精霊が切り札の世界で、俺だけ孤独に成り上がる 作:モナカパウマン
「………………テメ、覚えてろっつったよなァ!?」
女子にあるまじきドスの効いた声である。
しかしそう言われても目の前の美少女と、あの威圧的な捜査官が簡単に結びつかなくても仕方ないと思う。なにせ相手は男の理想を具現化したような白ワンピに麦わら帽の美少女なのだから。
「すいません、あまりにおめかししていたので気づきませんでしたよ」
俺がそう言うと、氷雨さんは顔を赤らめ俯いてしまった。
なんか「いやこれは……」とか「別にテメェのためじゃ……」とかゴニョゴニョ言っている。
「なぜそんなおめかしを? 今日は捜査に来たんですか?」
「個人的に会いに来るっつっただろうがッ!! 報復しにきたんだよッ!!」
「しかしそんなおめかしする理由は1ミリたりともないですよね?」
「し、私服がないから御手の奴に適当に見繕わせただけだッ!!」
御手……一緒にいた巨漢の捜査官だろうか。
もしそうなら大雑把そうな見た目の割に服装センスがいいと言わざるを得ない。
しかしなんでさっきから麦わら帽子のつばを握って、顔を隠しているんだろうか。
下から覗き込むと、顔を真っ赤にして目をそらした。
「じゃあバトルですか? 私は構いませんけど……」
「……!! へへへ、話が早ェ。待ってろ、今ボコボコにしてやるッ!!」
「ところで、デッキとドライバーはどこに?」
「……………………」
そう、明らかに手荷物を持っているように見えない。
本人も今しがたそれに気づいたのか、自分の間抜けさに嫌気が差したようで壁に向かって軽く頭突きをし始めた。「御手の野郎、ハメやがったな……」などと呟いている。
「いっぺん帰っては?」
「フンッ!! 閉店時間には迎えに来るとよッ!!」
「閉店時間までは帰る手段もないということですね……」
まぁプレイスペースもあるし、適当に座らせて軽食ぐらい与えてやれば大丈夫か。いや、待てよ。いきなり疑ってファイトを仕掛けてきた相手になぜ俺は優しくしようとしているんだ? ここは店から放り出し、夏の幻影みたいなこの少女を路頭に迷わせるのが正しい報復ではないのか?
じっ……とその相手を見つめる。
何を考えているのか、まるで理解できないのかきょとんと小首をかしげた。
サファイアのような瞳が丸々と輝いている。う~~ん、本当に面だけはいいなこの娘。
「なんだァ? ウチの顔になんかついてんのかよ」
「いえ、追い出したらどうなるか考えてただけです」
「……………………」
氷雨さんの顔が引きつる。生殺与奪権を握られていることが理解できたのだろう。
もっとも相手は乳以外は14歳ぐらい。中学生かもしれないような風貌だ。
まぁお胸に重要文化財がついているが。
「氷雨さんはもしかしてファイト・チルドレンの方ですか?」
「おお、よく知ってんな。あ! ってことはテメェもチルドレン……なら勤めてるはずだよな?」
「元ですよ。小学校まではそうでしたが、精霊が使えないからクビにされたんです」
ファイト・チルドレン。
それこそが精霊局での出世コースであり、齢10歳にも満たない天才ファイターたちが選ばれるような集団だった。彼らは超法規的に捜査官としての権限と精霊局への絶対服従を命じられる。
もちろん何の法的効力もないが。大抵の場合──。
親が精霊局の人間だったり、精霊局そのものだったりするため逆らうことができないのだ。
しかし、俺の時は一部カードの独占までやっていなかったのだが……。
ずいぶんと内部事情も様変わりしてしまっているようだな。
「ギャハハハ!! じゃあなんだ? テメェも親に捨てられた口か?」
「まぁ半分はそうでしょうねぇ」
人によればブチギレかねないような発言だが、俺は転生者。
今世の親に見捨てられようと、あまりなんとも思わない。情がない相手ならなおさらだ。
「…………ずいぶんと偉そうだね、氷雨ちゃん?」
俺たちの会話を聞きつけ、姫宮さんがやってきた。
むすっとした顔をして、氷雨さんのほっぺたを両端から抓り出している。
氷雨さんは抵抗して、引き剥がそうとするが体格差ゆえに姫宮さんのほうが強い。
「げっ!! 姫宮!! こんなところにいんのかよッ!!」
「お知り合いですか?」
「精霊局でちょくちょく仕事するからね。顔見知り程度だけど。こいつ生意気でしょ」
「ええ……まぁ」
「ぶん殴っていいから。誰も気にしないよ」
「人を殴るのは良くないかと……」
さすが姫宮さん、苛烈である。
氷雨さんはそのまま姫宮さんに羽交い締めにされた。
もはや何の抵抗もできなさそうだ。
「ていうか結局、この間のティフォンの蛇たちに伊綱は関係なかったじゃん。謝りなよ」
「な、なんのことですかぁ……? ウチは取調べしただけですぅ……ふぇぇ……」
「カード化するとか脅して無理やりファイトしたって聞いてるけど? 状況証拠では禁止されてるし、そもそもそうやって脅しつけるのも規律違反なんだけど?」
「チッ、うっせぇな。そういう生ぬるい捜査してっから精霊狩りも捕まえられねぇんだろが……あああああああああああああ!! ちょ、ちょ、ギブッ、腕はそっちに曲がらなぁあああああ!!」」
姫宮さんがキレて氷雨さんの関節を逆方向に曲げ始めた。
このままだと本当に折れそうな雰囲気だ。流石に止めるか……。
「まぁまぁ、結局ファイト一戦しただけですし……」
姫宮さんが氷雨さんを離すと、庇ってもらえると判断したようで氷雨さんは俺の背後に隠れた。
べーっ、と姫宮さんに舌を出して挑発している。このアマ。
俺は思わず溜息をついてしまった。
「まったく、親御さんはどういう教育を……」
「ハァ? 親なんていねぇよ。いやなんか北欧系のいやらしー店かなんかで働いてるって聞いたけど。顔もろくに見たことねぇ」
「それは……」
本当なのか確認しようとして、姫宮さんの方を見る。
肩をすくめている。呆れたような、諦観したかのような雰囲気だ。
「氷雨ちゃんはその精霊との同調率の高さから、精霊局が引き取ったチルドレンなの」
「ええ……」
「流石にいやらしー店で幼少から働かされるよりマシでしょ」
まぁ……そういう、あんまり法を守らない良くないたぐいの店、ということか。
精霊局はなんだかんだ国の公的機関だ。民間よりはしっかりしている……と思いたい。
「ちなみに氷雨ちゃんのデッキを持ってきたとしても職務外では使えないはずだよ」
「本来まだ発表されてないカードが入っているからですか?」
「さすが伊綱。カードのことは何より詳しいね」
姫宮さんが何故か自慢げに微笑む。
遊季さんが使っていたが、アレは緊急時。
闇ファイターの結界内ならば問題なく使えるのだろう。
逆に言えば、おそらくそうでなければ遊季さんでも普段使いはできないはず。
だって、ドライバーにデータが登録されていないんだから。
そんなことを無視して無理やり稼働させているのが、精霊の力────ということだ。
こういった恩恵を受けるためにも精霊憑きであることは必須だった。
「ええ~~じゃあウチ戦えないじゃん!!」
「そもそも伊綱と戦ってどうするの?」
「スッキリする!!」
自慢げにそう言って微笑む氷雨さん。
俺に突っかかってきた時はムカついたが、元チルドレンとしてはその境遇に同情してしまうところもあるし……仕方ない。デッキぐらい準備してやるか。
仕事以外に趣味のデッキを持ったってかまわないはずだしな。
「でしたらうちでデッキを購入するのはいかがでしょう?」
「でも今日、金持ってきてないぞ」
「本当になにをしに来たんです?」
こいつ、俺にデカい乳を見せに来ただけなの?
これじゃあ許してやることはできませんねぇ……。