精霊が切り札の世界で、俺だけ孤独に成り上がる 作:エクシーズ次元
「しかし舞夏さんもお兄さんに教えてあげれば良かったでしょうに」
「教えたよ!! 精霊の声を聞けって!!」
「なるほど。基礎的なルールも身につかないわけだ」
普通は先輩とかサークルなんかで習って覚えるもんだよ。
ていうか基礎ルールだけなら精霊局のホームページに描いてあるし。まぁもちろんあんなわかりにくい経典みたいなルールブック、独学で覚える人はいないんだが。
……なんて話をしながら、その日はいくつかデッキを作っていた。
遊季さんはあれから「仕事がある」と言って去っていった。どうやら遅刻してでも妹を負かせた相手と一戦交えたかったようだ。その結果があれなんだが……。
「兄さんはちょっとシスコンだからね……」
などと言いながら舞夏さんもいくつかデッキを作る。
これらは遊季さんとの練習対戦用のデッキだった。
もちろん他人のことだけ考えているわけではない。
精霊の入っていないこのデッキたちは、いくらか調整すれば俺の主戦力に出来る。
つまりはデータ集めのために組んでいるのだった。
「しかし多くの精霊を扱えるのであれば、キングさんの王国研究会に入ってもいいかもしれませんよ? あそこで研究しているテーマは、どれも強力ですし」
……キングさんの島を親指で指差して、指摘する。
5~6人の人々が集まって、キングさんとなにやらデッキを調整していた。
あれでフルメンバーの1/3程度というのだから恐ろしい限りだ。
「一応聞いては見たんだけど、僕は”
「まぁ王国研究会は大型を運用するテーマがメインですもんね……」
自然、どっしりと構えたミッドレンジやコントロールなどが多い。
ややアグロよりの”
そして大型を運用するテーマは、精霊憑きのSSRカードがないと難しい。
つまり、それが俺が入らない理由なのだ。
「なんなら僕とサークル組んでみる?」
「お断りします。私は一人で研究しているのが好きなんですよ」
もちろん対戦は相手がいなければ出来ない。
しかし対戦のための準備──テーマの研究や、デッキ調整。
そういうことは昔から一人回しやインターネットで調べるのが好きだった。
もっとも……インターネットの情報量は前世と比べてはるかに少ないのだが。
「……と言って、今も世話焼いているくせに」
「新人には極力優しくしろというのが師匠の教えですからね」
友達の出来ないクソガキだった俺を変えてくれた師匠。
その師匠の教えに従うためならば、多少の善行だってしたっていい。
それぐらいの恩義がある相手だった。
「師匠なんているんだ」
「もう会えませんけどね……ええと、海外に引っ越したので」
「それじゃあ仕方ないね」
…………などと言いつつ、しばらくデッキとにらめっこしていたが、飽きてきた。
しょせんは練習用なので煮詰めなくてもいいのは楽だが、それでもデッキビルドというのは疲れるものだ。俺はスペースの端っこにある自販機でコーヒーでも買うことにした。
「何飲みますか?」
「え!? 奢ってくれるの?」
「まぁ多少は稼いでるので」
この世界で俺のようなものが稼ぐ方法。
それはメールマガジンである。
前述したとおり、この世界は前世と比べて圧倒的に研究資料が少ない。
これでは界隈が育たないと考え、義務感で始めたブログ活動。もちろんメジャーなテーマの基礎概要、回し方、汎用カードなどは普通に紹介している。
もう少しディープなテーマごとの対策やこぼれ話と言ったものだけ有料だ。
あんまり広まっても困る、という判断である。これが割と売れている。
とはいえ精霊をホイホイ変えられないのがこの世界。あまり気安くテーマを変えられない実情があるため、そこそこにアンチが湧いているのだが、まぁ、俺は気にしていない。
カードゲームは相手の嫌がることを(ルールの範囲で)やるべきものだし。
だいたい初見殺しみたいなテーマだけに絞って、多少の対策しか載せてないしな。
「じゃあクリームソーダ!」
「はいよ」
クリームソーダを買って手渡す。お互いに飲み物を飲んで、一休みである。
万が一があってはいけないので、カードはケースに仕舞っておいた。
もしこぼれたら大惨事だからな。
「そういえば舞夏さんはどこの高校に通われているんですか?」
「聖マリカティア女学院」
「うわっ、エリートお嬢様学校」
お嬢様だった。精霊に愛されてる人ってなんかこうエリートが多いよな……。
まぁ精霊が贔屓しているから、かもしれないけれど。
俺の冷笑に対して、舞夏さんは怒るでも照れるでもなく、無の表情だ。
どうやら望んで入ったわけではないが、さりとて拒むほどでもなかったらしい。
「君の高校はどこなのさ」
「地元の魁星常翔高校です。普通の学校ですよ」
「聞いたことないな……」
「だから普通なんですって」
…………なんてことを言っていると、チリンチリンと誰かが入ってきた音がした。出入り口を見る。そこには薄い金髪をしたセミロングの少女がのそりと入ってきていた。
俺は彼女に見覚えがあった。姫宮である。
今日は土曜日だが、休みだったようだ。
用事がある俺は手を上げ、こちらに来るよう招くことにした。
「姫宮さん、お久しぶりです」
「お~~」
のそりとこちらの席にやってくると、俺の隣に座ってきた。
話しにくいので向かいに座ってほしかったんだが……。
第一、入口より俺のほうが奥なのに、なんでこっちに座る。
そのまま姫宮さんが舞夏さんをじっと見つめ始めた。
まるで品定めしているみたいで、見られている舞夏さんは何も言い出せずにいる。
「なに? この娘」
「先日の大会で準優勝した舞夏さんです。この店がホームになるそうですよ」
「ふぅん…………」
姫宮さんは面倒くさそうにそう言うと、いきなり俺の胸ポケットに手を突っ込んできた。そこからアルタイアと闇のファイターを奪われる。元々見せる気だったが……。
「精霊? でもマグネットローダーに入っているね。使わないの?」
「彼女が嫌がるので」
「別にデッキの底に沈んだって、アンタなら使えるでしょ?」
「確率を弄られるのが好きじゃないのでねぇ……」
「…………ま、いいや。これはもっときなさい」
じろじろとアルタイアを眺めたあと、再びそれを俺の胸ポケットに入れてきた。
勝手に俺の胸ポケットを使わないでほしい。繊細なスイッチもあるんだから。
男にだって二つついてるんだぞ。
「で、これは……」
「私が倒した闇のファイターです。戻せますかね?」
「自分で自分を呪っているようなものだから、真に闇の力を手放さないと無理だね。普通は十年単位でかかるよ。大体はまともな人生に戻れないと思っていい」
ちょっと辛辣な言い方をしつつ、それを肩に吊るしているバッグに入れる姫宮さん。
精霊局に持って帰るのかな。
「伝えたいことは以上?」
「ええ、もう帰るんですか?」
「いやなんで他の女と遊んでるのかなって」
「私が誰と遊ぼうと自由でしょう……!!」
人聞きの悪いことを言うが、姫宮さんと付き合った覚えはない。
いや、仮に付き合っていたとしても、異性とカードゲームをするだけで文句を言われる筋合いはないのだが……まったく、何様のつもりなのだ。この人は。
「ひゃあっ!?」
そう思って眺めていると、突如ぷにっ、と舞夏さんの胸を指で突き出した。
流石に同性間でもまずいと思ったので、手を抑えて止める。
「ふむ、なかなか着痩せするタイプ……」
「こら姫宮さん謝りなさい!! 流石に失礼が過ぎますよ!!」
「アタシのも触っていいから」
ふくれっ面をした舞夏さんが、仕返しとばかりにビシビシと指で突き刺す。
姫宮さんはポイントに当たったのか「あっ」とか変な声を出した。出すな。
「なんなの、伊綱くん!! この人!!」
「こいつの彼女」
「付き合ってませんよ、こんな束縛強そうな方とは……」
俺がそう言うと、姫宮さんはポケットからカードゲースを取り出した。
ちょっとイラッと来たのだろうか。そのままファイトの準備を始める。
「おっ、ファイトですか?」
「うん、舞夏。アタシが勝ったら二度と伊綱に関わらないこと」
…………俺じゃなくて、あくまで舞夏さんがターゲットのようだ。
「いったい何の権限があって……」
「へぇ、だったら姫宮さんが負けたら?」
俺が呆れている最中にも、舞夏さんは全然乗り気のようだった。
デッキを取り出し、テーブルに並べ始める。
ドライバーは……姫宮さんのデッキなら使わないほうがいいか。
「言う事何でも一つ聞いてあげる。ただしその頃には──」
ニィ……と微笑みながら、姫宮さんがカードを揃える。
どうやらいいカードが揃ったようだ。
「泣いて負けを認めることになっているだろうけど」