「トム蔵~朝よ~学校よ~起きなさ~い」
しーん
「まったくもう。あの子ったらほんとに寝ぼすけさん」
だだだだだ(お玉をもったまま階段を駆け上がる)
がらっ(ふすまを開ける音)
「起きなさいったら~」
かーん(布団の上からトム蔵を叩く)
「起きないわねぇ」
かーんかーんかーん
「何か今日のトム蔵はすごくいい音がするわぁ」
かーんかかーんかーんかかーんかんかんかんかんかんかん(連打)
「おっとノリノリで叩きすぎたわ」
しーん
「もう、いい加減に起きないと母さん怒るわよー」
ばさっ(布団を剥ぎ取る)
「はっ……トム蔵……」
ぴたっ(トム蔵の顔に手を当てる)
「つ、冷たくなっている」
ががーん(驚愕)
「あ、いけない。わたしったらトム蔵に燃料を入れ忘れていたわ」
てへぺろ(てへぺろ)
「説明しよう。トム蔵はブリキ製のドラム缶型ロボット。お掃除ロボットをベースに改良を重ね、今や小学校に通う程に性能がアップした」
ビシっ(人差し指をびしっ)
「トム蔵の燃料はどこのご家庭にでもある廃油である。」
バシッ(親指をばしっ)
「はいゆはいゆふれはいゆほー」
ずたたたたたた(階段を駆け下りキッチンへ)
「あったあった。でもずいぶん古いわぁ。んーくっさ。虫の死骸が浮いてるぅ」
だだだだだだ(廃油を一斗缶にたぷたぷさせながら階段を駆け上がる)
「燃料タンクのキャップを開けてぇーっと」
きゅりきゅり(キャップを開ける音)
「廃油をどくどく注ぎまぁーす」
どくどく(注ぎマース)
「スイッチぽーん」
ぴかーん(きらきら)
「あぁ、母さん。おはようございます」
「まぁ、トム蔵ったら今日もメカニカルないい男ねぇ」
「なんか頭が痛くて、吐き気がするんです」
「やだ、風邪なんじゃない?」
「やだなぁ母さん。ロボットは風邪をひきませんよ」
「それもそうね。気のせいね」
「おっといけない。こんな時間だ。小学校に行かなくては」
「そうそう、忘れていたわ。いってらっしゃい。ハンカチ持った?ちり紙は?」
「ハンカチはともかく、ちり紙を持っていく意味がわかりませんね」
「オイルが漏れたときとか使えるじゃない」
「さすが母さん。原付免許を一発で取っただけのことはある」
「ほめても何にも出ないわよぅ」てれてれ
「では、行って参ります」
じゅぼぁー(足の裏からジェット噴射)
「きゃぁー。トム蔵。部屋の中でジェット噴射はやめなさいって母さん五回半は言ったわよぅ」
たたみこげこげ(ふとんがぼぅぼぅ)
「では、歩いていきましょう」
ランドセルすちゃっ(ちゃっ)
「頑張って勉学に励むのよぅ。あなたはやれば出来る子なんですからぁ」
「まかせてください。母さん。僕、たくさん勉強して立派な人間になります」
「頑張るのよ。トム蔵」
目をうるうる(うるるるららぁ)
「いってらっしゃーい」
ぶんぶん(手をぶんぶん)
「しかし、あれですな。飛んで行けば二分くらいで学校に着くのですが……」
歩くと十五分(ほふく前進で六時間)
「おや、前方を歩くのはクラスメイトの長谷川くん」
ずどどどどどど(走る音)
「長谷川くんおはようございます」
「よぅトム蔵、おはよう」
長谷川くんはクラスでも十五番目くらいに勉強が出来る秀才だ(羨望)
「何、ぶつぶつ言ってんだよ」
「いえ、何でもありません」
「それより聞いてくれよ、トム蔵」
「何でしょう?」
「俺、昨日さ、クラスで三番目に可愛いと評判のかなえちゃんにコクられちゃった」
「一番目じゃないところがまたマニアの心をそそりますね」
「ん?何を言ってるのかわからないよトム蔵」
「大人になったらわかりますよ」
「でさ、そんなの俺はじめてで、どうしていいかわかんなくなっちゃって明日返事するーって言って逃げてきちゃったんだ」
「青春ですね」
「お、俺……どうしたらいいと思う?」
「うーん。コクるってことは、かなえさんは長谷川くんのことが好きってことですよね」
「う、うん。そう言ってた」
「長谷川くんと付き合いたいっていうことですよね」
「そう言ってた」
「僕のスーパーブリキ型コンピューターX68000で計算してみましょう」
「なんか化石の響きがあるね」
「おはよう。長谷川くん。ついでにトム蔵」
「か、かなえちゃん……。おはよう」
トム蔵カシャカシャ(ぴこーんぴこーん)
「あの……。昨日の返事……。聞かせてくれる?」
「え、あのあの……。えっと。おい、トム蔵。計算はまだ終わらないのかよ」
ぼそっとトム蔵に耳打ち
ぴこーん(トム蔵の目から光がぴゅー)
「長谷川くん。僕にまかせてください」
「頼んだぞ。トム蔵」
「何、二人でぼそぼそ話してるのよぅ」
「かなえさん。聞いてください」
「なぁによ。トム蔵」
「かなえさんは長谷川くんの事が好きなんですよね」
「ばっ。なによ。いいじゃないのよ。長谷川くんたらしゃべっちゃったのね」
かなえの顔がまっかっか(長谷川オロオロ)
「長谷川くんと付き合いたいんですよね」
「そ、そうよ」
「男と女が付き合うってどういうことだかご存知ですか?」
「へっ?」
長谷川とかなえが同時に(へっ?)
「つまりこういうことです」
かなえのスカートをめくる(ぺろーん)
「何すんのよー」
ばきっ(トム蔵に右ストレートが炸裂)
「い、いたい。でも小学生がヒモ黒ってどうかと思います」
鼻血……じゃなくて鼻からオイルがぼとぼと(鼻なんてあったのか)
「お、おいトム蔵大丈夫か?」
長谷川がトム蔵に駆け寄る(やさしいなぁこいつ)
「は、長谷川くん……。聞いてください。」
長谷川がトム蔵を抱きかかえる
「な、なんだ、トム蔵。言ってみろ。」
「今見ていただいたとおり、女性と付き合うということは、毎日スカートめくりをしても殴られないということなのです」
「トム蔵!」
「僕はかなえさんと付き合ってはいないので殴られてしまいました」
「も、もうしゃべるなトム蔵……。お前のカタキはきっと俺が……」
長谷川の目に涙がぽろぽろ(くいっとかなえに振り向く)
「かなえちゃん。俺はきみと付き合うぞ。覚悟はいいか?」
「えっ。長谷川くん……。ホントに? うれしい」
かなえが長谷川に駆け寄る
「くらえ!」「え?」
そして三秒経過(気が付きゃぼこぼこ)
「完全に遅刻だなぁ。トム蔵」
「ええ。長谷川くん」
「付き合うって言ったのに俺なぐられたよ」
「データが古すぎたんでしょうか。今度PC98に買い換えますよ」
「あぁ、そうしてくれ」
夕焼けの空に静かに風が吹く。土手に寝そべっていた僕たちはお腹がすくまで黒いヒモパンのことを考えていた。