精霊が切り札の世界で、俺だけ孤独に成り上がる 作:エクシーズ次元
「ふ~~~む」
俺はやることもなく、実家でパソコンと睨み合っていた。
以前送られてきたエキドナ……その返信がやってきたのだ。
いわく今度大会で使おうと思っているため、ファイトネームは明かせないこと。
展開ルートは一応通したものの、もっと美しいルートがあるのではないかと考え、インターネットを巡っていた所、俺のブログに辿り着いたと描かれていた。
転生者とかではなく、おそらく完全に独学で作ったのだろう。
ところどころのルートが歪だし、無理やりだ。おそらく俺の知見を多少与えてやれば、前世に存在したネストデッキ以上のものが作れるに違いない。
……しかし、それでいいのだろうか?
このデッキには1から作り出したという独自性がある。
それを俺が、この世界に存在しないはずの知見を与えて、前世のコピーデッキにしてしまっていいのか? 残念ながら、俺は独学で前世の知見を上回るような答えなど出せない……。
『何を迷っている?』
そんな俺の迷いを感じ取ったのか、テーブルに置いていたアルタイアが語りかけてくる。
最近は関係ないと思ったことにはだんまりだったのに珍しい。
『デッキなどタダの器に過ぎん。独自性など不要であり、強ければそれでよいのだ』
「私はそうは思いません。1枚1枚展開を練り上げ、組み上げたそれにはファイターの魂がこもっていると思います。それを偉大なる先人の知見とは言え、塗りつぶしていいものか……」
『くだらん……ファイトは実力が全てだ。勝つためならなんだってするべきだろう』
「あのですね、趣味だからこそ矜持は大切にするべきなんですよ」
いや、俺はルールの範囲内でならなんでもするが。
それは別に矜持に関係ないからだ。デッキビルダーの矜持とは、自分のデッキ。
ゆえにそれを塗りつぶしてしまうことにどうしても若干の抵抗があった。
『闇ファイターどものほうがよほど本質を突いてるな。やはり貴様はつまらない』
「ああ?」
ピキッと来た。
俺が大人しく家でパソコンとにらめっこしていたのには理由がある。
ファイト部の部長が家に帰らず行方不明になってから3日が経っているのだ。部はなんとも暗澹とした雰囲気になり、しばらく活動を自粛することになった。いったいどうしたことかと言う話になると、やはり決まって噂されるのが──闇ファイターの存在だ。
つまり部長は闇ファイターにやられてしまったのではないか?
そんな噂が3日目にしてまことしやかに囁かれることになったのだった。
正直、ムカつく部長を心配するほど俺は聖人ではない。
しかしおかげで部の空気は最悪。自粛気味なムードが出ているのだ。
やはり闇の力など頼るべきではない。それをこの精霊は……。
ピンポーン。
……などと考えているとチャイムが鳴った。
下の階から母親の呼ぶ声。どうやら俺に客が来たらしい。
いったい誰だろうか。
念のためアルタイアとデッキをポケットに突っ込んで下に降りる。
『ん!? おい待て、我を連れて行くな……ッ!!』
……とかなんとか言ってるが無視無視。
玄関に降りると、白い制服を着た二人組がいた。
「どうも、精霊局の者です」
そう言って警察手帳に近しい白い手帖を見せてくる。
にこやかに話しかけてくるのは、2mはあるだろう太ましい巨漢の男。
もう一人の少女は面倒くさそうに腕を組んでいる。
蒼銀の髪を一本の髪束に纏めた、気の強そうな女の子だ。
ええ……俺なにかしたかなぁ。
ってどう考えても部長関連の調査だよなぁ。
取り調べとかあるのかなぁ。
「なんでしょう?」
「実は先日、魁星常翔高校ファイト部の巽忠彦さんが行方不明になったでしょう?」
巨漢の男が質問し、少女はだんまりと腕を組んでこちらを見据えている。
巽忠彦……部長のことだ。どう返答するか少し迷いつつ、無難な返答をすることにした。
「ええ、聞き及んでおります」
「お話聞かせてもらえると嬉しいかと。ここじゃなんですし、喫茶店でも行きましょうか」
「わかりました……」
『おい!! 逃げろ!! こいつらとは関わるな!!』
……さっきからアルタイアがうるさい。いったいどうしたんだろうか。
精霊局に嫌な思い出でもあるのか? 仕方ない。話すために声を念じてみるか。
(なんですか、さっきから……)
『なんでも何もない!! 強い精霊の気配と思ったら、道理で……!! 我の本体を封印したのがこいつらなんだ!!』
(ほう、じゃあ貴方も引き渡したほうがいいですね)
精霊局に封印されるとか、もしかしてこいつ悪い精霊だったの?
カードのフレーバーなんてアニメ世界の設定には何も関係ないことがほとんどだし……。
たしか幻月は異世界の魔術学院だったと思うが。
『部長とやらを襲った犯人を教えてやるから!!』
(…………あ?)
なんでコイツがそんなこと知ってるんだ?
いや待てよ、たしか精霊は力を使っていない闇ファイターでも、ファイトすればわかるんだったかな。最近ファイトした相手の中に闇ファイターがいる……?
そんな事を考えながら、歩道橋まで歩いてきた時のことだった。
突如として、周りに透明な壁が出現した。
闇ファイターのそれとは違い、白い靄のような感じ。
俺は思わずドライバーを右手に設置してしまった。
「テメェだろ、犯人よォ」
「はぁ?」
蒼銀の少女がドライバーを右手につけて迫ってくる。
もしかしてこいつらもファイトしたら、闇ファイターかわかるのか?
だとしたらすぐに俺の無実は証明されそうだが……。
「なんのことですかね」
「ざっけんな!! 先日、アルケミーで被害者と揉めてんの割れてんだぞッ!!」
そりゃあそうなんだけどぉ……。
タイミング的に俺が一番怪しいんだけどぉ……。
「待つだべ氷雨、こいつからは精霊の気配がするべ」
さっきまでとは打って変わって田舎っぽい口調で話す巨漢の男。
しかしその問いかけに対しても少女は牙をむき出しにするのをやめない。
「ンなモン、持ってるだけなら闇ファイターだって出来んだろうがよッ!!」
「しかし確実な証拠は何もないべ」
「闇ファイターならファイトすりゃあわかるッ、おら、来いよッ!!」
へぇ、アニメみたいな流れだ。
困ったらファイト!! ……なんてね。
「お断りします」
しかし断る。
馬鹿じゃねぇのか、こいつらよ。
身の潔白を証明するためにファイトしろだって?
「ああ?」
「私のデッキはそんなことのためにあるんじゃない。楽しく遊ぶためのものです」
マジで心の底からそう思ってる。
遊ぶ以外でファイトだなんてバカバカしいぜ。
俺の発言に目を丸くする少女。
しかししばらくすると理解したのか、くつくつと笑い出した。
「あ、そう。じゃあ不戦敗ってことでいいのかァ?」
「好きにしてくださいよ。ちなみに不戦敗だとどうなるんですか?」
「カードにする。身の潔白がわかるまではそのままかもなァ」
「カードにする? 貴方がたも闇のファイターなんですか?」
「ちげぇよ!! 強力な精霊には封印能力があんだよッ!!」
地団駄を踏む蒼銀の少女。
さながら癇癪を起こしている子どものようだ。
さて、どうするか。でも明日はファイトパーティなんだよな。
ココでカード化されたら絶対行けないよなぁ。
それに、俺が持っているカードも多分回収されるってことは……。
アルタイアの存在もバレるってわけで。
『ああ、ここはなんとして打ち勝て!!』
なんでこいつがこんな乗り気なんだよ。でも遊んだことのある身内が闇ファイターだったとしたら、精霊局に捕まる前に説得しなければならない。そのためにコイツの力が必要に……なっちまうかぁ。精霊無しで闇ファイターと敵対したら、一瞬でカードにされかねないしな。
(おい、クソボケ精霊。これ以上、情報を隠してたら破きますよ)
『いいだろう。ココを逃れたら、なぜ我が追われているかも話してやろう』
(聞いたうえで破きたくなるかもしれませんね)
『くぅ~~~ん』
くぅ~~~ん、じゃねぇよボケが。
俺がドライバーを構えると、向こうもその気になったようで、しっかり構えてきた。
互いに睨み合い、その一言を同時に告げる。
「「ファイトッ!!!!」」
「ヘッ!! そうでなくっちゃなあァ!!」
ドライバーによるコイントス。
ふむ、やっぱりいつもどおり俺が後攻らしい。
仕掛けてきたのは比較的早い3ターン目。
1~2ターンはコストブーストに徹していたな。
コストを増やして大型を出す、いわゆるランプ構成なのか?
「現れなッ!! 氷結騎士ランスロット!!」
氷の鎧をまとった黒騎士が吹雪とともに現れる。
氷結騎士……一定時間のロックが売りのコントロールデッキだったかな。
3ターン目で仕掛けてくる辺り、多少改造しているようだが……。
「ランスロットの効果!! 次のターンのエンドフェイズまで、テメェは呪文を使えないぜッ!!」
こういうちまちまとしたロックが本当にウザいんだよな。
氷結騎士のクリーチャー抜きを素体にしたのが、姫宮さんのタルタロスだし。
クリーチャー自体も生きる足枷みたいな効果してるし。
「ランスロットで
氷の騎士がデク人形を切り刻む。速攻呪文が使えない以上は、通すしかない。
幸い、ダメージはこのターンなさそうだが、ほうっておくとドンドンとロックの種類が増えて厳しくなってくる。こっちから攻めていくしかないな……。
「では私のターン、
「おおっとやるねェ」
メイデンがランスロットを呑み込み、そのまま破壊する。
攻撃力3000だと雑な地上戦でもそこそこ活躍してくれるからいいんだよな。
さて、ターンを終了し、俺は呪文を使えるようになったが……。
「ではウチのターン、ドローッ!!」
吹雪が吹き荒れ、引いたカードが白く輝く。
チッ、デスティニードローか。何が来る……!?
「テメェは進化を見たことあるか……? ねぇよなぁ!!」
「進化だとッ!?」
いや、俺の知る限り進化カードはまだこの世界じゃあ売っていないはず……。
…………相手は精霊局の人間。まさか……。
「記念に見せてやるよッ!!
クソっ!!!
最悪だッ!!!!!!
氷結騎士ランスロット
クリーチャー 攻撃力2500
このクリーチャーの召喚時、以下の効果を発動する。
◯次ターンのエンドフェイズまで相手が呪文の効果を発動した時、それを無効にする。