召喚されたら極悪ヒロインしかいなかった件 〜そして俺は罪人の魂を天使の死骸に付与して悪魔と戦うお仕事を始めました〜 作:ookami2
幕間回です。銃乱射系ヒロイン登場。
「あひゃはははあ! すごい、すぅごぉい! 同級生たちが、
たらったたったった。
冗談みたいな銃声が、木漏れ日の差す教室を一瞬で異世界へと変えた。
八年生の教室だ。
黒板にチョークで書かれていた単語が弾丸でえぐれ、灰色の粉が吹きすさぶ。その横を逃げようとした男子生徒の肩が赤く弾け、その勢いのまま机を3つ4つ巻き込んで倒れ込んだ。
「イヤアアァアア……!?」
「伏せろ! 机を倒せぇえ!!!!」
「先生! せんせえぇ!!」
悲鳴と慟哭。机と椅子が引きずられる耳障りな音。
さっきまでねむたい歴史の授業が行われていた教室は、ものの六秒で最高に騒々しいパーティ会場へ変わった。
「そうそうそういうの! もっと必死になってちょうだいねー!」
少女はスポーツバッグから引きずり出したアサルトライフルを腰だめに構え直し、笑いながら引き金を絞った。
タたタタたらタタ……!
横薙ぎに走った弾丸が窓ガラスを連続で粉砕する。
逃げようとしていた生徒たちが一斉に床へ伏せた。
「うーん、基本に忠実」
少女は感心したように言った。
そして天井へ銃口を向けた。
ぱぎいいん、という音と共に蛍光灯が弾け、教室の半分が暗くなる。
「でも、そっちの方が狙いやすいかも」
その時教師が教卓の陰から飛び出した。
「やめろ! もうやめるんだ■■■!」
「おー、先生」
銃口が彼の頭部に向く。
教師は止まった。
「待て、冷静に、話をしよう。何があった? 何か悩みがあるなら――」
「先生ってさ」
少女はにっこりと笑った。
「こういう時も『先生』なんだね」
「……、え?」
「すごいね」
教師の背後にあった世界地図へ
少女は小さく喝采を上げる。
「わあ。我らがアメリカ合衆国のところじゃーん!」
教室の隅から嗚咽が漏れた。
机の陰に隠れていた女子生徒だった。
小刻みに震えまくる両手で最新タイプのスマートフォンを握っている。
少女はそれに気づいた。
「警察呼んでる?」
「ひっ……、」
「いいよ」
「……、え?」
「呼んで呼んで。来てくれないと次が試せないしさ」
女子生徒の顔が苦悶の恐怖で歪んだ。
その表情を見て、少女はちょっとウケた、とばかりに笑う。
そのまま別の方向から走り出した男子へと銃口を振った。
「はい、逃走者一名あの世にご案内!」
「あああぁああ!!」
……外れた。
弾丸は壁の時計を粉砕した。
「あれれ?」
男子生徒は廊下へ飛び出した。
少女は一瞬きょとりとしたあと、肩をゆらして笑った。
「あはは! 外した! 私、今外した!?」
まるでゲームで初歩的なミスでもしたように、心底に愉快そうに。
そして追わなかった。
近くにまだたくさん残っているからだ。
銃身から立ちのぼる硝煙。飛び散った血と肉と臓腑――割れた窓から吹き込む風がプリントを巻き上げて、白い紙が赤い教室の中をひらりひらると飛んでいる。
ごく、平和な学校。
昨日まで一緒に昼食を食べていた同級生や毎朝挨拶をしていた教師――
それら全部が、指一本を曲げるだけでぶっこ壊れていく。
「うああアああ!! もっと! もっと叫んで! もっと私を楽しませてよー!!!」
少女は癇癪のように叫び、タップダンスを踏むように足を運び、床へ転がっていた椅子を蹴り飛ばした。
椅子が派手に回転し、壁に激突する。
その音に驚いて顔を上げた生徒へ一発。
後ろのドアへ駆けた生徒の背中へ二発め。
少女は嘲笑う。
声を張り上げて。
血飛沫を浴びながら、まるでずっとやってみたかった遊びをようやく許された子供のように。
――側から見れば、それは完全に壊れた人間だっただろう。
禁忌を犯す快楽に酔った殺人鬼で、命が消えていく瞬間に歓喜する怪物。それは少女自身も、そのつもりだった。
狂ったように笑えば、
けれど。
(……、あれ?)
一人二人三人。
もういい加減数えるのをやめる。
(まだ?)
引き金を引けば、銃は跳ね、薬莢が床に落ちる、そして人間は粉砕される。
それだけだ。
少女は一度、ライフルを下ろした。
「……、……、」
教室の片隅で誰かが泣いていた。
少女はじいっとその顔を見つめる。
涙に鼻水で、歪んだ口元からは呼吸が上手くできないのか、喉から変な音が漏れている。
「ねえ、そんなに怖い?」
返事はない。
「死ぬから?」
相手は何度も頷いた。
「ふうん」
少女は自分の胸へ手を置いた。
これだけやれば、何かが変わると思っていた。
罪悪感でもいい、興奮でもいい。
後悔だろうが恐怖だろうが、なんでもよかった。
人間の頭を撃ち抜き、友達を殺す。教師を殺す。絶対にしてはいけないことを、自分の意思でしていく。
そんな『大いなる禁忌』なら、自分の中にある何かを無理矢理にでも揺さぶってくれると思った。
少女はもう一度銃を上げた。
残った弾丸を撃ち尽くす。
タン、タたン、タカン――。
そして。
かちり、と撃鉄だけが虚しく鳴った。
「……、……」
ずいぶんと、静かになった。
遠くで誰かが叫んでいる。廊下を走る足音と、窓の外では鳥たちが飛んで、ぴいちくと鳴いていた。
「……、」
少女は少しだけ眉をよせた。
「……これでも、駄目なんだ」
笑顔が消えて、狂気も消える。そうして残ったのは、ひどく退屈そうな少女の顔だった。
遠くからパトカーのサイレンが近づいてくる。ドーナツばかり食ってるあいつらでも、装備だけは一級品だ。撃ち合いになったら、十中八九負けるだろう。
少女は空になったアサルトライフルを放り捨て、割れ窓の前まで歩いた。
校庭には逃げ出した生徒が集まり、何人かがこちらを指差している。赤と青のパトランプが校門へ近づいてきた。
捕まるかもしれない。
撃たれて死ぬかもしれない。
でも、それにも特に感想はなかった。
「……、で? 次は、何をしたら分かるんだろ」
彼女にとって、それは大量殺人の終わりではない。
ただ一つの実験が、期待外れの結果に終わっただけだった。