─────これは、まだ誰も知らない物語。
女子高生たちが夢を追いかけ、歌い、踊り、沢山の人々に笑顔と希望を届けてきた時代。
─────スクールアイドル。
学校という場所で、自分たちの想いを歌に乗せる女子高生たちは、いつしか一つの文化として日本中に広がっていた。
そして、東京・お台場。
虹ヶ咲学園でもまた、多くの女子高生たちがそれぞれの夢を胸に、スクールアイドルとして活動していた。
夢を持つこと。
誰かを応援すること。
自分自身を表現すること。
その輝きは、確かに多くの人々の心を動かしていた。
─────だが。
世界には、少女たちだけではない。
学校という場所を卒業し、社会という大海原へ漕ぎ出した若者たちもいる。
大学生。
会社員。
教師。
医師。
弁護士。
公務員。
そして、様々な仕事に就きながら、それぞれの人生を歩む者たち。
彼らもまた、夢を持っていた。
けれど─────
大人になればなる程、夢というものは遠くなる。
仕事、責任、生活、将来、現実。
いつしか、かつて胸に抱いていた夢を、心の奥へしまい込んでしまう。
「もう、子どもじゃないんだから」
そう自分に言い聞かせて、そんな社会の中で。
一人の男の人生が、ある一通の封筒によって、大きく動き始めようとしていた。
男の名前は─────
年齢、二十七歳。
職業─────教師。
そして、後に彼は、こう呼ばれることになる。
─────《アダルトアイドル》、と。
〜〜〜〜〜
教師「─────よし」
カタカタカタカタ…
虹ヶ咲学園の職員室。
午後の静かな時間。
一人の男性教師が、自分のデスクに向かってパソコンのキーボードを叩いていた。
緑色の髪、眼鏡をかけており、細身かつ長身。
真面目そうな雰囲気をまとった男性。
彼の名前は浅香拓真。
この学校・
拓真「これで先週の授業報告は……終わり、と」
キーボードから手を離し、拓真は小さく息を吐いた。
拓真「……あとは明日の授業準備か」
教師という仕事は、授業をして終わりではない。
授業の準備、提出物の確認、生徒の相談。
会議、書類、行事。
そして、その他諸々。
学校という場所には、表から見えない仕事が山程ある。
拓真は眼鏡を軽く押し上げると、再びパソコンへ視線を向けた。
拓真「……教師って、思ってたより忙しいよな」
小さく呟く。
勿論、嫌いではない。
寧ろ、この仕事を選んだことを後悔したことは一度もなかった。
生徒たちが笑っている。
何かに夢中になっている。
自分の進路や将来について考えている。
そんな姿を見ることができる。
それだけで、教師になった意味はあると思っていた。
拓真「……夢、か」
ふと、職員室の窓から外を見る。
グラウンドでは生徒たちが部活動をしている。
そしてその中には─────スクールアイドル同好会の少女たちの姿もあった。
拓真「今日も頑張ってるな……」
拓真は少しだけ笑った。
虹ヶ咲学園のスクールアイドル同好会。
個性豊かな少女たちが、それぞれの夢を追いかけている。
その姿は、拓真にとって眩しいものだった。
─────夢。
その言葉を聞くと、胸の奥が少しだけ痛む。
拓真「……俺にも、昔はあったんだけどな……」
誰にも聞こえないほど小さな声。
拓真はすぐに視線をパソコンへ戻した。
もう終わったことだ。
そう思っていた。
否─────そう思おうとしていた。
その時だった。
教師「浅香先生」
拓真「ん?」
職員室の入り口から、別の男性教師が顔を出した。
教師「浅香先生宛に封筒ですよ?」
拓真「私に…ですか?」
教師「はい。何か会社からみたいですけど」
拓真「会社……?」
拓真は首を傾げた。
教師である自分に、会社から封筒が届く理由など思い当たらない。
保護者関係か、学校関係の業者か、或いは何かの案内か。
拓真「ありがとうございます」
教師「いえいえ」
封筒を受け取る。
表面には、見覚えのない企業名が記されていた。
─────
拓真「……高坂……プロダクション?」
聞いたことがある。
芸能事務所だ。
だが、何故自分に?
拓真「…………」
嫌な予感がした。
恐る恐る封を開ける。
中には一枚の書類。
拓真は眼鏡を押し上げながら、その文面を読んだ。
そして─────数秒後。
拓真「…………」
沈黙が訪れる。
もう一度読む。
拓真「…………」
更に読む。
そして─────
拓真「お……俺がアイドル?!」
職員室に、拓真の声が響いた。
教師「浅香先生?」
拓真「な、何でもありません!」
慌てて声を抑える。
周囲の教師たちが何事かと振り返っている。
拓真は封筒を机の上に置き、額を押さえた。
拓真「……いやいやいやいや」
小声で呟く。
拓真「おかしいだろ、これ……」
書類には、はっきりと書かれていた。
─────あなたをアイドルとしてスカウトしたい。
拓真「いやいやいや……」
もう一度読む。
拓真「教師だぞ、俺……?」
更に読む。
当然のことを確認する。
拓真「何で子どもたちに教える立場である俺が、アイドルをやることになってるんだ……?!」
混乱している。
それも当然だった。
スクールアイドルなら分かる。
この学校にもいる。
夢を持った女子高校生たちが、自分たちの想いを歌にする。
それは理解できる。
だが、自分は二十七歳。
もう立派な大人、それも高校教師だ。
拓真「スクールアイドルならまだしも……」
拓真は頭を抱える。
拓真「何で俺なんだよ……!」
しかも、よりによって芸能事務所から正式なスカウト状が届いている。
冗談にしては妙に本格的だった。
拓真「……確認するしかないか……」
拓真は立ち上がった。
そして、教頭の元へ向かう。
拓真「教頭先生!」
教頭「どうかしましたか、浅香先生?」
拓真「すみません!用事があって、早退します!」
教頭「え?」
拓真「ちょっと……確認しないといけないことがありまして!」
教頭「確認?」
拓真「はい!」
拓真は封筒を握りしめる。
拓真「高坂プロダクションに行ってきます!」
教頭「高坂プロダクション……?」
教頭が目を丸くする。
だが、拓真はそれ以上説明できなかった。
説明したくても、自分でも何が起きているのか分からない。
拓真「では!」
教頭「え、浅香先生!?」
拓真は職員室を飛び出していった。
〜〜〜〜〜
拓真「…………」
電車の中。
拓真は座席に座り、窓の外を眺めていた。
その手には、例の封筒。
拓真「……俺がアイドル」
まだ信じられない。
拓真「いや……絶対何かの間違いだろ……そもそも、どうして俺なんだ……?」
拓真は考える。
自分に特別な才能があるとは思えない。
確かに歌は嫌いではない。
昔は音楽が好きだった。
歌も歌っていた。
だが、それはあくまで昔の話だ。
今の自分は教師。
それ以上でもそれ以下でもない。
拓真「……まあ、行けば分かるか」
拓真は溜息を吐いた。
やがて目的地に到着する。
高坂プロダクション─────芸能事務所らしい立派な建物を前に、拓真は立ち止まった。
拓真「…………」
見上げる。
これから入ることになるのだと、緊張していた。
拓真「本当にここなのか……よし」
意を決して中へ入った。
〜〜〜〜〜
社員「お待ちしておりました、浅香拓真さん」
拓真「どうも……」
受付を済ませると、一人の男性社員が現れた。
年齢は見た感じで、拓真より少し上に見える。
スーツ姿─────落ち着いた雰囲気の男性だった。
社員「突然のお呼び立て、申し訳ありません」
拓真「いえ……」
社員「
拓真「どうも……それよりも……」
拓真は封筒を取り出した。
拓真「これは本当なんですか?」
明「はい」
即答だった。
拓真「…………」
拓真は頭を抱えたくなった。
拓真「本当に、僕をアイドルに?」
明「はい」
拓真「教師ですよ?」
明「承知しています」
拓真「二十代、それも後半ですよ?」
明「はい、勿論です」
拓真「…………」
全部分かった上で誘っているらしい。
拓真「……何で?」
拓真は素直に聞いた。
明は少し苦笑する。
明「実はですね、あなたの学校の女子生徒の子たちが、この会社にあなたの代わりに応募したらしくて……」
拓真「…………」
数秒。
拓真は固まった。
拓真「……あいつら勝手なことを……」
眉間を指で押さえる。
明「なるほど……」
頭の中で何人かの生徒の顔が浮かんだ。
妙に最近、自分のことを褒めてくる生徒がいた。
「先生って、意外とイケメンですよね」
「先生って彼女いるんですか?」
「浅香先生って王子様みたいですよね」
等と言われたこともある。
その度に、「はいはい」と流していた。
まさか、あれが全部、これに繋がっていたとは。
拓真「……全く……」
拓真は溜息を吐いた。
しかし明は続ける。
明「ですが……」
拓真「?」
明「あなたの女子生徒の子たちから聞いたんです」
明は資料を見ながら話す。
明「昔……あなたは歌手になりたかったと」
拓真「…………」
拓真の表情が変わった。
明「それで、あの子たちは言っていたそうです」
明が優しく続ける。
明「『浅香さんにも、もう一度夢を見てほしい』と」
拓真「…………」
拓真は何も言わなかった。
明「だから、あなたの名前で応募したそうです」
拓真「…………そうですか」
静かな声だった。
さっきまでの困惑とは違う。
昔の記憶が、少しずつ蘇ってくる。
昔、彼は歌手─────バンドをしていた。
ギター、歌、ライブハウス。
仲間、大学時代、夢。
そして─────解散。
拓真「……まあ」
拓真は苦笑した。
拓真「確かに、昔は歌手になりたかったんですよね」
明「はい」
拓真「というより、バンドをやりたかった」
拓真は遠くを見るような目をした。
拓真「大学を卒業してからも、暫く続けてました」
明「そうだったんですね」
拓真「でも……色々あって……」
拓真は言葉を止めた。
その出来事を思い出す。
夢を追いかけることが、必ずしも簡単ではないこと。
仲間と同じ夢を見続けることの難しさ。
現実、生活、それぞれの事情。
そして、バンドは解散した。
拓真「……無理でした」
拓真は静かに言った。
拓真「夢を追い続けるのは」
男性社員は黙って聞いている。
拓真「だから……せめて子どもたちに夢を与えたい仕事を選んだ─────それが、今の仕事です」
─────教師。
その道を選んだことを、後悔したことはない。
本当にそう思っている。
明「確かに、浅香さんの言う通りです」
明が答えた。
明「教師とアイドルは、全然違います」
拓真「……ですよね」
明「……ですが」
明は続けた。
明「─────夢を与えたいという想いに、共通点はある筈です」
拓真は顔を上げた。
明「教師も、
明は拓真を真っ直ぐ見つめた。
明「だから─────向いていると思いますよ」
拓真「俺が…?」
明「はい」
即答だった。
優しい笑顔で彼は答えた。
明「あなたも、まだ若いです。そして─────生徒思いの優しい教師です」
拓真は黙っていた。
明「あなたのところの子どもたちは、あなたの優しさに惹かれて『もう一度夢を見てほしい』と思ったんでしょう─────それは、あなた自身が誰かに夢を与えてきた証拠だと思います」
拓真は視線を落とした。
明「ですから─────」
明は一枚の書類を差し出す。
明「アイドルになりませんか?」
少し間を置いて。
明「勿論、強制ではありません」
拓真は書類を見つめた。
そこには、自分の名前。
そして─────《アイドル》という文字。
拓真「…………」
すぐには答えられなかった。
拓真「……少し、考えさせてください」
明「勿論です」
明は笑った。
明「急ぐ必要はありません」
〜〜〜〜〜
その日の夜─────拓真の家。
拓真「…………」
部屋の片隅。
そこには、一つのケースが置かれていた。
拓真はそれを見つめていた。
普段なら、殆ど気にも留めない。
だが今日は違った。
ゆっくりと近づく。
ケースを開ける。
拓真「…………」
中にあったのは─────一本のエレキギター。
そして、その横には何冊かの楽譜。
昔使っていたものだった。
拓真「……まだあったんだな」
拓真はギターに触れる。
少し埃を被っている。
それでも─────確かにそこにある。
大学時代。
何度も弾いた。
何度も歌った。
何度も夢を語った。
あの頃は、未来が何処までも続いているように思えた。
拓真「…………」
拓真はギターを持ち上げる。
その重さ。
弦の感触。
全部覚えている。
拓真「……捨てられなかったんだよな」
どうしてだろう。
引っ越しをした時も、部屋を整理した時も。
何度も捨てようと思った。
それなのに、ずっと残っている。
拓真は小さく笑った。
拓真「まだ夢を諦められなかったから……かもな……」
その言葉を口にした瞬間。
胸の奥に、何かが灯った。
昔の自分。
夢を追いかけていた自分。
ギターを弾いていた自分。
歌っていた自分。
仲間と笑っていた自分。
そして─────
拓真「…………もう一度」
拓真は呟く。
拓真「もう一度、か……」
窓の外を見る。
夜の街。
無数の光。
その一つ一つの向こうに、沢山の人々がいる。
働いている人。
学生。
家族。
夢を追っている人。
夢を諦めた人。
そして、夢を探している人。
拓真「…………」
拓真は目を閉じる。
――アイドル。
自分には似合わないと思う。
教師だ。
二十七歳だ。
何より、一度夢を諦めた。
だけど─────
拓真「……俺にも」
もう一度。
拓真「……夢を追う資格くらい、あるのかもしれないな」
〜〜〜〜〜
翌朝。
高坂プロダクション。
明が待っていた。
明「浅香さん」
拓真「はい」
拓真はゆっくりと歩いてくる。
昨日と違う。
眼鏡の奥の瞳に、迷いがない。
拓真「考えてきました」
明「……では」
明が立ち上がる。
明「お答えを聞かせてください」
拓真は一度、深く息を吸う。
そして─────拳を握る。
拓真「俺は─────」
顔を上げる。
そこには、教師としての真面目な表情とは少し違う。
少年のような。
しかし、大人としての決意を宿した笑顔。
拓真「浅香拓真!アイドルになる男だ!」
男性社員の目が見開かれる。
拓真「よろしく頼む!」
その瞬間。
何かが変わった。
二十七年間生きてきた男の人生が。
教師として生きてきた男の人生が。
そして、一度は諦めたと思っていた夢が。
再び動き始めた。
〜〜〜〜〜
─────数日後。
虹ヶ咲学園。
女子高生「……浅香先生、最近、何か機嫌よくない?」
廊下を歩く女子生徒が、友達に小声で話しかける。
女子高生「分かる!なんか前より嬉しそう」
女子高生「もしかして、彼女できたとか?」
女子高生「えっ!?浅香先生に!?」
女子高生「だって王子様みたいじゃん!」
女子高生「分かるー!」
そんな会話が、少し離れた場所から聞こえてくる。
拓真は気付いていない。
拓真「…………」
職員室へ向かいながら、拓真は小さく笑っていた。
教師としての仕事。
それは、これからも続ける。
そして─────新しく始まったもう一つの人生。
アイドルとしての人生。
それもまた、歩いていく。
もちろん、不安はある。
仕事との両立。
練習。
歌。
ダンス。
ライブ。
何より、自分以外にも、同じように人生を抱えながらアイドルになる男たちがいる。
だが、この時の拓真はまだ知らない。
これから自分が出会う十一人の仲間たちが、どれ程個性的で、どれ程騒がしく、どれ程頼もしく。
そして─────自分の人生を大きく変える存在になるのかを。
拓真「……さて」
拓真は職員室のドアを開ける。
拓真「今日も仕事するか」
いつもの教師、浅香拓真。
その一方で─────まだ誰も知らない。
この男が軈て、ステージに立ち、多くの人々の前で歌い始めることを。
これは─────社会に出たばかりの若者たちが、もう一度、夢を見つける物語。
そして、少女たちが切り開いてきたアイドルの世界に。
新たな一つの軸が生まれる物語。
LoveLive!
ラブライブ!
AdultM
その最初の一ページが─────今、開かれた。
名前:浅香拓真
身長:178cm
年齢:27歳
一人称:俺
血液型:A型
誕生日:2月5日(エマ・ヴェルデと同じ誕生日)
職業:教師
本作の主人公。虹ヶ咲学園の教師をしてる。容姿は眼鏡をかけている緑髪の男性。普段は真面目な教師。眼鏡で地味っぽくしてるがその素顔は教師という職業には勿体ないほどイケメン。その為に密かに彼に憧れてる女子高生(スクールアイドル同好会以外)が沢山存在してる(彼女たち曰く「王子様」と言われる程)。夢を諦めていたが完全には捨てきれなかったので「子どもたちに夢を与えたい」という思いで教師になった。