精霊が切り札の世界で、俺だけ孤独に成り上がる 作:エクシーズ次元
「そういえば今日は遊びに来たんじゃなかったんだった」
しばらく遊んでいると、思い出したように姫宮さんがそう言った。
なにか用事があるのだろうか。
もうすぐ日も暮れるし、少なくとも俺は帰らなければ行けないのだが。
夜の山道は超怖いし。
「なにか用事があったんですか?」
「うん、キングさんに忠告に来たの」
そう言うと、呼ばれたことに気づいたのかキングさんがこっちに来た。
相変わらず縦にも横にもデカイ。そして何だ、その赤いジャージは。
まるでロボットアニメに出てくる仮面のライバルみたいな格好だ。
「なんだ嬢ちゃん、この己に用事か?」
「うん、最近、”ティフォンの蛇”と呼ばれる闇ファイターたちがこの辺りで名のあるファイターを襲っているから気をつけてほしいって伝えようかと」
「あのな、嬢ちゃん……連絡つけられるようにしとけ」
「したいのは山々だけど、アタシの家って現代機器嫌いなんだよね」
「ああ、たしか退魔師の家系でしたっけ」
「そう。ドライバーのない時代からやってたから」
闇やその眷属との戦いは古代エジプトにまで遡ると言われている。
当然、この日本でもはるか前から退魔師が存在し、カードならぬ式札によって戦っていたとかなんとか……ルールも今とは違ったらしい。それを整備し、現在のルールに整えたのが国連精霊連合と、その指揮下にある精霊局なのだ。
…………なんて、どうでもいい情報である。
少なくとも、俺が見ていたアニメはこの設定で通していた。
「ふむ、伊綱を襲った闇ファイターも”ティフォンの蛇”とかいう連中なのか?」
「おそらくはそう。確証はないけど」
「……わかった。サークルの連中にも伝えておこう」
「よろしく」
「ちなみに奴らのデッキとかはわかるのか?」
「う~~~ん、名前にもあるように名パック”ティフォンの激動”で出たテーマをメインにしているみたい……それ以上はちょっとわからないかな。対峙した生存者が少なくて」
”ティフォンの激動”か。
たしか5テーマが揃ったストラクチャーパックで……。
墓地利用を駆使するリアニメイト”
じわじわと毒のような戦法が魅力のロックバーン”ヴェノムミスト”。
アグロ構成からミッドレンジの大型運用までなんでもござれなビートダウン”海獣”。
奇襲性に優れた恐るべき侵略コントロール”
可愛らしい外見からは想像できない強襲の疾走コンボ”もこもこ”。
────の5テーマが揃った傑作パックだったかな。
”
いや同じテーマを複数人が持っている可能性もあるけれど。
「”ティフォンの激動”か。名パックだが、流石に時代遅れじゃないか?」
「いえ、ぼちぼち強化カードも出ていますよ。改造すれば十分戦えるかと」
キングさんの胡乱な発言につい突っ込んでしまった。
この人、握りたいテーマしか握らないから、他テーマとか疎いんだよな。
この5テーマなんか知らないはず。なんせ……。
「それに”ティフォンの激動”はストラクチャーパック。よって精霊が宿るようなカードが入っていないので、同調する精霊がいなくても十全に回せるんですよね」
まさしく精霊がいつかない闇ファイター向けのテーマだと言える。
もっとも闇の力で精霊を支配したりとかも……できたはずだけど。
俺の見てたアニメでは。この世界ではどうかは知らない。
「ふん、精霊から見放された人間でも使いやすい、ということか」
「そういうことです」
「そういうことじゃないけど」
俺の一言にむっとしたのか、頬をふくらませる姫宮さん。
いったいどうしたというのだ。
もしかして俺が精霊に嫌われてるから気遣ってるのか?
別に気にすることなんてないが……。
キングさんは気まずいことを言ったと思ったのか、わざとらしく咳込んでみせた。
「とりあえず理解した。その5テーマを仮想敵にしばらくサークルで練習しておこう」
「良ければ手伝いますよ、キングさん」
「おお、恩に着るぞ。しかしそろそろ帰宅する時間じゃないか?」
時計を見ると、たしかにそんな時間だ。
俺は急いで自分の卓に戻ると、展開していたカードを片付け始めた。
それを見て、姫宮さんもちょこちょこと卓に戻ってきた。
「もう帰るの?」
「ええ、暗くなると帰るのが怖いですから」
イノシシとか猿とか出るからね。本当怖いよ、山道は。
街灯とかもほとんどないし。マジでありえない。
電車を使えばいいんだが、その金でパック剥けるしな……。
「何なら送っていこうか?」
「付き合ってもない女性のご家族に送ってもらうのはちょっと不躾かなと」
「言うねぇ」
くつくつと姫宮さんが笑う。
全然嬉しそうじゃないけれど。むしろ威嚇の笑みだ。
それを見て、隣でシャッフルの練習をしていた舞夏さんが呟く。
「いいじゃん。僕と夜八時ぐらいまで遊ぼうよ!!」
「ずいぶんな時間いるね。暇なの?」
「兄さんの帰宅時間がそれぐらいだしな~」
「ま、いいか。帰るまでいい声で鳴かせてあげる」
「ひぃん……!!」
さて、二人は各々ご家族が回収に来るだろうし、帰るとするか。
そう考え、リュックサックを背中に背負って帰ろうとしたところ──。
キングさんが立ちはだかった。
「どうしました?」
「週末にファイトパーティというのがある。出てみないか?」
「構いませんが……私のようなものが出てもいいんでしょうかね」
「ああ、あの二人も誘ってやれ。賑やかな方がいいだろう」
と言って渡されたのは三枚のチケット。
キングさんはちょっとシャイだから女性に声をかけるのが苦手なんだよな。
……ふむ、週末の昼間に体育館を借りるようだ。
ファイト以外にも立食パーティやフリーマーケットもやるのか。なかなか面白そうだけど、闇ファイターが活動的な今やるのはちょっといただけないかもしれないな。
そう考えていると、キングさんはぼそっと耳打ちしてきた。
「正直、強いファイターがいるほうが防犯的にも助かるんだ」
「なるほど……私などで良ければ力になりましょう」
「助かるぞ。ではまた今度な」
それじゃあ帰る前に二人に話しておくか。
舞夏さんはともかく、姫宮さんは何かと忙しそうだし。
「……ということで二人とも、こちらに出てみませんか?」
「ファイトパーティ? デートのお誘い?」
「なんでですか。よしんばそうだとしたら二人同時に誘わないでしょ」
「そーゆー趣味なのかと思って……」
趣味に付き合わされる舞夏さんの身にもなってやってくれ。
ほら、ちょっとそういう話苦手なのか、目を丸くしているし。
「へ、へぇ、週末なんだ!! 兄さんも連れて行っていいのかな?」
ひとまず話題を変えるためなのか、ちょっと上ずった声でそう言う舞夏さん。
「いいんじゃないでしょうか? キングさんからまたチケットを奪いますよ」
「ああ、もちろんだ。受け取れぃ!!」
アニメのようにかっこよくチケットを投げ渡してくるキングさん。
それを俺も華麗に受け取ることが出来た。受け取った瞬間へにゃっとタダのチケットになる。なんでだよ、今手裏剣みたいだっただろ。
「はい、では舞夏さん。お兄さんに渡してあげてください」
「わーい!!」
「ふむ、じゃあ週末わざわざ伊綱のために空けとくから」
「ええ楽しみにしてますよ」
姫宮さんの恩着せがましい物言いを軽く流して、今度こそ俺は店を出た。
自転車に乗り、ヘルメットをつけて山道を通っていく。
今回はついてくる車もなさそうで良かった。
『姫宮とか言ったか、あの女、巫女の才能があるな』
走っていると、ボソッとアルタイアがそんな事を言いだした。
そりゃあ退魔師の家系で、幼少から精霊局に勤めているらしいし、当然のことだろう。
「ええ、血筋っていうんですかね? 多くの精霊を扱えるらしいです。それだけじゃなく特別な精霊とも共鳴できるとかなんとか……」
『ふん、だが男を見る目はないようだ』
「うるさいですね……」
『今日の戦術も非道だったではないか。レイピオルのやつ、嘆いておったぞ』
「ははは、精霊のご機嫌取りなんてまっぴらごめんですね」
『こいつ……』
……なんて話ながら、今日は何事もなく家についた。
自室のパソコンに向かい、日課のブログ更新とメルマガ配信を済ませて、数少ない情報サイトやメール欄をチェック……うん? デッキの相談がしたい?
ブログを見てくれた人の相談か。でも相手は匿名……。
悪いけど無料でやるような仕事じゃないな。
こういうのはファイトネームでいいから明かすべきだ。
ファイトネームとは大会に参加する時、本名の代わりに公開する奴である。
ちなみに俺のファイトネームは雷三太。
某漫画の侍からとった。名字と技名が一緒なのでね。
しかし記載されているデッキレシピ……これは……。
「これ、ネストデッキじゃねぇか?」
本来、
現世の集合知ありきじゃないと生まれないような怪物。
それをどうにかして作ったのか!?
……いったい何者なんだ、こいつ。
気になった俺はとりあえず返事を送ってみることにした。
そのネストデッキの名前は……エキドナ。
いかにも小洒落た名前だった。