精霊が切り札の世界で、俺だけ孤独に成り上がる 作:モナカパウマン
「テメェらは酷すぎるッ!! 少しは手加減しろッ!!」
そう言いながら、カウンター奥にあるモニタールームで食事をする俺たち。
既に夜八時を超えていて、俺たちは少し遅めの夕食を食べていたのだった。
と言っても、簡単なサンドイッチ。焼いた食パンに卵とハムを乗っけた簡素なものである。しかしそれを2人は文句も言わずにもしゃもしゃ食っていた。
まぁ、いままでのファイトの文句は言っていたけれど。
「途中から多少は勝てるようになって、最低限の権利は取り戻せて良かったじゃん」
「最後の方なんて二足歩行まで奪われていましたからね……」
「うう……」
もちろん姫宮さん流の冗談だとはわかっているが、あまりにも酷い。
最後にはノーサイドとして賭け事での諸々はなかったことにしたのだった。
「しかしこのサンドイッチは美味いな!!」
3枚目のサンドイッチをほうばりながらそういう氷雨さん。
これで食パン6枚は食った計算になるが、夕食なんてそんなもんか。
「ありあわせで作っただけですよ」
「いや、本当に美味しいよ」
こちらも3枚目のサンドイッチをほおばる姫宮さん。
儚そうな見た目の割にけっこう食うんだよな。
セールだったからつい買ってしまった半額の食パンがゼロになってしまった。
「普段何食べてるんですか、ふたりとも……」
「完全栄養食という名のすっぱいペースト」
「味のうっすい和食」
ダメだ、極端すぎるこの2人……!!
実家が実家だから……もっとちゃんとしろよ、周りの大人!! ……なんて考えつつ、モニタールームのテーブルでもそもそと喋っていると、カウンターでもう残り少ない来客の店番をやっていた千草さんが戻ってきた。
「氷雨ちゃん、お迎え来たスよ……あと、伊綱くんにも」
「私にもですか!?」
母さんにはちゃんと許可を取って一人暮らしを始めたし、迎えに来る人間なんているはずないんだけど……と思ったところで、その相手に思い至る。
ああ……精霊局なら父さんか。
渋々対応するために、氷雨さんと一緒に店へと出る。
何故か姫宮さんもひょっこりついてきていた。
迎えに来た、と言っても、店の前に車を止めているだけだ。
俺の取り調べの時に見た巨漢の男が運転している車。
その後部座席から奴は出てきた。
少し白髪が混じったオールバックの黒髪。
精霊局の制服らしい詰襟の制服。整った髭面。
本心の伺い知れない柔和な笑み。
今世における俺の父親────伊綱宗玄である。
「やぁ、久しぶりだな士郎。少し痩せたか?」
「お陰様でダイエットに成功していますよ、父さん」
「体重なんて気にする見た目じゃないだろ、ハハハ」
氷雨さんを一瞥し、視線で自動車に入れと伝える父さん。
普段の態度とは思いもよらない俊敏さで、氷雨さんは後部座席へと入っていった。
なるほど……組織人としてはしっかり育てられているようだ。
「今回はすまなかったな、士郎。許してもらえないのならば、然るべき処罰を与える」
「いや、必要ないですけど……具体的には?」
「精神的にはそれなりの苦痛を伴う、と言っておこうか」
「そうですか。やはり必要ありませんよ。それじゃお疲れ様でした」
「ああ、そうだ。もしよければこのあと久しぶりに2人で食事でもしないか?」
「……この時間に?」
もう夜9時である。青少年を連れ回すにはいささか遅い時間だ。
それに……賞罰だのなんだのと言ったあとに言うこととは思えない。
まるで、許しているのならば当然、食事に付き合うよな? と言っているかのような。
「嫌なら仕方ない。氷雨くんは謝罪に失敗した、ということだ」
「氷雨さんは関係ないでしょ」
やはりそういう意図だったようで、のらりくらりとしながらも食えないことを言う男である。こういう非情な面が正直好きになれない。ハッキリ言って、嫌いだ。
「関係あるかどうかは私が決めるんだよ」
「氷雨さんがどうなろうと、私には関係ないと言っているんですよ」
「そうかな? おまえは可愛い娘が昔から好きだったように思うが」
「ああ?」
そんなもん誰でも好きだろうが。
つっても特別誰かを口説いた覚えなんてないんだが……。
誰のことを言ってるんだよ。
「局長、あんまり舐めたことを言わないで。伊綱をどうするつもり?」
「私も伊綱だよ、姫宮くん」
俺の背後に隠れていた姫宮さんが顔を出し、父さんを睨む。
どうやら俺、このあとなんかされるらしい。
「それに別にとって食ったりしないよ。実の息子をね」
「信用できない」
「君の信用は必要ない。だいたい、そろそろ親御さんが迎えに来るだろ?」
つまるところ変な物言いをされたくなければ黙っておけ、ということだった。あの勝ち気な姫宮さんもなんとなく父さんの圧に屈して、再び俺の背後に隠れてしまった。
「で、どうする士郎。来るのかい?」
「ああ、食ってやろうじゃないですか。ちょっと遅めの夕食を、ね」
そう言って、後部座席に入る。
中央に氷雨さんが寝転がっていたので、押し込んで中に入ってやった。
「ちょちょちょ、テメーまで来るのかよ」
「父さんのお誘いだよ」
「だったら仕方ねぇが……」
父さんは助手席に乗り、自動車が走り出した。窓の外の姫宮さんが心配そうにこちらを眺めていたが、俺は黙って「心配するな」と言わんばかりに手を振ることしか出来なかった。
はてさてどうなることやら……。
精霊局に目をつけられることなんて、アルタイアぐらいしかないんだがな。
……つまりアルタイアのことがバレたか? いやそんなまさか。
無言で走る自動車。流れていく夜景。降り出す雨。
隣で寝ている氷雨さんは、俺に全体重を押し付けて寝ていた。
なんか柔らかいしいい匂いするんだよな、氷雨さんのくせに……。
「それで? 俺に何の用なんですか?」
「それは2人きりになってから話そうじゃないか。そこのホテル前で降ろしてくれ」
「了解だど」
自動車が停まる。俺は氷雨さんをゆっくりと寝かせて、地下駐車場へと躍り出た。
父さんもそれに合わせて、助手席から出てくる。
「先に精霊局に帰っていいぞ」
「お帰りはどうするんだど?」
「タクシーで帰る。久しぶりに家に顔でも出すさ」
ん? 俺はこのあと普通にフリークスに帰ればいいんだよな?
そんな質問をする暇もなく、父さんは先導してホテルの中へと入っていく。
俺たちは地下駐車場からエレベーターに乗り、ドンドンと最上階へと登っていった。
「ここのホテルは泊まらなくても、予約さえすればレストランが使えるんだよ」
「アンタ、始めから氷雨さんを出汁にするつもりで送り込んだのか?」
「ん? ああ、そうだが?」
「……………………」
やっぱり好きになれないな、この男は。
ともあれ、エレベーターは止まり、最上階のフレンチレストランについた。
既に席は予約されているようで、ウェイターが俺たちを席まで案内してくれた。
…………まっさきに水が出てくるが、料理は当分先みたいだな。
フルコースっていつまで待たせる気だって感じで、個人的にあんまり好きじゃないんだよなぁ。
多少は父さんにこうして誘われて食べに来たことがあるけれど。
「さて、本題に入ろうかな」
父さんが身を乗り出して、両手を合わせる。
さながら推理小説の探偵がやるように。
「何が本題だよ」
「幻月のアルタイアを持っているね?」
「………………!!」
俺は思わず立ち上がってしまった。
どこから漏れたのだろうか。姫宮さん? ありえない。
店ではそこまで見せびらかした覚えもない。
「簡単な推理と1つの確証だよ」
「へぇ?」
「まず闇の結界内のログは残っていなかったが、外の監視カメラ等のデータは残っていた。つまりおまえが2階へ上がったことなどがな。この時点で精霊に……まぁ少なくとも関わっていると推察できる。そこでおまえのドライバーに記録されているデッキレシピを調べた」
ドライバーはシャッフルの関係上、使っていなくてもデッキレシピを登録しなければいけない。
つまり俺のドライバーを調べれば、アルタイアが入っていることなど、本来ならばたしかに丸わかりなのだが……。
「ああ、言わなくていい。精霊の力で認識偽造してたんだろう? たしかにアルタイアに該当するカードは何の変哲もないSSRカードに切り替えられていた。だがそれが失敗だったな。
「………………確証は?」
「これだよ」
父さんが、ポケットから1枚のカードを取り出した。
まさか父さんが持っているなんて……いや精霊局の局長なのだから、当然か。
「私たち精霊局はあと2枚持っている。水曜と、アルタイアの本体────力の大部分とも言える部分をね。もっともオマエが持っているカードが核なのだが」
「なぜ、そのカードで俺がアルタイアを持っている、と」
「同格のカードに、認識阻害など通じるわけがないだろ?」
それに、と父さんが付け加える。
「このカードはアルタイアに少しばかり執着しててね。まぁ、詳しくはアルタイアから聞けばいいんじゃないか? 出てこないのか?」
…………たしかにこの状況だと言わずに、アルタイアが一切出てこようとしない。
念のためカードはドライバーの蓋にこっそり仕込んであるのだが。
もちろんドライバーは持ってきている。
「で? なんだ。アルタイアを渡せと?」
「いや? 世界を今のまま保持するのが、私たちの仕事だ。それならば七曜が別々の所にあったって何の問題もない。闇の勢力の手に渡るのはごめんだがな」
「つまり……このまま俺が持っておけってことか」
「ああ、ただし……」
父さんがにやりと笑った。
「七曜の力で世界を作り変えるというのなら、いずれ私たちとも戦うことになるな」
…………なるほど、要はこれは。
遠回しな宣戦布告、というわけか。
伊綱宗玄 ……伊綱の父親。年相応の壮観な顔つきをしているオールバックの男。