精霊が切り札の世界で、俺だけ孤独に成り上がる 作:エクシーズ次元
ヘルメットを被り、毎度更新される複雑な交通ルールを守りながら自転車を走らせていく。自転車のルールってまるでカードゲームみたいだよな。
俺はそんなことを思いながら、サイクリングを楽しんでいた。
やはり風はいい。俺の好きなシーズンにバイクに乗ってファイトするというぶっ飛んだシーズンがあるのだが、本来突っ立ってるはずの絵面に独特の疾走感が生まれていた。
あれ、やってみたいんだけど、この世界だとまだ開発中っぽいんだよな。
一度精霊局が運営しているテーマパークに行って、やってみるか……。
なんてことを考えながら山道の坂道を走っていたところで、また脳に声が響く。
『誰かがつけてきているぞ』
「ええ、さっきからワゴン車がついてきていますねぇ」
もちろん気づいている。俺は割と勘のいい方なのだ。
しかし正直、暴力には自信がない。単なるカツアゲとかならいいが誘拐などなら勘弁だ。自転車で急いだところでたかが知れているしな……。
とはいえこのまま家に戻るわけにも行かない。
さて、どうしたものか。
『アレから闇の気配がする。打ち倒せ』
「私に使われるのは嫌だったのでは?」
『無論、我を使わずにな』
面倒なことを言ってくれるが、元々こいつを使う気などない。
結局、踏ん切りがつかなくてそのまま走っていると……。
山道の中腹にある駐車場に着いたところで異変があった。
さながらオープンワールドのゲームのように、見えない壁に覆われたのだ。
ベインッ、と自転車のタイヤが弾かれて危うく転けそうになった。
ついてきたワゴン車から降りてきたのは、ガスマスクを付けたローブ姿の男。
いかにも正体隠していますよ、という感じだ。
俺は仕方なく自転車から降り、ヘルメットを籠の中にぶち込んでおいた。
「どうも、何の御用ですか? ファイト希望?」
「その精霊を渡せ」
そう言って、腕につけたドライバーからボードを引き出すガスマスク。
どう見ても臨戦態勢である。有無を言わさないな。
もうちょっと粘ってくれれば普通に渡すんだけど……。
「ま、渡しても良いんですがそっちがやる気みたいですからね」
元より見えない壁を設置できるような異能者だ。
こっちの土俵に乗ってくれてありがたいまである。
俺はウエストポーチからドライバーを取り出し、展開した。
同時に周りからおぞましい闇が触手のように蠢き、近づいてくる。
……が、俺の足元に知らない魔法陣が展開され、それが弾かれた。
アルタイアが防御してくれているようだ。
もしされてなかったらファイト前にあの闇に取り込まれていたのか……?
「助かりますよ、アルタイア。ちなみに防いでいなければどうなっていましたか?」
『ファイト前に闇に取り込まれていたよ』
「ありがたい」
『さすがに闇の使い手よりは貴様に囚われている方がマシだからな』
で、あるならば期待に答えないわけにはいかない。
それに──闇のファイトってワクワクするしな。
一回やってみたかったんだ。
「「ファイト!!」」
さて向こうはどう来るかな。
「俺様は”やりすぎた埋葬”を発動!! デッキへカードを3枚送る!」
…………ふむ、墓地肥やし。
リアニメイトという、墓地からの蘇生をメインにしたデッキみたいだ。
なるべく墓地を肥やされる前に叩いておこう。
「私は”
「ギャハハハ!! ライフで受けるぜぇ!!」
”
しかし5ターン目に差し掛かると……。
「俺様は”
なるほど、墓地から除外しつつ蘇生か。元からカードに消費コストがある”ファイト・ウィザーズ”ではかなり重い方だが、それに見合っただけの効果だ。
「現われろ!! ”
三ツ首の大狼が現出する。普段の立体映像ではなく、実際にそこにいるかのような熱量、匂い、気配を感じる……!! 腐った犬のような匂いだ。
”
3000の大台を超える、超重量級クリーチャーだ。
「ケルベウロンの効果発動!! 墓地のカードを除外し、その枚数分相手プレイヤーに500ポイントのダメージを与える。俺は残っている5枚のカードを除外する!!」
「チィッ……!」
「2500ポイントのバーンダメージだ!!」
大してまだライフはまだ削れてないからいいものの、ただの立体映像ではない。
実際に肉が焼けただれるような幻痛が、燃え盛る炎とともに伝わってきた。
しかし、意識を失うほどではない。
「さらにクリケットを破壊!!」
闇ファイターがそう言うと、クリケットが頭から噛みつかれ、死んだ。
成人男性ぐらいの大きさなのに、その口で一飲みだ。
「これでターンエンドだ」
「やりますね……アグロなら墓地が溜まる前に削れきれたでしょうが……」
俺のデッキはミッドレンジ。ある程度長期戦を想定した作りだ。
つまり、それはこうして相手のデッキとも正面からぶつかるということ。
『落ち着け。向こうのライフはだいぶ削った。次の攻撃さえ通れば──』
俺の胸ポケットがささやかに光る。
流石に闇ファイターに奪われるのは、俺より嫌なようだ。
だが、しかし────。
「ああ!? 俺の試合だ。黙ってやがれ!!」
わずらわしい。普段のおしゃべりなら良いが、ファイト中のアドバイスなど邪魔でしかない。それもカードごときが……やはり売ろう。とっとと売ろう。でもまぁ……。
「ククク……クククク……」
「!? 何がおかしい! 恐怖でおかしくなったのか?」
「闇ファイト────楽しぃいいいいいいいいいいいいいいいい!!!」
「…………!?」
なんだこの幻像!! まるで本物みたいだ!!
痛覚もスリルあるし……負けたら本当に死ぬんじゃないか!?
一度死んだがやっぱり怖いな。ああ癖になる!!
「やっぱりゲームはリスクがないとなァ!?」
さてフィールドはがら空き、手札は二枚。
今引きでいいカードが来ないとややキツイな!!
「じゃあ試そうか……」
俺はデッキに右手を乗せ、勢いよく引く。
「運だけのドローってやつをなぁ!!」
俺は引いたカードを見る。いけそうだな。
こればかりは運命ってやつに感謝せざるを得ないかもな。
「”
「────!! だがそいつの攻撃力じゃあ」
「ええ、倒せません。しかしこれならどうでしょう?」
俺は一枚のカードをボードに置く。使ったのは”バルメオの処刑台”。
もちろん効果はご存知だろう。
自分の場にいるクリーチャーの数、対象の攻撃力を100下げる。
対象が破壊された時、現在の攻撃力分のダメージを相手プレイヤーに与える。
「”バルメオの処刑台”!?」
「おお、知っているのですか。もしかして昼の大会を見ていました?」
「しかし100ポイント下がったところで、相打ちにすらなるまい!!」
「勘違いしないでください」
「ひょっ?」
「私が対象にするのは”
「馬鹿なっ!? ヤケになったか!?」
メイデンの腹から触手が出てきて、ヤドカリのように突進していく。
それをケルベウロンがかじりつき、三つの顎で器用に食べた。
次の瞬間、ケルベウロンが溶けて、その肉塊が相手に流れ込む。
「あっ、アチィいいいいいいいいいいいいいい!?」
「”バルメオの処刑台”は自分のクリーチャーにも使えます」
「そんなことはわかっている……! しかしなぜ!?」
「対象のクリーチャーが破壊された時、その攻撃力分のダメージを受けるのは……」
俺はニコリと笑った。
「あくまで相手の方です」
こんなカードをわざわざ入れている意味がわかっただろう。
上手く使えば、上質な直接火力になる。前世じゃあ、”バルメオミサイル”なんてデッキが一世を風靡したこともあるぐらいだ…………まぁ、諸々があって廃れたんだが。
使うクリーチャー次第ではちょっとしたバーンにも、貫通効果にも成りうる。
俺好みの、色々便利なカードだ。
「お、俺様のライフは今2900……ッ、つまりッ……死ッ……」
「そういうことです」
「い、いやだぁあああああああああああああ!! 死にたくないッ!! 消えたくないィイイイイイイイイイイイッ!!」
俺は相手を称えるために拍手をした。
ドライバーには勝利の宣言。この試合は俺の勝ちみたいだ。
「グッドゲーム。素晴らしいファイトでしたよ」
燃え上がる対戦相手。
しかし残ったのは黒いローブとガスマスク。
そして一枚の焦げかかっているカードだった。
『……よく見ておけ。アレが闇ファイターの結末だ』
「ええ、自分からなろうとは思いません」
俺は焦げかかったカードを拾い、その絵柄を確認した。
なんらかの人間が炎に焼かれて苦悶の表情を見せている。
その顔は明らかに絶望している。
「だって、自業自得で絶望している姿が一番美しいですからね」
にんまりと笑いながら、俺はそのカードをポケットに締まった。
今日の最強カード
”やりすぎた埋葬”
基礎呪文
デッキの上からカードを三枚墓地へ送る。
”
基礎呪文
墓地のクリーチャーをコスト分除外することで、”
”
攻撃力3200
1ターンに1回発動できる。墓地のカードを除外し、その枚数分相手プレイヤーに500ポイントのダメージを与える