はぁ……、また死んだのね。
「なにため息なんかついてるのですか梨花~、次の世界へいくのですよ~」
そうは言ってもねぇ……もう、トータルで百年くらいになるんじゃなかったかしら。どうやっても、私の死の運命からは逃れられない気がしてきたわよ……はぁ。
「あぅ……梨花……、諦めてはダメなのです、根気よく繰り返せば、きっと梨花を殺した犯人もわかるはずなのですよ~」
そんな保証がどこにあるっていうのよ……。だいたい、そう言うあんただって毎回毎回、どうせダメなのです~、期待するだけ無駄なのですよ~とか言ってるじゃないの。
「そ、それはですね……梨花が今度こそ生き残れると過剰に期待してしまうと、ダメだったときの傷が大きいと思って……あぅあぅ」
……そう。だったら羽入が勝手にやってよ。私は、な~んにも期待しないから。
「梨花……。そ、そうは言ってもですね、世界を渡るには僕の神通力だけでは無理なのです。オヤシロ様の生まれ変わりとして生を受けた梨花の潜在的な力を合わせてはじめて、時間の壁さえも越える圧倒的なパワーとなるのです……! ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……!」
口でジョジョ風の効果音入れなくていいから……。
「お願いです梨花……やる気を出してくださいです……」
はいはい……ちょっと出すわよ。あとはあんたが頑張ればいいでしょ。えいや~。
「なげやりなのです……でも仕方ないです、そのぶん僕の神通力をたくさん使って……」
……にやり。ちぇすとおっ!
「はにゅっ!? あぅあぅあぅあぅ、なにをするのですか梨花っ!?」
気にしないで、蹴っただけ。ふふふ……これが羽入の神通力の源ね。くすくす。
「ああっ、梨花! そ、それは……僕のオヤシロ魂!」
オ、オヤシロだましいって……どんなネーミングよ。それはともかく、この百年同じことばっかりやってていいかげん飽きてきたのよね、私。だから、ちょっとこれ借りるわよ?
「か、返すのです、返すのです! それがないと僕は神様的にアウツなのです!」
いや、あんたの場合普段からじゅうぶんアウツだと思うけど。
「あぅあぅ、いったい何をするつもりなのですか梨花……」
安心なさい。私もちょっと疲れたから、しばらく休ませてほしいだけよ。その間、手がかりをつかむほうはあんたに任せるわ。
「あぅ? まかせるって……なにを」
それじゃいくわよ、集中しなさい羽入。
せ~の、……はにゅ~ん☆
「あぅ! あぅあぅあぅ~……っ!?」
「あ、ぅう……」
階段を転げ落ち、変な体勢で防災倉庫の床に突っ伏して呻く羽入。
「ちょ、ちょっと大丈夫ですの!?」
凄い音がしたせいか、紗都子が慌てた様子で階段の上から呼びかける。
「あぅあぅあぅ……い、痛いのです……」
羽入は泣きながら身をよじり、どうにか半身を起こしつつ嘆いている。降りてきた沙都子が、羽入の頭や身体をぺたぺたとさわって様子をみる。
「ちょっと大きなたんこぶができてますけど、平気みたいですわね。立てます?」
「は、はいです……んしょ」
壁に手をついて立ち上がった羽入は、そこでようやく自分がランドセルを背負い、スカートをはいていることに気づく。いつもの、あの妙に涼しそうな改造巫女服ではない。
「あぅ?」
「さ、行きますわよ。今日は羽入の言っていた転校生の方がいらっしゃるのでしょう? 男の方でしたら、レナさんのときよりも気合いの入ったトラップでお迎えしてあげませんと」
にっこり笑って先に防災倉庫を出ていく沙都子の背中を呆然と見送る羽入。
「……え、さ、沙都子……僕が見えてるのですか!? た、大変です梨花っ、沙都子が、沙都子が発症してるのです!」
慌てふためく羽入の横に降り立つ。
落ち着きなさい、羽入。沙都子は発症なんてしてないわ。
「あぅ? で、でも……僕が見えて、しかもさわったのですよ? L5のさらにナナメ上なのです!」
私のことは見えてなかったみたいだから、大丈夫よ。
「……あぅ、梨花がなにを言ってるのかわからないのです。それに、今から学校にいく時間のようなのに、なぜ梨花は巫女服を着ているのですか?」
相変わらずおつむの弱いヤツね、羽入は。
「あぅ……失礼なのです、仮にも神様に向かって」
……悪いけど、いま神様ってのは私のほうなのよね。ほら。
「そ、それは僕のオヤシロ魂!? あぅ、思い出しましたのです、梨花が僕の隙をついてオヤシロ魂を奪ったのです、返すのです返すのです!」
ばたばた飛び跳ねるのはやめなさい、今のあんただとほこりが立つわよ。
「今の僕って……、え?」
ようやく気づいた?
今のあんたは生身の身体を持ってるのよ。かわりに、私がいつものあんたと同じ幽体になってるってわけ。だから沙都子にあんたが見えるのは当たり前なの。
「……な、な、ななな、なんてことするのです! 神の座から僕を蹴落として居座るとか、巫女のすることじゃないのです! 返せ戻せなのです! あぅあぅあぅ!」
うるっさいわね……たまにはいいじゃない、あんただってよく、自分でシュークリームが買いたいのです~とか、僕もみんなと部活やってみたいのです~とか言ってたでしょ。
「そ、それは言ってましたが……こんなの聞いてないのです。だいいち、どうして沙都子が僕のことを名前で呼んでいるのです?」
あんたのオヤシロパワーを使って、この世界の設定をちょちょいと書き換えたのよ。この世界では、古手梨花のかわりに古手家の八代目の女子として生まれたのは古手羽入、つまりあんたがオヤシロ様の生まれ変わりってことになってるわ。
「生まれ変わりというより、思いっきり本人なのですが……」
細かいことは気にしない。ようするに、元の世界の私の役割をあんたが引き継げばいいだけよ。羽入もみんなと遊びたかったんでしょ、たまには楽しみなさい。
「う……それは、たしかに楽しそうなのですが。でも、もしですよ、梨花。この世界で僕が殺されずに昭和58年6月を越えてしまったら、梨花はずっとそのままなのですよ?」
それならそれでいいわよ。飽きるまで羽入を眺めたら、どこぞで魔女として生きることにするわ。
「う~……梨花、自分の人生をなんだと思ってるのです」
お互いマンネリだったし、たまにはこんなのもいいじゃない。私もあんたを見習ってストーカーとかしてみたかったし、飽きたら雛見沢を出て世の中を見て回るのもいいかしらね。
「ちょっと羽入~、まだですの? 遅れてしまいますわよ!」
小屋の外から沙都子が呼びかける声。羽入は慌てて、
「い、今行くのです沙都子! あぅ!」
答えてから私の方を振り向いて、羽入はちょっとむくれた表情をみせた。
「しらないのですよ、梨花。僕だって、死にたくないから生き残れるように頑張るのです」
好きにすればいいわ。一度や二度の挑戦でその迷宮から抜け出せるなんて思わないことね……たまにはあんたも、私の苦労を味わいなさい。くすくす。
「あぅ……だったら好きにしますのです、僕だってみんなと遊ぶのはずっと夢でした。それに、そう、男の子とらぶらぶだってしたいのです!」
はぁ? あんたって、確か人妻じゃなかったっけ。
「正確には未亡人なのです。……陸も、熱血なわりにたよりなくて、萌えを語り出すと手のつけられない人だったのです。だから圭一は僕の好みにぴったりなのですよ!」
び、微妙にいやな好みね、それ……。いいわよ、圭一にアタックでもなんでもすれば?
うまくいかないほうに賭けてあげる。
「梨花、後悔しますですよ?」
別にうまくいったところで、圭一なんて私の好みじゃないもの、どうでもいいわ。好きになさい。
「……好きにしますのです~、だ!」
ぷんすかと怒りながら、羽入は沙都子を追いかけて飛び出していった。
くすくす。ランドセルしょった羽入はなんだか子供っぽく見えて可愛らしいわね。……それじゃ、私も行きますか。いろいろ覗いてみたいものもあるしね。