精霊が切り札の世界で、俺だけ孤独に成り上がる   作:エクシーズ次元

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008 ファイト部

 一応俺は魁星常翔高校のファイト部に入っている。

 理由としてはやはりファイト・ウィザーズの練習に部活動の時間は充てたいこと。

 帰宅部では内申点に影響が出ることが上げられた。

 

 この世界でファイト・ウィザーズは、すべての中心と言える。

 なにせ精霊は確率を操作できる。つまりそれはものすごく幸運になれるということだ。

 その恩恵は図りしれず、精霊に愛されるものはすべてを得られると言っていい。

 直接、精霊を扱うファイト部はまさにその中心。いわばこの世界に置ける野球とかサッカーとか、中心的なメディアスポーツの一環であったのだった。

 

 そして……それゆえに大きな因習も生まれていた。

 

「精霊が扱えんものはゴミ同然じゃああああああああああ!!」

 

 声高にそう叫び、グラウンドでまったく意味のないドロー素振りを一年生たちに強要するのはファイト部の部長だった。番長のような学ランと学帽を被り、無意味な鍛錬を涙を流しながら見つめている。一方の俺は校庭を走り込んでいる。

 

 ちょっとは運動しないと座りっぱなしじゃ脳が鈍るからな。それに一年が無意味な練習をしている手前、自分だけ実技をしているというのもなんだか悪い気がした。

 

「カードゲームで体なんて鍛えて何になるんって話やで。なぁ、伊綱くん」

 

 俺にそう話しかけてきたのは、赤色に髪を染めたドチンピラ。

 赤羽くんだった。体躯は俺より細いものの、背は俺より大きい。

 なんていうか、針金のような見た目をしている。

 

「私は必要なことだと思いますよ。特に体調が良いと、頭の回りも良い」

 

「せやかてドロー素振りじゃなんにもならへんやろ」

 

「と言いながら私に並走してくるのはなぜですかね」

 

 さっきから明らかに俺に合わせて走っている。

 まぁ別に困ることはないが、部長に見られたら怒られかねない。

 

「このまま外回り行かへん? 校庭だけやと飽きるやろ」

 

「つまりサボろうってことですか?」

 

「ご明察! どーせ精霊精霊ばっかで大した練習せえへんやん」

 

「部長が聞いたらブチギレますよ。まったく……」

 

 そのまま校庭から外へと走っていく。

 基本的に運動部は練習のためなら、放課後外に出たって構わない。

 それは俺達ファイト部もそうだった。

 

「せやけど、一番強いカードと同調したやつが部長なんてダルいわ」

 

 街路樹の生えた街並みをランニングしながら、そんなことをぼやく赤羽くん。

 ファイト部の現体制にずいぶん文句がお有りのようだ。

 

「仕方ありませんよ。顧問の先生はファイト素人ですし」

 

「カード単体やったらともかく総合的な実力は俺らのほうが上やん」

 

「部長だって弱いわけじゃないでしょう。あの超重量デッキをよく回しますよ」

 

 この場合の重量とはデッキ自体が重いという話ではない。

 平均的なクリーチャーのコストが重い、ということだ。

 

 一方の赤羽くんは超高速アグロデッキを愛している。

 

 それはもう芸術的な速度で、俺でさえ油断したらうっかり瞬殺されかねないほどだ。

 ゆえに部長と赤羽くんは水と油でしょっちゅう喧嘩していた。

 

「そういえば夏の団体戦、どうなるんやろな」

 

 そう、ファイト部があるのならば当然全国大会がある。

 というか基本的に18歳以下の学生は部活からの推薦じゃないと出られない。

 仮にどれほど強かったとしても、だ。

 

「まぁ確実に私は選ばれないでしょうねぇ」

 

「ありえへん。この部活で五本の指には入るのに」

 

「同調してくれる精霊がいませんからね」

 

 ふっ、と自嘲気味に笑う。無理に精霊カードをデッキに入れることは出来る。

 しかし同調できていないことなど、しばらく回していれば丸わかりだ。

 

 それに精霊と会話したり、同調率を見抜けるファイターだって世の中にはいる。

 そういった事ができるのが、部長が部長に選ばれた理由だったりもする。

 

「精霊主義もろくなもんやないわ。もっと実力で見るべきやと思うで」

 

「ありがとうございます。ひとまず個人戦で頑張りますよ」

 

 ……と、まぁ精霊主義──つまり同調している精霊が強ければ強いほどファイトも強い、という考えが蔓延るファイト部の中で、赤羽くんは俺を買ってくれる数少ない人間だった。アグロデッキ故にあまり精霊に頼らないプレイングだからだろう。

 

「そういえばあれからずっとフリークス通いなんか? アルケミーの方が近いやろ」

 

「ファイト部の人達が来るのでゆっくりしてられないんですよ」

 

「あ~~~……、ワイやったら実力で黙らせたるけどな」

 

 イケイケの赤羽くん。こういうコミュ強なところは見習いたい限りだ。

 俺はどうにもコミュニケーションというのが苦手でね。

 こうして礼儀正しい仮面を被ってないと、まともに話すことも出来ない。

 

「別にイジメられているわけじゃありませんし」

 

「軽んじられてるやろ。二年のボケどもは雑用とか全部君任せやで。三年の連中が受験が控えているから大体引退したとゆーのに……」

 

「一年や仲のいい子が手伝ってくれますし、大したことじゃないですよ」

 

「欲がないのぉ」

 

 赤羽くんが好戦的すぎるだけである。ま、評価されるのは嬉しいけどね。

 しかし波風を立てて日頃の居心地をコレ以上悪くはしたくない。

 

 ……なんて思いながらとりあえず休憩。

 

 ポケットに隠し入れておいたコインホルダーで、自販機のジュースを買う。

 コインホルダーは百均に売ってあるのだが、小銭を引っ掛けて持ち運ぶのにすごく便利なのだ。財布ほどかさばらないし。赤羽くんの分も買ってやることにした。

 

「すまんな。後で返すわ」

 

 そう言って赤羽くんがコーヒーを一気飲みする。相当喉が乾いていたようだ。俺はそれを横目で見ながら、ミルクティーをちびちび飲むことにした。

 

「いいですよ、それぐらい。何かしらの情報料代わりにとっておいてください」

 

「ほなさっそく……」

 

 はぁ~~、と溜息をついて赤羽くんがにじりよってきた。

 その目は普段と違い、大きく見開かれている。

 

「おまえ、一年の子にめちゃくちゃ人気なん知ってる?」

 

「そうなんですか? しかしなぜ……」

 

「デッキ調整とか戦法とか指南したってるからやろ。部長の無意味な鍛錬に対して、実践的で親身。そりゃあ人気出るわ。精霊に嫌われてるってのも、同じ立場の連中からしたら好感触やろな。ワイはけっこうスパルタやからそこまででもないねんな」

 

「先輩として当然のことをしているだけですが……」

 

 謙遜とかではなく、本当にそう思っている。

 前世、クソガキだった俺を変えてくれた師匠は、今の俺の何倍も親身に接してくれた。

 

『俺に恩返しするぐらいなら下の連中に返してやれ』

 

 その言葉を実践しているだけ。そこに実利や計算など一切ない。

 …………正直一年から人気だからってどうなんだという話だしな。

 

「でも女の子からモテるのも気分ええやん」

 

「別に……ファイトのほうが楽しいですし」

 

「カードオタクやなぁ」

 

 そんなこと言って赤羽くんも浮ついた話を聞いたことがない。フツメンの俺と違って、けっこう見目も良い。正直アニメの曲者イケメンかってぐらい良いのに……。

 俺のそんな思いが視線に加わったのか、言い訳するように赤羽くんが呻いた。

 

「一応言っとくけど、ワイは恋愛より人生ってだけやで。今はほら、大事な時期やしな」

 

「たしかにファイターとしては学生時代に一旗揚げたいですよね」

 

「ああ、プロファイターになれれば、一生食いっぱぐれなしや。うちの家、貧乏やからな。妹たちを食わせていくためにも高校生からプロになりたいねん」

 

「応援してますよ」

 

「というわけで団体戦に出てくれや」

 

「私の一存ではどうにも……」

 

「チッ、なんとか部長のやつを説得するしかないなぁ……」

 

 実力を買ってくれるのは嬉しいが、あの頑固な部長が考えを変えることはないだろう。

 なんせ、今まで5回は対戦しているが、一度として俺に勝てたことなどないし。

 それなのに考えを変えないし。むしろ嫌われていると思う。俺。

 

 なんて考えていると、バンバンと背中を叩かれた。

 危うくミルクティーを零しそうになる。

 

「今日はこのままワイもフリークス寄ったるかな」

 

「今日は行きませんよ。基本土日通いなんで」

 

「ほなアルケミー来る?」

 

「たまにはいいですね」

 

 そんなわけで今日は普段のフリークスではなく、学校近くにあるアルケミーへと行くことになった。ダルい部活動はさっさと早退するに限る。どうせ顧問の先生は怒らないしな。後輩たちに物を教えるのもいいが、今日は遊びたい気分だ。

 

 たまには男同士で無礼講だぜ、いえーい。




部長 ……精霊に愛されており、超重量のデッキを操る。精霊主義が行き過ぎている。
赤羽 ……関西弁風の話し方をする。超速攻のデッキを巧みに操る。 

日刊ランキング二位!?
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