出来るだけ肩肘張らずに、軽い気持ちで書いたり読んだり出来る作品にしていきたいです。
世の中はクソである。
私が前世で学んだ数少ないことの一つ。
どんなに努力して頑張っても、成功する奴は成功するし、失敗する奴は失敗する。
まるで、最初から全てが決まっていたかのように。
現実は、漫画やアニメやドラマみたいには決していかない。
どこまでも残酷で、どこまでも非情で、どこまでも冷酷だ。
だから私は、かなり早い段階から何かに期待することを辞めた。
どこぞのサイコパス連続爆破殺人鬼ではないが、私が望むことはたった一つ。
『激しい喜びはいらない。その代わり、深い絶望も無い。植物のように静かで穏やかな人生』…ただそれだけ。
目立たず、騒がず、置物のように、背景の一部のように。
誰にも迷惑を掛けないように努力し、誰にも迷惑を掛けられないように努力する。
誰だって、道端に落ちている石ころに話しかけようとしたり、気に掛けたりはしないだろう?
要はそう言うことだ。
誰に私の人生に関与するな。
私も誰の人生に関与しないから。
私は永遠に一人でいい。一人が良い。一人でたくさんだ。
両親を失い…帰るべき家も失い…私の居場所って…どこだっけ…。
もう…どうでも…いい…や…。
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「んあ…」
目が覚める。
ぼんやりとした視界に映るのは、少し前に買い替えたばかりの真新しいスマホ。
一応は最新機種なのだが、使い慣れるとそんなことは気にならなくなる。
「あー…」
もぞもぞとしながら皺だらけのベットの上で半身だけを起こす。
虚空を見つめながら頭が切り替わるのを待つ。
十数秒後、少しずつではあるが意識がハッキリとしてきた。
「あぁ…昨夜の私…碌に着替えもせずに寝ちゃったのか…」
自分の体を見下ろすと、そこには貧相な体と安物の地味な下着姿が。
少しだけ視線を横にずらすと、床に散らばったままの自分のスーツが。
(はぁ…また皺だらけに…。予備はあるから今日の仕事は大丈夫だけど…後でちゃんとアイロン掛けを…って、私…アイロンなんて持ってないじゃん。仮に持ってたとしても面倒くさくて掛けたりしないだろうけど)
もしくは、忘れてそのまま放置されるかのどっちかだ。
これまでも、大抵は同じパターンだった。
(…仕事に行く途中にクリーニングに持って行こう)
近所には早朝からやっているクリーニング店がある。
もう何度、そこの世話になったか分からない。
「時間…」
枕元に置いてあるスマホで確認すると、時刻は朝の6時ジャスト。
体に染みついた癖で、どんなに疲れていても自然とこの時間に起床するようになった。
平日は別にいいが、休日に早起きすると死にたくなるほどに自己嫌悪する。
実際に何回か、衝動的にリストカットをしたことがある。
最近は余りやってないけど。
(カーテン開けて…窓も開けて…空気の入れ替えを…)
体が勝手に動いて朝のルーティーンをしようとする。
そうしてカーテンを開けると、凄まじい朝日が私の網膜を刺激した。
「うわ! まぶし!」
思わず両腕で顔を覆う。
まだ夏じゃないのに、朝からこんなに眩しくて暑いとなると、夏になった頃が怖くて仕方ない。
また熱中症でぶっ倒れてしまうんじゃなかろうか。
(けど…目は覚めた)
はぁ…と溜息を吐きながら、テーブルの上にあるテレビのリモコンを掴んでスイッチオン。
控えめな音声で今朝のニュースが流れていく。
と言っても、どれもこれもがヒーローの話題一色だが。
今の社会情勢には微塵も興味が無いし、心の底からどうでもいい。
このニュースは単純に私の朝のBGMにしか過ぎない。
だから、殆ど内容なんて聞いてない。
「た~ばこ~♪ た~ばこ~♪ あ~さ~か~ら~た~ばこ~♪っと」
しわくちゃになったスーツのポケットから煙草とライターを取り出してから朝の一服。
肺一杯に煙を吸ってから、思い切り吐き出す。
煙草の煙が朝日に煌めき、なんだか幻想的にも見えた。
なんて安っぽい幻想さだろうか。
「目が覚めたらお腹が空いた…何かあったっけ…」
煙草を咥えながら冷蔵庫を開けると、そこに入っていたのはいつも飲んでるメーカーの缶ビールが2本とペットボトルのお茶が一本。
マヨネーズとケチャップ、それから何故か沢庵が一本。
「…沢庵?」
私…こんな物買ったっけ?
マジで身に覚えが無いんですけど…。
「…………ま、いっか」
沢庵を取り出してから、そのまま丸かじり。
うん。美味い。
沢庵最強。
「…でも、流石に腹は膨れないな」
つーか、寧ろ逆に白米が食べたくなったわ。
でも、生憎と我が家には白米なんて豪勢な食料は置いてないわけでして。
(…仕事に行く途中にコンビニに寄って買うか)
今から出ればまだ余裕はあるだろうし。
最悪の場合、私が我慢すればいいだけの話だ。
(にしても…なんか妙な夢を見ちゃったな…)
まさか、夢の中で前世の事を克明に思い出すとは。
この世界に転生してきてから24年。
物凄く久し振りに思い出した気がする。
特に、成人してからは一度も見てないと思う。
だから気分は最悪に近かった。
とんでもなく憂鬱な気分。
あー…死にてー…。
でも、そんなことを口にしたら、無駄にお節介で、無駄に明るい後輩の羽野郎が五月蠅いしな…。
ナンバー3ヒーローならナンバー3ヒーローらしく、上司とパンピー相手に尻尾振ってりゃいいんだよ。
私みたいなゴミ女に近づくなっつーの。
「はぁ…嫌なことが次から次へと連鎖的に頭に浮かんでは消えていく…最悪だ…」
朝っぱらから鬱のループ状態に入ってしまった。
こんな時は頭を空っぽ状態にしてから寝るのが一番なんだけど、今からそんなことをするのは論外中の論外。
なので、やることは一つ。
(私が我慢すれば問題なし…か)
困った時は我慢が一番。
我慢は全てを解決する。
「…準備するか」
クローゼットの中から予備のスーツを取り出し、それを着てから鞄、財布、スマホ、他諸々の貴重品の数々を持ってから靴を履き、玄関のドアノブに手を掛ける。
(……行こ)
行ってきます…とは言わない。
言うべき相手なんていないし、言うだけ無駄だから。
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雄英高校 事務室
今の私の仕事場だ。
と言っても、別に私はここに就職していると言うわけではない。
私は今『とある理由』により、私の本来の仕事場から出向している形になっている。
「…………」
仕事用の伊達眼鏡を掛けて、無心でパソコンでの作業に集中する。
数少ない、私にとっての至福の時間の一つだ。
仕事に集中している時は余計なことを考えずに済むから。
椅子のサイズが地味に大きくて、私じゃギリギリ足が付かないのが難点だが、そんなのはもう慣れたので気にしてない。
チビにはチビなりの生き方があるのだ。
カタカタと、私の指がキーボードを叩く音だけが部屋に響く。
私にとって最高のASMRだ。
このまま今日は何も起きなければいいのにな…。
「おーい! 騎呂ちゃーん!」
「ちっ…」
フラグだったか…。
一撃で至福で静寂の時間が破られた。
この声は聞き間違えようがない。
一年の英語担当のプレゼント・マイクこと山田ひざし先生だ。
本名で呼ぶと嫌そうにツッコむ。
「いやー! 遅れて悪かったな! ほい! 書類!」
「はい。確かに受け取りました。次回からはちゃんと提出期限を守ってくださいね」
「分かってるってー!」
本当に分かってるんだろうか。
いい年した大人が、言われたことの一つも守れないようじゃヒーローの名が廃るだろうに。
けど、ここで文句を言っても何も始まらないし、同時に無駄でもあるから何も言わない。
そんなことをする暇があるのなら、たった今、提出された書類の確認に専念するべきだろう。
「…………」
「どーよ! 完璧だろ!?」
「…………ソーデスネ」
誤字が42個に、脱字が7つ。
あと、この書面はお世辞にも読みやすいとは言い難い。
(…今日もまた残業かな)
後でなんとか時間を作って、購買部に夜食を買いに行ってくるか。
最悪、今日はここに泊まることになるかもしれない。
「ところで騎呂ちゃん」
「なんですか」
「よかったら一緒に昼、食べないかい?」
「生憎ですが、私には『これ』があるので結構です」
机の引き出しから、彼に見せつけるかのようにカロリーメイトの箱を机に置く。
因みに今日のはチョコレート味。
「こいつはシヴィー!! 女の子なんだから、相澤みたいな食生活は絶対にやめた方が良いぜ!? 背が伸びないぞ?」
「余計なお世話ですし、成長期はとっくの昔に終わってるので、何をどうやってもこれ以上は背は伸びません」
「確かにそのとーり!」
だったら最初から言うなよ。
これ、私だったから良かったけど、他の女性だったら確実にセクハラ扱いになってるだろ。
ま、プロヒーローだから色々とコネを使って揉み消すんだろうけどさ。
「それと、相澤先生と私とでは決定的に違う所があります」
「そなの?」
「えぇ。彼は合理性を求めた結果として、ゼリーなどで食事を済ませようとしていますが、私の場合は単純に食事をする暇すらも惜しい程に仕事があるだけです。なので、食べながら作業が出来るものが一番なんですよ」
「うぅ…若いのに苦労してんだなぁ…」
「そう思ってくださるのでしたら、ちゃんと書類の提出期限を守ってくださいね。さっき提出したのは前回の物。この間のがまだですよ」
「うっ…」
「因みに、期限は明後日までです」
「それじゃあな! 無理しない程度に仕事頑張れよ~!」
あ、逃げた。
また提出期限は守って貰えそうにないな…。
別にいいけどさ。
この雄英高校と言う場所は、基本的にプロのヒーロー達が教職員として常駐している。
彼らは体が資本であり、同時に体を動かすことが最も得意な人たちでもある。
だからなのか、事務仕事が出来る人材が極端に少ない。
なので、私のように他所から出向するような形で手伝わされることが多いのだ。
私の場合は、本来の職場が職場なので、雄英側からは目を付けられやすい。
最近は、向こうにいる時間よりも雄英にいる時間の方が多いぐらいだ。
(何が悲しくて、母校の事務室でパソコンを打っているのやら…)
集中力が切れて、ふと我に返ると急に虚しくなる。
確かに雄英は、今世における私の出身校ではあるが、だからと言って楽しかった思い出などは微塵も無い。
今も昔も、可もなく不可もなく。
『出る杭は打たれる』の精神で、目立たないように三年間過ごしてきたから。
「あ…」
お昼を告げるチャイムが鳴り、本格的に集中力が切れた。
仕方が無いので、ほんの少し…五分ほど小休止を取ることに。
思い切り背を伸ばし、机の上にあるカロリーメイトの箱を開けてから、その中身をパクリと一口。
口をモグモグとさせながら、私…『