クローン兵士の日常 異世界に転生したら危険と美女がいっぱいでした 作:仮名絵蛍蝶
オレとアクセルさんのおっぱい談義は白熱する。円錐形、ロケットおっぱいが至高にして究極であるという認識は一致したが、円錐形の対抗馬に関しては意見が違った。オレは釣り鐘型と主張したが、アクセルさんは半球型だと譲らず、議論は白熱する。声を嗄らして持論を開陳したから喉が渇いた、ここらで水入りにしよう。
「……ふう。円錐形の対抗馬に関しては、まだまだ考察する余地がありますね」
ペットボトルの水で喉を潤す。激論を交わしたアクセルさんも缶ビールを口にした。
「ああ、おっぱいの世界は奥深く、無限の可能性を秘めている。釣り鐘型の対抗馬は継続審議、次の議題は乳輪についてだ。これも色や大きさの違いで、おっぱいをガラリと変える重要なファクターなのは……イテッ!」
おっぱい愛好家の脳天に拳が振り下ろされた、それも容赦ない勢いで。制裁を加えたのはショートカットでキャップを反対向きに被った、作業ツナギ姿の白人女性。そして爆乳。なんとオレのおっぱいスカウターが煙を吹いて壊れたのだ。
バカな! 100cmまで測定可能なオレのおっぱいスカウターが壊れただと! この女性、まさかのメートル超えのおっぱいだというのか。不二子ちゃんでも99.9cmだぞ! 脅威の爆乳の女性は彫りの深い顔立ちで、楽勝で美人さんの範囲に入る。ホントに美人の多い基地だね、ここは。
「アクセル! 新入りをエロスの世界に引きずり込むんじゃないよ!」
「お~痛てて。引きずり込んでねえよ。元からエロスの世界の住人だったんだ」
おっぱいに目が釘付けになっているオレを見て、爆乳さんはため息をついた。
「……みたいだね。まったくもう」
「すいません、でも羽虫は誘蛾灯に吸い寄せられる生き物なんです」
「じゃあ、バチッとその命、散らせてみる? 羽虫みたいに」
爆乳さんは腰のベルトからスパナを引き抜いて、トントンと手の平を叩いた。
「食堂で二階級特進は勘弁してください」
そもそも戦死じゃなきゃ二階級特進はないか。
「碌でもない新入りが来たもんだねえ。マリカさんもなに考えてんだか。まあいいか、メカニックチームに入る訳じゃないし」
「アクセルさんのお仲間ですか?」
「違うわよ。確かにアクセルとは同郷の腐れ縁だけどね。私はタチアナ・カジンスキー少尉。メカニックチームのリーダーよ。コイツらは主に車両の操縦、私達はその整備。手が足りない時はお互いにフォローするけどね。もっとも私達メカニックチームがフォローするばっかりだけど。リガーチームは本当に荒っぽい乗り方するから」
「文句は無茶なオーダーするボスに言ってくれ」
仲いいなあ。幼馴染みなんだろうか。
「オレはまだ自分の車やバイクは持ってないですけど、持てたらお世話になります」
運転はともかく整備は敷居が高すぎる。文系だしな、オレ。
「ああ、それまでアンタが生きてりゃいいね」
「タチアナさんとアクセルさん、ゲンさんのお陰で助かりました。歓迎会が終わるまでポツーンかと覚悟してたんです」
最初にオレに話しかけてくれた恩人のゲンさんは、テーブルに突っ伏してスヤスヤお休みだ。お爺ちゃんは夜が早いらしい。スパナを片手でクルクル回しながらタチアナさんが微笑んだ。
「カナタだっけ? そう呼ぶよ」
「はい、カナタでお願いします」
「離れて見てたけどね。馴染みたいと思ってるなら誰かが動いてくれるのを待つんじゃなくて、まず自分から動きなよ。ゲンさんが気を利かせてくれてなきゃ、本当にポツーンだったわ」
そっか、そうだよな。う~ん、身に染みついたボッチの習性の修正は難しい。
「そうですよね。一人が長かったので、そのあたりの距離感が掴めなくて」
「心配すんな。この基地にはおっぱいの最奥を極めんとする求道者は多い。話題に困ったらまず、おっぱいネタを……」
今度こそホントに容赦なく、タチアナさんはアクセルさんをスパナでドツいた。目から火花が散ったと思う。そしてアクセルさんはゲンさんの隣で机に突っ伏し、オネンネする。永眠じゃなきゃいいけど。うわっ、マンガみたいなタンコブが出来てるよ! かなりいい音がしたのに、ゲンさんはグラスを握ったままスヤスヤ眠っている。オレはその手を見てギョッとした。指と指の間に皮膜? 水掻きか、これ?
「ああ、ゲンさんの手ね。水掻きだよ」
「バイオメタルってそんなこともできるんですか?」
「いや、元からそういう体らしい。それに腕毛がもの凄く濃いだろ? ズボンで見えないけどすね毛もそう。長い体毛をさらに伸ばしてフィンを形成できるんだってさ。ゲンさんは水中戦のエキスパート、無呼吸でも30分は戦えるって話だ」
タガメでゲンゴロウだもんな、水中はゲンさんの独壇場って訳だ。
「名は体を表すのいい見本ですね」
「水中戦でゲンさんに勝てるのは01番隊でもマリカさんだけらしいよ。私は戦闘員じゃないから詳しくは知らないけどさ」
「その道のエキスパートの土俵で戦っても勝てるんですか。完全適合者って半端ないですね」
「お喋りは楽しんだか? そろそろ実践教育の時間だぜ」
最初にオレに絡んできた白人の巨漢が立っていた。やっぱりきやがったか。
「ウォッカ、よしなよ」
「整備クルーは引っ込んでな。これは俺達、戦闘員のお話だ」
なにがお話だよ、
喧嘩の気配を察した01番隊の隊員達は手際良くテーブルを動かして中央にスペースを作る。ウォッカは顎で『こいよ』と促し、先に特設リング中央に歩いていく。顎で指図すんな。オレを顎で使っていいのはマリカさんだけだ。
リングを囲む隊員達が口笛を吹き、足を踏み鳴らして煽ってくる。ここで逃げたらオレの渾名は『芋引き野郎』に決定だ。覚悟を決めるか。オレは食堂内特設リングでエキシビションマッチをやる事になった。
「チビ助、しばらく医務室の流動食を楽しませてやるよ」
そりゃ2メートルはあるコイツから見れば170ちょいのオレはチビ助かもしれないけどさ。文系男子として口喧嘩では負けたくないね。
「デカいアンタが羨ましいよ。脳味噌に回す栄養もガタイに回したらそんなにデカくなれるんだろうね。オレもそうすりゃよかったな」
ピキッと青筋が立った。うん、脳筋らしい反応だ。
「マリカさん、生意気な新兵に先輩兵士への敬意を叩き込んでやりますが、止めないでくださいよ。後にしろとは言われましたが、やるなとは言われてねえですぜ?」
マリカさんはラッパ飲みしていた酒瓶をテーブルに置いて答えた。
「いいだろう、やりな。余興としては楽しめそうだ」
「退屈しのぎになるほど、長くはかからんですよ」
根拠はないがとにかくスゴイ自信だな、アンタ。
「ただし、念真力は使うな」
「ポッと出の新入りに念真力を使うほど、落ちぶれちゃあいませんや」
腕まくりして指を鳴らす巨漢に上官は苦笑する。
「わかってないねえ、ウォッカ。アタイはおまえの為に言ってやってンだよ」
「へ?」
「カナタの念真強度は100万nだ。兵学校の座学は壊滅的だったみたいだけど、引き算ぐらいはできるだろ?」
ギャラリーがカイジの黒服みたいにザワついてるな。どうやら100万nっていうのは相当な数値らしい。ここは心理的に追い打ちをかけておこう。
「今ならやめてもいいですよ? 無駄なカロリーを消費したくないんで」
「その程度でビビるかボケェ! 01番隊舐めんなよ!」
ま、もう引っ込みがつかないよな。マリカさん、ありがとう。オレはまだ手足に力場を纏わせる技術を身に付けていない。マトモに勝負できる舞台をセッティングしてくれたんだ。
「じゃあ念真力はナシってことで」
「いいだろう。準備はいいか、チビ助?」
「いつでもどうぞ」
ウォッカは両拳を固めて突進してくる。流石は精鋭部隊の隊員、猛牛の突進よりもド迫力だぜ。見た目通りのブルファイターだな。体格は頭一つ違う、当然リーチも長い。
「まずは小手調べだ!」
左ジャブ×2、そして右の打ち下ろし。オレはスウェイとダッキングで躱す。サイズに差のある相手には武器ありで戦いたいよなぁ。格闘だと体格と体重の占めるウェイトが大きいんだよ。泣き言いってもしゃあないか。戦場は常に無差別級の殺し合いだ。
ウォッカの攻撃を躱すのは難しくない。マリカさんとは天地の差、10号や13号だってコイツより断然動きは速かった。コンビネーションの打ち終わりを狙って脇腹にフック、命中したがウォッカはニヤリと笑った。まだ全力じゃねーよ。頑丈さを確かめただけだい。
「拳が軽いぜ、坊主!」
ボディ打ちをものともせず太く長い腕で巻き込むようなフック、バックステップで躱して距離を取る。コイツは間違いなく重量級のバイオメタルだな、スピードに劣るがパワーとタフさに秀でる。
「重くても当たらなきゃ意味ないぜ、オッサン」
よし、作戦は決まった。さあいくぜ!
オレはウォッカのパンチを躱しつつ軽くペチペチと叩きにいく。まずオレのパワーを誤認させる、そんで怒らせる。その為には言葉も使う。
「アンタ軍隊じゃなくて家電屋の棚に並んでた方がいいんじゃない? 汗臭い大型扇風機に需要なんかねえか」
「黙れ! テメエこそ蚊の刺すようなパンチしか撃てねえのか!」
「知ってるかい? 人間を一番殺してる生き物は蚊なんだぜ」
マラリアの感染源になってね。だが、この統計には見落としがある。人間を一番殺してる生き物は……人間だ。
「講釈や蘊蓄が垂れたきゃ学者になるんだな。軍人に必要なのは暴力だ!」
得意技らしい巻き込みフックを屈んで躱し、畳んだ膝を利用して跳躍。巨漢の額を平手でペチンと叩いて背後に回る。
「綺麗な紅葉が咲きました。御一同様、拍手拍手!」
オレが手を叩くと1番隊の隊員達がどっと笑う。
『しっかりしろー!』、『新入りにナメられてんぞー!』と声が飛ぶ。うん、いい感じでこめかみに青筋が浮かんだね。そろそろ来るだろ。
「半殺しで済ませてやろうと思ってたが、気が変わった! 全殺しにしてやる!」
ウォッカはまたも突進してきて両腕を振るう。
「無理だと思うが頑張れ」
パリングしながら後退、立ち位置を調整して狙い目の技を誘発させる。踵に重心を乗せた、来るぞ!
「喰らえっ!」
キックを温存してるとは思ってた。戦争はスポーツじゃない、何を使ってもいい。仮にも精鋭部隊の隊員が、ボクシングスタイルの格闘しかできないなんてあり得ないもんな。冷静さを欠いた状態でキックを出して欲しかったんだ。
「雑な蹴りだぜ、先輩!」
どんな人間でも足は二本、キックを繰り出せば一本足。ラウンドハウスキックを上体を逸らして躱しながら、軸足に全力のカーフキック!
「のわっ!」
ひっくり返ったね。仰向けに倒れたんなら顔面にストンピングだ!
「油断大敵だね。ルーキー舐めんな!」
太い腕で顔をガードする巨漢、だけど脚の力は腕の三倍。ガードの上からでも打撃は通せる。狙い通りに鼻から出血したな。鼻血はさらに冷静さを奪う。頭にくるもんな。鼻血ブーは。
「降参は早めにどうぞ」
さらにストンピングを続けるが、オレは調子に乗り過ぎた。ガードを解いて踵を額で受けたベテラン兵に右足首を掴まれたのだ。
「攻守交代だぜ、坊主!」
ウォッカは足を掴んだまま立ち上がり、オレを地面に叩き付ける。
「うぐっ!」
背中への強い衝撃で一瞬息が止まる。もう一度地面に叩き付けられる前に、左脚でウォッカの顔面に蹴りをいれてなんとか脱出。……マジで危なかったぜ。頑丈な上に戦い慣れてる、さすが精鋭部隊の隊員だ。
どうやったらコイツを倒せる? 性懲りもなくというか、毎度毎度というか、いっつも窮地に陥ってるよなぁ。