精霊が切り札の世界で、俺だけ孤独に成り上がる 作:エクシーズ次元
ロックというデッキタイプがある。
文字通り相手を拘束するというデッキであり、相手の動きを妨害し、何もさせないよう
にして一方的に勝ち筋を通す事を目的としたデッキである。
もちろん基本的に嫌われているものの、愛好者は後を絶たない。
姫宮杏はそんなロックデッキを好んで使っているファイターだった。
「”才人の枷”を発動。これでアンタはクリーチャーの能力も使えなくなったね」
「ううっ……」
今現在、舞夏さんの場には5体のクリーチャー。エースである”銀剣のレイピオル”すら揃っている現状で、一切攻撃することが出来なかった。それもそのはずである。
姫宮さんの場には”監獄門”がある。
”相手クリーチャーは自分に攻撃できない。”という効果を持つ設置呪文だ。
設置呪文は破壊されるまで、その場に残留し、効果を発揮し続けるカード。もちろん”監獄門”を破壊すればいいだけの話なのだが……。
呪文で破壊しようにも、姫宮さんにはさらなる設置呪文”魔術殺しの聖杭”がある。
更に今、クリーチャーの効果発動さえ封じされてしまったのだ。
「先に言っておこうかな。アタシの”タルタロス”には勝ち筋が存在しない」
「ど、どういうこと!?」
現状にほぼ敗北を覚悟していた舞夏さんが目を丸くして驚く。
それに対して、姫宮さんは余裕そうに頬杖を突いている。
「文字通りの意味だよ。このデッキはただ妨害することしか出来ない。強いて言うならば、デッキの枚数を回復するギミックが入ってるぐらいかな。お互いの、ね」
「つ、つまり……?」
「アンタがサレンダーするか、アタシが飽きない限り、このファイトは続くってこと」
サレンダー。つまり降参……負けを認めること。
そうしない限り、延々とこのファイトは続く。
たとえデッキが尽きようとも、それを回復までして。
それが姫宮さんの”タルタロス”。
相手の心を折るためだけのデッキ……!!
「う、うう……!!」
舞夏さんの心が揺らいだのか、グニャリ、とうつ伏せになる。
どうやらサレンダーはしたくないけれど、もう一切勝ち筋はないという様子だ。
このままでは貴重な時間を浪費した末に、サレンダーすることになるだろう。
……仕方ないな。
「舞夏さん。サレンダーするなら代わってください。私がココから勝ってみせますよ」
「ええ!? ココから勝てるわけなくない!?」
「私なら1ターンで勝てますが……」
「へぇ、おもしろ。やってみなよ伊綱」
対戦相手の了承も得たので、席を変わってもらう。
状況は……こちらの場には4体のクリーチャーとレイピオル。
攻撃さえできれば、相手のライフを削りきれる量だが、攻撃はできない。
なにせ自分への攻撃を防ぐ”監獄門”。
クリーチャー効果の発動を防ぐ”才人の枷”。
そしてこちらの呪文発動を防ぐ”魔術殺しの聖杭”がある。
つまり相手に攻撃できず、効果も発動できず、呪文も使えないということだ。
しかし幸いにも”才人の枷”を設置した後なので、向こうはコストがなく、速攻呪文が飛んでくることはない。
つまりこちらの勝ちである。
「では私のターン。”
「……………………え?」
「アタシの場にレイピオルはいないよ?」
二人がコイツは何を言っているだろうという顔でこちらを見る。
しかしそんな顔をされても、そのままの意味である。
「聞こえませんでしたか? 私のラビッツで私のレイピオルを攻撃するんですよ」
「「はぁああああああああああああああああああ!?」」
理解不能という表情で、叫ぶ二人とも。
そりゃあそうだ。基本的に自分のクリーチャーを自分で倒すのはアド損。
…………いや、そもそも出来るとすら考えたことなんてないだろう。
当然だ。
それはつまり、自分のクリーチャーを大事にしようということ。たまには自分のクリーチャーを犠牲に勝利を目指すプレイングをすることもあるだろう。
しかしそもそも自分のクリーチャー同士を戦わせるという発想に至らない……現世ですら一時期までは出来ると思っていたファイターは少なかったのだ。無理もない。
まぁ、結局は自分のクリーチャー同士を戦わせてバーンダメージを与える自爆戦法が流行ってからルール改正が発生し、自陣のクリーチャーによって、自陣を攻撃することはできなくなったのだが……この世界では、まだ改正は発生していない。
つまりやりたい放題である。
「で、でもアタシの場には”才人の枷”がある!! 効果は使えないはず……!!」
「残念ですが、レイピオルの効果は条件発動。宣言発動ではないため、連鎖処理が発生せず、よって”才人の枷”では無効化出来ないのですよ」
「「はぁああああああああああああああああ?????」」
意味がわからないとばかりに顔をますますしかめる二人。
コレも仕方ない。連鎖処理…………つまり効果が累積した際の処理とか、効果発動の違いとか、もし完璧に把握していれば、一級以上の審判資格がとれるほど煩雑なのだから。
現世だとだいたいwikiに描かれていたから問題なかったんだけどね。
今世だとないからね。本当に仕方ない。
なにはともあれ……。
「場にいるクリーチャーすべての効果を無効にする”絶対王政”などを使うべきでしたね」
「あれコストがめちゃくちゃ重いじゃん」
「重い分、こういうリスクも防げるということです」
ほとんど問題にならないシチュエーションではあるのだが。
俺だって普段使いするなら”才人の枷”の方を使う。
さて、処理を進めていこう。
「これでラビッツが破壊され、墓地に送られたのでレイピオルの効果が発動し、ラビッツの攻撃力分のダメージを姫宮さんに与えます」
レイピオルの効果は破壊したクリーチャーの攻撃力分のダメージを相手プレイヤーに与える。つまり、自分のクリーチャーを破壊しても、相手にダメージを与えられるのだ。
「え? ちょ、マジ?」
「これをレイピオル以外のクリーチャーで行います。合計6300のダメージですが」
「…………アタシのライフは5200だね」
ロックが完成する前にちょっと喰らった分、ライフが減っている。
コレがなければもう少し長引いていたな。
「そういうことです。グッドゲーム。楽しかったですよ」
「あ、ありえない……! よくないよ、伊綱くん! クリーチャーを同士討ちさせるなんて!! 精霊が悲しむよっ!!」
ファイトの終わったカードをかき集めながら、半べそでそう言う舞夏さん。
姫宮さんの方もどこか納得のいっていない様子でこちらを睨んでいる。
「知りませんねぇ。ルール上は可能ですし、ドライバーでも出来る処理ですよ?」
「ぐぬぬぬぬ……!!」
文句があるなら精霊局に言ってほしい。
もっとも精霊局に大きなコネがある人間の前で、今の裏技を使ってしまったわけで……近々ルール改定がきそうな気がするけども。なんせ、こんな裏技は精霊を信仰する人間が使うことはないが、闇ファイターなら使い放題なのだから。
「……さて、アタシは負けたから二人を引き離すのには失敗したわけだけど……」
そう言って、俺の手を掴んでくる姫宮さん。
「なんでも言うこと聞くのは勝った伊綱に、でいいよね?」
じっ……と熱烈な視線を送ってくる。
正直この人、めちゃくちゃ可愛いけど本当に束縛強そうで嫌なんだよな……。
なんせお付き合いとかしてない状態でコレなんだもの。
「では舞夏さんのお友だちになってあげてください」
「…………は?」
「なんでもするんでしょ? ほら、握手握手」
お互いちょっと嫌そうな顔をしながら渋々という感じで握手をする。
うむ、やはりお似合いの2人だ。
「……ていうか、いつも姫宮さんはこんなデッキ使ってるの?」
「ううん? 卓でやるときだけの嫌がらせデッキ。じゃないと相手次第じゃ何時間も立ちっぱなしになるでしょ? やろうと思えば極限まで相手だって遅延行為できるし、なかなかサレンダーしないやつもいるから。そうなるとさすがにダルいからね」
「この人……!!」
相手の嫌がることをやって上等。そして精霊が大嫌い。
姫宮杏という女は、そういう人間なのである。
…………俺に懐くわけだよ、畜生!!
今日の最強カード
”監獄門” 設置呪文
相手クリーチャーは自分に攻撃できない。
”才人の枷” 設置呪文
相手クリーチャーが効果を発動した時、それを無効にする。
”魔術殺しの聖杭” 設置呪文
相手が呪文を発動した時、それを無効にする。
”絶対王政” 設置呪文
場にいる全てのクリーチャーの効果を無効化する。