なんでか塚内さんにおんぶされたまま保健室に連れてこられた私ちゃん。
こんな風に誰かの背中におぶられたのって…いつ以来だっけ…。
「お。着いた」
早いな。
私と塚内さんとじゃ足の長さも歩く速さも違うから早く感じたのかな。
「お邪魔します」
「しまーす」
塚内さんが片腕を自由にした状態で保健室のドアを開ける。
すると、中にいたリカバリーガールとベッドに寝ている瘦せ痩せモードなオールマイトが驚きながらこっちを見た。
「おや、あんたは。それに騎呂まで一緒に」
「塚内くん!! 君もこっちに来てくれていたのか!! って、なんで鋼野君をおんぶしてるの?」
「彼女の事を休ませてあげようと思いまして。どうやら、かなり疲弊した状態で戦っていたようでして」
めっちゃ思いっきり言っちゃうし。
お陰で、リカバリーガールからは凄い形相で見られて、オールマイトは驚いたように私を見ていた。
「まさか…またアタシの見ていない所で徹夜でもしてたのかい? しかも、そんな寝不足状態で敵と戦った? 全く…あんたって奴は…」
「は…鋼野くん!? そんな状態だったのに私と一緒に戦ってくれていたのか!? 君って奴は…!」
なんだろう…オールマイトだけ感動してない?
同時に血も吐いてるけど。
「そんなわけなので、まずは彼女をベッドに寝かせてあげたいのですが」
「オールマイトの隣が空いているから、そこを使いな」
「ありがとうございます」
そんなわけで、塚内さんの手によって私はベッドに寝かされることに。
その際にしれッと頭も撫でられました。
この人…私の事を娘みたいに見てないでしょうな?
そこまで歳は離れてないと思うんだけどな…。
「はふぅ…」
「やっと落ち着いたか?」
「まぁ…一応…」
実を言うと、ついさっきまで戦闘時の緊張状態…アドレナリンドバドバモードだったので、目がギンギンだったのです。
けど、流石にこうしてフカフカのベッドの上に寝かされれば嫌でもリラックスしてしまう。
「それじゃあ、早速で悪いんだが…オールマイト。君たちが戦った敵に関して詳しく…」
「その前に一ついいかい?」
「なんだ?」
「生徒達は全員無事か!? 相澤君…イレイザーヘッドや13号君は!?」
あぁ…彼ならそう言うと思ってた。
気になりますよね…当然。
二人が病院に行く前に保健室に向かったんだから。
「生徒達なら、軽傷程度ならば少しいるが全員無事だ。教師二人に関しても重症ではあったが命だけは何とか取り留めたよ」
「そうか…」
塚内さんからの報告を聞いて、オールマイトが大きく息を吐きながら肩を撫でおろしていた。
きっと、治療を受けながらずっと気が気がじゃかったんだろうな。
本当にこの人らしい。
「4人のヒーロー達が身を挺していなければ、生徒達も決して無事じゃ済まなかっただろうな」
4人…やっぱり私も数に入ってるんですね…。
別に間違っちゃいないけど。
「そうか…だがしかし、その言葉は一つだけ間違ってるぜ、塚内君」
「と言うと?」
「今回…生徒達もまた戦い…その身を挺した!!」
…確かに。
主に戦ったのは私たちかもしれないが、かといって彼らが何もしなかったと言えば、そうでもない。
彼らは彼らなりに必死に戦って、自分の身を守り抜いて見せた。
結果はどうあれ、その事実だけは決して覆せない。
「これ程までに早く実戦を経験し、生き残り、大人の世界を…『ヒーローとしての現実』を、恐怖を知った一年生など…今迄にいただろうか!? なぁ…鋼野くん!」
「…そうですね。今回の事は完全に誰も想定していなかったイレギュラーな事件でしたが、それ故に彼らが身を以て得た経験は非常に得難いものだと思います」
「彼女の言う通り…本当に敵も馬鹿な真似をした!! あのクラス…1年A組は間違いなく強いクラスになるぞ!!」
「…少なくとも、他のクラスよりは確実に突出したクラスになるのは確実かと」
普通じゃ絶対に出来ない予想外の初戦闘。
この段階で『絶対的な死の恐怖』と『圧倒的な悪意を向けられる』経験をしたのは本当にデカいと思う。
あのクラスの生徒達は、私達が想像している以上に将来的に大化けするかもしれない。
「…そうか。君たち二人がそこまで言うのなら、そうなのかもしれないな」
「そうだとも! なぁ! 鋼野くん!」
「そこで私に振るんですか…」
体に包帯を巻いて痛々しいのに、どうしてこうも元気なんだろうか…この人は。
これがナンバー1ヒーローのメンタルってやつなのかしら?
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
同時刻 とあるバーの一角。
「くそ…くそぉ…! 完全にしてやられた…!」
精魂共に疲弊しきった状態の死柄木弔が床に転がった状態で低い声で恨み節を全開していた。
「搔き集めた手下どもは全員揃って瞬殺…子供も予想以上に強かった…! なにより…脳無がやられた…!」
悔しさに体を震わせながら、幽鬼のようにゆっくりと起き上がる。
そのままの足取りで近くにあるソファまで行き、体を叩きつけるかのようにドカっと座り込んだ。
「『平和の象徴』は未だに健在だった…! それだけならまだしも…同レベルの強さを持つまでロボットまでいた…!」
その時、不意にテーブルの上に置かれたモニターが付く。
まるで意志を持っているかのように。
「話が全然違うじゃないか…なぁ…『先生』…!」
『違わないよ』
モニターの向こうから返事が来た。
それは妙齢の男のような声。
だが同時に精悍さを感じさせる男の声でもあった。
『ただ…少しだけ見通しが甘かったね。向こうの底力を侮った結果とも言える』
『うむ…確かに今回は舐め過ぎていた感は否めんな。『敵連合』なんていうチープな団体名で良かったかもしれん。ところで…』
「なんでしょうか?」
いつの間にか戻って来ていた黒霧が弔に変わって話に混ざる。
モニターの向こうから聞こえてくる声には、『先生』とはまた違う声が聞こえてくる。
『『ワシ』と『先生』の合作である『脳無』はどうした? 回収はしていないのか?』
「オールマイトの手によって、かなりド派手に吹き飛ばされました。流石の私も、正確な位置座標情報を把握出来なければ捜索することは不可能に近いのです。それ以前に、あの時はそのような時間が皆無だった。しかも…」
『しかも? なんじゃ?』
「吹き飛ばされる寸前、脳無は再生不可能なほどのダメージを受けて両腕を切断されていました。もし仮に回収できたとしても、もうあれは…」
『なんと! あの『超再生』を以てしても回復不可能なほどのダメージとな!? 流石はオールマイトと言うべきか…?』
「いえ…実は、脳無の両腕を切断したのはオールマイトではなく…」
「『ライダー』とか言う…恐ろしく強いロボット野郎のヒーローだった…!」
『『ライダー!?』』
今までずっと淡々とした口調だった『先生』達が、初めて感情を顕わにして驚いた。
『弔…もしや、そのロボットは『タロス』と呼ばれてなかったかい?」
「あぁ? そういや…そんな風に呼ばれてたような気も…」
『先生…もしや…?』
『間違いない…『ライダー』と『タロス』…そうか…彼女たちが雄英に…』
心なしか『先生』の声が震えているように感じる。
それは気のせいではなく、次の瞬間にそれが分かった。
『ははははははははは! オールマイトだけじゃなくて『彼女』もいるのか! これは傑作だ! なんという因縁! なんという偶然! そうかそうか! ライダーもいたのか! 成る程! それならば今回の襲撃計画が失敗したのも、あの脳無が倒されたのも全て納得出来る!』
まさかの大爆笑。
何が何だかさっぱり分からず、思わず弔と黒霧は互いの顔を見合わせた。
「おい先生…アンタは、あのロボット野郎の事を知ってるのか?」
『あぁ…よく知っているとも! と言っても、別に直接的な面識があるわけではないけどね』
「じゃあ、どういう関係なんだよ」
『簡単に言うと、彼女は昔…今から丁度2年ぐらい前か。僕が入念に準備を進めた『大犯罪計画』を見事にご破算にしてくれたヒーローなのさ!』
「先生の計画を…潰したってのか…? あの野郎が…?」
『そうだとも! それと、ライダーは『野郎』じゃないよ。ああ見えて、立派な女の子さ』
「女…? そういや、確かに女みたいな声はしてたが…」
あの時は頭に血が上って、それどころじゃなかったので気が付いてなかった。
しかし、今になって冷静に思い出せば、確かにライダーの声は女性特有の声質をしていた。
『『成田の奇跡』…君たちも知っているだろう?』
「知ってるも何も…」
「一時期、凄まじい程に話題になっていましたね。日本航空業界史上最凶最悪の大事件。テレビのどこのチャンネルにしても『成田の奇跡』の話題一色で」
「そうだったな。ウザい事この上なかったぜ…」
見たい番組が思うように見れないと言うのは、当時の弔の苛立ちを恐るべき速度で加速させていた。
お陰でテレビが一台ほどスクラップになったのは、今となってはいい思い出である。
「その話題を出すってことは…まさか?」
『そう…その『まさか』さ。あの大事件は、この僕が裏で糸を引いていたんだ。で、それをあろうことか最上最良の形…人質や犯人…その場にいた全てのヒーロー達に至るまで全員揃って死傷者ゼロという、ヒーロー側としてはこれ以上無い程に最高の、敵側からしたらこれ以上無い程に最悪な結果で解決して見せた…それが彼女のなのさ』
「マジかよ…でも、あの時のニュースに『ライダー』なんてヒーローは出てなかったような…」
「そうですね。私も見ていましたが、そのような名前は一度も出ていなかった」
『それはそうさ。事件解決後、彼女はその場にいた全員に『自分の名を出さず、最初からいなかったことにする』という約束をさせて、人知れず現場から去っているからね』
「「はぁ?」」
普通に考えて絶対に有り得ないことをしているライダーの行動に、思わず変な声が出てしまう二人。
「おかしいだろ…そこで自分の名を売れば、一気にオールマイト級のヒーローになれるだろうがよ…」
「そうですね。自己アピールする理由はあれど、己の存在を隠蔽する理由などは無い筈では…」
『彼女にはあるんだよ。自分の関係を隠す理由が』
「「それは?」」
『無駄に目立つことを避けるため。彼女が求めているのは『平穏』の二文字。ヒーローになったのも殆ど成り行きな彼女にとって『人生の平穏』は何よりも大切なもので重要視するべきものなのんだよ。だから、彼女は『成田の奇跡』に自分が関わったことを隠そうとした。だが、どれだけ隠蔽しても、どこからか情報と言うのは洩れるのが現代社会だ。特に『人の口に戸は立てられない』と言うように、人づての情報は流石に隠し切れなかった。一般人にはまだ知られていないが、ヒーロー達の中には完全に彼女の存在は浸透しきっている。今じゃ知らない者の方が少数派だろう。気が付けば、彼女はランキングにこそ名を連ねてはいないが、ヒーロー業界内じゃオールマイト並みの有名人になっている』
長々とした説明だったが、それ以上に驚いているのはライダーが『先生』の計画を潰したことのあるヒーローだったこと。
もしかしたら、自分たちがこうして無事に逃げられたのは相当に運が良かったのではと思ってしまうほど。
「ライダー…あいつが脳無を圧倒する程に強かったのも、『先生』の計画を潰せるほどの実力があったからってことなのか…」
「それならば納得も出来ますね…」
『確かにそれもあるね。それ以上に、彼女の『個性』が強力無比なのもあるが』
「アイツの個性か…『先生』は知ってるのかよ?」
『知っているとも。聞きたいかい?』
「当然だろ…。俺は決めたんだ…オールマイトとライダーを殺すってな…。なら、まずはこっちも情報がいるだろ…」
『道理だね。どうやら、今回の襲撃は決して無駄ではなかったようだ』
落ち着きを取り戻したのか、『先生』の口調は大人しくなっていた。
『再び精鋭を集めよう。今度はじっくりと時間をかけて。そうしなくてはオールマイトにもライダーにも勝てない!』
「分かってる…」
『我々は思うように動けない! それ故に君のような『象徴』が必須なんだ。死柄木弔…今日の悔しさを胸に、今度こそ君と言う『恐怖』をこの世界に知らしめるんだ!』
『邪悪の胎動』の中に潜む『漆黒の意思』は全てを闇で覆い尽くす。
今回の『USJ襲撃事件』が全ての始まりであることを…陽の下で生きる人々はまだ知らない。
『平穏』が崩れる音がした。