召喚されたら極悪ヒロインしかいなかった件 〜そして俺は罪人の魂を天使の死骸に付与して悪魔と戦うお仕事を始めました〜   作:ookami2

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第14話 世界の終わりほど祭りは派手に

 

 

 翌日、ロンジたちは天界を出た。天使と悪魔の決戦の舞台へ行くためだ。

 

 そして『転移の門』を抜けた瞬間、ロンジは思わず足を止める。

 

 

 

 

「……うお」

 

 

 

 

 都市があった。

 ただし地上ではない。巨大な大陸そのものが、天界と地獄の狭間へ浮かんでいる。

 

 大(・)き(・)す(・)ぎ(・)て(・)端(・)っ(・)こ(・)が(・)見(・)え(・)な(・)い(・)。

 見上げれば遠くに白い光が広がっている。昨日までいた天界だ。逆に端から下を覗けば、赤黒い闇がどこまでも続いている。底は見えない。というか、あまり長く見ていたくない。遠すぎて見えるはずもないのに、時折その奥で何か巨大なものが動いている気がする。

 

 

 

「ここが――〝辺獄〟です」

 

 

 

 マヨイエルが言った。

 

 この街の中心には巨大な決戦闘技場があり、その周りを建物が取り囲んでさらに外周には黒い川がぐるりと流れている。

ただの水ではない。水面に、人の顔や景色が浮かんでは消える。

 

「……あの川、何?」

「三途の川の支流です。辺獄を通った死者の記憶が流れてるんですよ」

 

 ロンジが覗くと、水面に知らない少女の誕生日会のようなものが映った。次は戦場。その次は結婚式……どれもすぐに数秒たたず崩れて溶けていく。

 

「これ、見ていいやつなの?」

「私は綺麗だと思いますけど」

「マヨイエルって、たまに感性強いよな」

「どういう意味ですか、ロンジくん?」

 

 笑顔で聞かれたので、ロンジは黙って川から離れた。

 

 街の中も変だった。

 

 天使風の建物の隣に、黒い鉄や骨で出来たパンクな店が普通に立っている。通りを歩いているのも天使だけではない。悪魔もいるし……見たことのない変な種族も混じっている。

 

「ここ、中立地帯なんだよな?」

「はい。世界唯一の完全停戦中立区域です……といっても、天使と悪魔の直接の殺し合い自体が、今、神様のルールで出来ない状態ですけど」

「じゃあ安全?」

「リングの外なら」

「一番不安になる言い方するなよ!」

 

 そこまで聞いて、ロンジはようやく別のことに気づいた。

 

「……というか、何でこんなに賑やかなの?」

 

 もっと張り詰めた場所を想像していた。

 

 なのに大通りでは屋台が客を呼び、、明日の試合に賭ける札まで売られている。頭上には【天使悪魔戦争・第一回戦 明日開催】という文字まで派手に浮かんでいた。

 

「第一回戦! 賭け札ぜっさん受付中だよー!」

 

       「天使側も悪魔側も代表未発表! 情報なしの博打だ!! 試合が何分もつかも賭けられるぞお……!」

 

 

 

 ロンジは通りの向こうを見て、目を疑った。

 

 角の生えた悪魔と、翼のある天使が肩を組んで酒を飲んでいる。

 

「いや、あれ敵同士だよな?」

「そうですね」

「一緒に飲んでるぞ」

「だから辺獄なんですよ」

 

 さらに少し先では、悪魔の男が女性天使へ声をかけていた。

 

「姉ちゃん一人? 羽根綺麗だねえ」

「触ったら折るわよ」

「怖っ。でもそこがいい」

「……、一杯だけなら」

「行くんかい!」

 

 ロンジが叫ぶと、ディーゼが笑った。

 

「辺獄ですよお?」

「その一言を万能の説明にするな! 辺獄だからなんなんだよ!!」

「昔からこんなものですよお。明日死ぬかもしれないなら、今日楽しんだ方がいいじゃないですかあ……って考え方の天使や悪魔が集まる場所です」

 

 言いながら、ディーゼは屋台から串焼きを一本受け取った。

 

「おい、金」

「払ってますよお」

「いつ?」

「マヨイエル先輩が」

「ディーゼちゃん!? 私まだ払ってないんだけど!??」

 

 マヨイエルが慌てて財布を出す横で、ディーゼはもう肉を食べ始めている。

 

「後払いですよお」

「それ私が払うってことじゃん!」

「先輩は後輩にご飯奢るの好きじゃないですかあ」

「そういう時だけ後輩になるのやめて!」

 

 ロンジははは……と汗をぬぐいつつ、その隣を見る。

 

 ところで乱子はさっきからずっと街を眺めていた。うん、黙っていれば、なんの違和感もない。

 

 

「楽しいか?」

「うん。人がいっぱいいる」

「人混み好きなんだ?」

「分かんない。でも見てるのは好きかも」

 

 乱子は通りを行き交う者たちを目で追った。

 

「笑ってる人もいるし怒ってる人もいる。さっき喧嘩してた二人、もう一緒に飲んでる」

「よく見てんな」

「いろんな顔するから面白い」

 

 乱子がくすりとした。

 こいつは人(ここは悪魔と天使だが)……を見るのが好きなのかもしれない。

 

 

「そういえばさ」

 乱子が振り返る。

 

「召喚された時に、世界のことはだいたい頭に入ってきたんだけど」

「そんなのまで?」

「天界とか悪魔とか、私が決闘するために呼ばれたとか」

「最低限だけですよお。全部一から説明するの面倒じゃないですかあ。だから召喚時に最低限の情報のインプットを行うんですよ」

「世界救済の責任者が言う理由じゃねえんだよ!」

 

 乱子はそのまま続けた。

 

「でも、悪魔を倒すっていうのがよく分かんない」

「何が?」

「どこまでやったら勝ち?」

 

 ディーゼの表情が少しだけ変わった。

 

「そこは大事ですねえ。この十五番勝負には、判定も降参もありません」

「じゃあ?」

「決着条件は一つだけですよお」

 

 少し間を置いて、ディーゼが言った。

 

 

 

「ど(・)ち(・)ら(・)か(・)が(・)死(・)ぬ(・)こ(・)と(・)で(・)す(・)」

 

 

 

 ロンジは思わずディーゼを見た。

 

「……マジで?」

「マジですよお。片方の生命活動が完全に止まった時点で終了です」

「気絶は?」

「続行」

「戦えなくなっても……?」

「生きているなら終わりませんよお」

 

「……えげつな」

 

 さすがに軽口が出なかった。

 

 マヨイエルも顔を曇らせる。

 

「だから、一度始まったら……どちらかは必ず死にます」

 

 ロンジは乱子を見る。さすがに何か反応すると思った。

 

 

 

 

「ふうん」

 

 

 

 それだけ。だった。

 

 

「いや、ちょっと待て。それだけか?」

「何が?」

「お前が死ぬかもしれないって話だぞ。怖くないのか?」

 

 乱子は少し考えた。

 

「もう一回死んでるし。次があるかは知らないけど、ないならそれで終わりでしょ」

「そんな簡単に――」

 

 ロンジはそこで言葉を止めた。

 

 乱子は強がっていない。

 

 本(・)当(・)に(・)そ(・)う(・)思(・)っ(・)て(・)い(・)る(・)。

 

 

 

「それより、相手の悪魔って誰?」

 

 あっさり話題が変わった。

 

「分かりませんよお。悪魔側も代表を伏せていますから」

「当日まで?」

「基本的には。向こうも乱子さんのことは知りません」

 

 乱子の目が少しだけきらんと輝く。

「じゃあ、何が出てくるか分かんないんだ」

「そういうことですねえ」

「そっちの方が面白そう」

 

「お前、自分が死ぬかもしれない話より食いついてない?」

「知らないもの見る方が面白いし」

 

「マネージャー的には非常に困る価値観だぞ、それ」

 

 乱子は少し考えたあと、急に屋台の方を見た。

 

「マネージャー。私にも何か買って」

「話の切り替えが急なんだよ。何で俺さんが!?」

「明日働くから」

「急に労働者の権利を主張し始めたな!」

「先行投資」

 

 

 ディーゼが笑う。

 

「いいじゃないですかあ。明日は命懸けで働くんですよお」

「命懸けを出されると断れないだろ!」

 

 仕方なく店を見て回る。

 菓子、怪しい薬……謎の生き物など、乱子はいくつか覗いた末に、小さな装飾品の店で足を止めた。

 

「これ」

 

 

 選んだのは、白い花を模した髪飾り。

 

「……それ?」

「うん」

「もっと武器とか欲しがると思ってたぞ」

「武器は出せるから」

「便利すぎるなあお前さん!」

 

 ロンジが召喚後に貰ったなけなしのお小遣いで代金を払い、髪飾りを渡す。

 

 乱子はその場で髪につけた。

 

 

「大事にする」

 

 

 その言葉に、ロンジは少しだけ引っかかった。

 

 

「……大事に出来る?」

 

 聞いてから、ちょっと意地が悪かったと思った。

 

 乱子は怒らず、髪飾りへ触れたまま考える。

 

「分かんない。でも今は、なくしたくない」

「……そうかよ」

「なくしたらまた買ってね」

「そこまで言ったならなくすなよ!!」

 

 

 

 

 しばらく歩くと、何名かの悪魔がすぐ横を通り過ぎていった。

 

「お、天使どもだ」

「そういや明日の天使がわ代表、まだ秘密らしいぞ」

「悪魔側もだろ。初戦から大物だったら笑うな」

 

 

 誰も乱子を気にしない。

 

 明日リングへ上がる本人が目の前にいるとは思っていないのだろう。

 

 

「にしても悪魔って意外と普通だね」

「何想像してたんだよ」

「もっと山羊っぽい目とか……角がいっぱいでずっと怖い顔してるのかと思った」

「偏見だろそれは。と言いつつ俺もその認識だったわ」

 

 乱子は少し後ろを振り返った。

 

「でも明日のは、ああいう悪魔じゃなくてもっと強いんでしょ?」

「代表に選ばれるくらいですからねえ。かなりのものだと思いますよお」

「そっか。いいね」

 

 

 

 やがて乱子が、別の屋台の前で足を止める。

 

 看板には大きく【第一回戦・殺害方法予想】と書かれていた。

 

 

「うわ。悪趣味!」

「面白そう」

「お前、こういう店だけ見つけるの早くない?」

 

 

 札には【天使側】【悪魔側】とだけ書かれ、その下に死に方と倍率がずらりと並んでいた。

 

   【頭部破壊 2.4倍】【胴体両断 3.1倍】【四肢欠損後失血 4.6倍】

       【捕食 6.2倍】      【原形消失 8.8倍】

 

「何で死に方に倍率ついてんだよ……!」

「辺獄では昔からある賭けですよお」

「昔からあるなら余計に嫌だわ……!」

 

 乱子は札をじっと見る。

 

「頭なくなるの人気だね、分かりやすいからかな」

「分析しなくていい!」

 

 乱子はふむ……と呟きつつ、ロンジを見やる。

 

「私ならどれだと思う?」

「考えねえよ! 振るな振るなロンジさんに!」

「私は原形消失かな」

「自分の死に方に張るな!」

 

 乱子は札を見ながら首を傾げる。

「でも原形なくなったら、自分じゃ見られないんだよね」

「当たり前だろ」

「ちょっと残念」

「何が!?」

「自分が最後どう壊れるのか、見てみたいじゃん」

 

 

 乱子は本気だった。

 怖がっているわけでも、強がっているわけでもない。ただ純粋に興味があるらしい。

 

「……やっぱお前、怖えわ」

「そう?」

 

 屋台の悪魔が大笑いした。

 

「いいねえ姉ちゃん! 気に入った! 一口サービスしてやるよ!」

「ほんと?」

「受け取るな! ほら行くぞ!」

 

 ロンジは乱子の肩を掴んで引っ張った。

 

「まだ悪魔側見てない」

「お前は明日そっちを殺す側だろ!」

「参考になるかも」

「ならない!」

 

 乱子はえへえへと笑いながら引っ張られていった。街の中央の、大決戦場が見えている。

さっきまで騒がしい街ばかり見ていたせいか、その巨大さだけが妙に目についた。

 

「……ここでやるんだな」

「はい……明日、ここで第一回戦です」

 

 マヨイエルが答えた。ロンジは隣を見る。明日、ここで乱子は悪魔と殺し合う。相手が誰なのかも……分からない。

 

こいつの中身は、人を殺すことに大した意味を感じず、それでも殺し続けた極悪人だ。……でも。

 

 

「乱子」

「なに?」

 

 ロンジは少し迷ってから言った。

 

「……勝てよ」

 

 乱子がロンジを見る。

 

「先に死ななければいいんでしょ?」

「そういう意味じゃねえよ!」

 

 思わず声が大きくなった。

 

「勝って、生きて戻ってこいって言ってんだよ!」

 

 乱子は少し目を丸くした。

 

 それから、さっきまでより少しだけ静かな顔で笑った。

 

 

「いいよ。どこ撃てば死ぬか、ちゃんと見つけるね」

「言い方!」

 

 ディーゼが口角を持ち上げ、マヨイエルは困ったような顔をした。

 

 

 辺獄の中心で、第一回戦の火蓋が切って落とされるまで

 

 

 

 

 

 あと、残り一日。

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