遅刻をしたオールマイトへのお説教から始まった流れで、何故か私も一緒にUSJに向かう羽目に。
しかも、あろうことか遠回しに『タロス』を使えと言われる始末。
もう既に学園内に運び込んであるとは…全く知らなかった…。
「…で、どうして私はオールマイトに抱えられているんですかね?」
そうなのだ。
さぁ、これから一緒にUSJにイクゾー!って時に、全く別の方向に向かって全力疾走をするオールマイトの腕に抱えられながら、超高速で通り過ぎていく景色を眺めている。
「まずは鋼野君の相棒が運び込まれていると言う格納庫へと向かおうと思ってね! けど、君の足じゃ流石に時間が掛かるだろう? だから、こうして私が運ぶことにしたのさ! これならばすぐに到着するからね!」
「確かにそうかもですけど…」
本当は一刻一秒でも早くUSJに向かいたいだろうに。
どこまで律義な性格をしている人なんだろう。
今でこそナンバー1ヒーローと呼ばれて大人気になっているけど、その人生には私なんかが想像することすらも烏滸がましいレベルの苦労があったに違いない。
「む! 格納庫が見えてきた!」
「もうですか? 仮眠室を出てから、まだ30秒も経過してないと思うんですが…」
もし仮に私が徒歩で向かおうものなら、確実に30分以上はかかる距離にあるのに。
この人の身体能力は本当に凄まじいの一言に尽きる。
「私と鋼野くんが~…到着した!!」
「しました~」
まだ何も始まって無いのに終わった感を出されてもな…。
取り敢えず、私はオールマイトの腕の中から離れて着地…っと。
「送って頂いて、ありがとうございます。ここまでくればもう大丈夫ですから。オールマイトは早くUSJに向かってください。私も必ず後で行きますから」
「分かった! 先に行って君の事を待っているよ、鋼野くん! いや…騎乗ヒーロー『ライダー』!」
オールマイトに私のヒーロー名を呼ばれた。
これもう…場合によっちゃ、私が表舞台に出る危険性もあるってことなんじゃ…。
「って、もう?」
私はほんの少しボーッとしている隙に、もうオールマイトは遥か彼方まで走っていて小さくなっていた。
やっぱ、本当は子供達や相澤さん達の事が心配で心配で仕方がなかったんだろう。
「さて…それじゃあ、私も準備しますか」
あそこまで言った手前、私もやるべきことはやらなくては。
面倒なことが嫌いな私ではあるけれど、だからと言って自分自身の言葉に噓はつきたくない。
なにより…。
「天下のナンバー1に『待っている』なんて言われたら、行かないわけにはいかないじゃない…」
はぁ…損な性格してるなぁ…私って。
自分で自分の性分に呆れながら、私は裏口から格納庫の中へと入っていく。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
「うわ…まだ昼間なのに真っ暗だ…」
ってことは、ここには誰もいないってことになるのか。
流石にサポート科担当のパワーローダー先生が常駐しているとは考えてなかったけど、それでも生徒の一人ぐらいはいそうなもんじゃない?
それすらも無いとは、今のサポート科はどれだけ忙しいのだろう。
「えーっと…明かり…明かり…あった」
真っ暗なままじゃ移動のしようがないので、携帯のライトを使って付近にあるスイッチを探してポチッとな。
「あ…明るくなった。う…」
電気の明かりに照らされて格納庫の中の様子が一気に見えてくる。
格納庫のど真ん中に巨大な特製ハンガーが設置されていて、その中にサンドカラーの全身が角ばった巨大人型機動兵器が鎮座していた。
「はぁ…まさか、我が母校でこれに乗る羽目になるとは…」
なんと因果な運命なのやら。
これも全て、私の個性の特性が原因なのかもしれない。
「しかも…」
よーく周囲を確認したら、タロス専用に開発された各種換装装備が全て並んでいた。
これもうさ…私を雄英で起こるであろう荒事に巻き込む気満々星人でしょ。
最初から全部仕組まれてたでしょ。
「ここで愚痴を言っても意味が無い…か。はぁ…」
後の事は後で考えることにしよう。
今はとにかく、タロスに乗って私もUSJに向かわなくては。
私の推理が杞憂で終われば、それでよし。
もし全てが的中していてた場合は…。
「…………」
…その時はその時か。
余り最悪の事態は考えないようにしよう。
心が萎えるから。
「んじゃ、まずは…」
自分の肩に手を置いて、そのまま思い切り…バッ!!
「『いざって時の為』と言われて、スーツの下にパイロットスーツ兼ヒーロースーツを着込んでるけど、まさか本当にいざって時が来るとは…」
真っ黒なレオタード状のスーツで、脚部には黒タイツ、腰には黒のプリーツスカートを装着してある恰好。
肌の露出こそ殆ど無いけど、その代わりに完全ピッチリスーツなので体の形状が丸分かり状態に。
もう殆ど痴女ですよ痴女。
格好だけで言えば、私はミッドナイトさんの事を全く言えない。
「んじゃ…とっとと乗り込みますか」
ちゃんとタロスは着降状態になっていて乗り込みやすくなっている。
というか、こうでもしないと私は乗り込めない。
「まずは乗降の為のワイヤーを出して…っと」
タロスの足元まで行って、パネルを操作するとコクピットの横から一本の特殊ワイヤーが出てきて私の傍まで来た。
ちゃんと足を乗っける場所もあるので安定感は中々。
ワイヤーに捕まると、自動的に私の体ごと上に登っていき、コクピットの所まで来て停止。
付近のパーツに足を掛けながら、別のパネルを操作してコクピットハッチをオープンする。
「ちゃんと中の掃除はされてるみたいですね。埃塗れじゃなくて安心しました」
これまでにも何度も乗り込んだ、私にとって二つ目の職場。
いつもと同じように背中からスルっと乗り込んで座席に座ると、ハッチが自動で閉まった。
そうして、私は自分の『相棒』と久し振りに邂逅する。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
真っ暗なコクピット内。
何も見えなくても、どこに何があるかは体が覚えている。
手探りでレバーを握り締めると、その瞬間に各モニターに明かりが灯り、コクピット内が明るくなってくる。
『おはようございます。キロ。こうしてアナタがここに来るのは492時間51分24秒振りですね』
「久し振りですね、タロス。と言うか、律義に覚えてたんですか?」
『当然です。私はキロのサイドキックなのですから』
「はいはい。そうですねー」
コクピット内に聞こえてくる機械音声。
これこそが私専用のサポートAI『タロス』。
この機体と同じ名を冠する私の唯一無二の相棒。
「まさか、タロスが雄英に来ているとは思いませんでした」
『有事の際に備え、公安委員会会長と雄英高校校長の双方の同意により私はここに運び込まれました』
「やっぱり、あの人も絡んでましたか…」
一体いつの間に…とは言うまい。
そんなことを今更言っても無駄だから。
「色々と話したいことはありますが、それはまた後で。とにかく、今は急がなくてはいけません」
『それは、雄英高校内施設『USJ』に突如として出現した謎の集団に関連しているのでしょうか』
「タロス…知ってるんですか?」
『はい。機体が機能停止している状態でも、私自身は常に稼働状態になっています。なので、密かに雄英高校内を暇潰しにモニタリングしていました』
「こいつ、今『暇潰しにモニタリング』って言いやがったんですけど」
『気のせいです。忘れてください』
なんだろう…時折、タロスが本当に人工知能なのか疑わしく思うことがある。
完全にこれは『製作者』の趣味が入ってますね…。
「って言うか、貴方にも確かスリープモードって無かったでしたっけ?」
『最近は妙に寝不足なのです』
「機械が寝不足言うなし」
はぁ…タロスと話していると本当に疲れる…。
「ふぅ……」
コクピットに深く座って目を瞑ると、私の『個性』が強制発動する。
タロスに関する全ての『知識』と『経験』と『記憶』の全てが脳内に蘇り、フィードバックされていく。
まるで、私とタロスが一つになったかのような感覚。
今この瞬間、タロスは完全に私の手足となった。
「タロス。先ほど言った通り、私は…私達は今から急いでUSJに向かわなくてはいけません。目的は『侵入者の撃退』。今は先に向かったオールマイトが戦っている筈です」
『了解。装備はどうしますか?』
「さっきチラッと見ましたけど、全部持ってきている…んですよね?」
『イエス。【エール】【ソード】【ランチャー】【ガンバレル】【ドラグーン】【I・W・S・P】【オオトリ】【ローエングリン】【スナイパー】【ライトニング】【ディバイン】【ノワール】の計12種が使用可能であり、更にはエールとソードとランチャーの複合兵装である【パーフェクト】も使用可能です。どれにしますか?』
「見事に全部持ってきてるじゃないですか…。この格納庫、もう完全にタロス専用になってるんじゃ…」
なんだか急に申し訳なくなってきましたね…。
いや、パワーローダー先生なら嬉々としてやりそうな予感が…。
「…エールストライカーパックで行きます。今はとにかく時間との勝負です。多少の火力不足には目を瞑って、速度重視で行きます」
『了解。キロならばそう言うと思い、既にエールへの換装作業を開始…終了しました』
「速っ。いつの間に…」
『私が『寝不足』と言った辺りからです』
「あそこですか…」
モニターには、タロスの背部にエールストライカーが装着されたことを示す表示が映し出されていた。
ちゃんと、左腕には専用のシールドが、右手にはビームライフル(対人用に威力調整済み)が装着されている。
『格納庫のハッチ、開きます』
ゴゴゴ…と格納庫の正面扉が開かれて外の景色がモニターに映る。
久し振りだな…ここから見る光景も。
「機体各部、各種機能オールグリーン。エールストライカー起動」
『流石はキロですね。私と話しながらも手だけは動かして、全ての起動準備を完了してしまっているとは』
「もう完全に癖になってますからね。手が勝手に動くんですよ」
文字にすると分かりにくいかもだが、ちゃんと私はやることはやってたんですよ?
この私がただ単にタロスと無駄話をするわけがないでしょう。
着降状態から起き上がり、タロスが両足を重々しく動かして格納庫の外に出る。
なんでそんなことが分かるのかって?
今の私とタロスは人機一体状態に近いですから。
これぐらいなら手に取るように把握できるんですよ。
私の『個性』の応用みたいなもんですね。
「目標、雄英高校救助訓練用特別施設『USJ』。及び、その内部にいるであろう侵入者の撃退」
『了解。目標位置確認…設定完了』
よし…では、今度こそマジで行きますか。
「タロス…出撃!!」