精霊が切り札の世界で、俺だけ孤独に成り上がる 作:モナカパウマン
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「俺、カードショップ店員向いてないな……」
カードショップとは、精霊にとってのマッチングアプリである。
そんなカードショップの店員とて向き不向きがある。
例えば、俺のように精霊に嫌われやすい体質だとそもそも高額SSRを買い取る事が出来ない。精霊を手放す、と言っても大半のファイターは精霊が嫌うようなショップに売らないからだ。
誰だって評判の悪いマッチングアプリを利用したいなどとは思わない。
いや、したことないけどね。俺。少なくとも今世では。
店長が集めていた精霊たち以外は、ろくずっぽ売れるシングルもない。
早くも俺は、カードショップ店員であることに絶望を感じていたのだった。
かと言って千草さんは、表に出てこないし……。
今だって、なんか姫宮さんのドライバーを弄っている。
フリークスを再開して、大体1週間前後が経った。
常連客も噂を聞きつけポツポツと戻ってきているし、その中にはキングさんや姫宮さんなどの姿もあった。もっとも姫宮さんが来るのは今日で2回目。1回目にSIM関連の改造がこっそりできるという話があって、急遽こんなことになったのだが。
「ほい、SIMカード入れたんで、これで通話とかネットワークにも繋がるスよ」
「おお、ありがと。これで伊綱とも通話し放題だね」
…………なんか、俺に影響がありそうなことしていた。
いや別に、姫宮さんと連絡先を交換したくないわけじゃないが。この人、マジで束縛キツそうなんだよな。友人としてなら良いが、彼女としてはハッキリ言って怖い。
しかし、まぁなんだかんだ闇のカードから解放されて良かった。正直、店長を倒したのだって姫宮さんがカード化されていたからというのが8割ぐらいの理由だし
さて、そんなドライバーの改造が終わった姫宮さんがこっちへとやってきた。
世間は六月末。清楚感のある半袖ブラウス姿に、薄い金髪のロングヘアー。
やはり黙っていると清楚な美少女に見える。
「というわけで伊綱、連絡先を渡しなよ」
「電話番号ですか? メールアドレスですか?
ちなみに
皆がだいたい使っている。今やメールよりも安易な通信手段である。
「え? よくわかんない。全部」
「わかりましたよ……」
ドライバーの通信機能を使って、諸々を送り合う。姫宮さんがそんなことに詳しいわけがないので、俺が全部やる羽目になった。しかしドライバーなら元々持っているとは言え、実家の人たちにバレる心配はないんだろうか。
「はい、姫宮さん。実家の人たちにバレないでくださいね」
「学校とかでしか使わないよ、うん。いやぁ~~いいね、付き合ってるみたいで」
「付き合った覚えはありませんが……」
あいも変わらず妄言を吐きながら、アップグレードされたドライバーを嬉しそうに眺めている。まぁ……そこまで喜んでくれるなら良いんだが……。
あ、そういえば姫宮さんに言いたいことがあるんだった。
「もしかしてぇ……自爆戦法、告げ口しました? ルール改訂されたんですけど」
「やってくる闇ファイターが出たみたい。ちょくちょくその前から使ってるファイターもいて……そんでようやくって感じかな。アタシはなにも言ってないよ。結界内のログは何も残ってなかったし」
「ふぅむ……」
まぁ、前世でもルール改訂されて消滅した戦法だ。
俺以外に辿り着いてやる人間が皆無だと言われると、嘘になる。
それに────そういう人間はおそらく闇側の方が多いだろうからな。
「まぁ、いいでしょう」
正直、あれに頼ったプレイングは健全とは言い難い。
前世でもそういう認識があふれたから、ルール改訂にまでなったのだ。
「そういえばそろそろ7月に入るじゃん」
「ええ、それがなにか?」
「天下市、一緒に行かない?」
「なんですか、それは」
聞いたことも何もなかった。
天下一のファイターでも決める大会なのか?
流石にそんなのがあったらチェックしてるはずだが……。
それに気づいたのか、姫宮さんはポリポリと頭を掻いた。
「ああ、退魔師のフリーマーケットみたいなもの」
「退魔師って姫宮さん家以外にも残ってたんですか!?」
そもそも姫宮さん家もまともに活動してたのか。
なんかかつては退魔師として活動してた伝説のご実家みたいに思ってた。
「失敬な! 名義上はそれなりに残ってるよ。退魔師としての活動はほぼ精霊局に奪われたんだけど……」
「じゃあやっぱり廃業してるじゃないですか」
「資産とか権力ばっか残ってる家が多いんよ。うちみたいにさ」
なるほどね……。
名義としては存在するが、実際は精霊局に仕事を奪われて消滅したわけか。
そりゃあ品行方正な俺が知らないわけだ。
「しかしそれほど金銭は持っていませんよ」
そりゃカードは欲しいが、俺だって金欠というものが存在する。
ただでさえ、ファイトパーティでそこそこレアカードを購入したのだから。
しかし千草さんが許してくれるのであれば、店の資金でレアカードを買うのも手かもしれない。
「買い食いできる出店もあるし、なんなら賭博場やオークションだってあるよ」
「賭博を勝手にやるのは違法では?」
「景品用のチップを奪い合うだけだから」
なんか聞いたことのある言い逃れだった。説明からして、なんとなく権力が強い人が集まってきそうだし、捕まる心配はほとんど無いだろうが……。
「しかし何故俺を誘うんです?」
「アタシの好意だけど。レアカード好きでしょ。買わなくても見れはするし」
なんか依頼でもしてくるのかと思ったが純粋な好意か。
ふ~~~む、と頷き、それとなく千草さんに目線を向ける。千草さんはそれを聞いていたようで、カウンターにその胸を載せて、頬杖を突いている。
しかし……まるでおもちだな……。
「いいスね。伊綱くん、予算あげるから安くレアカードを仕入れてきてほしいスよ」
「そんな……!」
「嫌ならいいスけど」
……まぁ、たしかにこうまで頼まれたら行かない道理はないが。
店のためには結局レアカードを集めないといけないし。
なにより、けっこう楽しそうだしな、天下市。
「…………いいでしょう、行きましょうか。天下市」
「いえー」
気だるげに両手を上げる姫宮さん。
照れくさいのか、顔がちょっと赤く染まっている。
「ちなみに7月のいつです?」
「22日」
大体、終業式のあとぐらいか。
夏休みは団体戦で忙しくなりそうだが、まぁ1日ぐらいなら問題なかろう。
そんなふうに話していると、姫宮さんが思い出したようにポン、と手を叩いた。
「あっ、舞夏ちゃんの連絡先も教えてほしいんだけど」
「ああ、でしたらLIMOでグループ作りますよ」
「へぇ~~~~舞夏ちゃんのLIMOも知ってるんだ?」
「そりゃあ知ってるでしょうよ……!!」
そこで嫉妬するの止めてほしい。
情報=武器であるファイターが
なんなら遊季さんのもキングさんのも知ってるからな!!
俺たちの様子を見て、千草さんがにんまりと微笑みかけてきた。
「姫宮ちゃんと伊綱くんって付き合ってるんスか?」
「まだ」
「別に付き合うなんて一言も言ってませんけどね」
「こいつほら、ツンデレだから」
「おや、あーしには優しいんスけどね」
「興味なかったら誰にでも優しいよ~~こいつ~~」
姫宮さんと千草さんがお互いに笑顔になって向き合っていた。
はははは、仲良さそう……うん。
そんな中、煽るかのように千草さんが俺にわざわざ声をかけてきた。
「そういえば伊綱くん、今日の夕飯何にするスか?」
「え? あ~~カレーにでもしときますか」
「なんで夕飯一緒に食う話してんの?」
露骨に目を細めて、こっちを睨んできた。
姫宮さん、女の子がそんな顔をしてはいけませんよ、という感じだ。
「普通に住み込みでバイトしてもらってるスからね。同棲スよ、ど・う・せ・い」
「はぁ~~~? アタシの家に住めよ」
「ご実家の人たちが絶対に許さないでしょうが……!!」
そもそも付き合ってもない相手を実家に泊めるんじゃないよ。
いや、まぁ姫宮さんのご実家は相当デカそうだけど。
「次期当主候補って言えばいけるよ」
「いやいやいやいや」
「だってアンタの親父は精霊局の……」
そこまで言って、姫宮さんはしまった、と言わんばかりに口を塞いだ。
あからさまな失言だと感じたのだろう。しかし俺も転生者である。
学生ならウダウダ悩みもするんだろうが、いまさら親との不仲でどうこうというわけはない。
「別に気にしてませんよ。親から失望されることなんてよくあることでしょ」
そう、俺は実の父親に失望されている。
天才のファイターと期待されていたのだ。当然だ。転生者だもの。
しかしいつまで経っても精霊がつかないことに気づいてか、ある時期からファイターとして与えられたキャリアは剥奪されたのである。それはいわゆる精霊局での出世コースだった。
「このご時世、精霊局に勤めるのに精霊がいなけりゃあ難しいでしょう」
「でもさぁ、5月ぐらいに受けた事情聴取だって……」
親父の力でなんとでも出来ただろう、と言いたいのだろうか。
実際そのとおりだと思うが、あれは末端が暴走しただけだろう。
それに……。
「そういうのが嫌いな人ですから」
俺よりもはるかに納得のいってないという顔をしている姫宮さん。
もちろんただショップで知り合っただけの相手にこんな事は言わない。
つまるところ、姫宮さんは俺が小学生からの付き合いなのだ。
いわば精霊局のスカウト枠。幼少期から選ばれた生え抜きのエリート。
しかし、結局俺は精霊が扱えず、精霊局に通うこともなくなった。
めったに家に帰ってこない親父とも疎遠になり、中学生になってからもっぱらこのフリークスに通い詰めることに。わざわざ家から遠い所に通い出したのは、この店がそこそこに評判が良かったことと……
────ものすごく強いファイターがいると聞いたから。
それが知り合いだったとは、夢にも思っていなかったけど。
「…………そう言えば、事情聴取の際にファイトけしかけた娘いたじゃん?」
「ああ……」
そんな娘がいたような気がする。氷結騎士の使い手だったかな。
「ずいぶんアンタにお熱なようで、この店教えたんだけど……」
「なにやってるんですか」
……などとぼやいているとチリンチリン、と玄関のベルが鳴った。
そこには蒼銀の髪を伸ばした、白いワンピース姿の少女がいた。
頭には麦わら帽子。背は低く、胸はその細いウエストを隠さんとばかりに大きい。
っていうか、なんか男が見る夏の幻想から出てきたような美少女だな……
「あ、あの……っ、伊綱さん、お久しぶりです……っ」
イメージ通りのか細い声でおどおどと喋る少女。
う~~~ん、ある意味こんなカードショップには不釣り合いな娘だ。
「えっ? 初めて会いましたよね?」
「………………テメ、覚えてろっつったよなァ!?」
雄叫びを挙げられて気づいた。
そう彼女は────
あの氷結騎士の使い手、精霊局の人間……氷雨礼だった。
対戦型クローズドSNS。通話もショートメッセージもこれ一つで可能。
ドライバーと連携してリモートファイトだって出来るのだ。圧倒的にすごい。
グループ機能が存在し、何人でも同時に話せるのも特徴。
マスコットキャラクターのリーモくんには「キモい」「生まれてきたことが間違い」「頼むから死んでくれ」などの熱烈なお便りがいつも届いているぜ!! グッズは爆売れしている。