精霊が切り札の世界で、俺だけ孤独に成り上がる   作:エクシーズ次元

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009 大進撃

 アルケミーという魁星常翔高校の近隣にあるカードショップはデパートの1エリアを丸々使った贅沢な作りになっている。ドライバーでファイト可能なプレイスペースも潤沢に存在し、いくらかSSRの精霊憑きカードだってシングルで販売している。

 

 フリークスだってそこそこに広いものの、さすがにこの店には負けるんじゃないかなという潤沢さだ。部活動が終われば、まだ暇な魁星常翔高校の生徒たちがどかっと流れ込む。

 しかしそんな時間にはまだ早く、お店は主に小学生などで賑わっていた。

 

「店長! とりあえず3パックちょうだいや」

 

 赤羽くんのそんな注文に、無愛想なおっさん店長が応じてパックを3枚渡してきた。

 基本的に卓を借りるのであれば場所代を払うべき、というのが粋なファイターの考え方だった。とは言え、赤羽くんにそんなお金があるのかちょっと疑問だが。

 

「ああ、気にすんな。普段ここでバイトしとるからな。場所代ぐらいは問題ないわ。それにどのみち新パック剥きたいしな。ワイの使ってるテーマのカードあるねん」

 

「それは死活問題ですね……どれ、私も3パック剥きましょう」

 

「マジ? 雷霆出たら交換してくれや」

 

 おっさん店長から同じように3パック買って剥く。

 ふむ……雷霆が3枚ほど出たな。精霊は宿ってないけれど、けっこうレアな奴らだ。俺は黙ってそれらを赤羽くんの前に置いてやった。

 

「引きええのぉ~~待て待て、何が欲しい?」

 

 そのまま受け取ればいいのに、目ざとくそんな事を聞いてくる赤羽くん。

 剥いたパックのカード類を見せてきたので、とりあえず幻月テーマのカードを同じ枚数貰うことにした。組む気はないものの、せっかく幻月のエースを持ってるしな。

 

「幻月ぃ? たしかに君ん得意な呪文メインやけど……エースが大事やろ」

 

「幻月のアルタイアでしょう? 持ってますよ」

 

「おお……あれSSRやなかったっけ?」

 

「ええ、絶賛使うのを拒否られています」

 

「ガハハハ!! 流石は精霊祓いやね!!」

 

 赤羽くんが机を叩いて大笑いする。周りに迷惑だからやめてほしいが、いちいちオーバーリアクションなのだ。まぁ周りの小学生はもっとはしゃいでいるが。

 

 精霊祓い。あまりにSSRカードが手に入らず、借りたとしてもろくに手札に来ないことからつけられた不名誉なあだ名。そのくせ使っているカードの声はしっかり聞こえるもんだから、そのアンバランスさにつけられてしまったのだ。

 

「うるさいですね。さて、他の方が来る前に何戦かやっておきます?」

 

「あ~~それもええけどフリーマッチやろうや。どっちが多く勝てるか勝負や」

 

「望むところです」

 

 大抵のショップにはフリーマッチという制度がある。

 対戦相手に飢えている者同士、ドライバーを持って勝敗をつける。前世じゃあんまりなさそうな制度なのだが、さすがはアニメ風な世界と言ったところか。

 

 さて、少しデッキを整えて俺の一戦目は……。

 

「はわっ……よろしくお願いしますぅ……」

 

 現れたやつれたサラリーマン風の男性。シャツが半分ズボンに入っておらず、猫背気味。隈もかなりひどく、ずいぶんと寝てなさそうなことが伺えた。

 自信なさげでいかにもオドオドした様子だ。

 

「よろしくお願いします。ずいぶん疲れてるようですが、大丈夫ですか?」

 

「はは……ようやくとれた半休なんで遊ばないと損ですよぉ……」

 

 いわゆるブラック企業勤めというやつだろうか。多少気になるが、俺が出来ることはファイトであって役所や労基への斡旋ではない。なによりせっかく遊びに来た場で初対面の相手にそんな事を言われたら白けてしまうだろう。

 

 俺はプレイスペースで相手と向かい合うと、ドライバーを右腕にセットした。

 

「わかりました。良いファイトにしましょう」

 

「「ファイト!!」」

 

 さて相手は何を使ってくるかな。序盤はコストを増やしたり、出したクリーチャーで細かくダメージを与えておいてっと……今回は後攻だからちょっと緩やかに攻めたいしな。

 

 ファイト・ウィザーズは圧倒的に先攻が有利なゲームだ。

 一応その差を埋めるために、後攻はタダでマリガンできたり、序盤にのみ使える追加コストがあるのだが、それでもなお下手の者には先攻を譲ってやるという文化が存在する。

 

 基本的にはドライバーによってランダムで決まるのだが、任意での設定も可能だ。

 まぁ、これも精霊の力によってある程度操れるとかなんとか……。

 

 よほどの差がなければ、拮抗し合うからあとは運の要素が大きいそうだけど。

 ちなみに俺はだいたい後攻。ゆえに後攻に向いたデッキビルドをしている。

 

 そんなこんなで4ターン目。ようやく相手が動いてきた。

 

「わたくしはもこもこフワンタルを召喚いたしますぅ……」

 

 やけにもこもことした羊のような可愛らしいクリーチャーが出てきた。

 

「ほう、もこもこですか」

 

 姫宮さんが言っていた闇のファイター。

 ティフォンの蛇が使っているであろう5つのテーマの一つだ。

 その特徴は……。

 

「もこもこフワンタルの効果発動。デッキからもこもこ大進撃をサーチし、そして発動いたします。手札に存在するもこもこクリーチャーたちをこのターン限定で召喚いたしますぅ……」

 

「うわっ」

 

 このコストを度外視した疾走コンボである。

 一気に場に3体のもこもこが並ぶ。ダイレクトアタックを決められたら終わりだぞ。

 流石に俺の場には自動人形(オートマタ)クリケットがいるから、1体は止められるが……。

 

「バトルでございますっ!! もこもこブライタルでクリケットを破壊!!」

 

 猛牛のような羊がこちらに向かって突進してくる。

 そのままデク人形のようなクリケットがへし折られてしまった。

 

 まぁ、いいか。いつも通りのムーブである。

 しかもブライタルには効果があったはず……。

 

「ブライタルは相手クリーチャーを破壊した時、上回った分の攻撃力を相手に与えますぅ……!! さらに場にいるもこもこメラニオンの効果を発動!! 攻撃したもこもこクリーチャー1体を指定してもう一度攻撃させますぅ……!!」

 

 300ポイントのダメージを喰らった上、まだ止まらない!!

 本当に油断したら圧殺されるよなぁ、このテーマ……。

 

「手札から速攻呪文自動人形の複製を発動! 自動人形(オートマタ)が破壊されたターン、自動人形(オートマタ)トークンを2体召喚できます」

 

「なんですってぇ……!!」

 

「トークンの攻撃力は破壊された自動人形(オートマタ)を参照します、が場にいるもこもこたちを上回るほどではないですね」

 

「しかし盾としては機能するということでございますねぇ……!!」

 

 結局、ブライタルの追加攻撃を受けて、貫通ダメージを受けたが……。

 トークンは2体いる。1体分防げるだけでもギリギリ首の皮は繋がる計算だ。

 

「くっ、では残りのもこもこ達で攻撃し、ターンエンドでございますぅ……!!」

 

「ふぅ、危うく死ぬところでした」

 

「ええ……このターンで決めるつもりなのでしたがぁ……」

 

 もこもこ大進撃で召喚されたもこもこたちはターン終了時、墓地へ送られる。

 相手の場に残ったのはもこもこフワンタルのみ。

 

 しかし俺の場はがら空きだ。

 ま、なんとかなるか。ドロー……っと。

 

 よし、大して期待してなかったが俺はやはり運がいい。

 

「自動人形(オートマタ)メイデンを召喚!!」

 

「おお……ダイレクトアタックできない代わりにコストが低く、攻撃力も高いカードでございますねぇ……なかなかクセのあるカードだ」

 

「そうですね。では私はバルメオの燭台を発動!! 貫通効果を得る代わりに、戦闘終了時に破壊されるという効果です」

 

「ほう? それだけでございますか? であればこのターンは生き延びれそうでございますねぇ」

 

 もこもこフワンタルの攻撃力は2100。

 メイデンは3000なので900ポイントのダメージだ。

 

 これで相手のライフは少し削っていた分を合わせて5900。

 コストも切らしているし速攻呪文はない。つまり俺の勝ちだ。

 

「まぁ見ててくださいよ。自動人形(オートマタ)メイデンでもこもこフワンタルを攻撃!! これによりメイデンもバルメオの燭台の効果で破壊されます……が」

 

「……が?」

 

「速攻魔法幻月の再臨を発動します。墓地にある速攻魔法一枚を除外し、同一の効果になりますね。コストも同じになりますが……私が使うのは自動人形の複製」

 

「まさか……!! トークンを召喚するつもりでございますかぁ!?」

 

「そういうことです」

 

 自動人形の複製は破壊されたクリーチャーの現在の攻撃力を参照する。

 つまり俺の場には3000のトークンが2体。さらに彼らはメイデンの効果は引き継がないので、ダイレクトアタックできるということだ。

 

 メイデンそっくりだが、色のない白い亡霊のようなトークンが現れる。

 それがそのまま対戦相手に突撃していく。

 

 相手のライフは5900。ダメージは6000。

 これにて勝利である。

 

「グッドゲーム。良いファイトでしたよ」

 

 対戦相手は気落ちした様子もなく、パチパチと握手している。

 今のコンボに感嘆してくれたようだ。

 

「素晴らしい。まだ学生さんでしょうに……わたくし、吉田と申します。貴方様は?」

 

「伊綱です。いや私こそ負けると思いましたよ。運が良かっただけです」

 

「やはり精霊に好かれてるんですか?」

 

 じっ……と恨み言が言いたそうな顔。

 そういえばふわふわには精霊が入りそうなSSRは存在しない。

 この人、精霊がいないのか。

 

「いえ、単純な運です。私も精霊に嫌われてまして」

 

「へぇ、にわかには信じられないでございますね……」

 

「そいつの言ってることは本当じゃぞ」

 

 聞き覚えのある声。エスカレーターの方を見ると、今しがたやってきた様子の部長の姿があった。のっしのっしと鈍重そうにこっちに歩いてくる。

 

 そのまま、その長身で俺を上から見下ろしてきた。

 

「部活をサボって何しとるんじゃい。出稽古に出した覚えはないぞ」

 

 …………ふむ、コレは完全に怒られる流れだ。

 どうせ怒られるなら言いたいこと全部言っていこうかな。

 

「ああ、すいません。ドロー素振りより効率的だと思いまして」

 

「…………なに?」

 

「精霊がいるって言ったって、願いながらドローの鍛錬をしたら成功率が上がる? 流石にオカルト過ぎますよ。失笑せざるを得ない。なにより無駄なのはそれを一年生に叩き込んでいることですね。上に立つものとしてどうかと思いますよ。無駄な信仰に目下の人間を従わせているなんて……がぁっ!?」

 

 腹から空気が抜けていく。

 がつんっ、と腹部を殴打されたのだ。

 それもかなりの勢いで。

 

 思わず、その場に崩れ落ちてしまう。

 

「根性叩き直したるっ!!」

 

「わぁっ!? 暴力はいけませんよぉ!!」

 

 慌てて吉田さんが部長の両手を掴んで止めようとする。

 しかしそれを振りほどき、吉田さんまで突き飛ばした。

 

 そのまま俺の襟を掴み、顔面を殴ろうとしてきたが……。

 赤羽くんがその手を掴んで止めた。

 

「おうゴラ。部長ともあろうものが暴力沙汰かいな」

 

「ああん!? 教育的指導じゃあ!!!」

 

「ワイが相手したるわ。裏に来いや」

 

 じっ……と睨み合う2人。

 しかし冷静になったのか、部長は俺の襟を離してくれた。

 

「こいつが偉そうにするからじゃい。先公に告げ口なんぞするなよ。……ま、したところで精霊に好かれとらんおぬしらなんぞ切り捨てられておわりじゃろうけどな。ガハハハ!!」

 

 そう言って笑いながら部長は去っていく。

 まさかリアルファイトを仕掛けてくるほど愚かだったなんて……。

 しかしヤツの言うとおりだ。学校は精霊に愛されているアイツの方を取るに決まっている。精霊至上主義の社会では時としてそういうことがまかり通るのだ。

 

「大丈夫かいな?」

 

「ええ、平気ですよ……少し驚いただけです」

 

 赤羽くんが俺の背中をさすって気遣っている。

 彼は一刻でも早くプロデビューしたいのだ。

 こんな揉め事でその夢を邪魔するわけにはいかなかった。

 

「学校とか、警察に言わなくていいのですかぁ……?」

 

 吉田さんが心配して、俺の元へとやってきた。

 腕を抑えているが、吉田さんこそ大丈夫なのだろうか。

 

「ああ、すまんなおっちゃん。言うたところで、学校は真面目に取り合わへんと思うよ。ほら、あいつら精霊憑きのご機嫌だけが大事やさかい」

 

「しかしわたくしは部外者でございますし……なんなら監視カメラに今の映像が」

 

「せやけど大事になって困るのはあいつだけやないで……吉田さんがどうしてもと言うならワイらに止める権利なんてあらへんけど……」

 

「……いえ、たしかに学生さんには大事な時期でございましたね……」

 

 吉田さんも事の大きさに気づき、押し黙ってしまった。

 もみ消されるか、あるいは部活ごと出場停止なんてことになりかねない。

 部長だけが退部させられるなんて、都合のいい話にはなりはしない。

 

 なにせ精霊は運命を握っているのだから。

 全員が俯く中、ボソッと赤羽くんが呟いた。

 

「……………………あんな奴、闇のファイターにでもやられたらええねん」

 

 そんな言葉が効力を持ったのだろうか。

 

 

 

 

 翌日、部長は行方不明になった。

 

 

 




吉田  やつれたサラリーマン。礼儀正しく優しそうな雰囲気をしている。


今日の最強カード

≒≒≒もこもこ≒≒≒≒≒≒≒≒≒≒≒≒≒≒≒≒≒≒≒≒≒≒≒≒≒
もこもこフワンタル
クリーチャー 攻撃力2100
デッキからもこもこ大進撃をサーチする。

もこもこ大進撃
基礎呪文
手札にあるもこもこを任意の数召喚する。
このターン終了時、それらは破壊される。

もこもこブライタル
クリーチャー 攻撃力2100
相手クリーチャーを破壊した時、上回った分の攻撃力を相手に与える

もこもこメラニオン
クリーチャー 攻撃力2100
攻撃したもこもこクリーチャー1体を指定してもう一度攻撃させられる。


≒≒≒自動人形(オートマタ)≒≒≒≒≒≒≒≒≒≒≒≒≒≒≒≒≒≒≒≒
自動人形(オートマタ)メイデン
クリーチャー 攻撃力3000
このクリーチャーはダイレクトアタックできない。

自動人形(オートマタ)クリケット
クリーチャー 攻撃力1800
このクリーチャーは可能なら毎ターン攻撃する。

自動人形の複製
速攻呪文
自動人形(オートマタ)が破壊されたターン、
自動人形(オートマタ)トークンを2体召喚できる。
トークンの攻撃力は破壊された自動人形(オートマタ)の1体を参照する。

バルメオの燭台
速攻呪文
自場のクリーチャーを対象にして発動できる。
相手クリーチャーを破壊した時、上回った分の攻撃力を相手に与える。
戦闘終了後、対象にしたクリーチャーを破壊する。

幻月の再臨
速攻呪文
墓地にある速攻魔法一枚を除外し、同一の効果になる。
支払うコストは除外したものと同じになる。
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