精霊が切り札の世界で、俺だけ孤独に成り上がる 作:エクシーズ次元
「店長、マグネットローダーをくれませんか?」
マグネットローダーとはカードを保護するためのアイテムだ。
見た目はプラスチック製の透明な額縁という感じで、スリーブよりも固く、試合には使えなくなるがより防護性能は高い。普通に前世でも100均とかで買えたはず。
「あいよ。高いやつ?」
とはいえ、ローダーにも質というものがある。
今回は100均ではなく、カードショップのお高いものを買わせてもらおう。
「まぁそこそこレアカードが剥けたのでね」
そう言って、パックから引いた”幻月のアルタイア”を見せる。
店長がそれを見て、ガバッとカウンターに身を乗り出してきた。
「”幻月のアルタイア”!? しかもパック剥きたて!? 200万は固いよ!?」
胸がブルルンと揺れる。相変わらずのナイスバディだ。
銀髪で片目を覆う彼女のファンと名乗る客はけっこう多い。
もちろんアニメで見たことはない。
というかアニメキャラ出てきたことないんだよな。
この世界、カードゲームアニメ風なだけで、原作とかはないのか?
……それとももしかして新作シーズン?
シーズンが変わるとキャラとか一新されるからな。
だとすると原作知識も何もないんだけど。
別に俺はカードゲームしたいだからいいっちゃいいんだが……。
それよりも問題はこのカードだ。
「売ってしまってもいいんですけどね」
そもそもパックからSSRを剥くことすら非常に稀なのだが、俺はレアカードが大好きだ。なにせ箔が付く。弱いファイターだろうと、デッキのレアリティを上げるだけで周りから認められるというのは、前世でも今世でも共通の事象だった。
単純に持ってても気分がいいしな。
カードコレクターとしての血が疼くところだ。
「まぁ使い所はあるでしょう。キーホルダーにでもしておきますよ」
『ふざけるな』
落ち着いた、威厳のある声が脳に響く声。
それが明らかにこのカードの精霊が発していることは、俺でもわかっていた。
『我々精霊は戦の中で競い合うものだ』
(しかし私に使われるのは嫌なのでしょう?)
なんとか敬語風に思念を送るイメージをしてみる。
これで通じるかどうか。
『おまえの素性など知っている。慇懃に振る舞っているが、内実は下衆』
まぁ、俺の心が読めるならそりゃあそうか。
一応、友達減らさないために紳士的なつもりなんだけどな。
『そんな者に使われる気などない』
(でしたら私のところに来たのが間違いですね)
ということでマグネットローダーに封入。
腰のウエストポーチにでも吊るしてやるかと思ったが……。
店長がわざわざ首から吊るすためのネックレスを持ってきた。
「なんですか? レアカードを首から吊り下げろとでも?」
「お守り代わりにそうしている人も多いよ?」
「まぁ実際精霊が宿っているわけですからね……」
効果の程もうかがいしれよう。
精霊たちにはたまったものじゃないだろうが。
しかし流石にそれは恥ずかしいので胸ポケットに入れておくにとどめた。
こうしておけば、いつでもトレードなどの時に引っ張り出せるからな。
そうでもなくてもアンティとか非合法なファイトを仕掛けてくる者が多いし……。
ま、ある意味お守りということだ。
使うレアカードより、使わないレアカードを手放すほうがダメージは少ない。
「やっぱり使わないの?」
「本人が嫌がってますからね。ま、しばらくすれば本当の持ち主のところへ行くでしょう。ごく自然に。精霊とはそういうものだと聞いています」
「”幻月のアルタイア”は呪文使いのところに来やすいと聞くけれど……」
ああ、確かに呪文捌きだけならば、前世でだってそうそう負けなかったが。
現に俺のデッキにはレアな呪文ばかり入っている。
その気配につられてパックから出てきたのだろうか。
「チェッ、いいな伊綱くん。いいカード引けて」
……などと店長と話していると、舞夏さんが近寄ってきた。
そろそろ日が暮れるような時間帯だ。
帰宅時間を考慮すると女子高生は帰るべき時間なのだが。
家が近いんだろうか。
「大会に出た甲斐がありましたよ」
「僕のカードと交換しない?」
「よほどの呪文カードなら考えますがね……」
別に今欲しいカードはないし。
しかし真に受けたのか、舞夏さんはカードケースを取り出して色々見繕い始めた。
二百万以上のレア呪文なんてそうそう持っているわけがないのだが。
「この呪文なんてどう!?」
「”ハーピィの息吹”? 七枚は持っていますよ」
「う~~~ん、じゃあこれ!!」
「”サメ竜巻”はこの間規制されたじゃないですか」
「そうだっけ?」
「精霊局の公式サイトぐらい見ています」
精霊局。要はこの世界に置ける”ファイト・ウィザーズ”の運営だ。
単にカードを刷るだけでなく、精霊たちにお伺いを立てて運営する……。
しかし時折、彼らが練り込んだ呪文は規制され封じられることがあった。要するに精霊たちは自分の活躍を著しく妨害するような呪文には存在してもらいたくないのだ。
「もうちょっと使いやすい呪文がいいんですがねぇ」
「う~~~ん、う~~~ん、でもそーゆーのは大抵デッキに入れちゃうしなぁ」
「でしたらトレードは難しいでしょうね……」
そもそも”
エースである銀剣のレイピオルのように、敵を倒すことで発動する効果が多いのだ。
それを見越した俺は前回の戦いではあえてそれを誘発する立ち回りをしていた。"バルメオの処刑台"を始めとして、ここぞと言うときにハメるつもりだったのだ。
コストが重く、強力な呪文を墓地に送ってでも使いたい……例えば直接火力の多いバーンデッキなどならば必須級だろうが”
ま、せっかく出たレアカードにときめくのはわかるけれども。
……なんて考えていると、一人のおっさんが話しかけてきた。
「ガハハ!! 嬢ちゃん家は一駅向こうだろう!? そろそろ帰らないと混むぞ!」
「あ、キングさん。平気だよ、兄さんが迎えに来るから」
自称”キング”であるジョーさんだ。
アメフトでもやっているのかというぐらいのムチムチ筋肉と、金髪が売りの男。
ファイト・マッスルとかめちゃくちゃありそう。
「そりゃあ良かった!! ところで伊綱。一戦していかないか?」
「なぜです?」
「貴様とやり合わなければ、大会に出た気がせん」
「流石に疲れましたよ、私も。また今度にしましょう」
立体映像に比べれば味気ないが、最近はリモートファイトだって出来る。キングさんとは一応連絡先を交換しているのだから、わざわざ今日やり合う必要はない。
そう思っていると、キングさんは声を潜ませこちらに囁いてきた。
「そういえば気をつけろ。最近は闇ファイターなるものが出没しているらしい」
「ああ、たしか負けると昏睡状態に陥るという」
「しかも精霊の入ったレアカードを奪うらしい。伊綱は精霊憑きでなかったから伝えていなかったが……うちのサークルでも何人かやられている。気をつけろ」
たしかキングさんは王国研究会というのを作っていたかな。
キングさん好みのデッキテーマ数本に絞って研究する、キングさんのための研究会。
俺も誘われたけれども、精霊を扱えないから断った。
精霊を無理やりデッキに入れるとどうなるか。
普通に出てこない。カードがデッキの底に沈むのだ。
仮にデッキの全カードを精霊憑きにした場合どうなるかと考えたことがあるが、やっぱり確率がぐちゃぐちゃになりそうだし、手間賃も激しいのでやめたことがある。
それぐらいには、非適正の精霊はデッキの底に沈んでしまうのだ。まったく面倒な……とはいえ、おかげで色々なデッキ使いが存在するし、戦えるわけなのだが。
「ありがとうございます。まぁ、いざとなればコレを渡して逃げますよ」
もう少し駄弁っていても良いのだが、俺は自転車でココに来ている。
あんまり暗くなると、道のほうが危険だ。早めに帰るとしよう。
俺がそう判断し、店を出ようとすると……。
「あ、伊綱くん。連絡先交換しない?」
…………と舞夏さんが話しかけてきた。
決勝戦の時に、可哀想な立場とかなんとか言ってたのは覚えてないのだろうか。
精霊なしをナチュラルに見下してるだけで、手に入れたからOKってことなのか。
ま、いいか。”わからせ”が成功したと思えば。
「では交換しましょうか。女性の連絡先なんてあんまり知らないから緊張しますね」
「あはは! そんなこと言って~~」
「それではまた機会があればお会いしましょう」
そう言って、俺は店を後にした。
現在の登場人物
伊綱 士郎 いつもニコニコしてる。茶髪。
佐条 舞夏 黒+赤ポニテ。ちょっと生意気。
"キング"ジョー 金髪筋肉マッチョ。面倒見がいい
店長 銀髪は脱色してる。ネットミームが好き。