精霊が切り札の世界で、俺だけ孤独に成り上がる 作:エクシーズ次元
一応俺は魁星常翔高校のファイト部に入っている。
理由としてはやはりファイト・ウィザーズの練習に部活動の時間は充てたいこと。
帰宅部では内申点に影響が出ることが上げられた。
この世界でファイト・ウィザーズは、すべての中心と言える。
なにせ精霊は確率を操作できる。つまりそれはものすごく幸運になれるということだ。
その恩恵は図りしれず、精霊に愛されるものはすべてを得られると言っていい。
直接、精霊を扱うファイト部はまさにその中心。いわばこの世界に置ける野球とかサッカーとか、中心的なメディアスポーツの一環であったのだった。
そして……それゆえに大きな因習も生まれていた。
「精霊が扱えんものはゴミ同然じゃああああああああああ!!」
声高にそう叫び、グラウンドでまったく意味のないドロー素振りを一年生たちに強要するのはファイト部の部長だった。番長のような学ランと学帽を被り、無意味な鍛錬を涙を流しながら見つめている。一方の俺は校庭を走り込んでいる。
ちょっとは運動しないと座りっぱなしじゃ脳が鈍るからな。それに一年が無意味な練習をしている手前、自分だけ実技をしているというのもなんだか悪い気がした。
「カードゲームで体なんて鍛えて何になるんって話やで。なぁ、伊綱くん」
俺にそう話しかけてきたのは、赤色に髪を染めたドチンピラ。
赤羽くんだった。体躯は俺より細いものの、背は俺より大きい。
なんていうか、針金のような見た目をしている。
「私は必要なことだと思いますよ。特に体調が良いと、頭の回りも良い」
「せやかてドロー素振りじゃなんにもならへんやろ」
「と言いながら私に並走してくるのはなぜですかね」
さっきから明らかに俺に合わせて走っている。
まぁ別に困ることはないが、部長に見られたら怒られかねない。
「このまま外回り行かへん? 校庭だけやと飽きるやろ」
「つまりサボろうってことですか?」
「ご明察! どーせ精霊精霊ばっかで大した練習せえへんやん」
「部長が聞いたらブチギレますよ。まったく……」
そのまま校庭から外へと走っていく。
基本的に運動部は練習のためなら、放課後外に出たって構わない。
それは俺達ファイト部もそうだった。
「せやけど、一番強いカードと同調したやつが部長なんてダルいわ」
街路樹の生えた街並みをランニングしながら、そんなことをぼやく赤羽くん。
ファイト部の現体制にずいぶん文句がお有りのようだ。
「仕方ありませんよ。顧問の先生はファイト素人ですし」
「カード単体やったらともかく総合的な実力は俺らのほうが上やん」
「部長だって弱いわけじゃないでしょう。あの超重量デッキをよく回しますよ」
この場合の重量とはデッキ自体が重いという話ではない。
平均的なクリーチャーのコストが重い、ということだ。
一方の赤羽くんは超高速アグロデッキを愛している。
それはもう芸術的な速度で、俺でさえ油断したらうっかり瞬殺されかねないほどだ。
ゆえに部長と赤羽くんは水と油でしょっちゅう喧嘩していた。
「そういえば夏の団体戦、どうなるんやろな」
そう、ファイト部があるのならば当然全国大会がある。
というか基本的に18歳以下の学生は部活からの推薦じゃないと出られない。
仮にどれほど強かったとしても、だ。
「まぁ確実に私は選ばれないでしょうねぇ」
「ありえへん。この部活で五本の指には入るのに」
「同調してくれる精霊がいませんからね」
ふっ、と自嘲気味に笑う。無理に精霊カードをデッキに入れることは出来る。
しかし同調できていないことなど、しばらく回していれば丸わかりだ。
それに精霊と会話したり、同調率を見抜けるファイターだって世の中にはいる。
そういった事ができるのが、部長が部長に選ばれた理由だったりもする。
「精霊主義もろくなもんやないわ。もっと実力で見るべきやと思うで」
「ありがとうございます。ひとまず個人戦で頑張りますよ」
……と、まぁ精霊主義──つまり同調している精霊が強ければ強いほどファイトも強い、という考えが蔓延るファイト部の中で、赤羽くんは俺を買ってくれる数少ない人間だった。アグロデッキ故にあまり精霊に頼らないプレイングだからだろう。
「そういえばあれからずっとフリークス通いなんか? アルケミーの方が近いやろ」
「ファイト部の人達が来るのでゆっくりしてられないんですよ」
「あ~~~……、ワイやったら実力で黙らせたるけどな」
イケイケの赤羽くん。こういうコミュ強なところは見習いたい限りだ。
俺はどうにもコミュニケーションというのが苦手でね。
こうして礼儀正しい仮面を被ってないと、まともに話すことも出来ない。
「別にイジメられているわけじゃありませんし」
「軽んじられてるやろ。二年のボケどもは雑用とか全部君任せやで。三年の連中が受験が控えているから大体引退したとゆーのに……」
「一年や仲のいい子が手伝ってくれますし、大したことじゃないですよ」
「欲がないのぉ」
赤羽くんが好戦的すぎるだけである。ま、評価されるのは嬉しいけどね。
しかし波風を立てて日頃の居心地をコレ以上悪くはしたくない。
……なんて思いながらとりあえず休憩。
ポケットに隠し入れておいたコインホルダーで、自販機のジュースを買う。
コインホルダーは百均に売ってあるのだが、小銭を引っ掛けて持ち運ぶのにすごく便利なのだ。財布ほどかさばらないし。赤羽くんの分も買ってやることにした。
「すまんな。後で返すわ」
そう言って赤羽くんがコーヒーを一気飲みする。相当喉が乾いていたようだ。俺はそれを横目で見ながら、ミルクティーをちびちび飲むことにした。
「いいですよ、それぐらい。何かしらの情報料代わりにとっておいてください」
「ほなさっそく……」
はぁ~~、と溜息をついて赤羽くんがにじりよってきた。
その目は普段と違い、大きく見開かれている。
「おまえ、一年の子にめちゃくちゃ人気なん知ってる?」
「そうなんですか? しかしなぜ……」
「デッキ調整とか戦法とか指南したってるからやろ。部長の無意味な鍛錬に対して、実践的で親身。そりゃあ人気出るわ。精霊に嫌われてるってのも、同じ立場の連中からしたら好感触やろな。ワイはけっこうスパルタやからそこまででもないねんな」
「先輩として当然のことをしているだけですが……」
謙遜とかではなく、本当にそう思っている。
前世、クソガキだった俺を変えてくれた師匠は、今の俺の何倍も親身に接してくれた。
『俺に恩返しするぐらいなら下の連中に返してやれ』
その言葉を実践しているだけ。そこに実利や計算など一切ない。
…………正直一年から人気だからってどうなんだという話だしな。
「でも女の子からモテるのも気分ええやん」
「別に……ファイトのほうが楽しいですし」
「カードオタクやなぁ」
そんなこと言って赤羽くんも浮ついた話を聞いたことがない。フツメンの俺と違って、けっこう見目も良い。正直アニメの曲者イケメンかってぐらい良いのに……。
俺のそんな思いが視線に加わったのか、言い訳するように赤羽くんが呻いた。
「一応言っとくけど、ワイは恋愛より人生ってだけやで。今はほら、大事な時期やしな」
「たしかにファイターとしては学生時代に一旗揚げたいですよね」
「ああ、プロファイターになれれば、一生食いっぱぐれなしや。うちの家、貧乏やからな。妹たちを食わせていくためにも高校生からプロになりたいねん」
「応援してますよ」
「というわけで団体戦に出てくれや」
「私の一存ではどうにも……」
「チッ、なんとか部長のやつを説得するしかないなぁ……」
実力を買ってくれるのは嬉しいが、あの頑固な部長が考えを変えることはないだろう。
なんせ、今まで5回は対戦しているが、一度として俺に勝てたことなどないし。
それなのに考えを変えないし。むしろ嫌われていると思う。俺。
なんて考えていると、バンバンと背中を叩かれた。
危うくミルクティーを零しそうになる。
「今日はこのままワイもフリークス寄ったるかな」
「今日は行きませんよ。基本土日通いなんで」
「ほなアルケミー来る?」
「たまにはいいですね」
そんなわけで今日は普段のフリークスではなく、学校近くにあるアルケミーへと行くことになった。ダルい部活動はさっさと早退するに限る。どうせ顧問の先生は怒らないしな。後輩たちに物を教えるのもいいが、今日は遊びたい気分だ。
たまには男同士で無礼講だぜ、いえーい。
部長 ……精霊に愛されており、超重量のデッキを操る。精霊主義が行き過ぎている。
赤羽 ……関西弁風の話し方をする。超速攻のデッキを巧みに操る。
日刊ランキング二位!?
ありがとうございます!!