【完結済み】SF世界に転生したら人類どころか人外で人類史の空白だった件~人間じゃないけど超優秀な配下を従えてます~ 作:黴男
無事に帰還を果たした私は、若干浮き足立って歩いていた。
まさか、恐ろしい存在の総称であるVe‘zにあんなに優しい人がいたとは思わなかった。
帰るのが惜しくなったけれど、帰ってよかったのだ。
きっとあのままあそこにいたなら、帰りたくなくなっていたのだから。
「(変な人だったわね)」
凄い技術力を持ち合わせているはずなのに、それをちっとも誇ろうとしなかった...むしろとても俗っぽかった。
それに、私のために不慣れな様子で食事を作ってくれた。
恐らく食事をする必要がなく、味が感じられにくい性質なのだと思う。
「(けれど、私には私の住む世界があるもの)」
大切な人はみんな死んでしまったけれど、それでも私はこの国に住まう人間。
いかに彼に恩があっても、居場所がここにある限り私はここに戻る。
だから、さっさと本部にデータを届けないとね。
「見つけたぞ!」
その時、公安局の制服を着た人たちが、こちらに向かって走ってくる。
こちらの犯罪者でも逃げ込んだのかしらと背後を見るが、誰もいない。
「包囲しろ!」
「何を持ってるかわからないぞ!」
あっという間に、私の周囲に公安員が円陣を組んで立っていた。
全員が銃を構えて、データの入っている金属製のブリーフケースを睨みつけている。
「待ってください、私は公安所属です! 重要なデータを回収して、それを届ける途中です!」
「それをされては困りますよ、エリス」
その時、公安員の間をすり抜けて、見覚えのある人物が現れた。
アトゥ・バーゼスだったか、TRINITY.から派遣された監査役だったはずだ。
すごく嫌なやつで、諜報部の部長が散々飲みの席で文句を言っていたのを思い出す。
「どういうことですか」
「上層部は、これ以上の混乱を望まないんですよ」
「...そうですか」
その言葉だけで私はすべてを察する。
TRINITY.は公正な機関だと思っていたけど、そうではなかったようだ。
白昼堂々こんな事をするなんて...
なら、
「押し通ります!」
「総員銃構え! エリス諜報員は敵のテロリストとして洗脳された! 殺してでも制圧せよ!」
私はまず、一人の背後に回り込み、昏倒させる。
銃を奪って、周囲を脅しながら下がろうとして...
「おおっと、それを離してください」
後ろから声がかかった。
く...他にも公安員がいたのか。
あまりの用意周到さに、私は歯噛みする。
こうなってしまったら、もう抜け出せない。
「.........」
私が覚悟を決めて両手を上げた時。
轟音と共に、突風が吹き荒れた。
吹き飛ばされることを予想したけれど、誰かに抱き留められた。
「な、何よ...?」
軌道爆撃でも始まったのかと思って顔を上げた私の前に、またもや見慣れた人影が映った。
「...大丈夫か」
「あ、あなた...どうして」
そこに居たのは、青みがかった銀髪と、虹色の瞳を持つ...
優しき異邦人、エリアスさんだった。
さて。
降り立ったはいいが、これからどうすればいいのだろうか。
この身体は大気圏突入程度では壊れないし、触手で着地したのにも関わらず触手自体にダメージはない。
エリスはとっさに触手で包んだが、他は全員吹っ飛ばされている。
「なっ...なんだ匐ェ...」
『言語ライブラリを更新:オルトス南部』
「僕はエリアス、Ve‘zの使者だ、彼女を害するようであれば、こちらも実力行使に出なければならない」
一瞬言葉が理解できなかったが、カサンドラがすぐに翻訳システムに更新を入れてくれた。
「突然現れて、一体なんですか? 我々はただ、公務を行うのみです」
「────彼女の持つデータは重要ではないのか?」
「ええ、重要でした。しかしながら、困るのですよ。諜報部の新人が我々TRINITY.に取れなかった情報を取ってくるというのはね...偽の情報で罠に嵌めたつもりでしたが、生きていたとは残念です」
この男、本当の意味で危険だな。
計画をべらべら喋るところもそうだが、敵かもしれない僕を撃たない。
街中で発砲できないというのもあるが、彼女以外を殺すと後処理が難しいのかもしれないな。
「え、エリアスッ!」
その時、背後から銃声が響き腹に穴が開く。
続けて、周囲から発砲音が散発的に響き、僕の体のあちこちを傷付けた。
「っ...痛いな」
鈍いけれど、痛い。
体がとっくに忘れたはずの危険信号が、薄く伝わってくる。
「...」
命じれば、収納されていた触手が、広めの上着の下部から這い出てくる。
それらは、素早く動き射撃を弾き飛ばす。
「壊せ」
直後、16の触手は周囲の人間に襲い掛かり、銃を精密な斬撃によって破壊する。
できなければ、腕ごと。
それを3回程度繰り返し、周囲の戦力を無力化する。
「さて」
どうするか。
彼女を連れていくにしても、僕一人で大気圏突破はできない。
「エリス」
「な...何?」
「お前の居場所は、ここにはないようだ」
「そうね...TRINITY.に追われたら、もう逃げ場はないわ」
TRINITY.とは、The Reinforced Investigate Nation Initiative Team of Yalvenaの略で、宇宙警察の拡大解釈版のようなものだ。
追われれば彼女に逃げ遂せるのは不可能だろう。
「居場所が欲しいか?」
「......ちょっと強引だけれど、そうね。あなた達の家を借りられないかしら?」
「充分だ」
Ve‘zの浮遊都市を借家扱いか。
まあ、それはどうでもいい。
僕も同じようなものだ。
「来い! エリガード!」
僕は叫びながら掌を天に突き上げ、ビーコンを発信した。
多分これで、来るはずだ。