精霊が切り札の世界で、俺だけ孤独に成り上がる 作:エクシーズ次元
013 疾風迅雷①
「これよりファイトパーティを始めるッッ!!」
近隣の体育館──その壇上にて、仮面を着けたキングさんがそう宣言していた。
体育館には多くのファイターがやってきている。コレが全てキングさんの知り合いなんだろうか。
俺は先日の疲れが抜けず、少しばかりウトウトとしていた。
精霊局にただの通りすがりとして連絡して、人々が封印されたカードや、闇の力で昏睡した子供たちを回収してもらったのだ。俺はと言うと、今度こそアルタイアを見られかねなかったので、やってきたのを確認したらそのまま逃げさせてもらった。
幸いにも足の骨は、吉田さんがカード化した直後に治っていた。
おそらく精霊は物理攻撃を得意としていないのだろう。影響下にいなければ、世界の修正力が勝手に治ってしまうような……だからカード化させるんだろうな。
ともあれ、俺は落ちた気分で諸々の事後処理を終えた。
疲れが残っていても仕方ないだろう。
「ファイト大会は午後の部からスタートする!! しばらくはフリーマーケットを楽しんでくれぃ!!」
……というわけで始まったファイトパーティ。
しかし俺は体育館の隅でうとうとと眠りこけていた。
なんかむにっ、としたものが横からのしかかってくるな。
ほのかに温かいし……。
目を開くと、隣には姫宮さんが体重をかけてこっちにくっついていた。
「ずいぶんお疲れね?」
その手にはたこ焼きと焼きそば。
そのうち、たこ焼きを1つ爪楊枝で刺して口に放り込んできた。
……めちゃくちゃ熱っ!?
「昨日、とても忙しかったんでね……」
「聞いてる。精霊調査官を倒したそうじゃん。とんでもないね」
姫宮さん、精霊局と縁が強かったと思うが、やっぱり調査の報告は聞いているのか。もしかしたら今回の件に深く関わっているのかもしれないな……よし、誤魔化しておこう。
「一方的に喧嘩を売ってきただけですよ」
「ふぅむ」
無言でさらなる体重をこっちにかけてくる。
端から見たらカップルがイチャイチャしているように見えるんだろうか。
ちょっとやめてほしいかもしれない。
「このまま寝ていたらもったいないですね。屋台でも回っていきましょうか」
そう言って立ち上がる。
姫宮さんが俺の足にしがみつきつつもずれ落ちていく。最終的に床に寝転がった彼女に手を貸し、起き上がらせると焼きそばとたこ焼きを食べながらフリーマーケットを巡ることにした。
なるほど、精霊憑きのカードなんかは流石に売ってないが、SSRの呪文やSRのクリーチャーなどがコンスタントに売っている。けっこう値段しているが……もう少し財布に金を入れてくればよかったな。
「貸そうか?」
売っている呪文とにらめっこしている俺に対して、そんなことを言ってくる姫宮さん。その手には新たにりんご飴が追加されていた。
「カードを? 金を?」
「どっちでもいける」
「遠慮しときます……」
絶対に返すにしたって、この女と金の貸し借りなんてしたくない……!!
しかしカードだけじゃなく、ファイト・ウィザース関連作品の物販とか色々あるな。
おっ、幻月のメタルキーホルダー。
魔法陣が描いててお洒落だ。買っておこう。
「アタシもなんか欲しいな~~」
「買ってはいかがですか?」
「こういうのはプレゼントされたいんじゃん。わかってないなぁ」
「……ちなみに何が欲しいんですか?」
「そう言うのを選んでもらうのが嬉しいんじゃん」
要望の多い人だ。まったく……。
適当にそこそこ安くて普段遣いしても、恥をかかない感じのモノ。
────あ、日輪刃のメタルキーホルダーもあるじゃん。
これ、けっこうかっちょいいんだよな。太陽の形をいい感じにデザインしてて。
これをくれてやろう。
「じゃあ、はい」
「えっ、太陽と月ってなんか夫婦みたいじゃん」
「そんなこと言うならあげませんよぉ!?」
「冗談、冗談。ありがたくもらっておくね」
嬉しそうに微笑みながら、首元に吊り下げていたチェーンに繋いでいる。
お気に召したようで何よりだ。
金属でできたローダーもくっついてるけど、それはお守りか何かなの?
……なんて感じでうろついていると、佐条兄妹を発見した。
ずいぶん食い物を抱えている。舞夏さんなんてリンゴ飴にかじりつきだ。
かなりエンジョイしているようで何よりである。
「やぁやぁ!! こういうお祭りって楽しいね!!」
「伊綱か……今度ファイトしろよ」
「多分午後からやりますよ」
「それは楽しみだ。俺も鍛えてきたからな」
「兄さん、一人回ししてただけじゃん……」
相変わらずの佐条兄妹である。
そのまま四人でフリーマーケットを回ることにした。
「おわーっ!! 見て!! リリスアルマのパペット人形!!」
「おい、それくれよ」
「それをくださいでしょ、兄さん」
「しかし……何に使うんだ? ファイト時には何の効果もないぞ?」
「SNSにこれを動かした動画を投稿するんだよ? 最近の流行りなの。ほら」
「なん……だと……」
二人はこういうイベントに係るのが初めてのようでずいぶんはしゃいでいる。
そんな様子を姫宮さんと楽しそうに眺めていると、唐突に背後から抱きつかれた。
非常にムッチリとした感触。女の人か……!?
隣に立っていた姫宮さんも巻き込まれている。
このデカ乳は……!!
「やっほ~~!! 楽しんでる? 皆~~~~!!」
タートルネックに片目隠れの銀髪。やはり店長である。
その手には缶ビール。どうやら既に飲んでいる雰囲気だった。
「店長……既に出来上がってますね……」
「当たり前じゃない!! 今日はめでたい日よっ!!」
「タダのお祭りですよ」
「そうだっけ? ドンドン気楽に楽しんでいこー!!」
…………などと駄弁りつつ、遊んでいたらあっという間に11時。
俺達は大会前のデッキ調整をするために一旦離れることにした。
特に、俺はおそらくやってくるであろうエキドナへの対策を練り込まなければならない。
ウエストポーチから持ってきたカードを展開し、デッキへと加えたり、デッキからカードを抜いたり刷る。できれば終わった後に一人回しや対戦などして調整したいところだが、時間がない。
「なにしてんの?」
姫宮さんがずけずけとこっちにやってくる。
既に調整は万全のようだ。しかしなぜこっちにやってくるんだ。
デッキ調整中なんだって。
「おそらくですが闇の勢力がやってくるでしょう。そのための対策です」
「その対策って全員に共有しないで大丈夫そ?」
もちろんそれも考えた。だが、答えは否だ。
「デッキパワーはかなり落ちますが、対策への対策なんて簡単ですよ。皆さんには普段の環境を構築してもらいつつ、誰も勝てない時に私が止めます」
それにネストデッキの知見が無い者に今から説明しようったって難しい。
対応にはかなりの時間と理解を要するのだ。
…………よしんばカードにされても、すぐに助け出せばいいことだしな。
姫宮さんは俺の発言にふぅん、とだけ呟いてやっぱり隣に座ってきた。
デッキ構築が丸見えだからやめてほしい。俺は急いでそれを集めて隠した。
「見せてよ」
「このあとファイトする相手でしょうが!!」
しっしっと追い払い、構築を再開。
ギリギリ構築が終わったところで、キングさんが再び壇上に上がる。
ようやくファイト大会が開催されるようだ。
「それではファイト大会のルールを説明する!!」
そう言って、上部からスクリーンが降りてきた。
けっこう煩雑な説明なのか?
「参加者には一つ星バッジを与える!!
各々同じレベルのファイターと戦ってくれ!!
勝てば相手のバッジを貰える!!
一つ星二つで二つ星バッジに昇格するぞ!
受付で貰ってくれ!!
二つ星バッジは二つ星バッジ同士で……
これもまた勝てば、三つ星バッジに昇格する!!
三つ星の次はキングバッチ!
コレを所有しているものはこの己と戦う権利を得られる!!
バッジを失っても受付で再度、一つ星を貰えるぞ!!
制限時間は夕方5時まで!!
それではキング目指して頑張ってくれ!!」
ふむ、ちょっと風変わりな勝ち抜け戦だな。
負けてもすぐやりなおせるってところがパーティ向けのルールだ。
ルールを理解したファイターたちはさっそく一つ星バッジを手にして、それぞれの場所でファイトを始めていた。体育館だけじゃスペースが足りないので、外にまで出向く者もちらほらいる。
あんまり広いと闇ファイターが何しているかわかったもんじゃないんだが……。
「よし、伊綱とは三つ星のときにでも戦おうか。じゃ」
一方的にそう言って、隣に立っていた姫宮さんもパーッと去っていった。
さて、俺も様子をうかがいつつ誰かと一戦していくか……。
「よっ」
体育館をうろついていると、見知った顔が現れた。
燃え盛るようなオレンジ髪の同級生。
愛嬌のある狐顔で糸目なのは──赤羽くんだ。
今日は制服ではなくジャージ姿である。
「赤羽くんも参加してたんですか」
「ああ、寝坊して今来たんや。今の、彼女?」
「いえ……」
そう言うと、赤羽くんがドライバーを右腕に装着した。
闇の気配は感じない、が少しばかり怒っている感じがする。
「そういえば部長助けられたらしいで? いったい誰やろなぁ」
「知りませんよ……!」
困るよ、勝手に助かった人間のことまで俺のせいにされちゃあ!!
俺がそう抗議の意思をドライバーを装着して、表す。
調整したデッキの試運転……赤羽くんには悪いが、試させてもらうぞ。
「でも精霊から見放されたんやって。当然やな、闇のファイター相手に負けりゃあ」
「そうなんですか?」
「ひゃはは!! ええ気味やでほんま!! 週明けが楽しみやわ!!」
「まぁまぁ。それじゃあ今日は無礼講ということで──────」
「「ファイト!!」」