クローン兵士の日常 異世界に転生したら危険と美女がいっぱいでした 作:仮名絵蛍蝶
闘技場のゲート前、シジマ博士から訓練用の刀を受け取る。オレも緊張してるけど、博士はもっと緊張してるな。そりゃそうか。勝てる算段を博士に話してないんだし。博士は聞きたがったけど、あえて言わなかったんだよね。目論見通りにいかなかったらカッコ悪いからさ。勝ってから結果を踏まえて『全て計算通り』と、ドヤ顔で自慢する予定だ。
「こ、今度は本当に大丈夫なんだろうね?」
「心配しなさんな、博士。完勝するって言っただろ」
「でもね、前回は一方的にやられちゃってるだろう。あれから一週間しかたってない訳だし」
男子三日会わざれば刮目して見よって言うだろ。三日どころか一週間だ。
「どっちにしたってゲートをくぐれば、もう博士に出来る事はないよ。自分の作品を信じなって」
「……10号も僕の作品なんだけど。」
そりゃそうだ。さて、七日ぶりに闘技場のゲートをくぐるか。オレがいくらダメダメの実を食ったダメ人間だとしても、ここだけは勝たなきゃな。
勝つ算段は立ててきた、あとは実行するだけだ。歩みを進めながら自分に言い聞かせる
オレはやれる。
オレはやれる!
オレは殺れる!!
反対側のゲートが開き10号が現れる。
「ハロー、兄弟。お久しぶりね」
倒すべき敵は例によって眼球をグリグリ動かして周囲を見回している。今のうちに左手をかざして障壁を展開しておこう。大きく厚く、イメージ通りに展開できたな。10号は前回と同じく極端な前傾姿勢でダッシュ、距離を詰めて斬りかかってくる。
「オアァッ!」
「おっと!前みたいにはいかないぜ!」
展開した盾で斬撃を受ける。二合、三合、受け続けても盾は壊れない。算段の一つ目はこれだ。10号は念真障壁を形成できない。録画で確認したけど他の実験体もそうだった。そうだよな、おまえらにはイメージって概念が欠落してるもんな。
10号は刀だけ。オレは刀と盾を使う、選択肢の多い分、単純に有利だ。算段の二つ目といくか!
「そらっ!」
オレは10号の左足首を狙って刀を払うように見せかける。
「オオッ!」
10号は軽く跳んで斬撃を躱す、しかしオレの突きが土手っ腹に刺さっていた。刃を潰した訓練刀とはいえ、突きの衝撃が内臓にまで届いたのだろう。10号は吐血しながら後方に転がった。
やっぱり読み通りだ。知性がないから相手の思惑を読み取れない。こちらの動きに即、反射行動を取ってしまう。予想通り、コイツはフェイントにすこぶる弱いのだ。転がった10号に追撃はしない。内臓まで衝撃が届いていたとしても……
ほらな、すぐに立ち上がった。腹部に滲んだ血など意にも介さない。だよな、オレもおまえもそういう風に造られてるんだもんな。
慌てる事はない。もう勝ち筋に乗っている。チェスで言えばスティールメイトだ。チェックメイトまで淡々と進めよう。算段の三つ目、オレは障壁で防御しながら、通常の斬撃に時折フェイントを交えて10号を削っていった。10号は同じ手に何度も引っ掛かった。これがおまえらの致命的欠点。
知性がないから学習能力がない、だ。
身体能力においてオレと10号は完全に互角な訳だから、10号の攻撃は見えるし、動きについて行けない事はない。そして10号にはフェイントもコンビネーションもない。爺ちゃんと剣道やってた時は、読まれたり崩されたり、駆け引きを強いられたけど、10号にそんな怖さはない。格闘ゲームのコンピューター戦みたいなもんだな。パターンにハメれば勝つのは簡単。
「確かにおまえらは兵器としては失敗作だよ。こんな簡単な攻略法があるんじゃな」
いくつか擦過傷を負ったが、擦過傷如きはオレ達バイオメタル兵にはダメージに入らない。対峙する10号はかなりのダメージを負っている。出血も多いし、動きもかなり鈍ってきた。
いよいよ、か。あとは……オレの覚悟の問題だ。
喧嘩に勝つのは簡単だ。相手の未来なんて考えなければいい。元の世界でそんな事をやれば特大のリスクを背負う羽目になるんだろうけど、今はそれをやらない方が特大のリスクだ。ここは異世界、戦乱の星だ。相手への思いやりが許されるような優しい世界じゃない。
だから、オレは殺る!
荒い息を吐き満身創痍の10号に、オレは容赦なく斬撃を浴びせる。クソが!お偉いさんとやら、見てんだろうが!早く止めろよ!もう勝負はついてんじゃねーか!
「オアァーー!」
10号は血走った目でオレを睨み、反撃してくる。障壁の盾で受けたがパリンと音立てて割れた。威力の削がれた刀を左手で掴むと同じ顔の兵士と目が合った。
「あばよ、兄弟。……ごめんな」
オレは渾身の力を込めて10号の側頭部に刀を振るった。骨を砕く感覚だけが手に残る。
「オ……アァ……ァ…………」
仰向けに倒れた10号の瞳から光がゆっくり消えていく。こうしてオレは……人殺しになった。
* * *
「いやー、凄かった凄かった!まさにワンサイドゲーム!僕も鼻が高いよ!よくやってくれた、12号!」
人がナーバスな気分だってのにテンションたけえよ、頼むから黙っててくれ。
「言った通りだったろ。だけど途中で不毛な展開になってたのは分かってた筈だ。どうして止めなかった?」
「お偉いさん方が『自我を持った12号が10号を殺せるか見てみたい』って言うからね。僕としては10号は、まだ壊したくなかったんだけど仕方ない」
「……そうかよ」
博士とこの手の会話をするのは不毛だな。断言出来るがオレは生涯、博士とは理解し合えないし、したくもねえよ!まだ興奮冷めやらぬマッドサイエンティストは何か言っていたが、無視して自室に帰った。泣きたい気分だった。
* * *
翌朝、朝食の時間になったので食堂に行く。昨日までは部屋に食事が届けられていたが、結果を出したご褒美として、食堂の使用許可が下りたからだ。従順な実験体を演じてきた甲斐があったな。こうやって行ける場所を増やしていこう。
食堂は白衣と軍服で賑わっていた。チラチラとオレの方を見る奴もいるけど気にはならない。おかげさんで見世物になるのには慣れたんでね。
トースト3枚とフルーツ各種、大盛りサラダにベーコンエッグ、ゆで卵3個にオレンジジュース。バイキング方式の食堂で、遠慮なくトレイに料理を積んでいく。いつ最後の食事になるやらわかんねえからな、食える時に目いっぱい食うぞ。
「ここ、いいかな?」
オレより随分控えめな朝食を載せたトレイを持った博士が対面の席に座る。
「いいも悪いも、もう座ってるじゃないか」
博士、アンタひょっとして友達いないの? ま、いないか。……考えてみればオレもだった。世界が変わってもオレのボッチ体質は不変の法則らしい。多分、万有引力の法則より凶悪な強制力があるな、波平ボッチの法則。昨日のテンションを引き継いだまんまの博士が、口からトーストの破片を飛ばしながら話しかけてくる。食うか喋るかどっちかにしろ、お行儀が悪い。
「12号、キミのおかげで無事にプロジェクトの続行が決定したよ!予算の増額も認められちゃうかもよ?」
「はいはい。そりゃおめでとうさん」
せいぜい国民の血税をドブに捨てて下さいな。
「それでね、いよいよキミの後継モデルの13号の製作に取り掛かる事になったよ」
「18号を造る時は、是非クール系の美少女で頼む」
「気が早くないかな? だいたいオリジナルが男性なんだから、わざわざ性別を転換させる合理的理由が……」
「ジョークだよ、ジョーク。しかし10号を始めとする自我欠損の兵士の『兵器としての有用性の低さ』は問題にならなかったのか?」
自我を持たせりゃ問題ないだろって結論だったらマズいんだよな。
「なったよ。だけどね、彼らは
インテリは『相手の知能が自分以下』って前提で話すから嫌われる。落ちこぼれの僻みと言われたら、それまでだけどな。それ以前に、いくらクローン人間でも欠陥品呼ばわりするのはどうかしてるぜ。博士に悪気はなく、単に思っていることを口にしただけなのが、タチの悪さに拍車をかけてる。
「なるほどね。だけど自我を持たせるメソッドは、まだ確立できていないんだろ?」
「それが問題なんだ。上層部からは『12号と同等以上の自我持ちクローン兵をなんとしても造り出し、可能な限り早く量産ベースに載せろ』と命じられてる」
だろうな。最初のハードルを越えたと思ったら、またすぐ次のハードルかよ。薄い可能性だがオレを造った時の再現実験をやれば、元の世界から誰かの人格がクローン体に宿るかもしれない。ただ、それはないと思っているし、そうであって欲しい。こんなとこに送り込まれる地球人はオレ一人で十分だ。そう、これは予想外の突発事態。だったら博士の実験は、実は一度も成功しておらず、今後も失敗続きの筈だ。
まずは再現実験を繰り返し、上手くいかなければ新しい実験を始める。一度は成功させている実績があるから、お偉いさん方も暫くは様子を見るだろう。ただ、どのぐらい猶予を与えるだろうか。
また、時間との勝負だな。自我がなくてもいいから製造しろとプロジェクト続行の判断が下ればいいが、いくらオレが楽天家でもそこまでお気楽にはなれない。
……それにオレの目的は、従順なモルモットとして、ここで生き長らえることじゃない。
「じゃあ、食べ終わったからもう行くよ。13号の完成を楽しみにしてくれ」
「ああ、ホントに楽しみだよ」
実験に失敗して、なぜ上手くいかないのかって嘆くアンタの顔を見るのがね。オレの呟きをエールと受け取ったおめでたい博士は上機嫌で食堂から出て行った。
オレも自室に戻って考えよう、ここから脱出する方法を。