召喚されたら極悪ヒロインしかいなかった件 〜そして俺は罪人の魂を天使の死骸に付与して悪魔と戦うお仕事を始めました〜 作:ookami2
ロンジとディーゼたちを取り囲むように、複数の天使たちが集まってくる。
「な、なんだなんだ!? やめて怖い……! 俺は何もしてませんのことよ!?」
「大丈夫ですよお」
ビビり倒すロンジをなだめつつ、ぷっと噴き出すディーゼ。すると天使たちの一名から威圧的な声がかかった。
「能天使ディーゼ!」
「はあい」
「善神様の側近……くっ、至高で大いなる
その瞬間ざわ、と周囲がよどめく。気を失って卒倒した天使までいた。悲鳴のような声が辺りに波のように広がっていく。マヨイエルも口を押えて硬直している。
(ええと……なんか名前は聞いたことあるな…………、)
ロンジは頭に手を当てて記憶を探る。たしか、滅茶苦茶有名でド偉い天使じゃなかったか?
……本当に大丈夫なのか、この天使たち。
「……そして、ミカエル様は行方不明で、ご健在は【神の炎】ウリエル様のみだ。ついては、現存する能天使たちの中で、上位の権限を持つ者を至急集め――」
「私もですう」
「……、……、何?」
「たぶん私も」
伝令役の天使が固まり、ロンジは首を傾げた。マヨイエルも、少し離れたところでさらに固まっている。
周囲にいた能天使らしき者たちまで、完全に動きを止めた。
「……、よりによって」
誰かが小声で呟いた。
「聞こえてますよお」
ディーゼがえへと笑う。
「いや、その……、」
「安心してください。私も嫌です。まさか私の所の部隊長が戦死して、
「いや、これは、そういう問題では――」
「じゃああなた、私と代わりますう?」
伝令役が黙る。
ディーゼはにこりん、と笑った。
「嫌でしょう?」
「……、……、」
「私も嫌ですよお……はあ……いやだいやだ、権限だけ持たされて前線に行かさされる中間管理職はつらいつらい……マヨイエル先輩っていつもこんな大変だったんですねえ」
「何の会話だよ」
ロンジが突っ込む。
「つまり現存する能天使の……私が属していた部隊の中で、指揮権順位が一番上なの、たぶん私なんですよ」
「たぶんで軍の責任者になるなよ」
「正確には残存部隊の暫定責任者ですぅ」
「大差ねえよ!」
伝令役の顔色がどんどん悪くなる。
「き、緊急上位会談が発令された! 生存した上級天使は大神殿へ集合せよとのご命令だ! 主天使ムリエル様が進行と記録を務められる!」
「あら、ムリエル様、まだ生きてたんですねえ」
「その言い方は何だ!!」
「リスペクトしてますう」
「どこがだ!?」
ディーゼは死体の海から立ち上がった。
「……で、議題は例の『十五番勝負』です?」
「っ……それだけではない! 残存戦力、治療術者の均等な割り振り、導きの門と祈祷系統の再調整、天界の維持管理と民間区画の避難――全てが議題だ!!」
「うわああ」
ディーゼが心底嫌そうな顔をした。
「世界が壊れると会議って増えるんですねえ、あ、確かロンジさんのご出身もそういうお国柄でしたっけえ」
「かも……な?」
「当然だろうが……!!」
伝令の天使が両腕をぶんぶん振り回して半ギレだった。ディーゼに煽っているつもりはなさそうだが、緊急時だしほどほどにしとけロンジは思う。
「滅亡する時くらい会議減らしてほしいですよね」
「貴様は何を言っている!?」
「じゃあ滅亡前に議事録だけ完成させます?」
「縁起でもないことを言うな……!」
ロンジは苦笑する。この伝令役、よく会話を続けられる。ディーゼの相手をするには、ちょっと特殊な訓練とかが必要なのかもしれない。軽く漫才になりかけていたが。
そこで伝令役が時間差でロンジへ気づいた。
「……、で、その人間が?」
「例の『召喚者』です」
マヨイエルが説明する。
「世界を救うための英雄召喚術で誤って呼び出されてしまったようでして……、」
「誤ってって言うなし」
事実だけども。
伝令役は露骨に怪訝そうな顔をして、ロンジの全身をじろじろと見分した。
「……まさか、この人間を天界の上位会談へ入れるつもりか?」
「駄目ですう?」
「当然だ! 最重要機密を扱うのだぞ!!」
「じゃあここに置いておきましょう」
「そうしろそうしろ」
ちら、とディーゼがロンジを見る。
「ええとロンジさん、丸一日くらい生き残れます? お留守番ですう」
「無理、やだ、怖い」
「即答ですねえ」
「俺さんはさっき三つ首の犬に食われかけたんだぞ?」
ディーゼは伝令役へ向き直る。
「だそうです」
「周囲に悪魔の気配はない! 不満なら護衛をつける!!」
「……誰を?」
「……、誰かだ!」
「この区域だけで負傷者数千名が治療待ち。北区画で悪魔の残党の報せ。南門の結界半壊。導きの門も絶賛詰まり中。それで戦闘能力ゼロの人間一人に兵士様を一名割くんですう?」
「……、…………、」
伝令役がまた詰まった。
ロンジはその会話を聞きながら、周囲を見た。実際、惨憺たる状態とはこのことだろう。本来、こんな漫才をしてる場合ですらない。
負傷者に崩れた結界、死者の魂……明らかに人手……天使手不足だ。
(……、戦力不足だけじゃないな)
ようやく、少しずつ状況が見えてきた。
指揮官が死んで、兵士も治療役も死にすぎた。結果として、物流も滞って、情報系統も大混乱。
つまり今の天界は、「今すぐ動ける強くて偉い奴がいない」というだけではない。
軍隊……国家、秩序そのものが壊れかけているのだ。
(十五番勝負に勝つ以前に、普通に天国が終わりそうじゃねえか!!)
と、その感想は口には出さなかった。なんか、余計に怖くなるから。
ディーゼが続ける。
「それにこの人、神様が死ぬ直前に召喚したんですよ? 縁起よくないですう?
「ふざけるな!! 召喚指示したのは我々だ。お前ではない!」
「細かいですねえ」
「細かくない!」
「救世《ぐぜ》の英雄を呼ぶ術式が、なぜか彼を引っ張った。原因不明。その直後に神が死んで、世界のルールが書き変わった」
ディーゼがロンジの肩へ柔らかな手を置く。
「偶然だったら笑えますねえ」
「むしろ縁起が悪いこと言うな!」
「偶然じゃなかったらもっと笑えます」
「どっちでも笑うのかよ!」
ロンジの突っ込みに顔をしかめ、伝令役は額を強く押さえた。
「……、連れてこい。ただし会談での発言権はない」
「やりましたねえ、ロンジさん」
「何を勝ち取ったんだ俺は」
「現状の天界のお偉方が集まる会の傍聴権」
「いらねええええええええええええええええええええええ!!!」
「人間史上初かもしれませんよ?」
「価値のない初記録う……!!!!」
マヨイエルが緊張が解かれたように、小さく体がふるえている。
ディーゼはずっとご機嫌だった。