーンに発達したら目も当てらんねえぞ。機構軍の腰抜け兵士共よりマムの方がよっぽど怖え。ご機嫌取りの為にもそろそろ仕事に掛かるとするか。
「ウォッカはオレと一緒に前に出てくれ。リムセは敵の背後に回って切り崩せ」
ウォッカとリムセ、マッチョな巨漢と小柄な少女のコンビは体格こそ不釣り合いだが息は合ってる。
「おうよ、任せときな。ヤツらにゃオレの酒手になってもらうぜ!」
「ハイです! リムセのゴハンになってもらいます!」
おいおい、酒手はともかくゴハンになってもらうはねえだろう。ま、軍人なんて敵兵を"食い物にする"のが
「リムセ、死体を食ったりすんなよ?」
「また得意の揚げ足取りが出ましたです。故郷のみんなのゴハンのタネになってもらうって意味ですぅ!」
ドンパチが飯のタネ、物騒な出稼ぎもあったもんだ。おまえはまだ15歳だろ、よくまあこんなヤクザな世界に来たもんだよ。
さあ……人殺しの時間だ。
「ショータイムだ!いくぜ、ウォッカ!」
「おう!派手に二階級特進させてやるぜ!」
ウォッカは近くにあった道路標識を力まかせに引き抜いて敵に投げつける。ロケットのように飛んでいった道路標識は見事に敵兵に命中し、その頭を熟れたトマトのように粉砕した。
「一時停止の標識で、人生が永久停止してりゃ世話ねえな」
呟きながら疾走し、一気に距離を詰める。100メートルを7秒フラット、オリンピック記録どころじゃない脚力だが、この星では"速い部類"ってところだろうな。オレ、いやオレ達は強化人間だ。身体能力は生身の人間とは比較にならない。
強化されたのは動体視力も同じ、銃弾を躱しながら鉄の数倍頑丈なマグナムスチールで出来た刀を抜く。
「蜘蛛の徽章!お、おまえは…」
名も知らぬ擲弾兵の驚愕で見開かれた目に怯えの色が浮かぶ。
「戦場で会った不運を呪え!」
前傾姿勢で懐に飛び込み、間髪入れずに斬り上げて敵兵を真っ二つに切り裂く!まず一人!
「この野郎!」 「やりやがったな!」
巨漢で筋肉隆々の逞しい敵兵二人が同時に上段から斬りかかってきたが、オレは左手で脇差しを抜いて、振り下ろされた二本の戦斧を受け止める。
「バカな!」 「か、片手で軽々と!」
敵兵の額に汗が浮かぶ、冷や汗か脂汗かはわからない。体格で遥かに劣る相手に力負けすれば、汗の一つもかこうってもんだな。けどな、体格や数は、この星の戦場じゃ絶対的な支配要素じゃねえんだよ。おまえらもこの世界の兵士ならそんぐらいわかっとけ。
今更学習しても……もう遅えけどな!
オレが右手で振るった刀は敵兵をまとめて両断した。筋骨逞しい上半身だけが地面に倒れ、下半身は立ったままダランと臓物をぶら下げている。
新たに敵兵二人が襲い来るがオレは動かなかった、だってもう死んでるから。
背後に迫った敵兵はカッと目を見開いて膝から崩れ落ちる。崩れ落ちた首の後ろにブーメランが突き刺さっている、リムセの仕事だ。
1ダースが半ダースに減った敵兵をオレ達は前後から挟み撃つ。アメフトに例えれば、第4クォーター残り3分でタイムアウトなしの3ポゼッション差ってところか。4thダウンギャンブルからタッチダウンを決めて、さらにオンサイドキックを成功させても及ばない。
つまり、もう詰んでるのさ。人喰い蜘蛛の網に掛かった時点で終わってたんだよ。だがおまえらは何も悪くない。悪かったとすればそれは運。オレ達に戦場で
最後の敵兵をウォッカが肩から粉砕した。肩甲骨が粉々に砕けて、胸部に深く戦槌がめり込む。
「……アァ……アーシャ!……」
誰かの名を叫びながら、最後の犠牲者は人生の幕を下ろした。
「……カナタ、アーシャってコイツの家族かな」
「家族かもしれないし、恋人かもしれない。だけどオレ達には無関係の誰かだ」
「カナタはだいぶドライになったな」
「……戦う意志を持ってオレ達の前に立ったコイツらが悪い。そう思わなきゃやってらんねえだろ」
殺らなきゃ殺られる、ただそれだけだ。新兵に毛が生えた程度のオレに余裕はない。自分と仲間の生存、それが唯一の
「……兵士に感傷は無用、か。すまねえ、つまらん事を言っちまった」
人間性を捨てた人間が生き残る。歪んだ世界の歪んだ掟だ。感情の残滓は全て、戦友に捧げる。仲間を生かす事こそが自分の生存に繋がるのだから。つまり、敵にかける情けはない。
「気にすんなよ。顔に似合わず繊細なのがウォッカのいい所だ」
「顔に似合わずは余計だ。好きで厳つい顔に生まれた訳じゃねえんだぞ」
「それより鉛弾を二発もらってただろ、大丈夫なのか?」
熟練兵が筋肉を隆起させると、血塗れた弾丸が地面に落ちた。斃した敵兵の見せかけの筋肉とは、密度と強度が違う。
「44口径じゃ俺は殺せねえよ。皮膚装甲と筋肉で止まってる、問題ねえ」
「リムセも頑張りましたです!」
「ああ、助かったよ。司令がいっぱい報奨金をくれるといいな」
「ハイです!」
オレはインカムで指揮車両に報告を入れる。
「コマンドリーダー、害虫駆除は終了した。繰り返す、害虫駆除は終了した」
「コマンドリーダー、了解。流石は愛しのハニーね」
リムセを(年齢で)下回る少女兵士の返答に、嘆息混じりにツッコんでおく。
「……いつからハニーになったのか、小一時間ほど問い詰めたいんだが?」
いくら超が付く程の美少女でも、二十歳のオレが倍も年下のコに手は出せない。ゴスロリドレスを着込んだちびっ子が戦場にいて、作戦指示を出してるなんて知ったら機構軍もおったまげるだろうな。だけど銀髪の小悪魔は部隊最高の知能指数と毒舌を誇る。で、天才の例に漏れず早熟で、色んな意味でおませさんだ。
「じゃあご主人様?」
「メイド服に興味はねえよ!」
いや、ちょっとは……いや、かなり……いや、大いに興味はあるんだけど、内緒にしておこう。
「わかったわよ。お・に・い・ちゃ・んって呼んで欲しいのよね?」
うぉっ、キュンときたあ!そんな趣味もあったのかよオレは!我ながらビックリだぜ。妹萌えの属性もあり、碌でもない新発見だ。キュンときたオレを我に返らせたのはマムからの新しいオーダーだった。
「カナタ、害虫駆除が終わったんならこっちに合流しな!ゴキブリよろしく、敵さんがまた湧いて出やがった」
「イエス、マム。二人とも行くぞ」
「おうよ!」 「ハイですっ!」
上層部も何時までこんな殺し合いを続ける気なんだ。嫌悪が憎悪を生み、憎悪が殺意を生む。負の連鎖は留まる事を知らず、報復への報復が世界規模で繰り返されている。喜んでるのは軍需産業と葬儀屋だけだ。
この