ようやくやって来てくれた警察関係者の方々。
その先頭に立っている人物は、私もよく知っている人物だった。
「アナタは…塚内警部?」
「おぉ…君は騎呂くんか! いや、その恰好の時は『ライダー』と呼ぶべきかな?」
「どっちでもいいですよ。もうヒーローとしての仕事は終わりましたので」
「そのようだね。話には聞いていたが、まさか君が現場に出ているとは思わなかった。それ程まで…だったのか?」
「それはまた後でお話しますよ。どうせ、事情聴取…するんでしょう?」
「まぁ…な。それが仕事だからな」
「ご苦労様です」
口を滑らせて、私が公安所属であることを漏らさないのは流石だ。
この辺はオールマイトも見習ってほしい。
あの人は時折、本当に秘密主義なのかどうか分からない節があるから。
「タロスも久し振りだね」
『はい。お久し振りです。塚内警部』
勿論、塚内さんはタロスの事もよく知っている。
色々と複雑で真っ黒な警察内部でも、この人は例外的に真っ白な側にいる人だから。
なので、実は公安内部でも割と評価の高い人物だ。
「一先ずは生徒達の安否の確認だ。えーっと…」
塚内さんを始めとした警察の人達が生徒達を一か所に集めて人数を数え始める。
一応、私の方でもタロスの生体反応レーダーを使って確認をしてみることに。
「16…17…18…どうやら、生徒達は全員無事のようだな。見たところ、特に目立った外傷もないようだ」
「塚内さん。こっちでも念の為に確認しましたが、ちゃんと全員いるみたいです」
『問題ありません』
「そうか。君たち二人が言うのならば大丈夫だな」
しっかし…あれだね。
あれだけの修羅場を潜っておきながら、生徒達の顔は思ってるよりも落ち着いている。
焦躁の感情が一周回って逆に落ち着いちゃった感じ?
それ、私にも身に覚えがあるなぁ~。
「あ…あの…鋼野せんぱ…さん」
「別に無理して『さん』付けで呼ばなくてもいいですよ? 御自分のお好きなように」
「じゃあ…鋼野先輩」
「はい。なんでしょうか?」
少しだけ不安そうな顔をした麗日さん(さっき教えて貰った)が私に話しかけてくる。
これからどうなるか気になっているんだろう。
無理もない…あんな目に遭って、更には警察が目の前にいるんだから。
「これから私達…どうなっちゃうんでしょうか…?」
「恐らくは、今回の事件に関する事情聴取が全員に向けて行われるかと。でも、流石に今すぐに…と言うわけではないと思います。今はまず、皆さんの心と体を少しでも安静にすることが第一ですから。ですよね? 塚内さん」
「あぁ…騎呂君の言う通りだ。君たちは取り敢えず、教室に戻って休んでいてくれ。こっちはこっちでまだ色々と調べることがあるからね。君たちに話を聞くのはその後…最後の方になると思う。それまでゆっくりと休んでいてくれ」
もしこれが他の連中だったら、彼らの事情とか全く考慮せずに今すぐにでも半ば強制的に事情聴取を行おうとするんだろうな。
誰の仕業かは知らないが、ここに塚内さんを派遣してくれたことは間違いなく英断だ。
「あの…刑事さん」
「なんだい?」
「相澤先生の容体は…」
カエルっぽい女の子(名前は蛙吹さんと言うらしい。後で教えて貰った)が恐る恐る塚内さんに尋ねていた。
自分たちの担任の事ですもんね…心配するのは当然か。
私も気にはなってましたし。
「そうだな。少し待ってくれ」
そう言うと、塚内さんはどこかに電話をかけ始めた。
恐らくは相澤さんが収容された病院か?
「もしもし? 私…」
受話器の向こう側で医者と話をしているようで、そこで徐に自分のスマホをスピーカーモードにしてこちらに向けた。
「では、お願いします」
『分かりました』
医者からの言葉が気になるのか、生徒達全員が一か所に集まって耳を傾けていた。
しれっと私も、その中に混ざって聞き耳を立てていたりして。
『相澤さんの容体ですが…両腕の粉砕骨折に顔面骨折…幸いなことに脳への損傷は一切見受けられませんでした。ですが…』
ですが? 勿体ぶらないでください。
『眼窩低骨が粉々になっていまして…こちらも全力で治療を行いますが、それでも眼に何らかの後遺症が残る可能性があります』
眼に…後遺症…。
相澤さんにとっては致命的な痛手だな…。
「…だそうだ。ありがとうございました」
『いえいえ。では、失礼します』
場の空気は一気に重苦しくなり、全員が黙り込んで俯いてしまう。
厳しいかもしれないが…これが『ヒーローの日常』なんだと言うことを理解して欲しい。
『ヒーローはいつだって命懸け』…とはよく言ったもんだ。
「じゃあ…13号先生やオールマイトは…」
「13号の方は、背中から上腕にかけての裂傷が酷かったらしいが、幸いなことに命に別状はなし。今はイレイザーヘッドと同じ病院に移送中。オールマイトも同じように命に別状はない。ライダーとタロスのお陰で、彼が一番損傷が少ないまである。なので、彼に関してはリカバリーガールの治癒で十分に処置が可能と言うことなので、今は保健室で安静にしている状況だ」
13号さん…割とヤバげな状態だったにも拘らず、ちゃんとリアクションしてくれたんですね。
私に雄英高校の制服を着せたことに何か思うことでもあったんでしょうか。
そして…オールマイト。
ちゃんと無事に保健室に到着出来たんですね。
途中でまた吐血とかしてないか少し心配だったんですが。
「そして…騎呂」
「え? 私ですか?」
私はずっとタロスの中にいたから、別に怪我とかはしてないんですけど…?
「君…相当に無茶しただろ?」
「「「えっ!?」」」
いやいやいや…この私が一体いつ、どこで無茶をしたとでも?
キロちゃんにはさーっぱり分からにゃいなぁ~?
「騎呂。最後にまともに寝たのはいつだい?」
「何を言ってるんですか。今朝だって私は普通に自宅から通勤したんですよ? ちゃんと睡眠はして…」
「タロス」
『昨夜のキロは、自宅に仕事を持ち帰り、そのまま深夜5時まで仕事を続行。その後にベッドに入り就寝。起床時刻は6時30分。起床後に朝食を食べ、準備を整えた後に7時頃に自宅を出て通勤開始』
「ちょ…なんでタロスが私の私生活を知ってるんですか!? プライバシーの侵害じゃないですか!!」
『私はキロのサイドキックであると同時に、貴女が無事平穏な日常を送れるかどうかを確認するための『お目付け役』でもあります。なので、『博士』に手によって私のAIの一部をキロのスマートフォンに移植、密かに見守っているのです』
「完全に初耳なんですけどっ!? あの『天災兎』…一体いつの間に、そんなことを…!」
あの女の事だから、私が寝ている隙とかにやってそうだな…。
今度会った時にとことんまで問い詰めてやる…!
『因みに、この機能の排除などは『博士』以外には不可能です』
「そんなの分かってますよ! 私に『あの人』の作った機能をどうにかするとは絶対に無理ですから!」
はぁ…今になって知らされる事実に眩暈がしてきた…。
うぅ…タロスだから、まだマシな方なのかな…?
「睡眠時間…たったの1時間半か。まさかとは思うが、ここ最近も…」
『イエス。ここ数週間のキロの平均睡眠時間は、約30分から1時間ほどです』
「君の仕事が目の回るような忙しさなのは理解しているが…だからと言ってショートスリーパーになるのはいただけないな」
「わ…分かってますよ。だから、隙間時間を使って仮眠とかしてるんですから…」
「仮眠…ね。それも、どれぐらいの時間なのやら…」
なんか塚内さんから、お父さんみたいなお説教を受けてるんですけど…。
さっきまでの重苦しい空気はどこに行った?
「よく見たら、目の下に隈もあるじゃないか。そんな状態でオールマイトも苦戦するような相手と全力戦闘をするなんて…まさかとは思うが『薬』で誤魔化してないだろうな?」
「してませんよ。あれは全部(ウチの会長に)取り上げられてしまいましたから」
「それならいいんだが」
あれ…いざって時にはめっちゃ役に立つんだけどなぁ…。
どうにかして、また手に入らないかな…。
「君は昔から『仕事』だと割り切った瞬間に、どんな無茶や無理も平気でしてしまう。全く…そんな所はオールマイトにそっくりだよ」
「あんなマッチョ聖人と同列にされても普通に困るんですが…」
色んな意味で向こうの方が格上でしょうに。
「怪我は無くても、中身はもうそろそろ限界なんじゃないか? 正直に答えてくれ」
「…そうですね。素直に白状すれば、さっきから眩暈&意識朦朧のミックス状態になってます。でも、まだ私には仕事が残ってて…」
「それはまた後でしなさい。流石に事情聴取はするが…それもすぐに切り上げよう。と言うか、君も今すぐに保健室に行って休むべきだ」
「は…はい…分かりました…」
流石は現役の警部…普通に逆らえない迫力がある…。
この人には『やる』と言ったら絶対に『やる』と言う『凄味』がある!
「先輩…事務員としての仕事が忙しくて体が疲弊しきっていたのに…それでも僕たちの為に無茶を…」
「これが…『プロの世界』…なんだね…」
「プロヒーローに弱音は許されない…か」
なんか今度は私のせいで空気が暗くなってるんですが?
私って、そんなシリアス発生装置なキャラでしたっけ?
「と言うことなので、今から彼女を保健室に連れていきたいのですが、よろしいですか? 丁度、保健室の方に別の用事もあったので、そのついでに」
「いいともさ。我々としても、彼女に無茶をさせていることは自覚していてね。少しでも負担を減らせればと思ってはいるのだが…それも中々に上手くいかないのが現状なのさ」
「それだけ騎呂が優秀な証拠でしょうが…何とも言えませんね」
「全くなのさ」
校長まで便乗して空気を重くしてるし。
もう…行くなら早く行きましょうよ。
「そう言うわけだ。三茶! 後は任せるぞ」
「タロスも、出来る範囲で捜査の手伝いをしてあげてください」
「『了解』」
おぉ…タロスと猫の顔をした刑事さんが同時に返事をした。
ちょっとだけ面白かった。
「しかし…これはあれだね。セキュリティの大幅な強化が必須だね」
「ワープ系の個性なんて只でさえ非常に希少だってのに…それがよりにもよって敵側にいるとか…割とマジで洒落になりませんよね」
校長とミッドナイトさんの言う通り、今回の一件は間違いなく雄英の警戒心を大幅に上げさせる結果になる。
だが…それが向こうにとって何の意味がある? 何の得になる?
もしや…本当の目的は『オールマイトを殺す』ことなどではなく、『雄英高校に侵入する』こと自体だったり…?
「塚内警部! ここから約400m先にある雑木林にて、オールマイトとライダーさんが交戦したと思われる敵を発見、確保したという報告が!」
「そうか。奴さんの様子は?」
「両腕が欠損状態ですが出血は皆無。痛がる様子もなく、こちらの呼びかけにも全く応答する様子が無しとのことで…恐らくは会話そのものが不可能なのではないかと…」
やっぱり…なんとなく、そんな気はしてましたよ。
全く…嫌なことを思い出させる。
倫理的なタブーって奴を平気で踏み越えてくるとか…一体どんな神経をしてるんでしょうね。
「それに関しては、私の方で色々と発覚したことがあるので、保健室でお話しますよ」
「そうなのか? じゃあ、よろしく頼むよ。今はとにかく情報が欲しい。じゃないと、こっちも動きようが無いからな」
とにもかくにも、まずは情報第一。
捜査の基本だけは今も昔も全く変わらない。
「校長先生。念には念をってことで、校内を隅々まで見て回りたいのですが…よろしいですか?」
「勿論だとも! 一部じゃ色々と言われてはいるが、権限は間違いなく君たちの方が上! そして、事件の捜査は君たちの分野でもある! 『餅は餅屋』と言う言葉もある! よろしく頼むよ! 鋼野君の事もね!」
「分かりました。では、失礼します。よいしょ…っと」
って、なんかしれっと塚内さんが私の事をおんぶしたんですけど?
私は一体いつから貴方の子供になったんですかね?
割と普通に恥ずかしいから止めて…って、話聞いてます?
ちょっとー? もしもーし?
次回こそUSJ編が終わる…と信じたい。
この宣言もフラグかもしれないけど。