オールマイトの手…というか、拳によって
残るは、あの精神年齢が低そうな全身手だらけマンと『黒霧』と呼ばれていた全身黒ずくめ野郎の二人だけ。
「衰えただ…? 今ので…? 冗談だろ…? 完全に気圧されちまったよ…。よくも…この俺の脳無を…! この…クソチート共がぁ…!」
だが、彼の精神に大きなダメージを与えることには成功しているみたい。
ならば、このまま一気に追い込んでいくか。
『貴方達の切り札はオールマイトによって倒され、有象無象の名も無き雑魚集団さんは皆揃って夢の中』
「黙れ…」
『オールマイトがここに来た時点で、そちらの勝率は1割を切った。そこに更に私が現れ、脳無とやらが倒された。更に言えば、実はこちらには学校中から今すぐにでも動ける教員…即ち、プロのヒーロー達がここにやって来ようとしている。この意味…分かりますか?』
「黙れよ…!」
『もう貴方達は…完全に詰んでるんですよ。これ以上の無駄な抵抗は止めなさい』
「黙れって言ってるだろうが!!!」
無駄に激昂することで自分自身の中に生まれつつある焦燥感を誤魔化そうとしているのか。
私が彼らの立場ならば、迷わず逃げるというのに。
それでもまだ、この場にいること自体が彼の幼稚さを証明している。
「全っ然…弱ってないじゃないか…!! それどころか…同じぐらいチートなロボット野郎までいる始末…!
先生?
それが、彼の背後にいる者なのか…?
「お前は…お前は一体何なんだよ!! お前みたいな奴がいるだなんて情報には無かった!! いきなり割り込んできやがって!!」
『どこでその『情報』とやらを手に入れたのかは気になりますが、貴方達が知らないのも当然と言えます。だって、私は単なる事務員であり、雄英の教員ではないからです。故に数には含まれない』
「事務員…? なんで、そんな奴がこんなに強いんだよ…おかしいだろうがよ…!」
『そんなことを言われても…』
私が強いと言うよりかは、タロスの性能がチートと言うべきなので…。
もしくは、タロスの製作者がチートなのかな?
「脳無さえ…脳無さえ無事なら! 何も考えずに立ち向かえるのに…!!」
「いえ…残念ですが、それは流石に厳しいかと。オールマイト一人だけならば、なんとかなっていた可能性もありますが、あのロボットの存在が余りにも強大過ぎます。オールマイトと同等か、下手したらそれ以上の力を持つ存在。しかも、機械であるが故に脳無同様に疲れも知らない…。残念ですが、ここは一度引いて体勢を立て直すのが得策かと。このままでは本当に奴の言う通りにヒーロー達の増援がやって来て、逃げることすらも出来なくなります。引くならば今しかありません」
「ち…くしょう…! ここまで来て…本当にあと一歩って所だったのに…!」
どうやら、あの黒霧とか言うのが彼の鎮静剤代わりになっているみたいですね。
正直、去ってくれるのならばとっととして欲しい。
何故なら…。
(エネルギーを少し使いすぎた…。ビームライフルもあと何回撃てるか…)
そうなったら、後はビームサーベルを使った近接戦闘しか出来なくなる。
消費は少なくなるが、それでもエネルギーを使うことには変わりがない。
流石に身動きが取れなくなったら拙いことになる。
こんな事なら、マジでソード辺りで来ればよかったかもしれない。
「ラスボスと裏ボスが同時に出現とか…マジでふざけてるだろ…」
なにコイツ…もしかしてゲーム感覚で敵やってるの?
だとしたら、想像以上にふざけている上に幼稚極まりないな。
『…もしまだやると言うのならば、私は一向に構いませんが…その時は…』
ビームサーベルの切っ先を彼らに突き付ける。
それだけで、二人の体がビクッとなった。
『五体満足で刑務所に行けるとは思わないでくださいね。私はオールマイトのように甘くはない。命までは取りませんが、逆を言えば『命さえ無事ならば』何でもしますよ』
「く…そがぁ…!」
「このプレッシャー…! どうやら、私達が真に警戒すべきだったのはオールマイトではなくて、貴方だったようですね…」
『お褒め頂き光栄の至り』
よし…彼らの興味が私に移った。
これで少なくともオールマイトの無事は確保されただろう。
さっきから、彼の体からは変身終了の予兆である煙が全身から発せられている。
もう殆ど時間は残されていないと見るべきだろう。
後は彼らが大人しく去ってくれるのを待つだけ。
その時だった。
この状況を完全に決定づける者達が来るのは。
「ごめんよ皆…随分と待たせてしまったね」
「この声は…ライダー!」
『えぇ…やっと来てくれましたね』
ったく…遅いんですよ…もう…。
どれだけ私達を待たせる気ですか…。
「宣言通り、すぐに動ける者達を総動員して来たよ」
校長先生。
入り口の所には、雄英高校に所属している全ての教師が全員集合していて、ブラド先生の肩の上に校長がちょこんと座っている。
そして、そんな彼らと一緒にいる先生じゃない子が…あれは…あの時の…?
「1ーAクラス委員長! 飯田天哉!! 只今戻りました!!!」
え? 彼も相澤さんの教え子?
でもそっか…あの時、さっき見たもじゃもじゃ頭の子と一緒にいたもんね…。
「時間切れか…クソが…! 黒霧…!」
「はい。分かっています」
黒霧が個性を使って、この場から撤退しようとする。
本来ならば、何が何でも彼らを捕縛するべきなのだろうが、今は生徒達の無事と負傷者の救助が最優先。
なので、増援としてやって来た先生たちも睨みを利かせながら敵の撤退を見つめていた。
「今回は失敗に終わったが…次は必ず殺すぞ…平和の象徴オールマイト…! そして…そこのロボット野郎…ライダー…!」
主犯格と思わしき者達が撤退したことで、USJで発生した一連の事件は一先ずの幕を閉じたのだった。
なんて言えばハッピーエンドに聞こえるけど、私にとっては寧ろここからが本番なんですよ!!
この後に控えている『午後にやる予定だった大量の仕事』+『公安に提出しなくてはいけない今回の事件に関する報告書』っていう最強最悪の敵との死闘が待っているんですからね!!
はぁ…早く事務室に戻りたいよぉ~…。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
「これだけ派手に暴れられて、逃げられてしまうのは癪だけど…」
「今は生徒達とイレイザーヘッド、13号の安否が最優先だ。仕方があるまい。だが…次は逃さん…!」
スナイプ先生とミッドナイトさんがやる気に満ち溢れているけど、今はそれよりも早く事後処理に入ってほしい。
じゃないと私も身動きが出来ないから。
『オールマイト。一先ずはタロスの後ろに隠れてください』
「分かったよ。…また君に非常に大きな借りが出来てしまったね。鋼野くん」
『…気にしないでください。私は自分の仕事をしただけ。それに…』
「それに?」
『ヒーローは助け合い…でしょう?』
「あぁ…その通りだ…!」
柄にもないことを言ってしまった。恥ずかしい。
この場がシリアス全開じゃなかったら、確実にマイクさんに揶揄われてたな。
おや? 向こうから複数人の人影が…。
「おい! お前ら!! 大丈夫だったか!? って、何だこのロボットはぁッ!?」
「試験の時と同じ…のじゃねぇな。完全に武装してやがる。なんだこいつは…」
「まさか…こいつも雄英の教師…プロヒーローだってんじゃねぇだろうな…?」
おーおー…これまた生徒達がぞろぞろと。
どうやら、黒霧によってUSJ各所に散り散りにされていた生徒達が、各々に敵を倒してきて戻って来たみたい。
と言っても、まだ全員ではないようだけど。
恐らく、彼らはA組の中でも上澄みに属する子達なのだろう。
殆ど疲弊も損傷も見当たらないし。
地味に将来が楽しみだ。
早く立派なヒーローになって、私を事務仕事に専念させてくださいね。
なんて言ってたら、こっちに雄英の先生たちがやって来た。
「どうやら、ちゃんとタロスは起動しているようだね」
『やはり、パワーローダー先生がタロスの整備をしてくれていたのですね。ありがとうございます。お陰で万全の状態で稼働できました』
「なんのなんの。お陰でこっちも楽しくも興味深い仕事が出来て満足さ。君がこっちにいる間は、この俺とサポート科が責任を持ってタロスの整備を担当しよう。勿論、専用装備である各種ストライカーパックもな」
『重ね重ね本当に…どれだけ礼を言えばいいのやら…』
「なに、気にするな。君は俺達に出来ない事をして、俺達は君に出来ない事をする。これもある種の『助け合い』と言う奴だ」
あら。ついさっき私がオールマイトに言ったことを返されてしまった。
これは一本取られましたな。
「うおー! 相変わらずスゲー迫力だな! このタロスはよ!」
『ご無沙汰しております。プレゼント・マイク』
「おう! 久し振りだなタロス!」
んで、マイクさんはタロスと呑気に挨拶をしていますよ…っと。
『そんなことはどうでもいいので、今は取り敢えず、相澤先生たちの応急処置を』
「おっと、そうだったな。ま、あいつはああ見えて鍛えてるから、生半可なことじゃ平気だと思うけど」
『今回の怪我は明らかに『生半可』の領域を超えてますから。タロスの右腕部内に緊急救急キットが入ってますから、それを使ってください。タロス』
『了解。緊急救急キット収納ハッチを展開します』
タロスの右腕の一部がパカッと開き、そこに公安実働部御用達の緊急救急キット(特許出願中)が収納されていて、それをマイクさんが取り出した。
「おー…こんな便利なもんまで入ってんだな。マジで万能なんだなタロス」
『現在はレスキューストライカーパックも開発中です。人命救助や災害救助に特化したストライカーパックで、これでより多くの人命が救えると予想します』
「…もう逆に、お前って何が出来ないんだ?」
『『さぁ?』』
ストライカーパック次第じゃ、マジで何でも出来てしまうのがタロス最大の強みだからなぁ…。
そう言われても普通に困る。
「どうやら、君をオールマイトと一緒に行かせた私の判断は間違ってなかったようだね」
『お陰で余計な仕事が大量に増えましたけどね』
「はっはっはっ! それに関しては素直に悪いと思っているよ。その分、今月の君の給料にはちゃんと色を付けてあげるから安心してくれていいのさ!」
『まぁ…そう仰ってくれるのであれば…』
この辺はちゃんと誠実だから文句が言えないんだよなぁ…この校長は。
『ところで、他の生徒達は?』
「他の子達なら、先生たちが迎えに行っているところなのさ。敵たちの捕縛のついでにね」
『そうですか。ならば…』
なんか近くでピクピクとしていた、倒れ伏していた敵がいたので、そいつ目掛けてタロスのトリモチランチャーを発射。
「ぐぇ!? う…動けねぇ…!」
『ハイ確保』
『キロ。ついでに捕縛用のチェーンも使用しますか?』
『いや…そこまではいいでしょう…』
どうしてタロスはこう…死体に鞭を打つのが好きなんだろう。
もしかして私のせい? まさかね…。
なんてことを考えていたら、マイクさんによって応急処置がされたであろう相澤さんが雄英のロボットの担架に乗せられて運ばれていく様子が見られた。
(本当に…無茶しすぎなんですよ…アナタは…)
普段は私に『無茶するな』って言ってる貴方が、命を張って無茶してどうするんですか…。
今回は状況が状況だったので何も言えませんが…。
(13号先生は…マイクさんから救急キットを受け取ったミッドナイトさんが処置をしているか。なら安心かな)
となると、後は…。
『校長先生。オールマイトも少なからずダメージを受けています。早く保健室に…』
「そうだね。でも、このままじゃ姿を見られてしまう。まだ生徒達に『あの姿』を見られるわけにはいかない」
『そうですね。では、どうすれば…』
オールマイトの『本来の姿』は、雄英高校の教師たちと公安委員会の関係者、それと本人と深い関係のある者たち以外は知ることが許されていない機密事項だ。
彼が引退する時には流石に公開するだろうが、それはまだ今じゃない。
「ここは俺の出番だろう。任せてくれ」
『「セメントス先生」』
そっか…この人がいたか。
彼の個性ならば、オールマイトの姿を隠しながら保健室まで連れていくことが可能だ。
「騎呂。タロス。本当によくやってくれた。ここからは俺達に任せてくれ」
『はい。お願いします。私は一先ず…この瞬間だけは後の事を忘れて休みたいので…』
「はは…俺達が言えた立場じゃないが、君も本当に大変だな…。せめて、今だけはゆっくりと休んでくれ。と言うか、そろそろ出てきたらどうなんだ? 流石に外の空気が恋しいだろう?」
『そうですね…』
思ったよりも汗を掻いてしまったし、そのせいでコクピット内が妙に蒸し暑く感じる。
一応、ちゃんと換気システムは稼働しているんですけどね…。
(お?)
セメントス先生の個性によって巨大な壁が出現。
それに隠れるようにしながらオールマイトがゆっくりと歩きだした。
『今日は本当にお疲れさまでした。ゆっくりと傷を癒してください』
「あぁ…遠慮なく、そうさせて貰うよ。何度も言うようだが、今日は本当に助かった。ありがとう…鋼野くん。君のお陰で、最悪の事態だけは防ぐことが出来た…」
つくづく、お礼を言うのが好きな人だ。
それだけ自分が多くの人々に支えられていると言う自覚を持ってくれると嬉しいんだけど。
ナンバー1が最強過ぎると、それをサポートする側も大変なんですから。
オールマイトがUSJから出ていこうとしたところで、他のA組の生徒達も先生たちに連れられて次々と集まって来た。
これで全員…なのかな?
「あ…あの…校長先生! 一つよろしいでしょうか!?」
「何かな? 飯田君」
「先生の皆様方は、あの巨大ロボットの事をご存じの様子でしたが、一体何者なのでしょうか!?」
あ…遂にそれを聞いちゃいます?
そういや、まだ彼らに本格的な自己紹介をしてなかったな。
臨時の事務員とはいえ、今は私も雄英高校の一員。
ここまでやった以上、流石に顔ぐらいは見せないと失礼だな。
「…だ、そうだよ? どうする?」
『出ますよ。セメントス先生も言ってましたけど、流石にそろそろ外の空気が吸いたいですからね。タロス』
『了解。周囲の安全を確認。コクピットハッチをオープンします』
「「「「ロボットが喋ったぁぁぁぁぁぁぁっ!!??」」」」
まずはそこからなんだ…。
良いリアクションをするなぁ…。
あぁ…外の空気が美味しい…。
「ふぅ…やっと出られました」
「「「せ…先輩ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!!???」」」
あら。
あの時の三人組が揃いも揃って良いリアクションを。
と言うか、あの女の子もやっぱりA組だったんだ。
完全に気が付かなかった…。