クローン兵士の日常 異世界に転生したら危険と美女がいっぱいでした 作:仮名絵蛍蝶
餌は蒔いた。博士は食い付いた。だけど博士はオレの本命の獲物じゃない。上手いコトお偉いさんが食い付いてくれよ、そこは祈るしかないんだが……
オレは天掛波平、日本の大学二年生。
だけど、なんの因果か現在はクローンノイド12号。中軽量級バイオメタル兵士、念真強度100万n、戦闘細胞適合率51%。それが今のオレの全てだ。
人生には転機となる日があるものだ。元の世界の話ならそれは名門高校の受験に失敗し、親父に見切りをつけられたあの日。こっちの世界ではたぶん、今日だったんだろう。
一日の始まりは、いつもと変わりなかった。体内目覚まし機能で(これは本当に便利だ)、自動的に起床。ストレッチして朝食を取り、トレーニングルームで障壁展開の訓練。こっちの世界にきてから一ヶ月以上が経過し、元の体とのギャップもほとんど感じなくなった。鏡を見ても違和感を感じる事もなくなり、むしろ元の自分の顔がどんなだったか忘れやしないかと不安になるぐらいだ。
昼にはまた食堂に行き、超大盛りカレーを平らげる。オレの姿を基地職員も見慣れてきたのか、たまに話しかけてくる人もいる。
昼食を終えると自室に戻り、シャワーを浴びてベッドに横たわってパソコンで映画を見る。ちょっと健康的になっただけで、大学時代と大して変わらない生活だな。従順に行動しているので、少しずつ与えられるモノも増えていく。最初は刑務所の独房みたいだったオレの部屋も、今では少し生活感が出てきた。
映画を見終わり、午後のトレーニングを始めようかと思った時にドアがノックされた。博士だな、オレの部屋を訪ねてくる人間なんて彼しかいない。
「開いてるよ。博士だろ?」
ドアに鍵はかけていない。指定エリア内なら自由行動が許されるようになったからだ。これはいい兆候だ。外に出しても問題ないかテストされていると思いたい。
「うん、僕だ。ちょっといいかい、12号?」
最初にあった時と変わらず身だしなみのなってない博士が部屋に入ってくる。オレはベッドに腰掛け、博士にはパソコンチェアを勧めた。
「珈琲でも入れようか?」
「いや、いいよ。僕は紅茶党だしね」
意外だな、どう見ても睡眠不足の目をこすりながら、珈琲を啜ってるイメージだったのに。
「話っていうのは、この間の件なんだけどね」
……きたか、この話次第でオレの今後の方針が決まる。
「上の人はなんて?」
「結論から言おう、キミの実戦投入が決定した」
キターーーー!よっしゃあ!これでこんな研究所からはオサラバだぜー!……歓喜を顔に出すな、平常心平常心。冷静になったオレは博士の様子に不安を感じた。
「なにか問題でも? オレが戦果を上げれば博士の研究にもプラス、WINWINって話じゃん?」
「……キミが配属されるのはアスラ部隊なんだよ」
アスラ部隊? 確かアスラって同盟軍の創設者の名前だよな。
「ライブラリには同盟軍の部隊情報はなかったな。どんな部隊なのアスラ部隊って?」
「アスラ部隊は御堂アスラ元帥の名を冠した、我が軍最強の精鋭部隊だよ」
米軍でいうところのシールズみたいなもんかな?
「それがなにか問題なのか? 最強部隊に配属されるってのに浮かない顔だけど?」
「最強だからこそだよ。最強の部隊、つまり最激戦地で最高に危険な任務を遂行するっていう話さ」
それはそうだな。なるほど、博士はオレが死体袋に入って帰ってくるんじゃないかって心配してる訳ね。
「大丈夫だよ、博士。ハイリスクハイリターンさ。戦果を上げて、その最強部隊とやらのエースになって凱旋してやるって」
博士は元から辛気臭い顔をさらに曇らせた。
「それはいくらキミでも難しい、不可能とまでは言わないけど」
おいおい、不安になってきたぞ。
「そんなにヤバイの? そのアスラ部隊って?」
「いくら最強部隊でも、配属されてる一般兵よりは12号の方が強い筈だ。でも隊長、副隊長といった指揮官クラスとなるとね。……参考までに言うとアスラ部隊には少なくとも完全適合者が二人いる」
マジで!あの悪魔じみた、いや、悪魔そのもののオリジナルと同格のモンスターが二人も!
「って言うことはさ、機構軍の完全適合者と鉢合わせする可能性も……」
「飛躍的に跳ね上がるね。普通の部隊なら完全適合者に鉢合わせする可能性はかなり低いんだけど……」
……ま、前向きに考えろ。普通の部隊に配属されて完全適合者に鉢合わせしたら詰みだけど、味方に完全適合者がいるなら助かる可能性があるってことだ。
むしろラッキー……じゃないよなぁ、どう考えても。
「なんだってそんなヤバイ部隊に! 何百万人も軍人がいるんだから、もっと適当な部隊があるでしょ!?」
「アスラ部隊の司令の横車でね。階級は大佐なんだけど、そこらの将官より発言力がある。大抵のワガママは通っちゃうんだよ、これが」
マジっすか。またまた、どデカイハードルが出てきたなぁ。博士からもっと話を聞きたかったが、できなかった。所内に警報が鳴り響いたからだ。博士がドアホンに駆け寄り、がなりたてる。
「なんだって!13号が暴走!」
実験失敗の挙げ句に暴走ですか、あーそうですか。
……でも点数稼ぎのチャンスではあるな。10号のコンパチタイプなら同じ戦法で完封できる筈だし。ここは恩を売っておくか。
「博士、刀はどこにある! 上手くやれるかどうかわからないけど、殺さずに無力化させてみる!」
「こっちだ!」
博士と一緒に部屋を飛び出す。ああもう、博士、なんでそんなにトロいんだよ!現場に行く途中で警備兵に出くわした、彼らは電磁警棒と銃を持っている。
「その警棒を貸してくれ!」
警備兵は明らかにとまどったが、博士がフォローしてくれた。
「12号に警棒を渡してくれ! 13号には12号が対処する!」
「博士、13号はどこで暴走してるんだ!」
「実験区画! トレーニングルーム正面の赤い扉の向こうだよ! 到着したらゲートを開くから!」
警棒を受け取ったオレは全速力で走った。うん、100mを8秒切ってるね、これは。この体なら体育の徒競走も、憂鬱じゃなくて楽しみだっただろうなぁ。
トレーニングルームの正面の赤い扉の前に到着っと。
……ん? このドサクサに紛れて脱走できないかな。いや、ダメだダメだ。少なくともこの世界に来てからは、考えて考えて行動してきた。それで結果は伴ってきたじゃないか。うん、オレは衝動では行動しないぞ。
赤い扉が開いたと同時に、中から悲鳴が聞こえてきた。悲鳴の方向に向かって全速力で走る。実験区画の内部は惨劇の舞台になっていた。機材は滅茶苦茶、死体は視認出来ただけで1ダース。
「よ、よせっ!落ち着く……へげっ!」
片手で吊り上げられた白衣の犠牲者が頸椎をへし折られて、これで死体は1ダース+1体か。
「派手に暴れたな、13号」
声をかけると、首だけ回して13号はオレを見た。そして頸椎をへし折った白衣の死体を投げつけてくる。当たってやる義理はないので軽く躱して、左手で障壁を展開。
「オアァァ……アァ?」
13号は武器を持ってない。10号より楽に処理できるはずだ。殺さずに無力化も可能だろう。暴走した13号は10号と同じように前傾姿勢で距離を詰めてくる。まずは受けて、そこからフェイントを交えて削っていこう。
「オァッ!」
繰り出されたパンチを障壁の盾で受ける……が、オレは衝撃と共に宙を舞っていた。
「なにぃっ!」
身を翻して着地、ほとんどダメージはない。だけどこの威力はどゆこと? 13号を見ると拳に念真障壁を纏っている。……博士のヤツ~! いらねえことしやがって!
おおかた自我のない実験体の弱点である、念真障壁を展開出来ない点の克服とかって話なんだろ! せめてそれはさっき教えとけや! そうなると話は別だ、コイツは10号より危険と考えないと。
「オアッ!ウアッ!」
13号は連続で障壁パンチを繰り出してくる。受けずに回避に専念だ。よし、分析完了。やっぱり13号の攻撃にはフェイントもコンビネーションもない。だったらフェイントに弱いって弱点も克服できてない筈だ。反撃開始といこう。
まずはフェイントで頭部狙い、腕でカバーしたね? じゃあ前蹴りをプレゼントだ!
モロに水月に命中して、今度は13号が宙を舞う番だった。13号も宙で身を翻して着地、ダメージはあんまり入ってないな。手足に障壁を纏わせる技術は、まだマスターしてないんだよねえ。13号みたいに拳を自傷しながら纏わせる気にはなれないし。
オレと13号の間には大型の機材があり、距離をとって睨みあう形になった。
「おい、そこのおまえ!」
後ろから声をかけられて振り向くと、そこには豪奢な黒髪で切れ長の目の凄い美人と、執事みたいに後ろに控える白髪で初老の男がいた。
「じれったくて見ていられん。下がってろ!」
うわ~オレ様だわ、この人。命令するのに慣れてる人だね。
床を蹴る音がしたので13号の方を振り向くと、こっちに向かって高速ダイブしている。受け止めるべく障壁に厚みを加える。くるならきやがれ!
……こなかった。13号は空中で真っ二つにされていた。
チンという音とともに刀を鞘に戻した切れ長美人は、不機嫌そうな声で
「私は下がってろ、と言った筈だが。聞こえなかったか?」
「あの~、あなたはどちら様で……フガッ!」
最後まで言えなかった。顎を掴まれて持ち上げられてしまったのだ。凄い力だ、顎の骨が軋む音が聞こえてきそう。
「フン!アギトに本当に似ているな。それだけで引っぱたいてやりたくなる」
そんな理不尽な理由で引っぱたかれたら、たまったもんじゃないんですけど? だいたいアギトって誰なんだよ。……ひょっとしてオリジナルのことか?
切れ長美人改めキレキレ美人はオレの顔を眺めるのに飽きたのか、ようやく解放してくれた。
「おまえが12号だな?」
オレはコクコク頷いた。オレの短い人生経験でも分かる。このキレキレ美人は逆らっちゃいけない人だ。
「私は御堂イスカ大佐、おまえの新しいボスだ。」
これがオレと司令の後悔、いや