USJ襲撃事件から二日後。
雄英高校校舎内会議室。
授業をしていたり、未だに療養中の教師を除く全ての教員と、本部から捜査を任された塚内が一堂に会して先日の事件に関する緊急会議を執り行っていた。
「しっかし…話し合えば、話し合うほどに頭が痛くなるような連中だな…」
「全くだ。そんな連中相手によくもまぁ、あれだけの被害で済んだもんだ」
今回の事件の実際の被害は、USJ内の一部施設の損壊、及び教員二名の重症。
そのうちの一人である相澤は、もう既に退院して既に自分のクラスの朝のホームルームに参加している。
「そう言えば、あの事件の最大の功労者の一人である騎呂ちゃんはどこに? なんか姿が見えないみたいだけど」
騎呂の姿が見えないことが気になったミッドナイトが会議室を見渡すが、彼女はどこにも見当たらない。
そんなミッドナイトの疑問に、校長と塚内が答えてくれる。
「鋼野君なら、今日は雄英ではなくて公安の方に行っているよ。私達と同様に、今回の事件に関する報告をしにね」
「彼女の本来の所属は向こうですからね。色々と報告をしないといけないことも多いでしょう」
「どうやら、昨日は他の仕事よりも事件の報告書の制作を優先して行っていたみたいだしね。彼女の存在が、雄英と公安とを繋ぐ架け橋に成り得るかもしれない」
「実際問題、この度の事件は公安にとっても決して無視は出来ないでしょう。可能であれば、ヒーロー達と公安、そして警察の三者で協力して事に当たりたいのが本心ですよ」
「鋼野君ならば、それも実現出来るかもしれないね」
雄英高校の卒業生にして、今は公安委員会会長の直属の部下。
鋼野騎呂と言う女の存在は、本人が想像しているよりも遥かに大きく、重要なことになっている。
彼女がそれを聞けば、明らかに辟易とした顔を見せてくれるだろう。
「本当は、もっとゆっくりと休んで欲しいのですが…」
「公安に関することは流石に彼女に任せるしかないのさ。なに、いざとなったら向こうの会長が会長権限で無理矢理にでも鋼野君を休ませるさ。どうやら、会長は鋼野君の事を溺愛しているようだしね」
窓の外を見つめながら、遠くは公安本部にいるであろう騎呂の事を思う校長たちだった。
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ヒーロー公安委員会本部 会長室。
すっごい久々にここに入った。
私がここにいる理由はただ一つ。
先日の事件に関する報告書を会長に見せるためだ。
「敵連合に、その主要人物と思われる『シガラキ・トムラ』と『クロキリ』。そして、謎多き強大な敵『ノウム』…ね」
「漢字表記が分からないので、人物名の所はカタカナにしておきました」
「その方が分かりやすいわ。変な憶測で漢字で書いたら、それが先入観となって帰って捜査を混乱させることになるかもしれないし」
流石は会長と言うべきか。
私の意図をちゃんと理解してくれたか。
「それにしても、今回は随分と大変だったみたいね。まさか、念には念を入れてという思いで先んじてタロスを搬入しておいたことが、こんな形で功を奏するとは思わなかったわ」
「もっと驚いたのは私の方ですけどね。事件もそうですけど、タロスを雄英に持ってきてるんなら、最初から言ってくれればよかったのに…」
「その方が騎呂が驚くと思って」
「なんですか、それは」
いい歳して子供みたいなことを言わないでくださいよ…。
言われた方はどう反応すればいいんですか。
「さて…報告書は後で改めてじっくりと読ませて貰うとして…」
「なんですか?」
「騎呂。貴女から見た主犯三人の印象を聞かせて貰える? この報告書に書かれていない、貴女が感じた事を」
「私が感じたこと…ですか…」
うーん…そうだなぁ…。
「まず、今回の襲撃のリーダー格だった『シガラキ・トムラ』ですが…あれはもう典型的な『大人子供』ですね。図体ばかりがデカくなって、内面は幼少期のまま。ちょっとしたことですぐに癇癪を起して首元をボリボリと掻き毟ってましたし。あれはお世辞にもリーダーの器とは言い難い。明らかに彼のバックに誰かいますよ。親代わりか、もしくはブレインのような人物が」
「でしょうね。話を聞いただけでも、簡単にその人物像が浮かび上がるわ」
ある意味、変に頭を回転させるタイプよりも厄介かもしれない。
そう言った連中は往々にして、その時の気分とかで行動を起こすことが多い。
つまり…次の行動の予測が非常にしにくいのだ。
プロファイリングのしようがない。
「『尤もらしい稚拙な暴論』『己の所有物を自慢する幼児性』…そして、己の企みは全て上手くいくと思っている単純極まりない思考…これを『精神的幼児』と呼ばずして何と呼ぶって感じですね」
「2~30代の個性登録は?」
「塚内さんと一緒に洗ってみましたけど、該当する人物はいませんでした。もう一人の『クロキリ』も同様です」
「無戸籍かつ偽名なのが確定ね。市役所に個性届を提出していない…俗に言う『裏』の人間…」
ほんっとうに厄介極まりない…。
何もかもが分かってないってことは、結局は一から全て調べましょうってことなんですから。
不幸中の幸いは、こちらが相手の顔や身体的特徴を知っているぐらいか。
「『クロキリ』の方は、その顔すらも真っ黒な靄で覆われていて全く分からなかったですね。分かったのは、その個性ぐらい…」
「まさかの希少な空間転移系個性が敵側になるとはね…正直、シガラキとやらの『触れた物を壊す個性』よりも遥かに厄介で面倒な案件だわ…」
「ですね。多少の制限こそはあるでしょうが、それでも好きなタイミングで好きな場所に行き放題と言うのは、こちらからしたら最悪の相性です。奇襲し放題に増援呼び放題。情報収集もやりたい放題です」
「「はぁぁぁ…」」
あ、遂に会長と溜息がハモった。
「けど、それ以上に厄介なのは…」
「この『ノウム』とやらね…」
そう…ある意味で一番厄介なのがコイツなのだ。
「これはあくまで私の推測ですが、あの『ノウム』と呼ばれた存在は…人工的に生み出されたものかと」
「つまり…『人造人間』…?」
「人造というよりは『改造』と言った方が正しいかと。あれは明らかに一から作られた存在じゃない。素体となった人物がいると思います。これは私と塚内さんの共通見解です」
「そう…二人がそこまで言うのなら、まず間違いないでしょうね」
「今、警察の方でノウムの素体となった人物の特定を急いで貰っています。私とタロスが切り取った奴の両腕の方はどうなりました?」
「それなら、今は『彼女』に分析して貰っているわ。近いうちに分析結果が出るでしょう」
「あの人なら…そうでしょうね」
なんせ、彼女は『天才』であり『天災』だから。
付き合い方さえ間違えなければ、こっちにとっては間違いなく最強の切り札となり得る。
「エール装備だったとはいえ、あのタロスと真正面からやり合えるような奴ですからね。石橋を叩き過ぎて損することは無いかと」
「そうね。これが人造物ならば、間違いなく『製作者』がいる。そして、最も考えたくない最悪の事態は…」
「ノウムの量産…ですね」
「えぇ。オールマイトやタロスと真っ向から戦えるような化け物が大量生産され、もしそれが街中で無差別に暴れ回ったりなんかしたら…」
「絵に描いたような地獄絵図が繰り広げられるでしょうね…。並のヒーローでの対処は非常に難しい。それは相澤さん…イレイザーヘッドが身を以て証明してくれました」
そういや…相澤さんは大丈夫かな…?
今日からもう復帰するって言うことらしいけど…。
「もしまたノウムが出現した場合は…最低でもエンデヴァーやホークスのような、ランキングトップ勢レベルのヒーローの要請が必須事項になるわね」
「ですね。ま、最悪の場合はまた私も出撃しますけど」
「あら? いつになく積極的ね? 何かあったの?」
「別に何もありませんよ。ただ…」
「ただ?」
「あんなのを放置しておいたら『平穏』も何もないでしょうに」
「それもそうね」
ったく…普段の敵犯罪だけでも四苦八苦してるってのに、なーにが悲しくて、あんな化け物の相手もしなくちゃいけないんですかって話ですよ。
そーゆーのはフィクションだけにしてくださいよー。
「もしまた戦うことになったら、今度はこっちも本気でやった方が良いでしょうね」
「本気…と言うことは、まさか…?」
「えぇ。我らが『天災』サマが鋭意開発中な最強の切り札『プラウドディフェンダー』を使うしかないかと」
「対人用には決して使えない理論値最強のストライカーパック…。強すぎるが故に敢えて『ストライカー』の名を外してある…」
「はい。そして、その際にはタロスの頭部に『アレ』を追加で搭載するらしいです」
「収束重核子ビーム砲『ディスラプター』…」
「原子を崩壊させると同時に核分裂を抑制する、一切の防御が不可能な人類史上における、ある意味では核兵器すらも凌駕する最強にして究極、禁忌の最終兵器。あれならば、高い防御力と再生力を持つノウムの大群であっても問題は無いでしょう」
「それ程までに危険な兵器であるが故に、使用時には公安会長である私と、タロスのパイロットである騎呂の承認が必須事項となる…」
だって、それぐらいしないとマジでヤバい超兵器なんですもん。
まだ開発している途中ですけど。
「でも実際…ノウムの大軍を相手にするとなると、それぐらいの兵器を用意しておかないといけないでしょうね…」
「オールマイトもかなり限界が近いようです。彼におんぶに抱っこ状態は長くは続きません。下手をすれば今年中には…」
「彼が…オールマイトが引退する可能性が高い…か」
「えぇ。その覚悟はしておいたほうがよろしいかと」
「そうね…本当はそうならない方が良いんでしょうけど、今までずっと彼にばかり負担を掛け過ぎていた。本人が望んでやっていたと言うのもあるけれど」
「だとしても、今の内からオールマイトがいなくなった時の事はちゃんと考えておくべきでしょう。その時が来てから慌てても、もう遅いんですから」
「分かっているわ。私達は…公安は、常に二手三手先を読んで行動しなくてはいけない。前会長のような強硬姿勢にならない為にも」
「最悪の事態を回避するためにも…」
こうして話していると実感する。
私の求める『平穏』は、あの『敵連合』とやらをどうにかしなければ永遠に手に入らないと。
他の敵犯罪ならば、他のヒーロー達でも十分になんとかなる。
けど…奴らは明らかに複数の意味で別格だ。
早く何とかしないと…本気で取り返しのつかないことになるぞ…!