精霊が切り札の世界で、俺だけ孤独に成り上がる   作:エクシーズ次元

12 / 12
012 相対

 アルケミー。既に少しばかり日が暮れている時間帯にして、学校終わりの小学生たちが彷徨っている賑やかなカードショップ。デパートの1エリアを丸ごと借りているだけあってやっぱり広い。

 

 そんな店の一席にて、吉田さんが一人孤独にデッキを練り込んでいた。

 

「やはりここにいましたね、吉田さん」

 

 俺に気づき、ぱっと明るい表情でこちらを見るが……。

 俺の顔で察したのだろう。すぐに悲しげに俯いた。

 

「ああ……気づいてしまったのでございますか……」

 

「外で話しませんか? ここじゃなんですし」

 

 俺の言葉を無視して吉田さんがテーブルに一枚のカードを置く。

 今にももこもこの羊たちに押しつぶされそうになっている部長の絵がそこに描かれていた。

 やはり、吉田さんが部長を襲ったんだ……!!

 

「もうこんなことはやめましょう……!! 今ならやり直せますよ!!」

 

 俺がそう言うと、吉田さんは顔をしかめつつ笑った。

 それはしわくちゃになった雑巾みたいな笑みだ。

 

「……やり直す? ははっ、とんでもない!!」

 

 そう言って、カードの束をテーブルに展開する吉田さん。

 ……そこには実に様々な人が居た。

 

 多くはスーツを着たサマリーマンだが、次第にそこら辺の主婦、チンピラ、ギャル、ガラの悪い学生と、様々な人種に分かれていく。それは、おそらく吉田さんがカード化した人たちだ。

 

 そのままぽつぽつと吉田さんが語り始める。

 

「わたくし、辞めさせるための窓際社員だったんですぅ。

 

 いつもイジメみたいな扱いを会社で受けていて……。

 いえ、会社だけじゃない。学校でも、部活でも、そうでございました……。

 

 唯一仲良くしてくれたのは地元のカードショップ……。

 あそこも大手のデパートが出来てから潰れてしまったなぁ。

 ああ、もちろんここのことなんですがね。

 

 それでわたくし、悟りました」

 

 ダンッ、と机を叩くと吉田さんが目を見開いた。

 そこには、今までのようなか弱い小動物のような雰囲気はまるでなかった。

 むしろその逆──獲物を喰らう、獅子のような……。

 

「この世界は弱者を虐げることで成り立っているとねッ!!!」

 

 そう言って、吉田さんが立ち上がるとドライバーを右腕に装備する。

 

「待ってください。周りを巻き込むつもりですか!!」

 

 そう説得するも、吉田さんはぶつぶつと恨み言を続ける。周りににじんでいく闇のオーラ。

 精霊の力がない小学生たちが、ドンドンとその場に崩れ落ちていく。

 

「……だから思ったんでございますよ。

 わたくしが獅子になってやろうとね!!

 

 構えなさい。

 説得すれば、なんとでもなるだろうという、

 その驕った考えを後悔させてご覧に入れますよ」

 

「吉田さん」

 

 あの優しい雰囲気の吉田さんは、狩られないようにするための虚構だったのか。

 人と仲良くするための、社会でやっていくための、虚構。

 それはまさしく、俺の敬語のように。

 

 闇の波動はドンドンと広がっていく。

 ココで止めなければ、回りの客は皆カード化されてしまうだろう。

 

 

 俺は右手にドライバーを装備した。

 

 

 

「「ファイト!!」」

 

 

 

 珍しく、俺が先攻だ。

 

 吉田さんのデッキはわかっている。

 もこもこはあの猛攻が怖いが、それにさえ対処してしまえば、それほど怖くはない。

 

 コストを溜め込んで警戒しつつ、手頃に攻める……!!

 そんな俺の戦略が4ターンを経過しようとしていた。

 

「自動人形(オートマタ)クリケットでダイレクトアタック!!」

 

「…………」

 

 俺の場にはクリケットを始めとするクリーチャーが3体。

 一方、吉田さんの場には1体もクリーチャーがいない。

 代わりに手札を溜め込んでいる。明らかにやる気だ。あのコンボを。

 

「────やると思ってるんでしょう、もこもこ大進撃」

 

 ニヤリ、と吉田さんが笑う。

 手札を一枚、ボードに振りかざして。

 

「もちろんですよ。もこもこの起点でしょう」

 

「ははは!! 甘い甘い!! ────わたくしは合成を発動いたします」

 

「…………合成?」

 

 いや、もちろん知っている。

 アニメにしか出てこないようなオリジナルカード。

 

 その効果は単純にして、明快。

 

 2(・)体(・)の(・)ク(・)リ(・)ー(・)チ(・)ャ(・)ー(・)を(・)合(・)成(・)し(・)、(・)新(・)た(・)な(・)ク(・)リ(・)ー(・)チ(・)ャ(・)ー(・)を(・)生(・)み(・)出(・)す(・)。

 

 理論上、どんなクリーチャーでも合成することが可能で、新たな新規クリーチャーが現れる。

 しかし、その合成クリーチャーというのは現実的なフォーマットで作成し直され、結局どんなクリーチャーでも合成できるという……そんな夢のような呪文カードが実現することはなかった。

 

 それが、今。

 

「わたくしは手札のもこもこブライタルともこもこメラニオンを合成!!」

 

 ────俺の目の前に現れた。

 

「合成召喚!!!」

 

 現れたのはもこもこなどとは言い難い、荒獅子。

 さながら獅子舞をそのまま怪物にしたかのような黄金色のバケモノ。

 そして俺は────こんなクリーチャーを一度として見たことはない。

 

「黄金羊獅子アルゴラーン!!」

 

「俺の知らないクリーチャーだと……!!」

 

「まるで全てのクリーチャーを知っているように語るではありませんか……すぐに見せて差し上げましょう。アルゴラーンの恐るべき効果を!! 自動人形(オートマタ)クリケットを攻撃!!」

 

「くっ……!!」

 

 デク人形が獅子舞に丸かじりにされる。

 しかしそれだけではない。そのまま獅子舞がこちらへと火炎を放ってきた。

 リアルに感じる熱風。減っていくライフ──1400のダメージか。

 

 すぐさまドライバーの画面でアルゴラーンの効果を確認する。

 ……ダメだ、靄がかかって見れない!!

 

 闇の力ってこんなところにも影響するのかよ!!

 

 いや、待てよ。たしか素材となった2体の効果は──。

 

 もこもこブライタル

 クリーチャー 攻撃力2100

 相手クリーチャーを破壊した時、上回った分の攻撃力を相手に与える。

 

 もこもこメラニオン

 クリーチャー 攻撃力2100

 攻撃したもこもこクリーチャー1体を指定してもう一度攻撃させられる。

 

 ──だったはず。アニメの合成クリーチャーは、元クリーチャーの影響を引き継ぐ。

 ここから考えられるのは……。

 

「全体攻撃かっ!!」

 

 おそらくはクリーチャー全てに攻撃を加えるような効果。

 さらに貫通効果まである。ここでアレを使うわけにはいかない……!!

 

「まだまだいきますよぅ!!」

 

 次々と俺のクリーチャがやられていき、場のクリーチャーが全滅。

 ……だけでなく、そのまま俺にダイレクトアタックしてきた。

 

『まずいっ!!』

 

 俺の目の前に魔法陣が展開される。

 アルタイアがおそらく闇の力を防いでくれたのだろうか。

 

 パリンっ。

 

 

 一瞬で割れた。

 アルタイア、おまえっ、弱っ────。

 

 噛みつかれる。

 ギシギシと骨の軋む音がしたあと、壁に叩きつけられた。

 くっ、足の骨が折れた……立ち上がれない。

 

 まさか単なるクリーチャーのダイレクトアタックがココまでのダメージになるとは。

 合計ダメージは……6700か。あと一発でもいいのが入れば敗北だな。

 俺はそのままバトルフェイズが終わったのを確認すると、速攻呪文を発動した。

 

「自動人形の複製を発動!! トークンを2体呼び出すぜ!!」

 

 半透明のデク人形が2体その場に出る。

 今後の展開のために、コイツらが必要だ。さっきのバトルフェイズに使っていては、無駄に終わるどころかダメージが増えていた。

 

「ほぅ。効果もわからないはずなのに、よくやりますね。

 貴方様の推理通り、黄金羊獅子アルゴラーンは相手クリーチャー全てに攻撃した上に、ダイレクトアタックできる。貫通効果まで持っていましてね……トークンを出しても無駄でしたよ」

 

 そう言って、吉田さんがピッとドライバーを操作すると、画面の靄が消えた。

 

 黄金羊獅子アルゴラーン

 クリーチャー 攻撃力3200

 ①相手クリーチャーを破壊した時、上回った分の攻撃力を相手に与える。

 ②相手クリーチャーを破壊した時、もう一度攻撃することが出来る。

 上記の効果は1ターンに何度でも発動できる。

 

「うるせぇな……」

 

 本当に、地獄界(インフェルダウン)との戦いは運が良かったのだと自嘲する。

 しかし──勝利の方程式は既に揃っている。

 

「俺のターン、ドロー……!!」

 

 なんとか、壁を支えに片足で立ち上がり、カードをデッキから引く。

 引いたカードが何であろうと関係ない。このファイトに運命なんて含ませない。

 

「俺は場にいる自動人形(オートマタ)トークンを生贄に、死滅自動人形(ネクロオートマタ)腐敗のエウリディケを上昇召喚!!」

 

 半透明のトークンが2つに割れ、その中から半身の腐敗した女神が現れる。

 その触手はさしずめ天使の翼のように。さながら蛹から成長した蝶だ。

 

「さらにバルメオの審判を発動する!!」

 

「バルメオの審判……!?」

 

「バルメオの審判はデッキからバルメオと描かれた呪文を墓地へ送り、その効果を場全体のクリーチャーに適応する!! 俺が送るのは……」

 

 バルメオの処刑台だ。

 自分の場にいるクリーチャーの数、対象の攻撃力を100下げる。

 対象が破壊された時、現在の攻撃力分のダメージを相手プレイヤーに与える。

 

 おかげで全クリーチャーが等しく200ポイント減少するが……これはオマケ。

 

「エウリディケの効果発動!! 墓地に眠る自動人形(オートマタ)クインテッドの効果をコピーする!! クインテッドは手札の速攻呪文をコストなしで使用できる!!」

 

 使うのはバルメオの燭台。

 自場のクリーチャーを対象にして発動できる。

 

 相手クリーチャーを破壊した時、上回った分の攻撃力を相手に与える。

 戦闘終了後、対象にしたクリーチャーを破壊する。

 

 これが俺の勝利の方程式。

 

「適応するのはエウリディケ自身だ!!」

 

「くっ……ということは……!!」

 

「ああ!! そうさ!! 2枚のバルメアの効果で、戦闘終了時お互いのクリーチャーが破壊され、その攻撃力分のダメージがアンタを襲う!! コレで終わりだ!!」

 

 互いのクリーチャーがぶつかりあい、激しい攻撃の余波が吉田さんを吹き飛ばす。

 俺は壁を支えになんとかその場に立ち続ける事ができた。

 

 その勢いが収まると、残ったトークンも消滅し、ドライバーが俺の勝利を告げた。

 見ると、吉田さんの体が崩れていく。俺は思わず片足でなんとかケンケンと歩いて駆け寄った。

 

「吉田さん……」

 

「貴方様の勝ちでございます……」

 

 そう言って1枚のカードを差し出してくる。

 先ほど合成で生まれたばかりのカード、黄金羊獅子アルゴラーンだった。

 

「わたくしはただ、優しい人達に囲まれて、楽しくファイトがしたかった……それだけだったんでしょうね……もうその資格はないのでございますが……」

 

「そんなことないさ! 闇の力を手放せば今からだって……!!」

 

 すっ、と吉田さんの手が俺の頬に触れる。

 吉田さんは憑き物が取れたような穏やかな顔をしていた。

 ああ、そうだ。こっちが彼の本性なんだ。

 

「貴方様のファイトで……人々に……笑顔を…………」

 

 けっして闇の力に振り回されていいような人じゃなかった。

 

「吉田さん…………」

 

「最後に一つ忠告を…………我々の首領エキドナは…………」

 

 ……今、エキドナって言ったか?

 

 全てを言い切る前に吉田さんは消滅した。

 安らかな表情をしたカードを一枚残して。

 

 だが、遺言はしっかり伝わった。

 相手の首領が使うのはエキドナ……ネストデッキ。

 

 そしてそれは────。

 

 ──────対策無しで勝てるような相手じゃない。

 




今日の最強カード

合成
基礎呪文
2体のクリーチャーを合成し、新たなクリーチャーを生み出す

黄金羊獅子アルゴラーン
クリーチャー 攻撃力3200
相手クリーチャーを破壊した時、上回った分の攻撃力を相手に与える。
相手クリーチャーを破壊した時、もう一度攻撃することが出来る。
この効果は何度でも発動できる。

自動人形(オートマタ)クインテッド
クリーチャー
1ターンに1度、墓地の自動人形(オートマタ)を取り除いていい。
そうした場合、手札の速攻呪文をコストなしで使用できる。

バルメオの審判
基礎呪文
デッキからバルメアと描かれた呪文を墓地へ送り、
その効果を場全体のクリーチャーに適応する。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

カドゲ世界で「このカードが君の所に行きたがっている」屋さんになった(作者:ユ◯ギさんみたいになりたい)(オリジナル:現代/冒険・バトル)

カードゲーム世界に転生したからには、一度はやってみたいことがある。▼「このカードが君の所に行きたがっている」と言ってカードを渡して去っていくやつ。▼折角なので、いっそこれを職業にしてみよう。▼そんな思いからカードショップ「このカードが君の所に行きたがっている」を開いた俺の元には、毎日いろんな客がやってくる。▼なにしろカドゲ世界は変人の宝庫。▼そんな彼らの元に…


総合評価:5339/評価:8.14/連載:5話/更新日時:2026年10月01日(木) 07:05 小説情報

カードの精霊が見えるプレイヤー相手に、『コントロール奪取』戦法をヤッたら絵面が酷すぎる件について(作者:コイントスは先行が良い)(オリジナル:現代/冒険・バトル)

なお主人公(素でカード愛が重い)に精霊の姿は一切見えないので、周囲とは致命的な温度差が生まれて、呪われたカードに取り憑かれた憐れな少女と勘違いをされたり。あるいは超危険人物扱いされたり、自分の存在に気づいてほしい厄ネタ満載の精霊がめっちゃハッスルしたりする――そんなお話。▼※カクヨム様にも投稿しています。


総合評価:6193/評価:7.91/連載:8話/更新日時:2026年10月06日(火) 19:05 小説情報

貧乳好きなのにカードの精霊達の胸が大きすぎる(作者:匿名)(オリジナル:現代/冒険・バトル)

カードで国境すら決める世界▼そんな世界に転生した貧乳好きのショタがおっぱいの大きなカードの精霊達に囲まれる話


総合評価:6881/評価:8.44/連載:9話/更新日時:2026年09月25日(金) 20:06 小説情報

特任騎士のオレの仕事は、暴れる王女サマを見ていることです(作者:月待 紫雲)(オリジナル:ファンタジー/冒険・バトル)

戦闘狂のエルゼ王女は今日も無双する。オレは見てれば良いという楽な仕事。▼王女が倒した魔物はオレが倒したことになり、オレの騎士としての評価が上がっていく。▼今朝もオレの魔物討伐のことが新聞に載っていた。▼そんな全然――戦ってないのに。▼……え? 剣の指南役? 王女様の? オレが??▼※カクヨム、小説家になろうにも投稿しております


総合評価:3539/評価:8.66/連載:42話/更新日時:2026年10月11日(日) 07:15 小説情報

【2章完結】女性だけが戦う世界で、脳内の特撮オタクが俺に「ヒーロー」を押し付けてくる(作者:maki@)(オリジナル:現代/冒険・バトル)

▼【 ――いいから黙って変身しろ! 俺の考えた最高のヒーローを見せてやる! ―― 】▼若い女性だけがその生命を燃やして戦う世界。▼『魔障対策局』の雑用係・神代蓮は、戦う力を持たない無力な男として、非日常を虚構に貶める日陰の仕事を淡々とこなしていた。▼だが、彼には誰にも言えない秘密があった。▼その脳内に人類の敵、【魔障】を飼っているということ。▼『戦う力』が欲…


総合評価:5232/評価:8.88/連載:25話/更新日時:2026年09月24日(木) 20:00 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>